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一年が十一カ月しかない君たちへ   作者: 杉崎 朱


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九章:長月の君へ 五話

 工房の掃除を行って、その後順々に集まり始めた。


 サチエさんはいらっしゃいませんが、私は同席することになりました。

『ほら、卯月の件も少し話すみたいだからね。結ちゃんには知る権利があるわ』

 八重さんがそう言ってくださいました。



 社長は、ネクタイもせずに非常ラフな格好ですが、それでも、オーラが違います。

もちろん、桔梗さんや櫻さんも、街やその辺で見かけたとしたら、威厳というか、物凄くオーラがありますが、比ではありません。威圧感が桁外れです。別に、顔を顰めていたりだとかそういった表情をしている訳ではありません。

 どちらかというと、表情は涼しい顔をされてます。なのに、こう、なんか、すごいんです。




「取り敢えず話しを始める」

 空気が凛というかシャンというか、とにかく一瞬で変わりました。

 神代と、神崎さんと、私が座っております、神部の方が向かいに立っております。






「まず、最近の卯月の件だ。弥生がどう思っているか、どう感じるかはわからないが、私もこのように全員の前で話すことに、何も感じてない訳じゃない。申し訳ないが、ここにいる神代とその家族の不安要素をなくすために話す」


「大丈夫です」


「六月から、卯月は本社でとても真面目に業務を行っている。主に事務だ。四月に抜けることを考えて、今はまだ社内だけで済む仕事をさせている。そして、事の発端の卯月の奥さんだが・・・。監視をつけている。現在は怪しい行動は見られない。行動はな。電話やアプリケーションのメッセージの類は流石にわからない。そして、彼女自身の実家に足を運ぶ回数が増えている」


「それはどういう考察の上で今ここで言った?」


 ちょっと、如月さん。社長に対しても態度が変わらないのは見てるこっちがドキドキ致します!!



「これはまだ証拠が掴めていないのだが、先日・・・子供の夏休みの期間中に、女子高生のアルバイトが来ただろう。彼女は本社に数回通ってここで働くための事前説明や書類契約を交わした」


 彼女には、事前説明はほとんど伝わっていなかった例の契約書の件ですね。



「その時点で、神部に出入りしている彼女に目をつけた人物が、探偵を雇って尾行させていた」


「それって・・・」

「あのお嬢さんがストーカーにでも付けられているのかと聞かれて素直に頷いた件かな?」

 境内で唯一女の子の父親である師走さんが驚き、そしてダンディ文月さんが思い出した様に言った。



「そう、彼女はストーカーだと最初思ったようだ。結果はストーかーではなく”探偵”だったんだ。まぁ後を付いてこられることに関しては一緒だ。そして、その探偵を雇ったであろう人物が誰か・・・絞れてきた」

「卯月の嫁さんか?」

「如月の言うとおり、我々も最初はそう思った。しかし、監視からは探偵との接触が無いと報告が上がっている。最初に言っておくが、この監視がスパイだとか、先方に抱え込まれているなどと言うことはない。生まれも育ちも神部の人間だ」

「そうかよ、で?」

「証拠写真があるわけではないが、調べによると、探偵を雇ったのは・・・」



 ついにあの騒動の黒幕なる人がわかるのか。

 でも、卯月さんの奥さんではないとすると・・・




「卯月の奥さん・・・・・の、父親だ」















「本当、前に言ってた通り。根が、深そうだよね」

 話が終わり、夕飯前に弥生さんが縁側でお昼の余りのマスカットを食べながら言った。


「お前が言うなよ」

「逆でしょ。俺が言わないと、皆も話しに出しづらいでしょ?」

「まあ、そうだな。ただ、確定じゃねぇんだ。今考えたって仕方ねぇだろ」

「いやぁ、神部の調べだよ?俺は当たってると思うけどなぁ」

「いいのかよ」

「いいんだよ、これで。卯月が奥さんと競合して境内に何かしようっ考えてたんじゃないかっていう線が俺の中で薄くなった気がする。それだけでいい。俺はね?みんなはそうじゃないところが気になるだろうけど」


