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一年が十一カ月しかない君たちへ   作者: 杉崎 朱


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八章:葉月の君へ 二話


「・・・え。それってそんなに最近の話だったんですか?」

「最近か昔かは人によると思う。とりあえず、俺が話しを聞いた限り、ああ、そうだなって」


「ご先祖様と同じことしてるって事か?物好きだな」

「彼女は、正式な血統ではない。むしろ一切の血筋の関係がないが、家柄だけはご先祖が”お世話係”の家系に入っている。だから、今回境内に入ることを仕方なしに許したけど、まぁ正直ただの他人で部外者だよね。でも、”籍入れ”をしないと境内には入れたくないし、でも”籍入れ”をした時点で神代からは恋愛の対象から外れる」


「籍入れしたら絶対にないのか?」


「絶対に無い」



籍入れをしたら、神代側からの恋愛感情が生まれる可能性がない事を双葉さんが再度神崎さんに確認をする。つまり、情報量や確定情報としては、神部より神崎の方が正確と言うことなのだろう。


「・・・皐月くんも?」


双葉さんが聞いた。

「え?なんでここで皐月さん?皐月さんだって神代だから・・・」

「「でも、彼、結ちゃんの事好きだから」」

「そんな事揃って言わないでください!」

「まぁ彼だけは特殊みたいだからね。でも、結ちゃんを好きになるって事は、守堂さんを好きになる可能性だって0

じゃないよ。まぁ、彼の話は一旦置いておいて・・・細かいことは省くけど、彼女はここにいる男性、誰に対しても恋心を抱く可能性がある。でも、神代は彼女に恋心は抱かない。彼女がここに恋の相手を探しにきたなら、まぁ神代には好きになってもらえないってこと。だから放っておいても良いんだけど、問題は年齢が近い神代の子供。高校生の子が三人いるからね。そこに目を向けられると危険だから」


「あ、だから、休憩時間は接触が無いように客間でじっとしてろってことですか・・・」


「そう。もちろん、子供側に何か吹き込んだり、聞き出し防止も含めてね。とりあえず、守堂さんが、ここ境内に”神代”と”お世話係”という存在がいる事を知ってしまったんだ。神宮で尚且つ神代の家族だけが知るなら良いけど、もうほとんど部外者である彼女にこれ以上知られるのは良く無いからね」


「一ヶ月の間、大丈夫でしょうか・・・」

「大丈夫なんじゃないかな。警備の数も増えたことだし」

「櫻にはちょっと荷が重いなぁ。女子高生なんてもう俺たちの年からしたら未知の生き物だからな。扱い方わからないし・・・あ、結ちゃんお昼前に時間取っちゃってごめんね。ご飯の支度途中でしょ?あとは俺が個人的に界星と話したいからもう大丈夫だよ」

「あ!そうだ!冷汁が途中だった!!」

「・・・やっぱり、ご飯頂いて行こうかな」

「俺の質問に全部答えてくれたら結ちゃんのご飯をあげましょう」






冷汁を仕上げて、棒棒鶏のソースを作りながら考えた。

そっか、守堂さんは、例の養女だったお世話係の方の卑属だったのか・・・。確かに戸籍上はかなり遠い親族だけど、それなら宮守は全くもって”血の繋がり”は無いじゃないか。


私は、子供の頃から神代の話しを聞いていたから、当たり前と思っているが、守堂さんと同じく高校生の時に知ったらどう思っただろうか。子供の頃の刷り込みとは大きいものだ。

でもまぁ彼女が知ったのは”神代”と呼ばれる人がいる。というだけで、何をしているのかは知らないはず。それでも、日記を交渉材料に神部に乗り込んでしまうくらいには興味を引いたんだろうな。

彼女が例のお世話係の方の卑属だというのは神崎さんの見立てだが、なぜそれが分かったのだろうか。でも、本殿に向かって加護の光が降りているのが見えるって言うのにも驚きである。

むしろそっちの方が驚きだったりする。だって、殆ど目に見ないものだけで構成されていると思っていたのに、”見える人”がいたなんて!



