表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一年が十一カ月しかない君たちへ   作者: 杉崎 朱


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

75/87

十一章:霜月の君へ 一話

【座標】・・・そのものの位置付け。また、その基準。光の行き先。









 非常に気まずい気持ち、清々しさのかけらもない気持ちで起きた本日。



十一月一日



「結ちゃん、おはよ・・・大丈夫・・・じゃなさそうだね。まず、朝ごはん手伝うね」

 本日は朝早く母家にいらしてくださった弥生さん。そして、私の顔がそんなに酷いのか、手伝いを申し出て下さいました。

「寝不足かな・・・?朝食終わったら一回寝た方がいいね?」


「・・・寝たには寝たんですけど・・・二時間おきに目が覚めてしまって・・・」

「そっか。無理しないでね。辛くなったら座ってて?」



 弥生さんの優しさがとても嬉しい反面、もう信じらないほど悔しかったりなんかもう感情がぐちゃぐちゃです。

 結局、昨晩は、双葉さんに宥められました。『とりあえず、ちゃんと寝なね?』と言われましたが、変な睡眠しか取れず。そして、あの場はそのまま母家に帰されて、神崎さんの顔も見なければご挨拶もしておりません。

 一般の会社勤めとは違うもものの、こんな事してて良いのか私。もう自己嫌悪が自己嫌悪を呼び、自己肯定感が下がりもう自己が事故してますもう、あぁ・・・。










 月が変わったので、先月の数字をまとめなければなりません。

 弥生さんが、寝た方が良いと言って下さりましたが、寝不足くらいで仕事を後回しにすることは、今の私には出来ません。これしきの・・・いえ、大事な事ではありますが、私の一個人の感情で仕事をしないなど、そんな勝手をしてはいけない気がしたのです。



 夏前から、神崎さんにはなんか色々と言われていて、夏祭りに行った時にはすでに『お世話係を辞めてもらいたい』とは言われていた。もう何ヶ月か言われていて私も意地で断ってたし、なんなら真剣には向き合ってなかったから、時系列でなんて言われたのかあまり思い出せない。

 確かに、本当に危ないからっていう雰囲気も伝わったと思った時もあったけど、心配半分と足手纏い半分だったのかな。いや、足手纏いが八割の可能性も。夏祭りの時には、もうこの事態を予測していたのだろうか。ここまででないにしても、やはり邪魔になるかもとは思ってたかもしれないですね。



 あれ、でも、そういえば初めて『辞めて下さい』と言われた時・・・


・・・ーーー


「冗談じゃないって事は、本気。でも、俺がそんな事簡単に口にするわけないから、神部も不審に思うよ?」

「・・・神部が不審に思ったら困るんですか?」

「もし、神部にこの事を言いたいなら、双葉や副社長を通さずに、社長に直談判するといい」


ーーー・・・


 社長!!!








「はい、宮守さん。どうぞ」

「すみません突然・・・」

「いえ、私の方が突然母家に上がり込んでおりますので」

「そんな・・!あの、社長ってもう起きていらっしゃいますか?お話しがしたくて・・でも、事前に何も言ってないんですけど」


 朝食を食べて洗い物を終えたら、すぐに社長の離れに伺いました。

 サチエさんが玄関を開けて出てくださりました。



「大丈夫です、現在コーヒー飲みながらパソコン眺めてるだけですので」

 それってお仕事なのでは?

