五章:皐月の君へ 六話
「今、卯月の家に寄ってからここに来たの。ほら、もう六月になるから、六月から本社での勤務内容の説明と、持ってきてもらう書類とか何か事前準備のを全部渡してね。特に連絡しないで家に行ったんだけど、ちゃんと居たわ。謹慎って言ったって、別に一歩も出歩いちゃ行けないわけじゃないからいいんですけどね。ちょっと抜き打ちっぽい事しちゃった。ちなみにこんな朝早くのお時間でも奥様はいらっしゃいませんでしたー」
八重さんが境内に来るまでのお話しをしてくださいました。
「お子さんを幼稚園に送ったのではなくてですか?」
「娘は卯月の隣に座って遊んでたわ」
「・・・何か、特殊な家族関係なのでしょうかね?」
「優しいわね結ちゃん。確かに、人の家の事は他人はわからないわ。でも、それでも私は今までのあの奥様の言動を見てきているからこう思っちゃう『朝っぱらからどこほっつき歩いてんのよ!』ってね」
そんな世間話みたいに話しながら、八重さんは、お皿の卵焼きを摘んで食べていた。
「美味しい〜!さすが結ちゃんね!この出汁巻き卵ふわふわだわ!うちのメイドの作った卵焼きとよく味が似てる!・・・あぁ、やけに静かだと思ったけど、そうよね。皐月が本殿に入ってるのよね。すごく静かでいいわね!」
「あ、八重、そのメイドの話しなんだけど」
「何、長月。うちのメイドに興味あるの?あげないわよ」
「桔梗からも聞いたんだけど、同い年なんだって?」
「そうよ、高校生の時から働いてくれてるの。まだ屋敷にいるけど、あげないわよ」
「何で欲しがる前提なのさ。でも、興味はあるんだよね」
「だからあげないってば。っていうか、会った事なかったかしら?」
八重さんが睦月さん神在月さんを見た。現在、如月さんと弥生さんはスーツへと着替え中です。わくわく。
「僕は、神部の屋敷にはお邪魔した事ないから」
「俺は、八重たちが住んでる屋敷は行った事ないからな。いつも会うのは他の屋敷でだったし」
睦月さんと神在月さんは会った事はないようだ。水無月さんは・・・
「俺・・・この間、屋敷に行った時にちょっと後ろ姿・・・見たかも」
「どんな子?!」
長月さんが妙に興味深々である。
「背格好は普通。本当に、・・・特に身長が小さいわけでも、大きいわけでもなかった。後ろからだったから顔は・・・わからない。でも、多分、メガネかけてた。あの、弥生みたいに丸い・・・大きいメガネ」
「メガネっ娘・・・」
「まぁ、コンタクトの方が良いって勧めたけど、メガネでいいって断られたのよ」
今度こそ本当に雑談をしていたら、着替えを終えた如月さんと弥生さんが隣の部屋から出てきました。
「おおーーー!この間も思いましたがお二方とも素敵です!」
「私の見立てだからね、似合って仕方ないわ」
以前、試着した時同様、本日も美しいスーツのお出ましです。
「結ちゃんは本当にスーツが好きなのね、そんなに喜んでくれて嬉しいわー!」
「この間、納品に来た神崎さんもスーツだったんです!弟さんの三者面談でご両親の代わりに行かれたそうで!その時のスーツもとても素敵でした!やっぱりスーツっていいですよねー!今日の桔梗さんのスーツも初めて見るスーツでとても素敵でした!」
「そんなに喜んで愛でてもらえるなら俺、スーツになりたいなぁー」
「何その言葉、皐月が本殿から出てきたのかと思ったわ」
「・・・長月、たまに、皐月みたいな事・・・言う」
「おい、さっさと終わらせるぞ」
「何言ってんのよ、あんたは今日会う人と結婚させてあげるんだから早く終わるわけないでしょ」
如月さんと八重さんが軽く言い合いをしながらも出かけようと席を立つ。
「宮守さんも、今日ご一緒して頂けますか?」
「え?私ですか?!今日は八重さんも桔梗さんもいるし、私が行ってもすることも特に役に立つこともないと思うので・・・」
