九章:長月の君へ 一話
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【神崎の能力恐ろしき。人であって人で非ず。異能を使う神の手先。近寄ることなかれ】
全ての始まりは神崎である。お世話係を除いて、全ては神崎から派生したものである。
九月三日
朝、本殿に吊るしてある、守堂さんの名前の書いてある木札を外しました。近くに、同じように外された方の名札があり、そこに重ねた。
お子さんの学校も始まり、普段の生活が戻ってきました。心配だった守堂さんは、神部から警備を出してもらっているので、その件に関しては安心です。
あとは、学校生活が楽しくなればいいんだけどな。
今日は、母屋の窓をどこもかしこも開けて、風通しの良い状態にしてます。気持ちが良いので居間で事務作業をしております。
九月になったとて、突然秋らしくなることはまだなく、まだ八月だと思えるような日差しです。でも、”九月”だと思うだけで、なんとなく『あぁ、夏はもう終わったんだな』とも思える日々です。
「あぁ・・・幸せな日々が戻ってきた・・・!」
「・・双葉がいなくなれば・・・もう本当に平和って事だよね・・」
「え。俺邪魔って言われてるの?」
「ち!違うよ・・・!」
縁側で、甘い炭酸飲料を飲みながら双葉さんと水無月さんが話しをしています。
「ほら・・・本当に平和だったら。多分、双葉はここに派遣・・・されないから。でも、それは、それで寂しいし。でも、いない事が本当の平和なんだろうけど。でも何か起こらないとここには・・・来てくれない・・・」
「まぁね」
「最近は、・・・アルバイトの子も来なくなったし、皐月も・・・静かだから、本当に、穏やか」
水無月さん、皐月さんが静かなのは、そこにいらっしゃる双葉さんとなかなか打ち解けないからだと思います。ちょっと気まずい事をこの場でハッキリと言わない方が・・・あ!!!
「あはは!結ちゃんわかりやすいって!心配しなくても俺本人がわかってるから大丈夫だって」
「どうしたの?」
「ううん、こっちの話」
もう全部筒抜けじゃないか!!
水無月さんが休憩しているのを見て、葉月さんもいらっしゃいました。
「あー!美味しそうなの飲んでるー!」
「葉月もどうぞ」
「やったねー」
っは!忘れちゃいかん!!私は事務作業の部屋へ向かい、先月同様に映像データとノートを持ってきた。
「葉月さん!こちらどうぞ!夏休みプロジェクトの八月の映像とあと記録です!」
「・・・ええー!いいのー?!忙しかっただろうにありがとうございます!」
とてもニコニコとして受け取ってくださいました。なんか嬉しいです。
「へぇー、・・・そっか、色々と会ったこと書いてくれてるんだね・・」
葉月さんがボソっと言ったことに対して隣にいた双葉さんが即座に反応しました。ものすごい勢いで私の顔を見ます!いや!ストーカーの件っていうか探偵の件とか彼女が境内に来る理由とか日記とかどれも書いてませんから!!!
