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一年が十一カ月しかない君たちへ   作者: 杉崎 朱


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六章:水無月の君へ 五話

※更新時間と頻度の変更を致します※


声を上げた私に、八重さんも少し驚いた表情をした。


「あら、あまりの身長の高さにびっくりした?でも、皐月よりちょっと大きいくらいよ?」

八重さんが今日も朝から綺麗な顔で微笑みながら言った。

いえ、違います。身長の高さに驚いたのではありません。


目の前の男性がまさかの人物だったので驚いたのです。

ウソでしょ!嘘と誰か言って!だって、この人・・・・・






この間の合コンにいた人!!!!!





画家って言ってた人!全然名前とか聞いてなかった!

どうする、初めましてのはずなのに、この間は・・・みたいな話になったらまずい!なんたって私のすぐ後ろには皐月さんもいる!いない間に合コンに行ったと知られたくない!何故か!好きにならないと言っても、これは人としてちょっと気まずいでしょ!わー!わー!



「あれ?アナタ達初めて?」

八重さんが、皐月さんと、【双葉(ふたば)】さんの顔を見て言った。神代と神部の方は、会ったら「久しぶり」と言う場面を見てきた。それなのに、双方言葉がない事で八重さんも不思議に思い、気付いたのだろう。



「初めまして、神部 双葉と申します。来月からしばらくはこちらでお世話になりますので、どうぞよろしくお願いします」

爽やかだが、隠せない何か黒いものを私は感じた。この人・・・喰えない男ですよきっと。そうですか、神部の方がしれっと合コンに参加していたのですね。そして、私の事を見ても驚かない。もしかして、合コンの時点でもう私が境内(ここ)のお世話係だとわかっていたのか?!これが、弥生さんや神在月さんが言っていた『鋭い・目敏い・鼻が利く・油断ならない』という意味なのだろうか・・・!もしくは全く覚えていないかのどちらかだ。



「初めまして、神宮 皐月と申します。よろしくお願いします」



普段の態度を見ているこちらからすると、全然よろしくしてない態度で皐月さんが言いました。








「まだみんなご飯食べてる?」

「あっ、今食べ終わって、これから工房に行くところです!」

「じゃあ挨拶してくるわね〜!双葉、そこ右の部屋が客間なの、先に入ってて〜」

「はーいー」



そうして、八重さんは居間へと行かれました。

待ってください。この場に、私と皐月さんと神部双葉さんを置いて行かないでください。




「どうぞ、来月からよろしくお願い致します」

含みのある顔で目の前の神部双葉さんが私に言った。皐月さんが後ろにいる状況で、初めましてとも、二度目ましてとも取れる言い方をしてきました。よし、それなら初めましての体で行きましょう。


「お世話係の、宮守 結です。こちらこそ、よろしくお願い致します」

「話しは良く八重から聞いてるよ。料理の上手な可愛い子だって。俺の分のご飯もお願いしてもいいのかな?」

「え?あ、はい。もちろんです」

「俺、卵焼きが好きなんだ。塩っぱい方の。楽しみにしてるね」

笑顔、とは少し違う、ニンマリと笑った。この人・・・合コンの時に言った『卵焼き』の話を出してきた!わかってる、私があの時に居たって分かって言ってる!

「お口に合えばいいですが、頑張って作りますね!では、こちらへどうぞ」

さっさと客間にご案内して皐月さんと引き離してしまわないと!今余計な事を言われては非常に困るのです!

「じゃぁ、お邪魔します」



靴を脱ぎ、上がりかまちに足をかけて母家に入った彼は、皐月さんとは7センチの差だと言ってもやはり大きく見える。

「あ、俺と身長同じくらいなんだね。人の顔をこの距離で見る事少ないから結構新鮮!宜しくね」

「はい、宜しくお願いします」

「そんなに固くならないで、俺は神部で働いてるわけじゃないから。上下関係も年齢差も気にしない性格だし」

言いながら、客間へ入られました。



私も色々、色々色々話しがあるので、八重さんが戻ってくる前に少し神部双葉さんと話さなくては!

そう思い続けて客間に入ろうとしたら、何故か後ろから手が伸びてきて本当に本当に目の前で客間の扉を閉められました。

鼻にぶつかりそうな程扉が近く、後ろには人の気配・・・そう、体制的には後ろ向きの壁ドンみたいになってるじゃありませんか!


「ちょっ!皐月さん・・・!」

振り返ると物凄い近い距離に皐月さんがいました!ちょっと威圧感!!

