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00. プロローグ


「―――だから、お願いです、将軍様……!」


私は、計算し尽くした角度で小首を傾げ、潤んだ瞳で目の前の獅子のような老将軍を見上げた。内心では、彼の行動原理――部下からの信頼と漢気と、その感情の推移を冷静に分析しながら。


将軍は、私の言葉にぐっと眉を寄せ、腕を組んだまま押し黙る。作戦司令室に、息苦しいほどの沈黙が落ちた。




―― 聖女の力「他力本願」。それは、世界を救うと言われる神の奇跡。


異世界から召喚された聖女であるはずの私に、その力は、ついぞ発現しなかった。

苦肉の策として、私が代わりに身につけたのは――血のにじむような反復練習と、計算と、データ分析から成る「あざとテク」。


今日も私は、この理不尽な世界を、このスキルだけで生き抜いている。




将軍の、値踏みするような視線が突き刺さる。


私は、静かに、将軍の決断を待った。

顔には、完璧な聖女の微笑みを湛えて。しかし、その大きな瞳からは、こらえ切れなかったように、涙が一粒だけこぼれ落ちた。


その瞬間、将軍は弾かれたように天を仰いだ。やがて、深いため息をつくと、低い、唸るような声で言った。


「…ふむぅ。聖女様が、そこまで仰るのなら…。仕方がないですな」



司令室が、安堵の声に包まれる。

私は、完璧な微笑みをわずかに崩して、健気に、晴れやかに微笑む。




(……ふう、どうにかなったわね。さて、次は…)


その内心では、何度目かわからない溜息をつきながら、次の一手に向けて戦略を巡らせている。


「鉄の女」と呼ばれた私が、今や涙一粒で屈強な将軍を動かす、『涙の女優』だ。笑うに笑えない。

いや、感傷に浸っている場合ではないわね。これも、私の…聖女の『仕事』なのだから―――。






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