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一年が十一カ月しかない君たちへ   作者: 杉崎 朱


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47/87

七章:文月の君へ 三話

※更新時間と頻度の変更を行ってます※※明日からは20:10の更新です。


「【意外】ーーー思いがけないこと、前もって考えていた様と違うこと。予想外」



「・・・結ちゃん、どうしたの?」








七月七日ー七夕


現在は夜でございます。

夜に、境内の皆さんで集まって七夕を楽しんでおります。

本日は晴れ。日中もとても暑く、あれだけ洗濯物が干せないと嘆いた私ですが、後ちょっとだけ梅雨よ、週に何日間か帰ってきてください!と思うほど暑かったです。


夜は湿気がまだありますが、気温も下がりとても過ごしやすい気候です。

そんな中、素麺を皆さんで食べております。

母家の部屋の明かりや屋外用のライトで庭を照らしてます。流し素麺も行い、お子様たちははしゃぎながら食べております。


文月さんのご家族も皆さんでご参加頂いております。一番上と二番目の男の子はもう大きいこともあり、小さなお子様の面倒を見ながら一緒に流しそうめんを楽しんでおります。葉月さんと霜月さんのお子さんがとても元気なので、薄暗い境内のお庭も非常に賑やかです。それを見ている文月さんの奥さんも楽しそう。きっと、皆さんといた方が気が紛れますよね。


皆さんが楽しんでいる最中、私の怪訝そうな顔と発言を水無月さんに見られて声を掛けられました。


「あ、あの、さっき食事前に双葉さんから発表して頂いたお子さんたちの夏休みの毎日企画の件なんですけど・・・」

「あ・・・あれ、本当にすごい。誰が作ったの?」

「私も誰かはわからないんです!でもすごいですよね!?企画力とか色々!」

「・・・うん、多分、俺には絶対作れない。凄い人が作ったんだね・・・」

「そうんなんです!でも、昨日その資料受け取った時には《みんな大好き!お世話係の”結ちゃん一日体験”!》の文字を見て、これ、いらないでしょ?!って思ったんですけど・・・」

「・・・あぁ、みんなが一番喜んで、楽しそうにしてた・・・」

「そうなんです!なんで楽しそうにしているのかわからなくて!」

「あ・・・だから”意外”だったんだね」

「思わず”意外”の意味を調べちゃいましたよ」



そうなんです。《「みんな大好き!お世話係の”結ちゃん一日体験”!》なんて、それこそお子様だけに限らず神代や双葉さんにも嘲笑われるのではとヒヤヒヤしたものです。

それが意外にも・・・



「え!?結ちゃんを体験出来るって、ケーキ作れるってコト?!」

「あの大きい台所に入っていいの?」

「オレ、デッカい鍋でカレー作りたい!全員分のカレーの人参の皮をオレ一人だけでむく!!」

「ねー!ママも一緒に参加しようよ!」



反応が一番良かったのです。



「・・・タイトルに偽り無し」

「いや、なんか凄く恥ずかしいんですけど・・・」



「戻った」

「あ!お帰りなさいませ!」

「如月・・・お帰り」


本日は、お見合いした女性との3回目の顔合わせだった如月さんがお戻りになりました。

本日もスーツですが、既にネクタイは外れております。

かなり疲れた顔でお帰りになられました。そんな如月さんを見つけて双葉さんが近寄ってきました。


「どうだったよ、如月好きの物好きな女の子は?」

「変わらねぇよ、本当にあと一、二回で断られるのかよ」

「桔梗の見立てはほとんど当たるからねぇ」

「・・・ほとんど?」

「まぁまぁ!大丈夫でしょ。今月あと一回会うんでしょ?その時には何か変わり始めるといいよね。でも、もう結婚しちゃうのも手だよ。一緒になってから愛情が生まれる事だってあるんだからさ」