「ねぇ、結ちゃん、今の人と初めて会うの?」

「多分初めてです、あーもしかしたら本社に言った時とかなんかの時に見かけたりしたこととかすれ違うことはあったかもしれませんが、まぁ神部の人と知らなければ記憶にも残りませんし?記憶にはないですね!でも、知らぬ間にってことはあるかもしれませんよね!みんな東京都で暮らしているんでしたらそれくらいの可能性はありますよね!」

ちょっと気まずくて焦って早口で捲し立てるように言ってしまった。誤魔化すのって大変で怖くてなんかやだ!!



「ふーん、そう」

「どうしたんですか?皐月さんらしくないテンションですね。新しい方がいらしたら楽しそうにしそうなのに。あとちょっと近いです」

「知ってる人ならね。名前くらいは聞いた事あったかもしれないけど、接点が本当にないから覚えてもない。あと、他の神部の人とちょっと違う感じ。そんなに近くないし」

「神部で働いてないからですか?いや、十分近いです」

「わからないけど。じゃ、最近境内に神代以外の良く男が出入りするようになったからってそっちばっかり気に掛けないでよね。結ちゃんは、”俺たちの”お世話係なんだから!あとこれからの卵焼きは全部甘くていいから!」

そう言って、皐月さんは玄関から工房へ向かいました。

感情操作されてるって大変だなぁ。今の言動はきっとお気に入りのおもちゃを取られた感じのヤキモチなのかもしれない。



ッハ!そんなこと考えている場合じゃない!今がチャンス!

すぐさま神部双葉さんに話しをしなければと扉を開けたらなんと目の前にいた。



「神代とお世話係の間には恋愛感情が生まれないって聞いてたんだけどなー、変わったりしたのかな。それか誰かが勝手に流した噂だったとか」



今の会話で大方を悟られた模様です。



「いえ、特に今の方、皐月さんとは恋愛感情を互いに持っておりません。あと、噂ではないです。」

「でも、彼は持ちそうな感じだったけどね」

「それより!神部 双葉さん!」

「神部はいっぱいだから、”双葉”で呼んで?」

「え?!あ、はい?双葉さん!」

「俺も、宮守さんの事は”結ちゃん”って呼ぶからさ」

「その辺はお好きに。で!先月の件なんですけど!」

「合コンの事黙ってて欲しいんでしょ?こういう時は交換条件だよ」

「じょ、条件とは・・・」

「まずは、初日には塩っぱい卵焼きを作って貰おうかな」


『まずは』といった。これ、しばらく脅されるパターンかもしれません。








「はい!っというわけで、彼が【神部 双葉】です!私と同い年で、独身。住んでるところも私と同じ屋敷。男兄弟が一人居ます。双葉は料理がほとんどできません。よって、結ちゃんのお仕事の助けにはなりませんので、力仕事を全部やってもらってください!細いけど弱くないから大丈夫よ。一応合気道やってたから。あと、神部で働いてはいないけど、お抱えの『一級建築士』です」


居間から戻ってきた八重さんを迎えて、改めて彼の事を紹介してくださいました。

「へぇ、一級建築士ですか!すごいですね!」

なんで画家なんて嘘を合コンで言ったのでしょうかね。一級建築士だなんて言えば女性が喜んでアタックしたでしょうに。



「建築士に見えない?何に見える?絵とか上手そうに見えるかな?」



・・・完全に私で遊んでるっ!!



「そして改めて、彼女が【宮守 結】ちゃん。今年、お世話係2年目の24歳」

「あ!ちなみに八重が濁したからいうけど俺今年36歳ね!結ちゃんとは一回り違うんだ!」

「口挟むんじゃないし余計な事言わなくて良いのよ。本当に皐月みたいなんだから」


「へぇー、さっきの彼。そういう感じなんだね」

含みのある言い方をした。

「初めましての人には流石に軽く接したりはしないでしょ。一応ね。あと、相手は女の子じゃなくて男だし」

「ねぇ、俺と仲良くなれるかなー」

「・・・考えた事なかったわ。そうね、仲良くなれないケースもあるかもしれないわね。警備の事優先だったけど、神代との相性までは及ばなかったわね。桔梗も櫻も、あとはまぁここには来ないでしょうけど社長だって、みんな神代と会った事あるからわかっててOK出したんだし・・・。えー、ちょっと問題起こさないで頂戴よ?ただでさえ問題が起こらないように警備としてあんたを配置したのに神代と相性が悪いとか言うの辞めて頂戴ね。しかもあんた十歳近く歳が上なんだから」

「おじさんは喧嘩する体力なんか残っちゃいないって」

「警備の体力は残しておきなさいよ」


今まで会った神部の人はほとんどが神代と知り合いだった。桔梗さんなんか、一緒にお酒を飲もうと誘われてるくらいである。しかし、ここにきて初めてお会いする神部の方となると、畏まってしまうのだろうか。普段、一番明るく喋っているのが皐月さんである。これからは一緒にご飯も食べる事だし、どうだろう。食卓の雰囲気が悪くならなければいいな。







「じゃぁ、俺の荷物は桔梗の家に置いて行くから、来月から宜しくね」


そう言って、八重さん双葉さんのお帰りを駐車場まで見送りに来ました。

とりあえず、合コンの話も本当に出さないでくれたので良かったです。あ、そうだ。桔梗さんには後で言っちゃうもんね!双葉さんが合コンに来て楽しそうにしてましたって!

