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放浪のエル  作者: ゆう
第四章
106/141

百三



 辺境伯の屋敷を出て領地も抜けた後、北西へ進んだ私たちはシャンデンの街には寄らずに街道から外れた場所を歩きながら王都の方角へと向かっていた。

 

 私の命を狙っていたミリアが死んだとはいえ、もしあの犯罪集団が神殿に関わりがあるのだとすれば、その構成員の目があるかもしれない街中を通るのは危険と判断したからである。街道を使わないのも同じ理由だ。

 こちらの方が魔物も出るので久しぶりに人間以外と戦いたかったというのもあるけれども。

 

 それが無くとも私は寄り道がとにかく多いので、屋敷を出てから五日が経っても王都どころか聖樹すら見えない場所を彷徨いているのだった。



「何だかこの辺りは魔物が多いですね。倒すのは簡単ですが解体が追いつきません」


「そろそろ魔物避けに何か考えるか……」



 人の手が入っていないせいで伸びきった草や成長しすぎた木々が続く森の中。やたらと遭遇する魔物を倒しながら進んでいるがその数は今までに訪れたどの森よりも多い気がしていた。


 魔力感知で周囲を見ると、まだかなりの数の魔物が森の中に住み着いていることがわかる。これは明らかに異常な量だ。どちらの方向に進んでも状況はおそらく変わらず、戦闘は避けられない。


 

 先程倒したばかりのワイルドボア二体を手慣れた様子で解体していくシンディを眺めながら考える。

 

 戦闘自体は歓迎しているのだが肉や素材がどんどん増えて私が持っている収納袋の中身は今それらが大半を占めているのだ。この収納袋の容量がどれほどなのかはわからないが、いつかは底をつかないとも限らない。

 

 とはいえ倒した魔物を放置しておくとその臭いにつられて更に他の魔物が集まってくるというし、解体せざるを得ないところもあるのが厄介だった。

 


 低ランク帯の魔物でも集まれば面倒だ。最悪魔力が一つ所に集中することでルトがペンを落とした時のような未知のダンジョンが発生する可能性だってある。それはそれで興味はあるが……しかし、人里も近いこんな場所にそんなものができたら国を挙げての大騒ぎだ。

 なんせ貴重な資源や素材が手に入るかもしれない場所だからな。難易度が高ければ踏破した者は英雄扱いもされるだろう。本来ダンジョンとはそういうものなのである。



「魔物避けをするならやっぱり火かな。せっかくだしお昼にする?」


「そうだな。食べながらゆっくり考えよう」



 空は木の枝が絡まっていてあまり見えない。しかし朝食を取った時間から考えればそろそろ昼時であろう。

 料理上手なアスハイルと旅をしたおかげで私たちそれぞれも少しは腕を上げているので、最近は食事の時間が楽しみになりつつあるのだった。



「……ん?」



 解体はシンディに、調理の支度は今日の当番であるルトに任せて、薪になりそうな枝を拾い集めていた私はふと感じた気配に森の奥へと意識を向けた。


 魔力感知は幾つかの動く魔物を捉えている。それも集団で。動きからして何かを追っているように見えるが、その何かは魔力感知では見えてこない。だとすると人間か。

 

 シャンデンの街も遠くはない。確かに人間がいても不思議ではないが……としばらく様子を見ていると、魔力の反応は次第にこちらへ近付いてくるではないか。このままだと鉢合わせする可能性が高い。

 

 私は特に慌てることもなく拾った枝を持ってルトの元まで戻り、ちょうど解体を終えたシンディも交えて状況を説明した。



「なんか魔物を大量に引き連れた人間がこっちに向かってきているみたいなんだよね」


「えっ、移動する?」


「退治してきましょうか?」


「いや、二人は食事の用意を続けて。私が行くよ」



 今一番暇をしているのは私なのだし。そう言ってその場は二人に任せて私は魔力感知を頼りに足場の悪い森を進み始める。

 

 やはり進路は変わっておらず、真っ直ぐにこちらへ向かってくる魔力の量は段々と増えている気がした。いったい何をしたらこんなことになるのだろう。


 不信感を抱きながら待っていると、視界でも捉えられる距離に二人組の若い男が必死の形相で走ってくるのが見えた。

 安物に見える簡素な鎧。腰には剣。いかにも駆け出し冒険者といった風体である。



「な、なあ、あれ!」


「っなんでこんな所に子供が!?」



 二人組は進行方向に立つ私の存在に気付いた途端慌てたように騒ぎだした。けれど今更道を変えるわけにもいかないのは、その後ろに見える木をも薙ぎ倒しながら進んで来る魔物の大群のせいだろうことは言われずともわかる。

 数は魔力感知でざっと見ただけでも数十体はいるらしい。皆一様に興奮している様子で、近付くにつれ地響きのような足音と鳴き声が段々と大きくなっていく。



「おい!そこの子供!死にたくなけりゃ今すぐ逃げろ!」


「仕留め損ねてしまって、興奮状態で手がつけらない状態なんだ!」


「ああ、なるほど。実力も弁えずに森の魔物を相手にしたのか。自業自得だな」


「なっ、なんだとっ!」


「やめろ、腹を立てている場合じゃないだろ!」



 一人は逆上しやすい吊り目の男。対してもう一人の男は体が一回りでかく割と冷静に状況を見ている。どちらも装備は碌なものではなさそうなので、結成したての駆け出し冒険者と見てまず間違いはなさそうだ。

