十一章:霜月の君へ エピローグ
高校二年ー夏ー
梅雨も明け、間も無く夏休みだ。今年は梅雨明け宣言が早く終業式前だった。もう蝉の鳴き声も聞こえる。緑・・・というか、森に囲まれたこの学校は春は鳥の囀りが。夏は蝉の声がうるさい程聞こえる。
「君が神代の”神宮 霜月”くん?」
学校でゴミ捨てをしていたら後ろから声をかけられた。
・・・コイツ今、”神代の”って言った?え?なに?神代って全国的?昨日神部の人に呼び出されて神代の事聞いたばっかりなんだけど。っていうか、人に言わないでねって言われたんだけどまさか人の方から聞かれたんだけど俺悪くないよね?っていうか、え?バレちゃってるけど俺どうすればいいの?俺、消される?あれ?バレたらどうなるって言ってたっけちょっと待ってこれって超ヤバく
「ごめんごめん!俺、神崎界星って言って、神宮とか神部と知り合いだから!神崎の話しってきいてない?」
・・・これすらカマかけてきてるんだったら俺どうしよう・・・!!?
・・・ーーー
【神崎 界星】
この男とこんな長い付き合いになるとはこの時は思っていなかった。
なんせ、最初の出会いは学校のゴミ捨て場で景色の良いところでもなんでもない。運命の出会いや不思議な感覚もしないような荒地によく似た校舎裏だ。
最初に話しかけられてからは疑って疑って喋らず遠ざけて過ごす日々だった。そして、意を決して神部の人に神崎 界星の話しをして、彼が本当に神部や神代と関係のある者だとわかってから仲良くなった。
正直、それまでは毎日ソワソワして生きた心地もしなかった。
・・・ーーー
「”バチ当て様”?」
「そっ。弟がね。神代には直接は関係ないだろうけど、もしかしたらいつか会うかもしれないね?」
「何それバチ当てって・・・それ俺に言っていいの?」
「弟だって神代の事を知ってるんだ。逆だって大丈夫でしょ?みんなに言いふらさなければ!悪い事をした人に、バチを当てに行く仕事なんだ。俺はそのバチ当てをする”力”がないからさ」
「バチ当てんの?」
「バチ当て以外も色々出来るんだ。俺より優秀だよ。でも、性格が優しすぎるから大変だろうなぁ。俺みたいに無慈悲な性格だったらバチ当ても楽なんだろうけど。逆が良かったなー。神代と接するのには優しさがないと務まらないと思うから弟の方が良かった気がするんだけどなぁ」
「でも、俺たち神代がなんでかわからないけど何か理由があって選ばれたのと一緒で、そっちにもそっちなりの理由があるんじゃないのか?」
「どうだろう。それは考えた事なかったな。理由かぁ・・・?」
”バチ当て様”。人の事言えないが、随分ファンタジーな話しをされた。
高校三年生ー夏ー
「今年の十一月で、今代の霜月さんが捧げ納めを致します。来年からは、現在大学四年生の霜月さんに境内に入って頂きます。そして、その霜月さんは早期に神代を引退したいと以前から話されてます。なので、君が大学を卒業するまでの四年間だけ境内に居ます」
「わかりました。俺は言われた通りで大学卒業したら境内に入れば良いんですよね?」
「はい。申し訳ないですが、その後まだ次の霜月さんは生まれていませんので、貴方には長い間境内に居て頂く事になります。前任となる方のわがままで申し訳ないですが、元々境内に入ること・・・つまり神代としての務めを果たすことを大変疎ましく思ってます。貴方との年齢が近いこともあり、卒業するまでなら神代をしても良いと言う条件を仕方なく神部が勝手に承諾してしまい、申し訳ございません」
「え・・!良いですよ。大体みんな高校か大学を卒業したら入るって聞いてたんで俺はそのつもりでしたから!」
「ありがとうございます」
しかし、”前任”となる・・・俺の”先代”となるはずの霜月さんは大学を卒業した後境内に入らなかった。
一般企業に就職をしてしまったらしい。その知らせを俺も受けたが、まぁ社会人を数ヶ月経験して、十月には辞めるだろうと思っていた。俺はアルバイトくらいしかしたことなかったけど、やっぱり社員の人って大変そうだったし。正直ずるいかもしれないが、辛くなったら十月を待たずして辞めたって問題ない。神代の方が絶対にいい金額貰えるんだし!
