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一年が十一カ月しかない君たちへ   作者: 杉崎 朱


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十章:神在月の君へ 四話



 十月二十六日



「結ちゃん!オレ!絶対徒競走一番になって、おっきい男になって帰ってくっから!!」

「オレも!オレも!」

「今、春過ぎに体育祭やる学校多いのに、私の中学まだこの季節なのー!」



 今日は、お子さん達の学校で運動会、体育祭です。



「結ちゃんも、今日『ホンシャ』からお客さん来なけりゃ、運動会きてもらえたのにさー!!」

「こら、結ちゃんはお仕事なんだから。ほら、そろそろ学校行かないとだろう?父さん達も後で行くから」

 葉月さんが、お子さんを宥めています。


「ほーい」

「「行ってきまーーす!!」」



本当は、本日お子さんの運動会を見に行く予定だったのですが、二日前に急遽来客が決まりました。来客と言っても、神部なので身内といえば身内です。しかも・・・



「あーーーー!!シャチョーだーー!」

「・・・っ!!」


珍しく朝早い時間に離れから外に出てきた社長がお子さんたちに見つかりました。


「父ちゃんの!会社の!偉い人だー!」

「おはようございます、師走の娘です」

「おはようございます。その兄です」


「あぁ、みんなおはよう。来てから挨拶が出来てなくてすまないね」


「社長ってスッゲーーーー!!超!超!いそがしいって聞いた!『卯』の家から全っ然出れないくらい忙しかったって聞いてる!!」

 霜月さんのお子さんが珍しいものを見たように興奮して喜んでおります。


「ねぇねぇ、今日は父ちゃんのお友達来ないの!?」

「界星は、そうだな、お昼くらいには来るんじゃないのかな?」

「暇なんだったら運動会見に来てって言っといてよ!」

「こら、暇だなんて失礼だろう?」

「じゃぁなんで毎日ココに来てんの?」


 聞かれているのが私でなくてよかったです。私だったら同意見なので何も言い返せません。


「神崎は、私と仕事の打ち合わせで最近沢山来ているんだ」

「社長と仕事の話!!スッゲー!暇だったんじゃないんだ?!」

「ほら!本当に遅刻するぞ!行った行った!!」

「ほーい!」


 嵐のように子供達が境内から学校へ向かった。









「では、皆さんどうぞ!差し入れのゼリーと焼き菓子です!」

「本当にありがとう!助かります!」

「子供も喜ぶよー!そもそも俺が嬉しいー!」

「あ!これは、うちの娘の好きなクッキーだね。本当にありがとうございます」


「・・・」


 お子さんの学校へ向かう前に、私からの差し入れを皆さんにお渡ししました。

その光景を社長がご覧になっております。ちょっと緊張します。そうです。普段こうやって、役に立ってる・・・はずなのです。多分。



「・・・子供好きなんだな」

「私ですか?好き・・・ですけど、やっぱりよその家のお子さんって思うと接する時にちょっと緊張しますね!みんな可愛いですけど!・・・社長は、お子さんお苦手ですか?」

「高校生なら大丈夫だ。だが、中学生くらいまでは苦手だ」

「もうそれ、子供じゃないですよ。まぁ子供といえば子供ですけど」

 そう言って、その意見が意外だったのか、なんなのか、今までに見ない顔をした。

 ポカンとして、少し顔が赤くなって、頬杖というか、手で口元を隠しております。なんか可愛いかも。


「そう・・・だな。高校生は、もう大人みたいなものだな」


 なんだか、とても穏やかな雰囲気です。今日は神崎さんもまだいませんし、先ほどの通り、神代たちはお子さんの運動会へお出かけ。仕事をしている神代はいません。皆さん本日はお休みを取られてます。

 先日の卯月さんの件は驚きましたが、それ以外は本当に平和です。あ、卯月さんの件といえばこの前のあの時・・・



「あぁ!あの時の機械?電波とかの妨害専用機だか・・・」



 双葉さんがこちらに来ているのを目で見ていたら、話途中から私の思考を読んだ模様です。この間の卯月さんがきた時、離れで社長と双葉さんがアイコンタクトして、その後に機械のスイッチを入れた。その機械とはなんだったのだろうと考えていたら答えが飛んできました。しかし・・・