慌てて小刻みに顔を横に振りました。それを見て双葉さんは安心したように疲れて気の抜けた顔をした。
「・・・双葉と結ちゃん、言葉がないのに会話してる・・・」
「ふぅ、とりあえずこんなもんで良いでしょう!」
月初の事務作業を粗方終えました。段々と早く終わらせられるようになってきている気がします。月に一回しかない作業ってなかなか覚えないんですよね・・・。でも、それも繰り返して、要点をまとめてメモしておいたりして、徐々に精度を上げていけている気がします。多分ですけど。
さぁ、お昼ご飯の支度でも始めましょう。
今日のお昼ご飯は・・・
「ねぇ、まだダメ?」
「あれ、皐月さん?」
今日は、水無月さんや葉月さんが休憩しにきたり、皐月さんが台所にきたりと皆さんのんびりですね。まぁ別に良いですが。
「あ、で、何がでしょうか?」
「何がって・・・!デートの話だよ!もう一ヶ月半もすっぽかされてるんだけど!!」
「・・・あああああ!!」
しまった、色々ありすぎて八月に一度言われたのにそこから更に忘れていました。いや、もうこれ私流石に酷いでしょう。
「・・・こんなに忘れてたのに、まだしたいって思ってくれてるんでしょうか・・・?」
「別にわざとすっぽかした訳じゃないでしょ。あの女の子の件もあったし。でももう流石にいいかなって思ったんだけど、実は結ちゃんは他に何か聞いててまだ忙しかったりそう言った気分じゃないなら無理強いはしたくないなって思ってさ。一応今、これ打診なんだけど?」
「いや、はい、えーっと、粗方落ち着きましたのでもう大丈夫です・・・」
「じゃ、今度こそ今週末ね!」
そう言って去っていきました。
はぁ、どうしましょう。どうしましょうって言ったってもう断る理由もないですから。とりあえず、お昼ご飯を作りましょう。
九月六日
ついに来てしまいました。終末です。間違えました、週末です。
「あぁ、皐月くんとデートね?」
「本当、顔で全部読むの辞めてください」
「いやいや、今回ばかりは顔に出過ぎてるよ。で?お昼はこの鍋のシチューを温めて食べてって言えばいいのね?」
「はい、すみませんがお願いします」
「逆でしょ、休みの日なのにご飯作り置きしてくれてありがとうね」
そんなこと言われれるとは思ってもなかった。
「でも、界星ともお祭りデートに行って、次は皐月くんとデートかぁ。結ちゃんモテるねぇ」
「違いますよ!神崎さんは私を揶揄ってる・・・のが半分です」
「揶揄ってる”だけ”じゃないのはもうわかってるんだ。界星も頑張ってるんだね」
「・・・あと、皐月さんに至っては多分何かの間違いです!神代とお世話係は恋愛感情が生まれないんですから!」
「そうらしいね。俺は界星に聞いたことしか知らないけど」
「だから!多分ですけど、皐月さんの件は、ご自身でも理解できていない感情があるだろうってことです!それをはっきりさせるための今日のお出かけですから!別にデートって訳じゃないです!なんなら・・・そうですね・・・検証と言いますか」
「デートを検証って言われる皐月くんがちょっと不憫だな」
『じゃ、合コンのことバラされたくなかったらお土産よろしくー』と双葉さんに送り出されました。お土産ならなんでも良いんだな、よし、でっかいうさぎの人形でも見つけたら買って帰ってやるんだから!
皐月さんとは待ち合わせです。それも、最寄り駅ではなく、都心のターミナル駅での待ち合わせです。
『待ち合わせの方が、デートっぽいでしょ?』だそうです。皐月さんのお考えの中で何かあるのか、今朝は朝食はいらないと予め言われておりました。よって、本日まだ皐月さんの顔を見ておりません。
まぁ、朝に顔を合わせたらなんか気まずい感じがしそうなので、それは助かりましたが・・・。
こんな大きな駅に来たのは久しぶりだなぁ。というか私こんな呑気にデートなんてしてていいのかな?境内か神部を狙っている人がいるっていう中で、こんな人の多いところで・・・いや、人が多いところの方が紛れていいのかな?あ、ここ、水族館が近くにあるんだ、わークラゲ綺麗だなぁ。イルカも可愛い。映画館も近くにあるんだ。え?美術館?そういえば、今日はどこに行くん
「ごめんね、お待たせ」
「皐月さん?いえ、全然待ってな」
振り向いてまさかと思った。
最近は双葉さんに見慣れているとはいえ、皐月さんも180cm超えの長身で細身だ。そして、アッシュグリーンの長めの髪の毛をサラサラに揺らしながら私を後ろから覗き込んだ。
ヤバイ・・!これっ・・・!!!
「え?モデル?超格好いいんだけど!」
「撮影じゃない?!・・・でもカメラないよね?」
モデルだと思われたのは元々の素質だけではなく、なんかオシャレっぽいライトカラーのサングラスを掛けている!あれです、レンズの色が薄くて、『え?それ本当にサングラスの役目果たせてるんですか?』って思うあのオシャレに舵を切ったあのサングラスです!コレじゃ長月さんの時の二の舞じゃないですか!!