ちょっと、私も神崎さんに色々と他にも何か見えるものがあるのか聞きたくなってきちゃったなぁ。でも、本来は光の件を言ってはいけない事だったかもなんて言ってて、そうやって私を巻き込んで楽しそうにしてるから、うっかり変な事は聞かないようにしないと・・・。いや、世間一般からしたら既に大体が言っちゃいけない”変な事”だ。




「結ちゃん!おかず出来た?出来てたら運ぶの手伝ってもいい?」


霜月さんのお子さんがお腹が空いたのか昼食の様子を伺いにきました。そして、あろうことか手伝うとまで言ってくださいました!ごめんなさい私が話し込んでいたり、手が遅いがために皆さんを待たせている!


「もうお腹空いちゃったよね?じゃぁ少しでも早く食べられるようにこれを運んでもらってもいいですか?」


お皿運びを頼みました。


「私もやりますー!」

「守堂さんはやらないで大丈夫です。私とこっちに来てください。まだまだ準備することが沢山ありますから」

「でも!私も早くご飯食べたいもん!」

「では先に昼食にしましょう。どうぞ、客間へお戻りください。貴方の昼食のお弁当が置いてあります」

「私もみんなと同じモノ食べたいんですけどー!」



高校生と大人のこんなやりとりが近くで行われているのに、霜月さんの小学校一年生の長男くんは一切気にせずにお皿運びをしている。


「あの、気にならない?あの二人の会話」

「うるさいと思う。でも、気にしちゃダメだって双葉の兄ちゃんが言ってた。あのね、普段は、絶対にそう言うことしちゃダメだけど、あの人に対しては『居ないものと思え』って言われたから、見えてるけど、見えてないことにしてる!」


子供にとんでもないことを吹き込む大人がいたものだ。








「ご馳走さま!美味しかったよ。ありがとう」

「それはよかったですけど・・・」


神崎さんを門まで送りにきました。実は先日のお祭りの日に言われた件でどうしても言いたいことがあったのです。


「あの、私、”お世話係辞めて欲しい”の話しを誰にも言えないし考えても答え出ないし、どうにも出来ないんですけど!」

「社長は忙しいから直接話もできないだろうからねー。でもさ、こうやって、今回みたいにわけのわからない子が来たりと、今前まで安心で安泰で安全だった境内が最近ちょっと荒れてるよね。だから俺としては心配だから、寿退社して近くにいて欲しいんだ」

「ですから、私としては、そんな状態で他の方にお世話係を押し付けられないわけです!落ち着くまで私が!お世話係をちゃんとやります!」

「強情だなぁ、可愛いところの一つでもあるんだけど」

「その手には乗りません!」

「本気なのにね」


神崎さんは、夏の暑さが吹き飛ぶかのような爽やかな笑顔をした。爽やかで、あまりにも綺麗で、かつ憂いを帯びた表情だった事に驚いてしまった。驚き過ぎて、うるさいほどの蝉の鳴き声も一瞬聞こえなくなった程だった。


「・・・私の事で、・・・そんなに心配な事でもあるんですか?」

「だから、境内が荒れてるから心配だってこの間から」

「うまく言えないんですけど、外部からの侵入者が来ただけでそんな顔をするとはちょっと思ないです。この前のことの他にもまだ言えない事があるんですか?」


「・・・いや、言えないことが幾つもある訳じゃない。結ちゃんが好きで心配なだけ。だからこそ、君をここに置いておくことが不安かな。俺がこれを言っちゃ絶対にいけないんだけど、”好きじゃなかったらここまで心配しない”」

「例えばですが、今境内にいるお世話係が私ではなくて、茉里ちゃんだったり、茉里ちゃんの前のお世話係の方だったら同じ事」

「言わないよ。結ちゃんだから言うんだ。さて、そろそろ帰らないと、今日忙しいのに弟に任せっきりで来ちゃったから怒られちゃう。またね。あ、たまには結ちゃんから連絡くれてもいいんだよ?」

「そうやって誤魔化す・・・」

「そうやって、ちょっとむくれて、あとは笑っててくれると嬉しいなぁ」


神崎さんは嬉しそうに言って、私の頭を撫で回し始めた。


「ちょっ!そういうことっ・・!」



「あーっ!ああーっ!あーっあーあーっ!宮守さんと29歳のお兄さんが超イチャイチャし」

「黙れ小娘!教育上良く無い言葉を使うな!櫻も目を離すな!!」

「もう無理だよ・・・」









八月三日


「長月おじちゃん見てみてー!オレ!読書感想文書いた!オレ今まで夏休みの間に本読み切ったことなかった!すごくね?!」

「優秀じゃないか!まだ八月始まったばっかだぞ!なんだ今まではサボってただけだなぁ?ちゃんと出来るじゃないか、どれどれ見せてみ?」



今日は何回目かの読書感想文の宿題を進める日である。プログラムの時間だけで読み隠しているならおそらくこの時期には終わらないと思う。と言うことは、葉月さんの次男くんは家でも本を読んで書いていると言う事。凄い、自主的に宿題をするなんて!