 早くもお酒を飲みながら如月さんも弥生さんの話を聞く。

 そして、夕飯を食べに神代が続々と母家に来ます。しかし、それでもいつも来る時間よりは早めです。きっと、縁側でお二人が見えたことで、自分も来て話して、お酒を飲もうとお思いになられたんですね。



 秋っぽさがありながらも、まだ夕方には蝉が鳴いている。しかし、やはり夏に比べて陽が沈む時時間が早くなってきた。夜にはたまに涼しい風が吹く晩もある。

暑さ寒さも彼岸まで。と言う言葉のように、ゆっくりですけど、季節が変わっていきます。




「結局、私たちの住み込みが決定してしまい、ご面倒をおかけします」

「そんな!全然大丈夫です!本当にお気になさらないで下さい!むしろ光栄です!!」

 私の隣で、サチエさんが料理を作ってくださっております!昼の冷やし中華に続きまして、共同作業です!すみません長月さん!長月さんより早く私がサチエさんと共同作業を・・・!!


「共同作業って、一緒に包丁握る訳じゃないんだし・・・!」

「双葉さん、突然現れては人の心を読むのはお辞めなさいとあれ程言われてましたのに」

「最近してなかったからいいじゃん?」

「宮守さんを揶揄うのは辞めて下さいよ」

「いやぁ、もう逸材だよ!本当に楽しいんだって!ところでサチエはいつまで境内にいるの?」



 そうです。社長の一旦年末までの境内での居住が確定いたしました。

色々お考えがあるそうです。ですが、神部の社長がこのようなセキュリティーがないに等しい所に居てよろしいのでしょうか?


「大丈夫でしょ、本人強いし」

いやいや、強いって言っても、結局卯月さんの奥様の”父親”が探偵を雇って神部か境内を嗅ぎ回っているんですよ?探偵雇うなら

「乗り込んで来る用のプロも雇うんじゃないかって?」

「まだ、頭に浮かぶ前に読み取るのは、もう読み取るじゃないですよ双葉さん」

「宮守さんも、双葉さんの扱い方をマスターしはじめてますね」






 九月二十日





社長が境内に来てから一週間経ちました。

その間、サチエさんはちょこちょこと母家にいらして下さいますが、双葉さんはめっきり減り、社長とはほとんど顔を合わせることがありません。まぁ、その方が緊張しなくて良いのですが。