「結、酒」

「はい、ただいま」

「如月くん、急に僕は消えたりしてないよ?目の前にいるよ?会話も途中だったよ?無視しないで?」

おちゃらけている双葉さんを度外視して、如月さんはお酒を飲むモードに入ったようです。


「水無月の方はどうなんだよ」

如月さんが、縁側にどかっと座り、水無月さんに話しかけた。私はそれを横目で捉えながらも、お酒の準備をしに台所へ向かう。

「んっ・・・!えっと・・・。最近は・・・メッセージのやり取りを割と・・・」

「そうか、上手く行ってんだな」

「う!上手くっか・・・どうかはっ・・!」



お酒と少しのおつまみをお盆に乗せて戻ると、如月さんが質問していたはずが、今度は双葉さんが楽しそうに水無月さんに質問をしている。

「へー、チョコレートが好きな子なの?で、プレゼントしたの?」

「い、や・・・会う予定が、なくなっちゃって。そのまま本殿に入っちゃったから・・・」

「じゃぁまたこれから買うんだ。楽しみだねー」

「楽しいっていうか・・・緊張・・する」

「そっかーでも、もうメッセージのやり取りはできるんだから、次は電話とか良いんじゃない?電話で慣れておけば次会う時楽じゃない?」


「電話の方が相手の顔と表情が見えなくて難しいって聞くが?」

「やってみないとわからないじゃん!ていうか、如月も案外そういうこと気にするんだね」

「相手の顔や反応を見ないで話すのはどうもしっくりこない。まだ直接の方がいい」

「本当男前ー」

「関係ねぇだろ」

言いながら、持ってきたお酒を受け取り、一気に煽るように飲み出しました。

「あ!如月さん!ちょっとそんな一気に・・・!」

「今日くらい許せ」








七月十日


「今週は境内のお盆、来週にはお子さんたちが終業式で学校がお休みになり始める、あとはいつも通り神代金の仕分けと事務作業、週末に近隣の地域で行う大きなお祭りがあるからその日はみんなで出かけるから夕飯がいらない・・・」

大きな行事や節句ではないのですが、一応、今月の行事の確認です。それを確認しながら、8月に行う夏休みプロジェクトの準備も並行していきます。居間で一人、予定表を見ながらアイスを食べております。今日のアイスはソフトクリームの上だけが入ったカップアイスです。上にはチョコフレークやナッツがかかっております。うん。美味しい。

『まず、8月第一週の行う行事の参加者を7月の三週の時点で出欠確認をする』

なるほど。ふむふむ。書いてあることを私のやることに組み込まなければ。



「あ、結ちゃんは今週末のお祭りはみんなと同じのじゃなくて、あの有名な花火大会の方ね」

「・・・双葉さん、音もなく背後に・・・え?なんでですか?」

「ほら、界星とのお祭りデートの件だって!」

「え?あれって本当だったんですか?」

「もちのろんだって」

「なんて事を・・・」

「夜の9時境内着でのデートだから、一緒に居たって8時半くらいまででしょ。すぐ時間経つって」

「本当に他人事ですね。そういえば双葉さんもお祭り行くんですか?」

「行かないよ。いくら防犯カメラやある程度周りに私服の警備が居たって、境内ガラ空きじゃまずいでしょ」


確かに。でも桔梗さんも私を送りに車で境内を出たりしているが、そうか、やはり他の神代も含めてみんなで出かけてしまうのは短時間でも良くないか。

「でも折角だし夏の間に海とかは行きたいかなー。櫻でも呼びつけて代わりにここに居てもらおうかな」

「一人で行くんですか?」

「何言ってんの。行くなら結ちゃんも一緒だって」

「だからどうして」



双葉さんのペースに飲まれている私ですが、流石にこのまま引き下がりません!

「じゃぁ!出掛けないでも境内(ここ)で夏を満喫しましょうよ!バーベキューとか良いんじゃないですか?!」

「それは既に夏休みプロジェクトに入ってるでしょ」

「あ、そうでした」


そのまま双葉さんが向かいに座りました。

私も特に本人に効きもせずにとりあえずお茶を出しました。もう蒸し暑いので麦茶です。

「あ、ありがとー」

「はい」



その後は特に会話もなく、お互い向き合ったまま黙々とそれぞれが作業をしております。・・・私は仕事の一環ですが、双葉さんはずっと携帯電話でメッセージのやり取りをしているのか、何か文章を打つ指の動きをしては、一旦止まる。携帯電話がまた短く揺れれば触って、画面を見て指が動く。をもう何回も繰り返しております。電話の方が早いのでは?



