十章:神在月の君へ 二話
十月七日
どうしましょう。
毎日が楽しい・・・!!
昨年はそれほど余裕がなかったのだろうか?確かに、余裕がなかったけれど、今月は非常に、とっても、なんでかわかりませんが十月が始まってからが楽しいです。
神在月のご加護のおかげ様で非常に快適なのは確かです。問題がおこりません。問題(神崎 界星:兄)もやってきません!・・・体調不良なので喜ばしい事ではありませんが。
「なぜ、こんなに快適かつ幸せなのだろうか・・・神在月とは一体・・・」
「神在月さんが、思うところがあったりする状態で入ると、何もできない代わりに、何もないようにしてもらえるらしいですよ。十月の神代は特に愛されているようですから」
門の掃き掃除をしていたら、なんと昨日納品にいらしてくださった天使(陽朔)さんが!!
「おはようございます!今日はどうされたんですか?学校はそんなにお休みされて大丈夫なんですか?」
「今日は学校側が休みなんです。兄の代わりで楓さんに呼ばれまして」
「そうでしたか!あ、だから今日は私服なんですね。どうぞお入りください!」
ほらほら、今日もラッキーです。天使を二日連続で見る事が出来ました!
陽朔さんを離れまでご案内したら、ちょうどサチエさんが玄関からお出になった所でした。
「サチエさん!ちょうどお客様をお連れしました!」
「おや、間に合わなかったですね」
「?間に合わなかった?ですか?」
「茶葉を切らしてしまったので、買い物に行こうとしたのです。間に合いませんでした」
「でしたら、母家の茶葉をどうぞ!」
「面目ないですが、ありがたく頂戴・・・神崎さん、突然随分と若返りましたね。御祈祷と偽ったどんな術ですか」
「こんにちは、はじめまして。こちらにお邪魔しております神崎は私の兄です。私は弟の陽朔と申します。ちなみに若返りの術はありません」
「それは大変失礼致しました。初めまして、神部家のメイドのサチエと申します」
「サチエさん・・!お話しは色んな所から聞きます!お会い出来て大変光栄です!」
天使の瞳が輝いた瞬間を私は今見ました。
「噂とは、事実とは異なるものです。ご期待に添える人物かどうかはわかりかねますが。・・・弟さんはお兄さんとはお顔こそ似ていますが、中身が全然違いそうですね」
「!・・・洞察力がすごい!」
この場に私もいるのに会話の置いてけぼりを食らっております。
この天使がこれほどまでに感動する人物であるサチエさん・・・!確かに私もすごいと思いました!しかし!少しジェラシーを感じてしまいます!!この笑顔を・・・
「『この笑顔を引き出したのが私であったらどれほど・・・!』って、結ちゃんもそう言うこと思うんだね?!」
「双葉さん何をっ・・・?!」
「意外!意外!へー、結ちゃん年下好みなの?!」
「仰ッテル意味ガ、全ク分カリマセン」
「さ!サチエはお茶っぱと俺のタバコとあとなんかいつも通りの買い物してきてよ!どうせお茶っぱもらうんだったら結ちゃんにそのまま淹れてもらうからさ!」
「行って参ります」
「どうぞ、イチョウの葉茶です」
「宮守さん、すまないね。ありがとう」
「頂きます」
「イチョウ?珍しいもの持ってるねー」
「で、本日はいかがなさいましたか?」
「あぁ、呼びつけてしまって悪かったな。念には念をだったもので」
しまった。すぐに話が始まってしまった。
私は、ポットにお湯を注ぎ足して、テーブルに置き、母家から持ってきた道具をひとまとめにお盆に乗せてすぐに離れを出ようとした。
「結ちゃんも聞いてって良いんだよー」
「そんな・・!!」
「いや、時間が大丈夫なら聞いて貰いたい」
「あ、はい、大丈」
ヴヴヴヴンーーーー
ヴヴヴヴンーーーー
「すみません!私の電話です!あっ!社用の電話です!」
「・・・宮守さんは、今は聞かなくて良いって事だな。すまなかった。そのまま電話出てもらって構わない」
「はい!では失礼します!」
すぐに離れの玄関を出た。
「もしもし?」
『結?今境内が大変みたいじゃない』
・・・?