台所から盗み聞きをして、お子さんの成長に感動しながら昼食を作っております。



私もお子さん達の夏休みの宿題である、読書感想文で最近思い出しました。

今年の二月に長月さんから小説を借りておりました。少しずつは読んでましたが最近は読むのが止まってしまってました。残りも後少しでとてもいいところだから読まないと!そう思ってやっと読み終わった先日。


今日は、本を返そうと居間に置いてあります。

「あ、これ結ちゃんも読んだんだね」

「もしかして、弥生さんも読まれました?長月さんからお借りしたんです!」

「うん、読んだよ。今回は意外な作風だったなあ」

「私、この方の初めて読んだんですけど、すごい感動しちゃって!長月さんもこういうの読まれるんですね。意外でした!本屋で新刊発売で店頭に沢山並んでたから気になってたんです!買おうとしたら長月さんが持ってるから貸してくれるって言ってくれて・・・どうしたんですか?」


なんか弥生さんが妙な顔をしている。あれ?こんな感じの顔を最近他の誰かにもされた気がする。いつだっけ、最近だけど・・・あ


「結ちゃん、もしかして・・・知らない?」


「まさか・・・」


「その本の作者・・・」

本の帯を見る。【(あき) 睡蓮スイレン)】と書いてある!受賞作多数!人気ドラマの脚本家!聞いた事あるけど全く詳細は知らない人。でもこの流れなら多分ーーー



「長月だよ」

「ですよねぇーー!!!」



そっか。だからお子さんの読書感想文という文字書きに関して”見てあげる”って言ったんですね。だから葉月さんも”お金かかりそう”って言ったんですね。


待って待って、人気ドラマの脚本家で、本屋でも店頭のかなり広いスペースにズラリと本が置かれていた!有名作家さんと言う事じゃないか!そうか、一緒に本屋に行った時は、売り出しスペースを確認しに行ったのだな?!

そういえば他にも確定申告してるとか言ってましたね。神部以外の収入があるからと。それは執筆した本の売上金という事だったのですね。謎が解けました。



「まさか、身近に作家さんがいるなんて思いもしませんでした・・・」

「こういうことって、境内入る前に聞かないの?」

「聞かないです・・・神代に関係あるといえば関係ありますが、無いといえば無いので、ただの個人情報ですからね。お世話係だからと個人情報を会社から聞くことはありませんので」

「そっか、じゃぁ、俺たちがどこの出身で、どこの学校通ってたとか履歴書みたいなものは・・・」

「一般的な履歴書みたいなことは知らないです。神代に関する事はデータでいただきます。そうですね・・・何年に境内に入ったとか、怪我の履歴とか、近い親族に神代がいたかいないかとかですね」

「へぇ・・・それはそれですごいね」



近くに置いてある本を改めて見た。すごい、まさかこの物語を書いた方が長月さんだったなんて。



言われてみれば髪の毛も少し長くて小説家っぽく見えてきました。なんでしょう、男性の物書きの方って髪の毛が長いイメージがあるのは私だけでしょうか。それは子供の頃に読んだ漫画の見過ぎでしょうか。物書きの方に限らず、芸術方面に進んでいる方はそういうイメージがあります。建築家の双葉さんも少しだけですが、襟足が長めですし。すごく偏見ですけど。