 なので、神部の方がやってくる前のような日常に近い状態の日々です。



「あー!目玉焼き!」

「あれだ、ベースド何ちゃらだろ?」

「神在月さん、正解です。ベースドエッグです!」



「結ちゃん、おはよう。今日有給で出かけるから、お昼ご飯は大丈夫です。でも、朝ごはんと晩御飯は頂きます」

「あ、お出かけするって言ってた日は今日だったんですね!了解です!」

「なんだ睦月〜まさかデートじゃないだろうな?!」

「そんな!デートなのは僕じゃなくて・・・」

「なんだとっ?!水無月今日デートなのか?!」

「・・・ひっ久々に、休みが取れたって・・・向こうが・・・」



 賑やかで、ちょっと皆おせっかいで、でも楽しい日々が戻ってきてる感じがしてすごく嬉しいです。






「結ちゃん、ちょっと後で離れに来れる?」

 双葉さんが久々に縁側から声をかけてきてくれました。昼食の仕込みをして、離れへと向かいます。





「社長だけずるくない?!離れに住むとかさっ!離れでいいなら俺も住みたいんだけど!」

「だったら誰が資材と神代金の輸送をするんだよ」

「そんなの弟で良くない?!同じ神崎なんだし!問題ないよ?」

「お世話係にちょっかい出したいだけだろ?」

「ちょっかいじゃないよ、嫁に欲しいって何度言ったらわかるんだい?」

「サチエ、でっかい生ゴミ捨て忘れてるぞ」

「大変失礼しました。70ℓの袋を貰ってきます」

「っちょ!サチエさん?!社長が俺を呼んだんでしょう?!」



 久々の離れにお邪魔したらこのような光景が目の前で繰り広げられてました。コントでしょうか。



「あ、結ちゃんおはよう!これ、今度は代官山で最近できたコーヒーショップが作ってるお菓子なんだ。美味しいから食べてみてよ」

「おはようございます。なんかいつもありがとうございます。頂戴いたしますね。では失礼いたしま」

「ダメダメ、これから大事な話しがあるから」


 逃げられませんでした。







「社長から、”皐月”の話しを聞かされたんだって?」

神崎さんの言葉に、私は社長の顔を見た。

「君に話したと神崎に伝えた。大丈夫だ」



「・・・聞きました。他の神代とは別だって」

「多分、一緒にいる結ちゃんが一番彼が他の神代と違うってわかると思うんだけどどうかな?」

「好意を寄せられていますが、それは御本人ですらちょっとわからないところがまだあるみたいです。なので、”神のイタズラ”はちゃんと発揮・・・?されていると思います」

「それだけじゃないでしょ?彼が他の神代と違うところ」

「違うところ?背が大きいとかですか?」

「外見的要素じゃなくて、内面的なところ。無い?」

なんかあっただろうか。今年の順に思い出そう。


お酒が好き。

賑やかでテンションが高い。

卵焼きが大好き。

如月さんが本殿にいるときには不安がってた。

寂しさを紛らわそうとして茉里ちゃんに平手打ちを喰らった。

好きと言う気持ちが自覚できていない。

八重さんを揶揄うようにしてる。

双葉さんが苦手みたいで近くにいると静かにしてる。


こんなもんだろうか?あ、思い出してみれば・・・


「本人もなんだか良くわからないみたいですが、如月さんがいないと不安みたいです?」

「それ、本人が言ってた?」

「はい、でも、うまく説明出来ないって・・・如月さんと仲がいいから依存的なものかと思ってましたが・・・」


 言い終わる頃には、社長と神崎さんが顔を見合わせていました。


「んんんーーー・・・どうするか、結ちゃんには言っておくか、それとも先に本人に言うべきか・・・」

神崎さんが唸り出し、社長は顔に手を当てて表情が見えない。双葉さんは・・・

「そこのお二人さんでずっと守ってきた秘密なんだかどうだか知らんけど、何かあるなら本人に言うのが一番先の方がいいんじゃない?」


「・・・物事には、タイミングが重要だ。本人に一番に伝えるのが、道理だったり、義理だったりするのはわかる。しかし、早く伝えれば良いって言うものばかりじゃないんだ。・・・まぁいいか。どうにもならなかったら最後には・・・」

非常に苦しそうに社長が仰りました。それほど重要な事なのか、それとも見えないもので不確定な事なのか、それでも、この社長は物事の大きい小さいに関わらず、全て真摯に対応している。



「成人してるんだし、自己責任ってやつなんじゃないの?・・・まぁ、神代である故で自分が原因じゃ無いかもしれないけどさ」

「だから、なるべく神部がフォローできる体制でいないといけないだろ」

「そんなに言いづらい事なわけ?俺や結ちゃんが聞いたらまずいの?皐月くんが他の神代とは”別”まで聞いてるってのに?」


「その”別”って言うのは、例えば、他の神代と違って、こんな能力があります!とか、そういうオプション的違いじゃ無いんだよ。標準装備の差じゃなくて、その標準・・・土台から違うっていうか。型番が違うって言うか・・・うーーん!!」

神崎さんが例えを教えて下さいましたが、”土台から違う”ってとんでもないネタバレをしているように感じられますが?!