「ねぇ、結ちゃん」

「はい?」


「新しいお世話係要る?」










こんなに話が早く進むことあるだろうか。

双葉さんに「新しいお世話係要る?」と聞かれたのは今日のお昼前。そして現在は夕方の16時である。

ただいま客間に、私と双葉さんと、制服を着た女子高校生が居ます。



「じゃぁ、簡単に説明するね!」

「ダメです。しっかり話してください」

女子高生がいる手前、20歳近くも上であることに恐怖心を持たれないように、明るく爽やかに振る舞おうと思ったのか双葉さんが元気に話し出しました。が、簡単にされてたまるものですか。


「結ちゃん、女子高生の前でそんなにピリピリしたらダメだよ!怖がっちゃうでしょ?ね?」

「い・・・いえ、大丈夫です・・・」

喋り方こそ一瞬水無月さんかと思うくらい、間が開きましたが、目はしっかりと私を見据えています。力強い目です。でもかなり力んでいるのが見てすぐにわかる。



守堂(しゅどう) (たまき)ちゃん、今年17歳の高校二年生!夏休みの間、境内(ここ)でアルバイトをしてもらうかもしれません!セブンティーンだよ結ちゃん・・・尊い響きだよね」

いかにも『大人の男性です』的な妖艶な雰囲気を醸し出しながら言っていますが、それはもう無視しましょう。今、名前を聞いた私の目の前に座る少女、《守堂(しゅどう) (たまき)》さん。苗字である《守堂》は聞いたことがない。お世話係は女系だ。私や茉里ちゃんのお母さん達もお世話係だった。つまり、私のおばあちゃんや曾祖お祖母さんもである。だけれども、嫁ぎ先で苗字が変わったとて《守堂》は聞いた事がない。

もしかしたら思ってるよりも遠縁の可能性が


「・・・そう、環ちゃんは、大昔のお世話係りだった女性が、神部の男性と結婚して生まれた『長男』の方の家系。だから、結ちゃんとはかなり遠縁だし、正直お世話掛かりの正式な後継にはなれないよね。だから、一応籍入れはもちろんしてもらうけど、お世話係りのお手伝いさんってところかな?」


私が聞きたい事を、質問する前に双葉さんが答えてくれます。なんか、彼女の前で、根掘り葉掘り聞くのもちょっと気が引けたので、双葉さんの察しの良さに感謝です。しかし彼女が何者かわかった所で、それでいてもココ、境内で神代のお世話をするには、本殿での儀式を知らなければならない。


もしや、お世話係でもないのに、ご先祖がそうだったからと誰かが話したのだろうか?それならあまりにも迂闊すぎるのでは?


「環ちゃんは、結ちゃんと俺の、遠ーーーーーい親戚って訳だよ!」


双葉さんのこの言い回し。遠回しに『彼女は結ちゃんの親戚でもあるからね!敵視しないでね!敵意を持たないで!』と言いたいのだろう。


後は、全く知らないケースもあり得る。

同じ境内に居たって、離れに住んでいる奥様はお子さんは確かに本殿での儀式の内容を知らない。”儀式”という名前だけで、さして”何も起こっていない、時間も経っていない”という不思議現象の詳細を知らない。

つまり、母家でその話しを出さなければ良いだけだし、今更誰かがあえて口に出さなければその話題が出ることがないのも確かだ。でも、それって、ちょっと皆さんのストレスになりませんか?