しかし、当日も境内に現れなかった。
どうやら仕事がとても楽しくなったらしい。俺は半月前から神部に頭を下げられていた。念の為に十月三十一日に境内に来てもらえないかと。
俺は、大学受験を数ヶ月先に控えていた。高校三年生の十一月に一ヶ月間も休むなど、受験に対して絶望とはまではいかないが、まぁ決して良くもない。
「もう、君に入って貰う他ない。申し訳ないな。私が去年捧げ納めをしなければこんなことには・・・」
昨年まで担当してた霜月さんが申し訳なさそうに俺に言った。全然何も悪くもないのに。
「大丈夫です。入って、さっき教えてもらった通りにすれば良いんですよね?」
「・・・一代飛ばすことになるが、問題はないだろう。特に君は大丈夫だろうが・・・来なかったあちらの霜月は・・・。災難が続く事になるだろう・・・」
災難・・・とは。
結局、本殿から出てきた後、俺は大学受験をしなかった。
担当は十一月。正直大学に入って一ヶ月休んだ所で支障はない。何かを専門的にやる学部でなければ必修科目は一回も休んではいけないわけでもなし。出席回数が重要な講義を選択しなければいいだけの話しだ。
大学自体は問題ない。講義をサボって遊び呆けてるが、ちゃんと就職も卒業も出来たと言う話をよく聞く。
問題は、人間関係だ。
一ヶ月大学に行かなくても問題ない。しかし、友人たちはそうもいかないだろう。連絡は来る。違う大学ならまだしも、同じ大学に入った仲の良い同級生が一ヶ月も大学に来ないばかりか連絡も取れないとなるといよいよ怪しい。
一ヶ月経って『ごめんごめん』なんて言ったとして、それが向こう三年続くんだ。しかも十一月だけ。ちょっと変だろう。志望大学を変えることも一瞬考えたが、俺の入れる大学が近くには無いし、人への言い訳である細かい辻褄合わせみたいなことを考えるのが非常に面倒となり、取り敢えず高校三年生で入った今、もうこの先面倒を考えたく無いので境内に入ることにした。
「早っ!?えっ?!早くない?!もうちょっと遊ばなくて良いわけ?!」
境内に入って割とすぐに結婚をした。長月には大層驚かれた。そうだろう。彼の方が一回りも年上なのだ。三十歳を過ぎた人からすれば、きっと自分はまだまだ子供だろう。それはそうだな、同級生はまだ大学生をやっているんだから。
しかし、変わり映えはしないとは言え、ストレスや無理のない仕事、自分の時間の確保、そして何より給料と神代金の多さだ。これは大学に入って頑張って勉強して就活して良い所勤めたとて、最初からこんなには貰えないだろう…。そう考えると、高校卒業してすぐに境内に入ったのも悪くないなと思える。
「霜月!」
「あぁ!界星!」
界星は時折納品にやってくる。毎回ではないが来る度に少し話す。しかし、神主は忙しいのか、来た時は他の神代と話しをする。お世話係とも話しをしている。
だが、1番多く話しているのは神在月だ。出会った時期は俺と大差ないと聞いているが、なんかこう…同級生である俺よりも仲が良い風に見える。
別に嫉妬とかじゃないんだけど!
ただ、只事ではない話しをするかの様な雰囲気がたまに漏れてしまっているから気になるのは確かだ。
「陽朔がしくじっちゃったよ」
俺に二人目の子供が産まれた時だった。
「しくじったって?」
「早い話しが任務失敗。あーあ。多分二、三年は動けないかな」
「動けないって・・・?!大丈夫なのか?!」
「あぁ、バチ当ての失敗だから、まぁーペナルティ食らったって考えて貰えれば」
「そっちで言うペナルティってなんだよ…」
「眠りについちゃうんだよなぁ…まいったなぁ」
「その間のバチ当ては?」
「本来神が行うバチ当てが多すぎる故に陽朔が代行してるんだけど、それを更に代行してもらうしかないよね。でも、陽朔の担当って範囲広いから、基本他の人に振り分けてもまず捌ききれないと思うんだよ」
「代行…?」
「そっ!他の神社のバチ当て様!めっちゃ数少ないからさ。まぁ、臨時代行もあるけど当てに出来ないレベルだから…バイトみたいなもんだよ!バイト!」
神の所業の代行がバイトで良いのか?!