「・・・なんで突然そんな事言い出した?」

「いや、結ちゃんがさ、知りたいって顔してて、教えて欲しそうな顔で・・・いや!ちょっと待って!もう普段からさ?!普段からだよ?!俺が勘が良いことわかってるから結ちゃんの方から()()()()()()()()()時とかあるんだよ?!声こそ出てないけど本当に普通に話しかけてくるんだって!答えちゃうんだって!」

「人の思考がそんなにクリアにわかりやすい事あるか」

「ほら!楓なんてそうやって、今言った事に加えて、この後の来客の事とか、今月の会社の売り上げとか、来月の施策とか!ごちゃごちゃ考えてると『話しかけられてる』とは思わないけど!結ちゃんは本当にクリアなんだって!」


「なんか、単純って言われてる気がするんですけど」









「結ちゃんおはようございます。あ、ゼリーだ。他にもある」

「おはよう・・・手作り・・・」

「結ちゃんおはよう!コレもらっていいのー?」


 睦月さん、水無月さん、皐月さんが朝ごはんを食べに母家にやってきました。そして、先ほどお子様宛に渡した差し入れの残りを見つけて話が弾んでいるようです。


「はい!沢山作ったので、もしよければどうぞ!」

「・・・すごい。二層だ・・・七夕の時のみたい」

「頂きます!」

「じゃぁ、残り全部俺もらっていいー?」


「一つくれないか?」

「えっ?!居たの?!ちょっとびっくりなんだけど!!あ、はい。じゃぁ本当に一個だけね。というか、社長って早起きなのね。こんな時間にもう縁側で寛いで」

「今日は早い時間に来客がある」

「誰?来客?外部の人来るの?」

 皐月さんだけが社長の話に興味を持ち、睦月さんと水無月さんはお菓子を選んでいる。



「来客と言っても、外部の人間じゃない。むしろ」



ピンポーン・・・



「え・・・こんな早く・・・」

「まだ9時前ですけどね」


9時前に来客だなんてそれは一般的には多分早すぎる時間に分類されるでしょう。まぁ、お相手の都合なので仕方がありません。さて、入って頂きましょう。


「はい、どうぞ。客間だそうです。


 社長、いらっしゃいました」


「あぁ、ありがとう。お茶をお願いします」

「はい!」

「ねぇ!お客さんみたい!」

皐月さんが楽しそうに社長に言いました。

「好きにしろ」


「・・・俺たちも・・・良い?」

「良いですか?」


 意外にも、水無月さんと睦月さんも来客をみたいそうです。そんなに興味を持つような方ではないのですが。






 母屋の玄関に、女性が二人。

「早い時間にして頂いてありがとうございます。午後から出張が入っておりますもので」

「おはようございます!よろしくお願いいたします」


 お二方とも、ハキハキと元気な中年の女性である。向かって右側の方はキリッとしており、黒髪のストレートヘアーがより一層雰囲気の鋭さを増している。

そして、左側のもう一名は、ハキハキとしているが、見た目の雰囲気こそふわっとしている。ウェーブのかかった栗色の髪の毛が、もう一名の女性とは対照的である。


 社長が、神代の三名に紹介をしました。

「こちらのお二方、以前のお世話係だ。そして、宮守 結さんと茉里のお母様方だ」



「あ、前のお世話がか・・」

「・・・おか?茉里ちゃんの?」

「へー、前の!結ちゃんのお母・・」


「「「お母さん!!!??」」」

知っている社長からすればなんともないでしょうが、神代からしたらびっくりでしょう。


「おはようございます・・!!本日は!お日柄もよくっ・・結さんには本当に毎日お世話に・・・!」

睦月さんは驚いて、左側の女性に勢い良く改めて挨拶をした。

「みっ!!・・・水無月と申しますっ!茉里ちゃんには大変!お世話に・・!