「社長、宮守さんをお通し致します!!さぁ、どうぞ」







「では、こちらをどうぞ。私は大通りのお米屋さんに買い物に行ってきますので」


 サチエさんが、私の分のコーヒーを出して下さり、気を遣って離れを出て下さいました。流石です。

 パタン・・・。と玄関の扉が閉まる音を聞いて、私は話しを始めました。


「まず、お忙しい中お時間を頂きましてありがとうございます」

「いや、宮守さんを日頃振り回しているのは我々です。文句の一つも言えないような環境で申し訳ない」

「そんな!文句だなんて・・!」

「違うのか?」


 突然押しかけて直談判など、クレームだと思ったのでしょう・・・。


「あの、以前ですね。神崎さんから『お世話係を辞めて貰いたい』と言われたんです」

「は?・・・いつ頃?」

 コーヒーを飲もうと口元にカップを運んだ社長の手が直前で止まりました。



「あの、その前から冗談でなんか色々言われてはいたんです。あ、『辞めてほしい』はその冗談には含まれていません。ただ、夏前から色々構われてというか、揶揄われていて、それから七月の中旬くらいに二人で話しをしていた時に『お世話かかりを辞めてほしい』と言われました。それで、私はこの事を会社に報告するといったんです!辞めてくれだなんて・・・もし、会社から辞めてほしいと言われたら私は辞めます!って怒って・・・」

「・・・」

「そうしたら、神崎さんは、言うなら社長に直談判してくれと・・・」

「・・・そうか」

「そりあえずその時の話しを私は、意味がわからず軽く流してしまったんです」

「突然言われたんだ。そう考えるのは悪いことではないと思うが?」


 しかし、ここからである。


「それから、最近話しに出た”避難”の件です。睦月さんと水無月さんが、自分達は境内から出た方がいいんじゃないかとお考えみたいです」

「そうか」

「私はそれに対して、神代の、特に独身の方達は境内に残るだろうって勝手に思ってたんです。でも、水無月さんの言葉に気付かされたんです」

「なんて?」

「『何か起こった時に足手纏いになる』って仰ってました・・・。なんでそんな事思うんだろうって考えた時、そもそも一番の足手纏いは私なのではないだろうかって思ったんです」



「あー・・・。なるほど」



 社長がそう言った。何かに納得したように聞こえた。やはり私が一番の足手纏いだったのかもしれない。



「界星はまた面倒な事を中途半端に・・・」



 心に矢と言うか、刃物でも刺されたのではないかと感じた。面倒と言われた。どうしよう、涙が出そう。




 そんな時、頭を優しく撫でられた。




「あのね?!『面倒な事を』なんて言ったら、結ちゃんが()()()()()『面倒だ』と言われたと勘違いするでしょ?!楓、見なさい!あと3秒放っておいたら泣きそうなこの顔?!」



 双葉さんだった。



「え?あぁ、すまない。宮守さんの事じゃなくて、界星の無責任なやり方かつ責任転嫁に呆れて・・・まぁ、界星が決められない、言えない事だから仕方ないけど、俺からなら言って良いって話しでもないから」


「そんな中途半端な説明で誰が何をわかるっていうんだよ。読むぞ」

「・・・宮守さんが納得できる回答をお前ができるなら読んでも構わないけど。とりあえず、宮守さん」



「はい・・・」



「確かにここに残ることは危険が伴うが、足手纏いには決してならないし、むしろ貴方はここにいて貰わなくては困るんだ。勿論、この状況で境内にいることを怖く思い、居たくないなら、他のお世話係に来てもらう」

「それは私から断ったんです。私が境内から出たら、次に入ってきたお世話係さんが危険な目に遭うなら私がここにいるって言ったんです。でも、もしかしたら他のお世話係さんなら、外部からの侵入者であっても対処できるんじゃないかとか思い始めて・・・私は、武術とか特に何も習っていなかったので」


「気にし過ぎだよ。大丈夫、大丈夫。誰も結ちゃんを足手纏いだなんて思ってないって。ごはん作ってもらえなくて健康を保てなくなる方が大問題だから。それに、そんなに腕っ節の強いお世話係は結ちゃんのお母さんくらいだし!結ちゃんが出て行っても他にお世話係に入って貰わなくちゃいけないんだから!だったら結ちゃんが良いでしょ?!」


