07. 聖女様の戦略会議#01
それから、きっかり一時間後。
控えめなノックと共に、ルカが再び姿を現した。運んできたワゴンには、数冊の分厚いファイルと、一枚だけ、簡潔にまとめられた羊皮紙が載せられている。
「お待たせいたしました。各部門の現状報告と、主要人物のプロフィールです。こちらは詳細資料、そしてこちらが概要をまとめたリストになります」
(……詳細資料と、エグゼクティブサマリー。完璧だわ)
私は驚きと感心を隠さず、素直に口にした。
「さすがね、ルカ。仕事が早いわ。内容も的確よ。…文官としても重宝されるでしょうに、なんだって、こんなところで侍従なんてやっているの?」
素直な賞賛と一緒に、探るような問いを投げかける。それをひらりとかわして、ルカは悪戯っぽく微笑んだ。
「それは身に余る光栄ですね。ヒメのお力になれたなら、何よりですよ」
その、どこまでも食えない返答に、私は小さく息を吐く。だが、有能な人材は大歓迎だ。私は彼が淹れてくれた紅茶を一口飲むと、早速、エグゼクティブサマリーに目を通した。
── 騎士団の士気低下と戦術の陳腐化。
魔術師団の新規研究の停滞。
宰相府の若手貴族の離反と汚職疑惑……。
なるほど、問題が山積みだ。
「それで、ヒメ。どこから手を付けるおつもりですか?」
「新規プロジェクトはクイックウィンが成功の鍵よ。まずは、最も課題が単純明快で、かつ成果が目に見えやすいところ───騎士団はどうかしら。彼らの課題は、士気の低下と戦術の陳腐化とある。組織改革の基礎事例だわ」
私は、リストに書かれたキーマンの名を指さす。
「騎士団長、ゲイル・アイゼンハイド。彼は、どういう人物かしら?プロフィール以上の……ルカ、あなたの見立てを聞かせてちょうだい」
「ゲイル団長、ですか。…そうですね、一言で申せば、『実直な武人』です」
ルカは、準備していたかのように、淀みなく答える。
「忠誠心は誰よりも厚く、部下からの信頼も絶大。ですが、物事を深く考えるのは少し苦手なようです。一度『こうだ』と思い込んだら、なかなか考えを変えられない。良く言えば一本気、悪く言えば石頭な方ですね」
(脳筋タイプ。適切な目標設定さえできれば、コミットメントが見込めるわ)
私は、口の端に不敵な笑みを浮かべた。
「決まりね」
人差し指で、リストに書かれた「ゲイル・アイゼンハイド」の名を、トン、と軽く叩く。そして、声に揺るぎない意志を込めて、ルカに告げた。
「早速、ゲイル団長にアポイントを取ってちょうだい。『騎士団の今後のビジョンについて、聖女が、ディスカッションしたいと言っている』、とね」