「ちょっ!結ちゃん何その顔?!」
「え・・・?いえ、長月さんの時の二の舞だなって思いました」
「それでそんなに”スンッー・・・”とした顔になる?!」
「私は本日も歩くだけで多くの女性から誹謗中傷を浴びせられるのかと思うとこの顔にもなります」
「ーーーっつ!」
うううーーと皐月さんが唸っております。
「結ちゃんに楽しんでもらいたくて、今日連れ出したんだよ、なのにそんな顔をされたんじゃ話にならない・・・っ!」
「そんな気を使わないでください。私がこのノーマルな顔に生まれてきたのがいけないのですから。そうです、私はノーマルで生きていきますので、あまり関わらない方が・・・」
ズンーーー!!
耳になんか掛けられた。今のいままで皐月さんが掛けていたサングラスだった。
「ほら!コレなら結ちゃんの方が芸能人っぽく見える!これでいいじゃん!」
「え?!私サングラスなんて掛けたこと・・・」
「似合ってる似合ってる!大丈夫だって!コレでいいでしょ!長くここに留まる必要ないからさぁ早くいこう!」
手を掴まれて駅から連れ出されました。
「うわぁー!さっき駅の広告見てて、可愛いって思ってたところだったんです!」
水族館に来ました。
「生き物ってさ、癒されるじゃん?ほら、結ちゃん七月から大変そうだったからさ」
「・・・はい、すごく大変でした。やることはそんなにいつもと変わらなかったんですけど、気持ちの面が・・・」
「それって、界星のデートも入ってる?」
「守堂さんの件です!!」
笑いながら歩いていますが、きっと、私のことが”本当に”好きなら、多分笑い事じゃ済まないと思う。おそらく、皐月さんは《私の事を好きではない》と思う。好きになり切れていないと感じる。・・・ただの勘ですが。
「んんーーー!おいひいーー!!」
なんとなんとなんと!!信じられないことが起こりました!お昼ご飯は超人気のレストランで食事をすると皐月さんが言うのです!!雑誌やテレビで常に取り上げられているようなお店です!いろんな創作料理があるのですが、その中で私がすごく食べたいなって思っていたのがこの・・・
「マッシュルームドリアっ!!幸せですー!!」
「良かった、こんなに喜んでもらえるとは思ってなかった」
「ずっと行ってみたいなって思ってたんです!八月に境内でお子さんたちがテレビ見てたじゃないですか?!あの時くらいからこのマッシュルームドリアが新商品として紹介されてからもう、食べてみたくて食べてみたくて・・・!本当にありがとうございます!!」
贅沢なほどに使われたマッシュルームの香り溢れるホワイトソース・・・そして、上にかかったこんがりとしたチーズ!!下のご飯も、白米ではなく予め味付けをされている!それがマッシュルームと相性が抜群です!こんなに美味しいドリアがこの世に存在していたなんてー!もう幸せです境内に不審者が現れたら、今なら素手で倒せる気がします!!でも今現れても私は境内におりませんが!!
「界星に”結婚しよう”って言われたんだって?」
「ぅぐふっ!!!!!」
「あぁ、そんなに驚かないでよ、危ないでしょ。ほらお水」
「っ!!ケホっ・・・そんな・・・!さつ・・き、さんが、突然っ・・!!」
「ごめん、ごめん、いやぁ、そんな話し聞いたら確認せずにはいられなくてね」
「誰っ!!から・・・!」
「・・・双葉さんが如月と話してるの聞いちゃってね。俺だって、結ちゃんの事本当に気にかけてるんだよ。多分、恋とかそういう方の”好き”に近いよ。・・・近いってだけだけど。結局まだ自分でもよくわからないけど」
「っけほ」
「でもね、結ちゃんが他の男と仲良くしてるのをみて、”あぁ、これは嫉妬なんだな”って思うほどにはなってきたよ。イライラしたり、ムカムカしたり、ちょっとひ弱になったりする。ちゃんと見てみるとさ、他の境内の男たちはさ、結ちゃんの事がただ大切だっていうのがわかる。それは、女性としてじゃなくて、お世話係の”宮守 結”が大事なんだなって。そこに恋愛感情は誰一人として見れなかった。だから、多分俺だけだね。その神のイタズラが効かないの」