「・・・お母さん?!?!」
『貴方大丈夫なの?』
「だ・・!大丈夫!大丈夫!全然問題ない!ちゃんとご飯作ってるし、事務も締切遅れてないし!備品も切らさない!昨日の夜もちょっとだけど十五夜がなんとかって情報見たから夜はお団子作ったし!節句も夏休みもみんな楽しんでくれてるから!!」
『境内もそうだけど、貴方自身が大丈夫なのか聞いてるのよ』
「私・・・?」
お母さんが、私を心配している・・・・・?
「明日雨?!雪?!吹雪?!神在月様!神様!!!」
『大丈夫じゃなさそうね』
私の母も過去にお世話係をやっておりました。そして、現在は神部の本社で神代や境内に関係する仕事をしております。茉里ちゃんのお母さんも一緒にです。
そして、小さい頃からそれはそれはとても厳しく母に育てました。そう、お世話係の話しを他の人に言おうものなら”消されるわよ”の母です。
労わるよりは、厳しさという愛情を受けて育った私です。なので、多少のことはへこたれません。その母の厳しさは神部に買われ、お世話係をする前に、母の元で修行を積む事を希望する人もいるだとか。茉里ちゃんも、私の母の指導を受けたとかなんとか。
しかし、結局電話はあの後すぐに切られましたが、なんの電話だったのだろうか。純粋に心配しているとは思えないのです、悲しいことに。いや、そんなに悲しくないかな、ずっとこの育てられ方だったし。
今から離れに戻るのもなんか中途半端だし、それに、社長が『今は聞かなくて良い』と仰った。今・・・つまり、また私は問題か何かから免れたと言うことなのでは・・・?!
やったー!では、このまま母家に戻ってお昼ご飯を作ってしまおう。
「宮守さん、帰りますね。お邪魔しました」
陽朔さんがわざわざお声を掛けて下さいました。なんて礼儀正しいのだろう・・・!文月さんの長男くんもかなりの礼儀正しさを持っておりますが、こう、陽朔さんはなんていうか、加えて大人っぽいと言いますか。あっーー
「こちらどうぞお持ちください!」
「え?良いんですか?」
「はい、お兄さんにお渡しください。ただのスポーツドリンクですけど熱とか体調不良にはやっぱりこれかなって思いまして。あと、少しお菓子も入ってます。あ!これはよければ陽朔さん食べて下さい。私、たまにお菓子作るんですけど、昨日の夜はお団子作ったので、小豆と抹茶餡を作ったんですけど。あ、もしかして和菓子というか手作り自体お苦手でしたか?」
「いえ、全然。ありがたく頂きます。でも良いんですか?兄がつけ上がりそうですが?」
「今月は私無敵みたいなので大丈夫です!!」
「ックク・・、では、兄弟揃ってありがたく頂きますね」
なんか笑われましたが、笑って貰えたので大満足です!