・・・そうか、そう考えれば、双葉さんが合コンの際に、ワイングラスの持ち方がこなれていたりだとか所作がそれなりだったのは、年齢もあるけど神部の方だったからか。それならば納得である。


「あら、納品と被っちゃったわね」


車に乗り込む前に、工房の材料の納品車が来た。あ・・・つまり、神崎さんである。


「こんにちは!おや?今日は神部の女王(クイーン)もいるなんてついてるなぁ」

「お前の目は女の人しか映らないのかい?」

「双葉もいたのか、久しぶりだね。二ヶ月くらい会ってなかったね」

車の窓から神崎さんが話し掛けてきました。あれ?神崎さん・・・


「今日もスーツなんですね!」

現金にも喜んでしまいました。

「早朝にちょっと用事があってね。まぁ、着替える時間はあったけどそのまま来たのは、結ちゃんが喜んでくれるかなって思って」

車から降りて爽やか全開こちらに来ました。いけない、素敵なのはスーツであって、中身の神崎さんには注意しないといけないですね。



「・・・もしかして、二人って・・・?」

「付き合ってません!!」

「”まだ”ね」

「神崎さんなんて事言うんですか!」

「だって未来はまだ誰にもわからないでしょ?」

首を傾げて中腰で覗き込まれました。わざと双葉さんに勘違いをさせるような態度をとる!この人もこの人で私のことからかって楽しんでるな!もう!


「八重、良いの?」

「良いも何も問題は何もないもの。本人たちの気持ち次第よ。こちらが結ちゃんを渡したくないって嫌がったって妨害する理由も権利もないのよ」

「お前の、気に入った女の子を誰にも渡したくない欲も凄いね。メイドしかり」

「欲は大きいのに、行動に移さずに事の運びを見守っているこの精神の強さを評価して欲しいわ」

そんな会話がなんとなく聞こえておりますが、私は神崎さんに質問攻めです。


「もしかして、副社長の次は双葉がここに住むの?副社長なら安心だったのに、双葉だったら結ちゃんに何かあったら困るなぁ。双葉は神代じゃないからね。結ちゃんは双葉みたいな人は好み?歳が離れてるにしたって、一回りくらいでしょ?最近それくらい歳が離れてて結婚する人多いけど知ってる?アイドル同士で13歳差で結婚した人この間いたよね。って言うか、結ちゃんさっき俺のスーツにときめいてくれたけど、双葉のスーツはどう?ほら、身長は俺より高いからさ、悔しいけどスーツは映えるでしょ?」


止まらない止まらない、どれだけ畳み掛けるんだこの人!

しかし、それでも嫌な気持ちにならないのは、この人の持って生まれた才能なのか、喋り方なのか声なのか、煩わしいのに不快感がないのもまた疑問です。



「スーツ好きなの?」



双葉さんがキョトンとした顔で私の方を見た。しかし、その質問への回答は八重さんがした。


「そうなの!結ちゃんもスーツが好きなのよ!そうよ!紹介し忘れてたけど今日の双葉のスーツが例の新作なの!今までのスーツの常識を少し崩した感じで作ってみたのよ!ベストは前後で違う生地を使ったりするけど、それをジャケットでやってみたの!あまりに面積の大きい生地同士で組み合わせるのはまだしてないけど、ポイントでアクセント的にやってみたの!どうかしら?!生地を変えた所で一番私が気に入ってるのは、軽量化して重くない腕の袖口の折り返し部分!」

言われてみて、改めて双葉さんのスーツ姿を見てみた。

八重さんのスーツへの情熱が組み込まれた新作を、191cmのスリムな男性が着ている。いえ、着こなしている・・・!!




「・・・・!!良いっ!」




いやいや、そもそも初めてお会いする人だって思ってたから最初は顔を見るじゃないですか。

そしたら先日合コンにいた人じゃないですか。びっくりして以後スーツの情報なんて微塵も入ってきませんでしたよ。約束したとて、そんなの破っていつ合コンの事言われるかヒヤヒヤものでしたから!それが落ち着いてみると、なんという事でしょう。スーツの型を一切崩す事ない曲線美。スーツのために生まれてきた様な人だった。思わず両手で拝んでしまった。



「スーツの為に御生まれになって下さってありがとうございます・・・!!」



「なんだろうな、褒められ慣れてるはずなのに嬉しくないな」

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