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一年が十一カ月しかない君たちへ   作者: 杉崎 朱


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十二章:四話


 一瞬、酷く頭の中をかき混ぜられた感覚に陥った。

 あれ、なんだったんだろう。


「結ちゃん大丈夫?もしかしてまだ感染症の後遺症かしら?」

 フラッとした所を八重さんが支えて下さいました。


「あっ!もう大丈夫です!ほんの一瞬だけなので!」


 いけないいけない!先月末から感染症で一週間近く寝込んでいたとて、もうあれから一ヶ月も経つんです!ちゃんと薬も効いて元気になったんです!ぶり返してたまるもんですか!


 宴会の途中で一瞬だけ気分が優れませんでしたが、もう大丈夫!大体気合いでなんとかなりますって!


「すげぇ!すげぇ!俺もその鈴触りたい!!」

「はい、どうぞー」


 神崎さんが鈴をお子さんに渡した。そして、中座していた社長がお戻りになりました。年末までお仕事の電話で大変ですね。でも、神部の方の視察とリフレッシュ休暇として境内にいらして頂いたのは本当に楽しかったです!来月からもどなたかいらっしゃるのでしょうか。ちょっと楽しみです!








 22時15分



 昨年と同じように、独身の神代が母家の居間でまだお酒を飲んでいらっしゃいます。

 違うのは、今年は特に喋らずともこの場に卯月さんがいらっしゃる事。


「結ちゃんはどうだった?二年目のお世話係は?」

「事務作業がちょっと早くなりました!コツというか、段取りを自分なりに決めたりして!」

「じゃぁ来年はもっと楽になるねー」



「睦月、お節も良いけどちょっとお酒飲めば?」

 弥生さんが、表情筋の動かない卯月さんの隣で楽しそうにお酒を飲んでいる。

「あ・・・はい。でも、僕が出てくる時には多分もうお節はないから、たくさん食べておきたくて・・・」

「たくさん食べなって!おじさんはもうそんなにお節を食べれないから好きなだけ食べると良い」

「・・・長月、今年の初めだいぶお節に・・・やられてた」

「結ちゃんにお昼のメニューをお粥にしてもらってたもんね。懐かしい、もう一年かぁ」



 今年一年色々ありました!

 上半期は神代の方のお見合いがありました。今の所うまく行っているのは水無月さんだけですけど。それに、そのお見合いの最中に卯月さんの元奥さんが境内にきた事もありましたね!それが原因で離婚の話が進んで、先日やっとお話しがまとまったみたいです。境内の視察とリフレッシュ休暇を兼ねて、神部の管理職の方が何名がいらしたり、あぁ、今年は初めての合コンも行きましたね・・・。まさかそこで双葉さんにお会いするとは思っても見ませんでした。


 文月さんが境内をお出になる話を聞いた時は本当に驚きましたけど、結果、ちょっとだけ先延ばしになりました!お世話係のアルバイトの女の子も来ましたね。双葉さんが手を焼いていたのが本当に今となってはいい思い出です。

 今は皆さんいるので聞けませんが、長月さんが神部のメイドさんであるサチエさんに一目惚れして、その後どうなっているのかとても気になりますね!

 十月は神崎さんの弟さんの陽朔さんと初めてお会いしましたし。とっても好青年でしたね。


 十一月は境内の家屋改修工事や庭の手入れなどを一斉に行う為、神代のご家族には一度神部が手配したホテルに住んで頂いています。まぁ、家屋の方は数年前に茉里ちゃんが一旦行ってますが、もっと基礎的な所や耐久性、経年劣化をもっと詳しく検査する為です。どの家屋も問題なしでした!


 日焼けによる痛みが深刻だった本殿に続く廊下は全部取っ払って新しくして頂きました!でも、それは私が感染症で寝ている間に全部終わってしまいました。普段境内にばかりいるのにどこからもらってきたのでしょうか・・・。それにしても、他の神代に感染(うつ)さなくて本当によかったです!神代のご家族もホテルに一時住まいだったのでタイミングが良かったといえば良かったですね!


 クリスマスも、お昼からずっとパーティーをして、大晦日も皆さんで楽しく食事をして、夜はこうやって昨年同様皆さんで年を越すことができるんです!大きな問題も無く幸せですね!



「結ちゃん、楽しそうだね?」

 去年末に初めて本殿に入った睦月さん。一年前のこの時間ではとても緊張されてました。しかし、どういった感じだったかがもうお分かりになったのか、二回目である今年はリラックスされてます。

「はい!今年も一年大変な事もありましたけど、とっても楽しかったです!」



 


「ツルツルですね!なんか靴下履いてると滑りそうな気がするくらいツルツルのツヤツヤですね!」

 新しくなった廊下を歩く。月明かりで廊下が照らされております。反射している床がとても綺麗です。

「本当だね」

「睦月さんもそう思います?!ね?そう思いませんか?!」


 あれ?


「くくっ・・結ちゃん誰か一緒に来てると思った?誰もいないよ」

「そう・・・でしたね?」

 睦月さんに同意してもらって、さらにまた話しかけた私。誰がいると思ったんだろう?あれ?最近本殿に来る時はもっと人がいなかっただろうか?あれ?でも思い出してみると、十一月も十月も九月も担当付きの神代だけだ。三月の弥生さんが入る時とかは確か神在月さんに一緒に来てもらってたけど、それだけだっけ?