「ねぇ、なんでそんなにご機嫌なの?俺、最近何もしてないよね?」
「え?はい。何も。そうですね、会話もそんなにしてないです?」
「それって!俺と話さない方が結ちゃん楽しいって事なの?!」
「えぇええ?!待って下さいどうしてそうなるんですか?!」
夕方。もう少しで業務終了の時間だけれど、集中力が尽きたのか、皐月さんと如月さんが母家で休憩です。
「今月入ってから妙に楽しそうだな。神崎も何日かこねぇし」
「界星・・・!そっか!界星が来ない事が嬉しいんだね?!」
当たらずとも遠からず
「神崎が来ない事を喜ぶ事=お前の方が好きって式は成り立たねぇぞ」
「邪魔者がやってこないだけで十分なんですぅ!」
「ただ、それだけじゃねぇみてぇだけど」
「まだ何かあるの?!どこの男?!まさかっ!!」
「宮守さん、サチエはいるかな?」
「社長!いえ、いらしてないですよ?」
「そうか・・・庭の花を見てくるって言ってから30分は経ってるんだ。広いとそれほど時間が掛かるのか?」
「じっくり見ればかかると思いますが」
「そうか、人によるか。少し縁側にいてもいいかな。サチエが通るかもしれない」
「どうぞ!お茶お持ちしますね」
「ありがとう」
「・・・人のこない時間を狙ってきたのにまさかの人物に邪魔されたな」
「まさか、神部のCEOが相手だったら流石の俺も勝てる気がしない・・!」
「なんの話ししてるんですか?」
十月十日
「この種類のバジルは夏が最盛期ですので、もうこのように育ちすぎて茎も太く、これ以上は葉も生えません。こっちがローズマリー。これがタイム、これはオレガノ、ミントはペパーミントで、まぁ潰すと良い香りです。チョコミントのミントにはちょっと強い気もしますが」
「そうだったんですね!ハーブだろうなとは思ってたのですが、なんのかはわからなくてさすがに手を出すことはできませんでした・・・。サチエさんすごいですね!」
「神部の屋敷の庭に、ハーブを沢山植える事があったので、その時に覚えました」
「買われないんですか?」
「当時、下っ端の私が注文したいなどとは言えないのです。なので、庭師に頼んで育てさせて頂きました」
「・・・なんの為か聞いても?」
「当時から社長はやる事が多く、よくお疲れだったり不眠だったりしたのでハーブティーを作るためです」
「双方高校生の時にですか!?」
「はい。あ、ローズマリーをどうぞ。オリーブオイルに豚肉と一緒につけてから焼くと美味しい良いですよ」
「ありがとうございます!」
そうして、サチエさんとの交流が終わり、サチエさんが離れに戻られると・・・・・
「結ちゃん!今サチエちゃん来てなかった?!」
「今の今までいらっしゃいましたよ。ハーブ談話を30分ほど」
「30分も居たの?!あー、俺なんで気づかなかったんだろう」
長月さんがいらっしゃいました。このお二人、同じ敷地内にいるのに本当にすれ違うのです。
つまり、”問題が起きない”訳です。最初こそ、サチエさんがこの敷地内にいるだけで満足をしていたようですが、ここ数日で、やはり欲が芽生えたようです。
そして、行動に移そうにもなかなかうまくいかないと。そう、”問題が起きないのです”そろそろ神在月の力が強すぎて怖くなりそうです。
しかし・・・
「結さん、こんにちは!」
「陽朔さん!こんにちは!いらっしゃいませ!」
この神在月の力には感謝の方が勝ちます!!!
推しの弥生さんと同率で陽朔さんが私のTOPになりました。この笑顔、この爽やかさ!なんででしょう。神崎さんと本当にそっくりなのに、この違い!
「それはさ、弥生と似て非なるものだと俺は思うけどね」
いやいや、推しですよ!推し!大体高校生に恋愛感情を抱いちゃまずいでしょう?!私ももう24歳なんですから!
「それは好みでしょ。俺が十二歳下の結ちゃんと恋愛するのとだいぶ違うじゃん。陽朔だったらそこまで離れてないし」
大して変わりません!