「・・・秘書課のあの三人は知ってんの?」

「言ってない」

「その三人にまず言って、話し合ってから、皐月くんに言うか、俺たちに言うかを決めれば良いんじゃない?」

「なるべく人に言いたくない」

「そんな懸念材料がある重要な事をなんで隠してたの」

「そうならなければ良いと考えてた。まさか、お世話係を好きになるなんて思わないだろう。話を聞けば、学生の時から女に苦労しないやつだったそうだ。それに、神代として生まれてきている以上は、そもそも好きにならないだろうと思っていた。弊害がそこに出るとは思わなかった」


「皐月くんが、他の神代と違うであろう証拠が、”結ちゃんに好意を抱いているであろう”ことと、”如月がいないと不安になる"事ね・・・。つまり、神代が持ってるべきモノを持ってない、また、持ってないものを持ってるって事ね」


「すみません、私は全然話の内容がわからないんですけど、ここにいて良いんですか?」


 私だけ蚊帳の外状態です。しかし、逆に言えば、知らないで済むのなら知らないままで居たいのが本音です。

「”如月がいないと不安”が重要な情報だった。ありがとうございます」

社長がお礼をおっしゃった。なんか、すみません、大した情報じゃないつもりでしたがお役に立てましたなら・・・。


 結局、すごくスッキリしないまま離れを後にしました。






 九月二十六日


 ここ数日、神部の方の出入りがありました。そして、何度も話し合いをしていたようです。

離れにはサチエさんがいらっしゃるので、お茶出しの必要ない私は、ほとんどお会いしておりません。神部の方も、頻繁に来る事を知られたくないのか、母家にはあまり寄らずに直接離れへ出入りされてます。




 現在、台所で夕食の準備をしているのですが・・・。


「あの、サチエさん・・・サチエさん、十月も境内にいらっしゃるんでしょうか・・・?」

「はい、その予定ですが何か・・・あぁ、九月は連絡がつかないと事前に言われていた彼の話ですね」

「そうです!!」



あと数日で長月さんが本殿から出られ、次は神在月さんが入られます!

そうすると、長月さんと会うことになるわけです!

「そうですね、その件は社長にそろそろ言わないといけませんね」

「言ってなかったんですか?!」

「それは業務とは直接関係のないことなので。境内(ここ)にいる間、私の給金は跳ね上がりを約束されておりました。しかし、面倒事が増えるなら対処しないといけませんね。迷惑料というお金での対処を」


本当にお金のためのようです。どうしたんだろう、神部で二十年も働いていれば、もう十分にお金が貯まっているように思えるのですが。



「流石に社長に言って、考えて頂かないとですね。他のメイドを寄越すか、それが出来ないなら、宮守さんに大金を払って社長の分も面倒を見ていただくか・・・」

「すみません!社長に近づくなど恐れ多くて・・・!このまま残って頂けるなら本当にありがたいです」

「そうですね、十月以降も残るようであれば、やはり例の彼を出汁にして、さらに給金を上げましょう」

 長月さん、意中のメイドさんのお役に立てそうですよ!!







 夕食の仕込みも一段落して、サチエさんは休憩をしてその後スーパーへ気晴らしにとお出かけされました。私も一休みしてからまた始めよう。小さいアイスを冷凍庫から取り出し、母家の縁側に座って食べ始めた。


 あぁ、気づけばもう蝉の声は聞こえない。


蝉を見なくなって代わりに現れたのはトンボだった。

紫外線の暑さは残っていはいるものの、吹く風は少し涼しくなった。ここ何日か、気温が上がらなかった日には、秋の香りがしたほどである。そろそろ銀杏の葉が黄色くなり始めるんだろうなぁ。境内には銀杏(いちょう)の雄の木がある。雌の木ではないので、銀杏は実りませんが。


 社長が来てから心のどこかで緊張がずっと続いていたから、こうやってゆっくり出来て幸せ。結局社長は心配になるほど今の所は外に出ない。出ているのかもしれないですが、境内で見かけることはほとんどありません。

 会議とかどうしてるんだろう。あ!リモート会議をしてたりするから全然離れから出てこないのかも!でも、正直緊張しちゃうのでその方がありがたい。あぁ、このアイス美味しい・・・。

 まだ在庫管理の時間までは全然あるし、サチエさんも暫く戻られないだろうし、久々にまだ陽が出ているこの時間を満喫し


「・・・休憩中だったか。申し訳ないが、少し話をしても?」




社長ガ、境内ノ庭ニ、現レタ!!

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