「じゃぁ、入ってきます」

「はい!行ってらっしゃいませ!」



 昨年とは違い、とても爽やかな顔つきで本殿に入られました。扉を閉める際は、振り返り、微笑んで手を振ってくださいました。

 さて、そうしましたら私も戻りましょう。







「神代のひと月を頂戴いたします」










 一月一日


「可愛いーー!!可愛い可愛い可愛いーーっ!!!」

 八重さんが、着物を着た師走さんの長女さんを見てとんでもなくはしゃいでおります。

 今は皆んなで境内の庭に集合しております。これから初詣に行きます。


「なんでここって男の子ばっかりなの?着物用意しても着てもらえないじゃない!!」

「男で跡取りが多い方がいいだろう。女が多くて後継が少なくなったら着物どころの騒ぎじゃないぞ。明日も明後日も別の着物を自分で着ればいいだろう」

 縁側で社長が足を組みながら話私をしております。そう、KAMBEのスーツを着ながら・・・!似合うっ!!

「馬鹿ね、人に着せるのが楽しいんじゃないの」

 そういいながら八重さんは私の肩をぽんと軽く叩きました。そうです、私も八重さんに着せて頂きました。


「結ちゃん、すごく似合うね」

「神崎さんいつの間に・・・あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします」

「・・・うん、今年もよろしくお願いします」



「さて、ここで三ヶ日休んだら流石に屋敷に戻らないとなー」

「アナタ半年だからね。一番長く居たわ。年中リフレッシュしてるような生き方してるのに」

「いや、ほらあれね?俺は体は動かさなくても、頭使うからさ?」

「なんかムカつくわね?」







一月七日



「はい、大丈夫です。もう健康ですね。いつも以上に元気にして頂いて大丈夫ですよ」

 その辺のお医者さんに診てもらえればいいのに、私は感染症の診察から何まで神代と同じくお抱えのお医者さんに診て頂いております。そんな事しなくて良いのに。でも、ありがとうございます。

「ありがとうございます!あ、もしこの後お仕事なければお茶でもいかがですか?」

「お誘いありがとうございます。お受けしたいのですが、生憎この後は本社に寄らなければならないのと、そこの如月はどうにも私の事を苦手なようですので早めにお暇致しますね」


「よくわかってんじゃねぇか」

「敵意が剥き出しだ」



 ・・・確かに言葉だけを聞くと険悪なのですが、空気はそこまで悪くないです。なんででしょう、例えるなら、ライバルみたいな感じにも見えます。決して、その人そのものを嫌っているわけでなく、立場が敵対しているとか、何かが気に食わない程度のようにも感じられます。ですが・・!!


「如月さん!お医者さんにそんなに敵意を向けてはいけません!!」

「今に始まった事じゃねぇよ・・・昔からだ。気にすんな」

「昔からなら尚の事気にしますってば!!なんでそんなに嫌がるんですか?!」

「害はねぇのはわかってんだけど、どうにも胡散臭い・・・なんか全部わかってる風な感じがしてだな・・・」

「ほら、この様なのでお暇致します」

「すみません!すみません!本当にありがとうございました!!」








 お医者さんである、双葉さんのご兄弟の壱葉(いちは)さんがお帰りになり、私はお昼ご飯の仕上げに掛かりました。本日は七日なので七草粥です!今年は正月は神部の方のご用意くださった高級おせちやそのほかにもたくさん出前を取って頂きまして大変楽と美味しい思いをさせて頂きました!


 そういえば、来週からリフレッシュ休暇と称してまた神部の方がいらっしゃいます。今度は櫻さんです!変わらず卯の離れを使います。卯月さんですが、問題だった元奥様の件も無事解決致しましたが、ご本人の希望もあり、一旦そのまま神部でお仕事を続けるそうです。

 お給料は神代で境内で仕事をしていた時に比べて下がりますが、それでも一般の方と同じ仕事をしてみたいというご本人の希望を神部が快く受け入れてくださったそうです。

 秘書課なら、神代の事情を知った方ばかりなので、一ヶ月抜けても問題がなさそうですね。




 年も明け、もう七日も経ちました。そうだ!何か目標を立てた方が良いかもしれない。そういえば去年は何を目標にしてたのだっけ?そもそも目標を立てたのだろうか?でも、私は今まで毎年たてていたので何かしらしているはずなのですが・・・。

 自分のスケジュール表を確認した。そうすると『神代が一ヶ月間本殿に入っている間の出来事を書いて、翌月に渡す」と書いてある。あ、計画しただけでやらなかったんだっけ。そうだ、今年はコレをやってみよう!!


 12冊のノートを購入して、毎日じゃ無くても、何があったかを書いて、渡してあげよう!


「あれ?なんだろうこれ?」

 出てきたのは書き込みが繰り返し可能なディスクやUSBメモリーだった。写真っぽい素材の用紙もあるが、真っ白だ。これ使用前の写真用紙だろうか?ディスクやUSBメモリーの中身は空っぽである。あ!じゃあこれを使って、今年は節句やイベントの写真や動画を残しておこう!


 楽しみだなー!皆さん喜んでくれるといいな。神代同士で話すこともあるかもしれないけど、各々が一ヶ月間いない間の記録・・・そう、一月少ない神代達・・・

 手頃なサイズのノートやファイルを入れておく書類BOXがあった。よし、これをノート入れに使おう!わかりやすいように、マジックで書いちゃおう。ちょっとかっこいい言い回しにしてみたりして・・・



 っきゅっきゅきゅ・・・・・


「よし!書けた!」

 紙では無いものに対して書いたので自信がなかったが結構いい感じに書けました!




「『一年が十一ヶ月しかない君たちへ』っと!」

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