「いや、結構違うと思うけどなぁ。あれ?結ちゃんもしかして」
「双葉、勝手に読むな」
「結ちゃんだけだよ。こんなに面白いの。それに、読まれてもそこまで気にしてないみたいだし。そのまま会話続けるくらいだし」
「・・・」
「悪かったよ。頼むからそれだけは勘弁して」
「だから読むなって言ってるだろ」
社長が無言で双葉さんを睨むと、あの双葉さんが怯みました。流石です・・・しかし、双葉さんが怯む内容とはなんなのか気になります。
「じゃ、陽朔も来たことだし離れで話しをしよう。今回は結ちゃんも来る?この間の話しの続きだから。前回までの話しもすぐに説明できるし?」
「私必要ですか?」
「聞いてはおくべきかなとおもう。事の運びによっては結ちゃんの仕事量が増えるかもしれないから。でも、その場合、サチエにも手伝ってもらうかもって話しも出てるから。確定じゃないけどね」
「そうですか・・・」
今日は電話もならない。誰かに声をかけられる感じもない。多分、このタイミングで聞いていいことなんだろうな。
「じゃぁ、聞きます。行きましょう」
「よーし、じゃ、陽朔も行くよー!」
「はい・・・あちらはそのままでいいんでしょうか?」
「「え?」」
「楓、俺は腹を括った!!!!!」
長月さんが突然大きな声で社長を呼んだ。
「・・・なんだ」
「サチエちゃんを!俺に!下さい!!」
「俺はサチエの親ではない」
「え?!境内の所帯を一時避難させる・・・?!ですか?!」
「あぁ、念の為だが。まだここにいる人間にしか話していない」
社長があまりにもさらっと言ったので最初は理解できずでしたが、10秒経ってやっとわかりました。避難とは?!
「探偵ストーカーの件でさ、念の為に境内の所帯を安全な場所に避難させる”計画”をもう先に作っておこうって事。事が起こらないに越したことはないけど、危なくなってから考えるより、既に緊急対策を作っておこうって話しになってさ。それが避難ね」
「神崎の確認も入れながらでないといけないから、来てもらった。電話でのやりとりは無くしたかったからなんだ。どこから聞かれてるか・・・対策はしてるが傍受されたら意味がないからな」
厳重だ。あ!それなのに神崎さん(兄)が来れないから代わりに陽朔さんが・・・!
「そ・・・理由は、神崎の中での境内に関わる代表の界星が熱で来れないからね。だから、陽朔に来てもらってる訳だよ」
双葉さん今絶対読んでた。読んで返事だけしようとして、さっき社長に怒られたから読んでないふりして説明入れた!そう思った私の顔を見て、バツが悪そうにそっぽを向いた双葉さん。まぁ、私からしたらもう今更なのですが。
「つまり、所帯を避難させる場合、神代本人達も一緒に避難するかここに残るかは今後決めてもらう。担当月でなければ別にいなくてもいい。何が狙いかわからないからな。神代自体が狙われてる可能性だって0だとは言い切れない。ただ、残りたい者は残って働けばいい。・・・本当は、宮守さんにも避難をしてもらいたいのだが・・・」
「いえ、私は残ります。私の仕事が増えるとは、離れの家屋の状態確認でしょうか?」
「そう、離れの家屋管理も入る。あと、所帯持ちの神代は大丈夫だとは思うが・・・食事の準備が・・・」
「神代の方が全員残ったとしても大丈夫です!お昼ご飯はいつも全員分で作ってますから!」
それが仕事ですから!
「いや、楓さぁ、全員成人してるから境内に残ったとしてもそこまでは面倒見なくて良いと思うんだけど?」
「双葉さん!大丈夫です!それこそがお世話係の仕事ですから!」
「なんか気になるよねー?良い年なんだしさー、自分一人の事ならさせた方が人として成長すると俺は」
「お前だってサチエが来てから全部任せてるだろう」
「・・・」
双葉さんの口が閉ざされ、言いたいけどこれ以上は言えないとばかりにモゴモゴしております。
と、言うことで!本当は起こって欲しくないですが、もしもの時の境内の神代のご家族の為に、緊急事態に備えての対策ができました!これは私も安心できてすごく嬉しいです!
「宮守さんは、怖いとか、自分も避難したいとか思わないんですか?」
陽朔さんが、私の顔を覗き込んで心配そうなお顔をされています。・・・はぁ、可愛い、尊いです!!
「私は、何があっても境内にいます!」
「その芯の強さ、尊敬と同時に、心配で放っておけないですね。兄の気持ちがなんとなくわかりそうです」
「面倒になるからわからないままの方が良いぞ、家でイジメられるぞ」
「内緒にしておいてくださいね」
私はノックアウト致しました。