「なんか、色々気を遣わせて・・すみません」

「今日、界星が来たら元気な顔見せてあげてよ。昨日、結ちゃんのあんな顔見て多分ショックだっただろうから」

「・・・ただのお世話係が失礼でしたよね。あんな態度取って・・・すみません」



「界星ならしばらく来ないが・・・?」



「なんで?!このタイミングで?!昨日まで毎日来てたでしょ!?ショックで寝込んだ?!」

「この間話した、過去の件について早急に調べるように言ったんだ。だからそれが終わるまで来ないかと」

「じゃぁ誰が納品するのさ!」

「神社には他にも人いるだろう。別に駐車場までなら誰が入ったって問題ない。そこからは双葉が運べば良いだろう」


「くぅーーー!!タイミング悪いなぁ!・・・でもまぁ、結ちゃん。そういうことだから足手纏いにはならないから気にしないでよ。睦月と水無月の件は、好きにさせれば良いから。担当月以外はどこに居たって良いんだし。まぁ、もちろん危なくないように神部の警備の下に居ることは変わらないんだけどね」



「・・・わかりました。すみません、貴重なお時間を頂いてしまって。ありがとうございました」

 少しでも私に割く時間を短くしたくて、言ってすぐに椅子から立ち上がった。


「君たちお世話係には、本当に感謝している。普段本社に居て直接のやりとりは出来ないし、特別に何か出来るわけでもない。当たり前の様にやってもらってるが感謝はしている。

 詳しくは言えないが、『神代は本当に必要か?』という意見と同じように、何度も『お世話係なんて不要だろう』という話題は昔から出ていた。しかし、そんな事は決してない。境内を見た事もない連中はわからなくて当然だろう」



 以前、神崎さんから『光』を見せてもらった。あれは、見える人だけが見ることが出来る。神代が加護を本当に受け取っている()()である。しかし、見えない人からすると何も起こってない訳で、それなら『不要だ』という人が出てくるのもわかる。私はたまたま見せてもらえて知っただけ。

 きっと、私もまだ知らない事で、社長や神崎さんは見えたり知っていて、”他の人には言えない”ことがあるんだろうな。


 であれば、今はその知っているであろう方達の言葉を信じるしかなさそうです。


 ・・・ん?あれ?



「では、神崎さんが私に辞めて欲しいと言った理由は・・・?」


「完全に私情以外のなんでもない。それを俺に言えってことは、『その私情が本気だから早く次のお世話係を決めておけ』という催促以外のなんでもない」


「良かったね!結ちゃん!足手纏いは足手纏いでも、離れて欲しいんじゃなくて、ずっと一緒に居たい方のグゥエエッ!!!」

「すみません、米が勝手に転がったもので。ただいま戻りました」

「サチエーーッ!!!」


 米は転がっておりません。飛んできました。







 そうか、良かった。邪魔扱いされている事に気づかないで図々しく居座っているのでは無いかと考えていた。少し沈んでいた気持ちが、ほんの少しですが楽になりました。しかし、神崎さんに昨日失礼な態度を取ってしまった事は早く謝罪しないと気がすみません。許して頂けるかは別として、できる事は早く行いたい。


 携帯電話を取り出し、メッセージを作った。社長からの頼まれごとをしている時に、電話をかけるのはちょっと気が引けたので、失礼ながらにメッセージです。本当は直接謝罪を。それが出来なければ取り急ぎの電話を・・・だったのですが、電話も仕事の邪魔になるならメッセージで


「ごめんください!神崎神社の者です!納品です!」

「あ!こんにちは!」



前に数回きてくださった方が納品にいらして下さいました。神崎さんでも、陽朔さんでもない。なぜかとても新鮮で、少し寂しいですね。





「受け取りのサイン、ありがとうございます。では、こちらに降ろしていきますね」

「はい、ありがとうございます・・・あのっ!」


 神社の方でも、駐車場より奥には決して皆さん足を一歩も踏み入れません。そんな決まりをしっかりと守る方に聞いて教えて頂けるかは分かりませんが、聞いてみました。



「・・・神崎さんは、今日はお忙しそうでしたか?」

「神主でしょうか?それとも・・」

「あ!神主の界星さんです!」

「昨日帰ってきてからは探し物や、先代にお話しされてたりと何やらずっと動いてはいました。しかし、あのお方は、機嫌がほとんど変わらないので、雰囲気はいつもと変わらずでしたよ?もしかして、何か気にされる事があったのかもしれませんが、基本、神主がそれを表に出すことはまず無いので我々にはあまりわからないんです。普段通りです。としかお伝え出来なくて申し訳ないのですが」