右側の女性にご挨拶を始める水無月さん。

「ちょっ!睦月俺に譲って!!皐月です!あの、お母さん!結ちゃんには本当にお世話になってて、それであの・・!!」

皐月さんが睦月さんを除けて話しを始めました。が・・・



「逆だ。左側の方が茉里のお母様。右側の方が結さんのお母様だ」



「「「えええーーーー!!!!!」」」








「いやいや、あのふわっとした雰囲気見たら、絶対結ちゃんのお母さんだって思うでしょ?!」

「思う・・・!」

「人を見た目で判断してはいけないってこういうことですね・・・」

「それにしたって!結ちゃんにあれだけそっくりなのに、本当にあっちが茉里ちゃんのお母さんなの?!」

「結ちゃんのお母様・・・茉里ちゃんに・・・そっくりだった・・・」

「僕は、茉里さんをあまり見たこと無いけど、でも、茉里さんのお母さんが、結ちゃんのお母さんかと思うくらい、茉里さんのお母さんが結ちゃんにそっくりで・・・」



 社長は話し合いを客間でしており、私たちは朝食を食べております。

 御三方は先ほどのお母さん達の話しをまだ受け入れられていない様子です。



「子供の時とか、一緒に出かけるとよく間違われてたんです。もう途中からそれが面白く感じるようになったんですけど。茉里ちゃんとも良く話してました。絶対生まれてくるの逆だったよねって」

「そんな感じする!でもいいね、やっぱり親戚って感じだよね。親を超えて叔母さんとも似てて仲が良いとか」

「・・・おばあ様も、お世話係だったん・・だよね?」

「あ、気になるかも。お婆さまは、結ちゃんと茉里さんのどちら似?」

「気になりますか?!実はおばあちゃんは・・・」



「結、ちょっと良いかしら」

「お母さん?!」



居間にお母さんがやってきて、そのまま客間に連れいかれました。



「コレ見て」

渡された書面を見ました。書いてあるのはホテルの情報。そして、場所。


「神代のご家族を含めた避難の話、少しは聞いてるでしょ?宿泊先をホテルにする予定。近辺のホテルでいくつか候補を出したから。境内までの距離、お子さんのそれぞれの学校まで遠くない場所、設備、セキュリティー、諸々確認して頂戴」

「今?!」

「できるでしょ?神代のご家族の学校や奥様の勤務先の情報だって頭の中に入れてあるでしょ?・・・まさか貴方」


「入ってます!ちゃんと入ってます!」

もう!相変わらず仕事の事となると怖いなこの母親は!!








「・・・問題ないと思います。お子さんの習い事の場所にも、それぞれちゃんと通いやすい場所にもなってますし」

「じゃぁ良いわね。いつ事が始まるかわからないから、明日にでも移動しても問題ない心構えでは居て頂戴。この件に関しては、神代への説明は各家庭に社長が個別で話しに行って下さるみたいだから」

「今日は子供の運動会のようですので、明日の夜までには必ず。居る神代にはこの後から話にいきます」

「「承知しました」」


 空気がシャキッとしている。うわぁ、こうやって改めて仕事の場所で見ると、母というより、上司って事をより強く感じる。怖いのは昔からだけど。



「あと、先日渡された盗聴器から指紋の検証結果が出ました。恐らくもう誰なのかは予想はついてると思いますが・・・。詳しい話は、続報があと数日でまとまって届くはずなので、改めて報告します」

「相手の監視もしっかりと手厚くさせてもらってますわ!あとは、社長の指示を待ってます」

「非常に助かります。お忙しい中、部下をお借りしてすみませんでした。ありがとうございます。



 部下・・・?借りる・・・?まさか、お母さん、境内の管理だけじゃなくて、調査班とか言うのだったりしないよね・・・?



「それと結。貴方、話によると随分言い寄られてるみたいじゃない」

「・・はぇ?」

間抜けな声が出た。



「神崎兄弟に、まぁ、双葉君は結婚が面倒だから手近なところで済ませようって感じだけど、よりによって神代にも言い寄られてるなんて・・・貴方仕事しないで誑かしてるの?」

「なっ!!そんな事あるわけ・・!・・・あれ、なんで皐月さんの事・・・」

「”あちらの皐月”君も、”こちらの皐月”君も生まれた時にお世話係をしていたのは私よ。イレギュラーだったからもちろん黙ってたけど。貴方が最近知ったと聞かされたから」

「私も知ってたわよ!」

茉里ちゃんのお母さんが楽しそうに話しに入ってきた。


「彼が他の・・・今までの神代と違う以上、もうこの先の事はわからない。貴方も彼のことを好きになる可能性がないわけじゃないわ。・・・まぁ、限りなく確率は低いだろうけど。とにかく、面倒事にはならないようになさい。この仕事を続けたいのなら」