あまりにも咽せすぎて一口水を飲みました。
「ーーーっつ!ふぅ・・・。皐月さんのも、恋愛感情とは限らないと思います。あの、前に桔梗さんが言ってた”妹みたいな存在だって”思ってるかも・・・」
「界星も強行突破に出てたけど、だったら俺だって結ちゃんと結婚したいなって思うくらいではあるよ?でも、これってさ、もし俺が本当に結ちゃんの事を好きだって自覚したって、”結ちゃんが俺のことを好きにならない”と何も成立しないし、何も始まらないんだよね。だからさ、まずは一緒にいて、俺のことを知ってもらって」
「それでも私は・・・!」
「思い込まされてるだけかもよ?恋愛感情が生まれないなんて」
でも、神崎さんはないと言ってた。
「それが嘘でしたって言われたら、結ちゃんどう思う?誰かが何かの為に流したただのしょうもない噂だとしたら?」
人が何を考えているのか大体わかるあの双葉さんですら、神崎さんの言う事を信じていた。
「先入観とかさ、そういうの、一回全部取っ払って見てみてよ。俺のこと」
これは絶対なのだと。
「ちょっと時間かかるかもしれないけどさ、俺と向き合ってくれる?」
それに、本当に私は神代に恋愛感情を抱た事がない。推しの弥生さんにさえ。
「もし、その間に、結ちゃんに本当に好きな人が出来たらそれはそれで良いからさ」
「・・・私に好きな人ができる迄ですよ」
「それが、界星や双葉さんじゃないと良いなぁ」
「あ!結ちゃんおかえりなさい!」
「結ちゃん誰とデート行ってきたの?!」
「目敏いねー界星」
夕方には境内に着きました。皐月さんは、時間をずらして帰るそうです。境内のあの最寄りの駅でぶらぶらしてから戻るそうです。境内に入った所で、睦月さんと神崎さんと神在月さんが縁側から声を掛けてくれました。
本日は納品もないのに神崎さんがいらしてます。この人本当は暇なんじゃ・・・
「すごい大きい荷物・・どうしたの?」
「あ、これ、ちょっと手に入って・・・お土産なんですけど・・・」
睦月さんが私の持っている大きい袋を不思議そうにみていた。その後ろから神崎さんが不機嫌そうに現れる。
「デート行ってきてお土産も買って帰ってくるなんて随分挑発的だよね」
「なんで結が界星を挑発するんだよ」
「今日はただのお出かけです!で、コレは先月頑張ってくださった双葉さんへの労いの品です!」
「へー、結ちゃは、これを俺に?」
真後ろに双葉さんが現れて、背中から手が伸びてきて袋を開けて中を除いている。
「双葉!!結ちゃんを抱きしめるようにするんじゃない!離れるんだ!悪霊・・・」
「待て待て、払うな、悪魔みたいなやつではあるがギリギリ悪魔ではない!」
陰陽師のようなポーズを取った神崎さんの手を神在月さんが握って手を下ろさせた。
「へぇー、ずいぶん可愛いの選んでくれたね?」
「可愛いの選んできたんです!癒しになると思いまして!(だって、どんなものがいいとか言われてませんから)」
「ほぅ・・・やるじゃん、結ちゃん」
「一生懸命選んだんです!これで夏の疲れも吹き飛びますね!(脅されたままの私ではありません)」
出てくる言葉と本音をはっきりと両方とも意思表示させて頂きました!
「そんな結ちゃんは・・・こうしてやる!!」
「ぎゃぁああああああ!!!!!」
双葉さんが私を、お土産のイルカの巨大人形ごと持ち上げた!あれです、俗に言う高い高いみたいなやつです!いや!190cm超えだから本当に高いんですけどぉぉおお!
「何やってんだ、あいつら」
「アッ、如月さん、なんか、あの二人が戯れ始めて、神崎さんが凄く怒り始めて・・・?」
「ほっとけほっとけ、如月も関わるだけ損するぞ」
「あぁ?・・・おい神崎、お前、鬼の形相だぞ・・・」
「如月、お前も界星の顔に驚いてひどい顔してるぞ」
「そんな事ない、如月くんの方こそ鬼だ!」