 そう言って、困ったように微笑まれました。


「そうなんですか・・・いえ、すみません。こちらこそ変なこと聞いてしまって。昨晩、私の勘違いで神崎さんに失礼な態度を取ってしまったんです。大丈夫かなって思って・・・お会いして謝罪しようにも今日からはお忙しいと聞きましたし、なら電話も邪魔かなと思って・・・。メッセージを今考えてたんですけど・・」


「メッセージ・・・ですか?神社のメールアドレスに送るのは、神主のご兄弟も見るのであまりお勧めできませんが・・・?」

「あっ!いえ、携帯電話です!多分、個人のだと思うんですけど。あ、これもしかして神社の連絡先だったのでしょうか・・・」

「番号かアドレスを拝見しても?」

「どうぞ?」


 勤務先の連絡先はやはり社会人として暗記しているのでしょうか。

 見てすぐにお答えくださいました。


「・・・個人のですね」

「そうでしたか!でしたらっ」

「でしたら、電話か、もしくはお時間があるなら直接のほうが、神主はとてもお喜びになると思いますよ」

「え・・いえ、喜ぶも何も謝罪なので・・・ちょっと」

「無理強いはしません。気が向いたらで結構ですので」



 柔らかく笑っていただきました。この方はおそらく神崎家の方ではなさそうですが、同じような優しい雰囲気を感じました。『類は友を呼ぶ』と言うやつでしょうか。

 あ、いけない。そんな事より、神崎さんへの謝罪をどうするか考えなければですね。








 納品した資材を工房に置きながら、神代の皆さんに午後は出かけると伝えました。行き先が神崎さんの神社だと言うことは伏せたままですが。そして、一緒に運んでくださった双葉さんが聞いていたのか読んだのか

「結ちゃん、午後出かけるんだって?」

「あ、双葉さん!はい・・・あの・・・神崎さんの所に謝罪に行こうかと思って・・・。さっき納品で神社の方がいらして少し相談したんです。そうしたら、直接のほうが喜ばれるって言われて」

「そうだね、多分その方が泣いて喜ぶんじゃないかな」

「喜ぶって皆さん・・・私、謝罪に行くんですけど」

「界星の所に行くのに送っていくなんて野暮なことはできないから、気をつけていってらっしゃい」

「ありがとうございます」





 居間には、誰が休憩をしにきても良いように、お茶やコーヒー、それに乾物のお菓子の準備をしました。『冷蔵庫にシュークリームあります』の書き置きもしました。

 夕飯の仕込みもバッチリです。締め作業は、まだ手も付けておりませんが、最近の段取りなら絶対間に合う自信がある!




「よし!行ってきます!」

 誰もいない母家に向かって大きな声で挨拶をして、私は玄関の扉を開け

「ふべっっ!!」

「あ、すまない。縁側に見えなかったもので、こちらから入ってしまった。今から外出だろうか?」

「社長?!」

 珍しく玄関からいらっしゃいました。・・・もしやお茶でしょうか?!


「はい!あの・・・神崎さんに謝罪をしようと思って・・・」

「電話一本で簡単に済みそうだが・・・まぁ、恩を打っておくのも悪くないか・・・では、送ろう」

「えっ?!いえいえ!大丈夫です!それに、双葉さんにも頑張って行って来いと言われました送らない方が良いとも言われたので、多分送って頂かない方が良い事なんです?!」


「界星の気持ちを汲むとそうだろうが、こちとらあまり簡単に出歩かない方が良い。誰がどこで監視してるか・・・もう今となっては監視合戦状態みたいなものだ。車を出そう」



 社長の車に乗せて頂くとか恐れ多いのですが。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