「面倒な事って・・・」

「やだ結ちゃん!色恋沙汰で気まずくならないようにって事よ!」

茉里ちゃんのお母さんがストレートに説明してくれました。


「全く、こんなことになるなら当初の通り、社長に婚約してもらえばよかったかしら」

「それは安泰だけど、結ちゃんの気持ちが大事でしょー?」

「お二方、そのお話は彼女には・・・」

「「あら?言ってなかったかしら?」」

「当初の通りとはっ!?!?!?」










「じゃぁくれぐれも面倒事を起こさない事。貴方が起こすなんて本末転倒みたいな馬鹿なことはよして頂戴ね」

「私達、コレから島根県の神社まで出張なの!お土産買って郵送するからね〜!」

「あと、その首に付けてるの。誰から頂いたんだか大体想像つくけど、外さないようにしなさい。事が済むまで」

「なんで?!」

しまった!今日はちょっと首が開いている服だった!と言っても本当に少しだけなので指輪自体は見えていないはずなのにどうして?!


「やっぱり、神崎から”お守り”だとか言われて受け取ったんでしょ。貴方その引っかかりやすい、馬鹿みたいにわかりやすいのなんとかなさい。いつか言葉では言わないにしろ、態度で情報漏洩するわよ」

「ううううう!!分かりましたぁあ!!」






鬼の上司が出張に行きました。上司と言っても、直接のやり取りはほとんど無いのです。間にはいつも神部の皆さんが入ってくださいますので。


「で、どっちからもらったんだい?」

「陽朔さんです!」

 社長に聞かれて、言ってはいけない人では無いのでつい嬉しくて即答しました。


「・・・隠す必要がないものなのか、隠すつもり自体がないのか」

「あ、神崎さん(兄)には内緒でお願いします!」


社長がなぜか少し呆れた顔をしていました。








「結ちゃぁああん!!オレ!一番になったー!!」

「おめでとうございます!」


「オレは!選抜リレーでアンカーだった!3人抜かしたぜ!!」

「そんなに抜かしたんですか!すごい!」



 運動会から帰ってきた小学生のお子さんは、まだまだ興奮冷めやらぬ状態です。とっても楽しかったんですね。



「中学校の体育祭って、目玉競技ないから内容はなんかイマイチパッとしないのよね!」

「小学校だと、六年生の組体操がトリで、親がみんな写真とかビデオ撮ってるよね。それと比べると確かにね」


師走さんの中学校三年生の娘さんと、同じ学校に通う葉月さんの一年生の長男くん。わかる!!中学校ってそう、特に何ヶ月もかけて練習する演目がないから、ちょっとさっぱりとしてるんだよね・・・。もちろん学校によるとは 思いますが。懐かしいなぁ。私も、小学校はダンスとか組体操を頑張ってたけど、中学校ではそこまで思い出に残った競技はなかったなぁ。大体中学校三年間って何やったっけ?



「高校になると、学校ごとに違うからなぁ。僕のところは部活対抗の競技がいくつもあるよ。他にも、各部活のパフォーマンスもあるし」

「オレの所は、ダンス部の発表は毎年圧巻だよ。拍手が起こるからね」

文月さんの長男くんと次男くん。そうだ!陽朔さんも高校生だったけど、今月は境内に来てましたが体育祭は大丈夫だったのでしょうか?!


「競技とか特に楽しくもなんともなかったけど、中学校最後の体育祭ってだけでみんな気持ちが盛り上がってずっと写真撮ったりしてて楽しかったぁ!それに、結ちゃんが作ってくれたお菓子食べるのが本当に楽しみだったの!美味しかったです!ありがとうございます!」

 ヤァ!かわいい女の子の眩しい笑顔のお礼に、私の心はまたもノックアウトです。


「喜んでもらえてよかったです!」



 帰ってきたお子さんたちは、社長と双葉さんと私がいる縁側でみんな話しを楽しそうにしております。

 つまり、私の先ほどの思考を読めるはずの所に双葉さんもいるわけです。しかし、何も言ってくれません。やはり、先日の社長から『勝手に人の思考を読むな』とご注意されたのを守っているようですね。しかし、今は言うところです!!

 ギンーー!!っと見るも、バツが悪そうに顔を背けます。

 わかっているでしょう!!私は知りたいのです!!ご存じありませんか?!


「・・・あのさ。結ちゃん!」

 はい!

「普通に聞いてくれると助かるんだけど・・・」

 ちょっと、質問するのが恥ずかしいのですが、わがままなことに今知りたいので察して頂けますと助かります!!


「・・・っ!あぁもう!!春先に終わってるってこの間話したよっ!!」

「ありがとうございまーす!!」


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