「・・・実は、弥生さんも何かされてたりとかあるんですか?別のお顔をお持ちだったり」

「残念ながら俺は何にもないんだよなぁ」

クスクスと楽しそうに笑ってます。推しが笑っていて私は本日も幸せです。







「長月さん、貸して頂きましてありがとうございます。聞きました。長月さんの本だったんですね」

「あちゃー!聞いちゃった?内緒にしてて純粋な感想聞きたかったんだけどなぁ」

「あ!それならご安心を!言う事は決まってましたから!」


読書感想文の時間も終わり、現在お子さんは休憩に入っております。

そのタイミングで私は長月さんに本をお返ししました。



「なんか、女性が書いてるのかな?ってくらいに女性側の気持ちの揺れ動きとか、考えてることとか、心配する事も本当に良くわかります!すごいなって思っちゃいました!長月さんは女心が手に取るようにわかるんですね!すごいです!」

「・・・まぁ、その辺の女性ならね・・・」

「あっ」


そうだ。なんか最近忙しくて忘れてたけど、長月さんは神部のお屋敷のメイドさんに絶賛一目惚れ中でした。


「ちょっと、あの元気なアルバイトちゃんのお陰で双葉が全然時間と精神に余裕が無くて、メイドちゃんとの取り継ぎをしてくれないんだよ・・・俺、来月本殿に入っちゃうからさ・・・。だって入って出てきたらもう10月だよ?この歳になってタダでさえ時間が過ぎるのが早くなったって言うのに・・・」

「すみません、私から掛けられるお言葉がまるで見つかりません・・・」

「正直だねぇ」


「双葉さんに、それとなく聞いてみましょうよ?だって今月逃したら、双葉さんが九月までいる保証ないですから・・・」

「・・・。そうだよ・・・そうだよ!今やらなくちゃ!双葉が十月も境内にいるとは限らない・・・!」

「そうですよ!双葉さんちょっとお忙しそうですけど、頑張ってもらいましょう!」








夕飯の支度の時間には、本日は守堂さんはもう退勤されました。

居間の隣の和室で、双葉さんと櫻さんが畳に転がっております。


「お前・・あのじゃじゃ馬をちゃんと一人で抑えつけておけよ・・・」


夏の夕方、とても綺麗な赤い夕焼けが母家に差し込んでいます。たまに吹く風に風鈴が鳴り、とても綺麗な高い音が響く。アブラゼミではなく、ヒグラシの鳴き声が聞こえる。そんな情緒あふれる空間で、大の大人が二人転がって言い合いをしております。


「女の子相手じゃ流石に戸惑うよ」

「櫻が抑えなきゃここに来た意味ないだろうが!」

「そもそも抑え込んでたらココに入れさせないって・・・」

「・・・それもそうだな」

「・・・そうでしょ」



会話の勢いがなくなり、言葉尻も窄んできた頃。このまま寝てしまうのではないかと思うような雰囲気でした。

が、




「双葉。大事な話が」

「もう今日は営業終了です」

「大事と言っている。今回ばかりは引かないからな」

「長月しつこいよ、メイドの件でしょ?」

「しつこく行くに決まっている。頼む、双葉の携帯を借りるだけでいいんだ。文章は俺が考えるから。文章しか考えられないから」

「はい、どうぞ」


寝っ転がりながら、双葉さんは自分の携帯電話を長月さんに差し出した。


「え?え?・・・いいの?!本当に俺打っちゃうよ?!」

「貸すだけでいいんだろ?好きにすれば良い」

「結ちゃん!結ちゃん!やったよ!俺チャンス掴んだ・・・!」


長月さんが喜びながら双葉さんの電話を持って私のところへと来た。


「良かったですね!これで一歩前進ですよ!」

「いやぁ、良かった!あとはココ最近ずっと考えてた文言を打って・・・」

「そういえば、なんて方なんですか?」

「・・・知らない。ねぇ双葉!」

「携帯貸すだけで良いんだろ?疲れたからあとは自分で探して。メイドが誰かは電話帳開いて見当つけて」

「クソガキっ・・・!!」


一人だけ話しがわからなかった顔をしていた櫻さんが、少し考えてから会話に入ってきました。

「・・・何?サチエの事?」

「櫻!!それ以上喋るな!!」



なんと、櫻さんが、メイドさんの名前を口にされました!でも、そのメイドさんの名前かは・・・

「櫻!そのメイドさんは丸メガネでチャーミングな顔の、態度は機械的な感じで、教えたくない事は絶対に口を開かない感じの人かな?!」

「櫻!喋るな!!」

「長月のそれは褒めてるの?」

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