「とにかく、あのお人好しの性格が災いしてこんな事になっちゃった。・・・バチ当てってさ。指令が都度届くわけ。ご丁寧に紙でね。それはさ、”バチ当て様”である陽朔しか読み取れなくて。詳しい話をする前に眠っちゃったから聞けてないんだけど、出かける前に言ってたのは、『結局は俺が頼りないから起きている事があって、それを代わりにやってくれた人に罰を与えるなんておかしいんだよ』ってなんかとりあえず陽朔的に納得いかなくて”人の責任を自分が取っちゃった”んだ。責任取れれば誰でもいいじゃん?って思うでしょ?」
「全く持ってその通りだと思う」
「『A社とB社のやりとりで、A社が重大なミスをしました。B社に明日届かなければならない商品が手違いで納品されません!しかしA社には商品を運ぶ人材も方法も何もありません。それを、A社の隣にあるC社が聞きつけて手伝ってくれました。B社には予定通り商品が到着。問題なくB社は計画を進められました。しかし、B社はA社が何もしなかった事を許しません』って話なの」
「B社に損害はないだろう?C社がA社に何か要求するならわかるがなんでB社が?」
「そこが!今回の問題点らしいんだよ。結果が同じで丸く治れば良いわけじゃないんだって。例えばさ、AくんとBくんが喧嘩をしました。Bくんが喧嘩で大怪我をしました。AくんはそれでもBくんが悪いと言って謝りません。CくんがAくんの代わりに謝りました。これと一緒なんだって。Aくんが謝らないと筋が通らないから、CくんがBくんに謝ったところでBくんは納得がいかないと」
「そりゃそうかな・・・何?陽朔は喧嘩の仲裁やってんの?」
「例えばの話」
「つまり”落とし前”って事?」
「張本人が受けるべき罰を他人が受けたってなんの意味もないって話。確かに、根本の問題は陽朔にあったかもしれない。でも、会社からの給料が少ないから万引きしましたって言ったって、最低賃金を下回っていないのなら会社が悪いにはならないでしょ?それはやっぱり、”万引きした張本人”がした行いの罰を受けるべきなんだ。それを陽朔のお人好しが勝手に助けたんだか罰を代わりに受けに行ったからか、長い眠りについた訳」
「高校生なんて一番楽しい時期になんて事を・・・」
「だから、俺がバチ当てに生まれてくれば良かったんだよ。俺、そういうの助けないでちゃんと罰与える性格だから」
「良いんだか・・・どうなんだか」
そんな話をずっと覚えていた。だから、ひな祭りを楽しみに準備を頑張っていた目の前にいる、悲しそうで悔しそうな昨年来たお世話係の彼女の質問に素直に答えてしまった。
・・・ーーー
「でも、やっぱり悔しいっていうか納得できません!折角のご加護を貰ってる身で、神代が近くにいてあのような横暴!バチでも当たればいいのに!」
「俺たちは”神の代わりに加護の力を流す”ための”儀式”しか出来ないからねぇ。あくまで神代の専門で」
「バチ当てる儀式とかないんですか!?」
「バチ当てる専門がいるんじゃない?」
・・・ーーー
それに、結ちゃんも結ちゃんで随分とピンポイントな事聞いてくるもんだなと頭の中で面白がってしまった。
十月三十一日
今月はとても穏やかだった。最後になんか家族を避難させるという話しをされた。
避難してくれるならそれに越したこと事はない。八月辺りから何となく境内に不穏な空気を感じていた。決め手は社長である神部 楓本人がわざわざ境内に来て滞在すると言った。何か水面下で起きているんだなと。卯月の奥さんが境内に乗り込んできたり、よくわからないアルバイトの子が来たりなど、今までにない事が続いている。しかし、俺はこの後本殿に入るから、全部信頼して神部に任せる他ないのである。
そして、あわよくば出てきたら全部済んでてくれると非常にありがたい。
本殿前の廊下まで着くと、界星が居た。そして、本殿の扉を開けると、神代が鎮座する場所に一体の人形の折り紙が座っていた。
「神在月から霜月の神代が入るまでの代理くんだよ」
この折り紙に関しては特に何も聞いたことがない。今まで一度も置かれていた事もない。きっと置く必要がなかったんだと思う。今はこれが必要な状況なんだなとふと思った。
もちろん、界星には俺には言ってない事がたくさんあるだろう。きっと、バチ当て様なんてのがいるくらいだ。界星だって何か特別な事ができる。でも、俺はそれが何なのかは聞いた事がない。『陽朔の方がすごいから』しか聞かない。
でもこうやって色々考えてしてくれてる。
俺ら神代が思っている以上に界星は大変何だと思う。界星は、世帯持ちは護ものがたくさんで大変だと思うと労ってくれた。確かに神代として加護を受ける事でたくさんの人を守っているのかもしれない。でも、それは守ろうという意識が起こすのではない。無意識のうちに済んでいる事だ。
普段から家業の神社で参拝に来る多くの人の事を考え、特別な力ゆえの特別な仕事、そして責任がある。そして神代の事もあるんだ。界星の方がよっぽど大変だろう。
きっと、界星は俺が知らない力で、俺の知らない事をしている。それが何なのかはわからない。教えてもらえないんだから知らなくて良いこと。信頼を寄せてる一方で、界星は友人としては俺を信頼、信用してくれるが、神主としてはそれができないだろう。わかっては居るけど結構寂しいものだな。
いつかは、俺も界星の役に立てる日が来ると良いんだけどな。
ーーーガチャンーーー
本殿に入って初めて鍵を掛けられた。
この音には結構ドキっとするもんだね。
さて、問題が終わっていて欲しいと思う反面、みんなに何もなく平和な一ヶ月が訪れますように。
「我は、《霜月》の神代。ひと月を捧げに参りました」