「まぁ、環ちゃんが境内に来る経緯は後で話すね?とりあえず、環ちゃんにやってもらう事は、『夏休みプロジェクト』のサポートです!あと、アルバイトって言ってもそんな遅くまでは大変だからね。そこはやっぱり8時間が上限の残業はナシ!家も電車で15分位だから、泊まり込み無しで通えるし!ね?いいでしょ?」


「いいでしょも何も、決まった事なんですよね?神部が了承した事を私が否定する事も理由も無いですよ」

「そんな事ないよ!ちゃんと、お世話係の主人である結ちゃんに伺いを立てるようにって話しになってるんだから!でも、OKって事で良いかな?」


最初は神代の儀式の件がどこかしらで漏れたのかとか色々心配をして、目の前の彼女の事を疑ってかかってしまった。ちょっとピリッとしてしまったし、怖がらせてしまったかも・・・。ですが、言いたい。

これは慎重になるが故ですよ!別に守堂さんが境内にきて、『私だけのポジションだったのにー?』みたいな事じゃないですから。ハーレム独り占めできなくてムカつく!とかじゃないですから。私と神代は基本恋愛感情持ちませんから。



ん?あれ?でも、アルバイトとはいえ、お世話係として籍入れをするんだよね?そしたらこの子、過去の文献から読み取ったあの”昔話”を基に考えると、お世話係りの血筋から外れてるから、本来は神代との恋愛が出来ても良いはずなのに、籍入れしたら出来なくなっちゃわない?

でもちょっと待とうか私。彼女は17歳。神代で恋愛対象になるとて私と同い年の24歳の睦月さんくらいではないだろうか・・・。まぁ、もしかしたら27歳の皐月さんなら10歳差であり得るかも。

え?いいのかな。籍入れしたらそれも無くなっちゃうのでは・・・?あれ?昔話の再来ですか?コレ?



「・・・結ちゃんが良ければ、このまま話を進めるけど?」


私がそう考えているこの間、双葉さんは私の方を見ていたのに答えなかった。この思考は読み取ってくれないのか、ここでは言えない事なのか。でもちょっと待って、そもそもこの人エスパーじゃないんだよね。わからないことがあっても当たり前だ。そう、この人は、ただの人間。ちょっと察しが良すぎるだけの人。


「はい、改めまして、よろしくお願いします。境内のお世話係をしております、宮守 結と言います」

「守堂 環です!!よろしくお願いいたします!!」


「はい!じゃぁ今日は簡単だけどここまで!環ちゃんへの詳しい話は、また櫻から連絡が有ります!あとちょっとしたら夏休みだから、楽しみだね!よろしくね!」

「はい!よろしくお願いします!」

「結ちゃんには、この後俺が一旦説明をします!多分、後で八重か桔梗から連絡も来るだろうけど」

「はい、わかりました」

「あと、俺エスパーじゃないから安心してね」

「そこまでわかるなら最早エスパーですよ!」

「??」





守堂さんを見送り、姿が見えなくなったところで、さぁ私のターンですよ。


「で?」

「え?やだ、凄い怖い顔してますけど?」

「しますでしょ!色々考えたのに汲み取って下さってるのか下さってないんだかで!そもそも彼女は神代のこととか、儀式の存在とか、儀式の内容とか、なんかどこまで知っててどこからが知らないのか、そもそもなんでこんなことになったのか・・・!」

「はいはい、ちょっと待って」


双葉さんが携帯電話を操作してから言った。

「はい、では読み上げます。



1、氏名は『守堂 環』。17歳。高校二年生。現役世話係の宮守 結から十数世代上のお世話係の長男の卑属。

2、自宅は境内最寄り駅から五つ先の駅。よって、自宅から通う事を条件。境内での寝泊まり厳禁。

3、勤務時間は一日上限が8時間。残業なし。他、遅くても19時には退勤させる事。

4、退勤時間を考慮して休憩や出勤時間を組む事。一週間の出勤日数は5日を上限とする。

5、土日祝日は基本休み。ただし、彼女が休日出勤を希望した際は、代わりに平日に休みを組み込む事。

6、休日出勤時は、時給50円UP。(ただしこの計算は本社秘書室が行う)

7、本殿及び廊下には一切近づかせないこと、掃除もさせない。儀式の話題も一切口にしない。

8、籍入れは行う為、神代との恋愛は不可になる。(多分)


以上!」


多分ってなんですか。


「随分な詳細データをありがとうございますですけど、何一つ私の質問にお答え頂いておりませんが?」

「ほら!それはさ!二回言うの面倒だから、明日みんなが揃った時にね!」



ムカつく。



「ムカつくって思わないの」

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