 

 こんな所にいるということは何かの依頼だろうか。だとすると魔物討伐以外に思いつかないのだが、あの二人にこの森は実力不足としか思えない。放っておけば死にそうだ。仕方ない。



「そのまま真っ直ぐに走れ。この先に私の仲間がいる」


「って、キミはどうする気だ!」


「あれをどうにかするに決まってるだろ」



 二人の男が私の横を駆け抜けていった瞬間、広げた魔力を収縮し生成した幾つもの杭を魔物の大群目掛けて撃ち落とす。大群と言っても低ランク帯の魔物しかいなかったので、対処にはそれだけで事足りた。


 念の為魔力感知で生き残っている個体がいないことを確認してから振り向けば、真っ直ぐ走れと言ったはずの二人組はあんぐりと口を開けながらその場に佇んでいたのである。



「あ、ありえねぇ……何だよ今の……」


「魔術、だとは思うが……」



 反応まで駆け出し臭い。魔術を見たことがないのだろうか。確かに魔力を持たない平民なら日常的に見るものではないだろうが、冒険者には魔術を使う亜人だっているだろうに。


 とはいえこの場に残っているなら話は早い。私は倒れた魔物たちを指して口を開いた。



「処理は任せた。それで貸し借り無しってことでいいや」



 こちらは肉も素材も有り余っているので、この量を引き取ってもらえるならそれが一番なのである。


 私のその言葉はどうやら男たちにとっても良い提案だったようで、でかい方の男は一度深く頭を下げてからもう一人を抱えて魔物の方へ駆けていった。



「さて、戻るか」



 これで問題は片付いた。


 そう思っていたのだけれど。



 ルトとシンディの所に戻り、出来上がっていた湯気の立つ温かいスープを注いだ器を受け取っていた時のことだ。



「さっきは助けてくれてありがとう」


「まあ一応、礼は言っておく」



 なぜか私たちの食事の席に並んで座る男二人組は、更に意味のわからないことにルトからスープを注いだ器を受け取っているのである。


 図々しいに程がある。



「……え、お前たち何?誰?」



 食べ始めてしまったものを取り上げることは流石にできず、そのまま進む食事の最中にようやく投げかけた言葉は不信感に満ち溢れていた。

 

 そもそも何なんだこの状況は。なぜ私たちは名も知らぬ冒険者を助けてやった上で飯まで振舞っているのだろう。


 私の言葉に器を置いて姿勢を正したのは体がでかい方の男である。



「紹介が遅れて申し訳ない。俺の名はアロウ。こっちの目付きが悪い方がボウド。先月王都のギルドで登録したばかりの駆け出し冒険者だ」


「いや、そういうことじゃなくて」



 駆け出しなのも冒険者なのも見ればわかる。私が聞きたいのはなぜこの場にしれっと混ざっているかということだ。

 

 アロウと名乗った男はスープ一杯では足りなかったのかおかわりをルトに頼んでいるし、シンディはボウドとかいう男に茶をすすめているし……え、私がおかしいのか?



「すまない。装備の強化のための素材が欲しくて魔物を討伐しに来たんだが、水も食料も尽きてしまって」


「さっきの魔物の肉があるだろう。自力で何とかしろよ冒険者だろ」


「また別の魔物が現れたら俺たちだけでは対象できそうもなくてな。キミといた方が安全だと判断した」


「いや判断するな。迷惑だ」



 そもそも私たちはどちらかと言えば商人で、飢えた冒険者を世話してやる義務も義理もないのだが。そういうのは同じ冒険者とやってくれとため息混じりに溢した私に男二人の驚いたような目が向けられる。

 

 どうやら二人は私を高ランクの冒険者と勘違いしていたらしい。

 なぜそんな勘違いをしたのかと問えば、それは私たちの最初の疑問にも繋がるものだった。



「最近この辺りの魔物が増えてんだ。討伐依頼も同じで多くの冒険者がそれを受けてる。だからこんな所にいるなら同業者だろうって思ったんだよ。つうか冒険者でもねぇのにその強さなんなんだ。教会の魔術師か?」


「こっちの二人は商人だが私はただの旅人だよ。それより魔物が増えていると言ったな。原因はわかっているのか?」


「いや。ギルドも調査の為に討伐依頼出してるって感じだろうな。その前に俺たちはまだその依頼受けられねぇし……」


「は?実力不足とわかっていてお前たちはこんなところに来ているのか?素材の為に?死にに来たのか?」


「う、うるせぇ!一体くらいならって思っちまったんだよ!」



 なるほど、こいつらはただの馬鹿だ。付き合っている方が馬鹿馬鹿しい。そう判断した私はため息を吐いて手元のスープに意識を向けた。


 しかし冒険者ギルドが調査するほど魔物が増えているというのは気になるところである。この森に魔物を引き寄せる何かがあるのだろうか。

 

 私はスープを飲みながら魔力感知で森の中を探ってみることにした。



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