「いえ、もしかしたら本日のお相手の女性は、近い将来ここに住むかもしれない方です。お世話係の宮守さんは、”顔を見る”というだけでも立派な理由ですよ」
「そうですか?でも、そんな野次馬的な理由で・・・」
「野次馬じゃないわ、お世話係の直感は正しいもの」
「そんなもんですか?」
「そういうものなのよ」
と、言うことで私も同行させて頂くことになりました。見合い同行率現在100%です。
どれほど豪華だと思っていても、毎回そう思っていても、少しずつ見慣れてはくるものですね。神部のホテルにこれで三回目です。
時間より少し早く着いた私たちは、八重さんを除いてホテルのお庭で時間をつぶしております。八重さんは、事前にお見合い相手の女性と恒例のお話し合いをしております。
「また一段と緑が増えましたね!」
前回の水無月さんのお見合いの時も、割と草木が多かったのですが、今回は更に増えております。梅雨も近づき、雨の回数も多かったので、一気に成長をしたのでしょう。足元の通路の脇には綺麗な芝桜がびっしりと咲いている。
「そっか、結ちゃんは最近よく来るんだよね。凄く綺麗に咲いてるね。全部名前わからないけど」
笑いながら弥生さんが言った。そうか、境内にない花が多いので言われてみれば私もわからない花が多い。
「こんなに花咲いてて、管理って大変じゃないのかな。何人でやってるんだろうね?」
「ここのホテルの常駐の庭師は一人だけだよ。植え替えたり、何か作業が必要な時は、他のホテルとか施設の庭師に声をかけて手伝ってもらうんだ。本当に大掛かりな作業の時は業者を呼ぶ時もあるけど」
弥生さんがボソッと何となく口にした疑問に答えが返ってきた。
「・・・ということはこういう仕事の管理とか最終的な承認者は・・・」
「社長の直前は俺だからね」
「何でもやってるんだね、秘書って」
「あぁ、まぁ秘書っていってるけど、社長のスケジュール管理が仕事の秘書じゃないからね。結局構図的には、全部の部門の上長が秘書課になってるんだよ」
ん?という事は・・・
「っ全部やってらっしゃるという事・・・?!」
多岐にわたる事業と一言で言っても、内容は一口では言い切れないほどのあの事業を?!秘書課が50人いるならわかりますが?!
「もちろん、八重や櫻や他数名の神部も一緒にですけどね」
数名・・・本当に私と同じ、人間なのだろうか・・・。
「お待たせー!行きましょうー!」
呆気に取られていたら八重さんが呼びに来て下さいました。
「結ちゃんどう?」
「そうですね・・・如月さんのお相手の方は凄く感じが良いですね」
「弥生の方は?」
「・・・ちょっとお顔が見えづらいのですが・・・うーん、私の直感というかもう好みというか、単なる偏見ですよ?」
「ええ、それで良いのよ、それが欲しいのよ」
「弥生さんには合わないかなぁ・・・と」
「はい、弥生”には”合わない。ね、はい。オッケー」
私と八重さんと桔梗さんは現在、ホテルのお馴染みのラウンジにて、如月さんと弥生さんの同時進行するお見合いを見守っております。というのも、それぞれのテーブルで椅子に腰掛けて、一緒にいる風景を見た感想を言ったらもう切り上げです。私たちはすぐさま離れました。
「さて、ではこれからお見合いが終了する予定の1時間半の間は、上のカフェで会合を行うわ」
「ただのお茶会だろう?」
キリッとした表情で、これから重要な会議を行うかのように言った八重さんに対して、桔梗さんが笑って答えた。
「良いじゃないの、忙しい時は馬鹿みたいに忙しいんだから。サボれる時にサボらないといけないのよ。緊急事態は空気を読んで暇な時に来るとかはしてくれないのよ」
「宮守さんは大丈夫ですか?」
「はい!大丈夫です!」
「今日の境内のお昼ごはんは桔梗が手配したから私たちは存分に遊んで帰りましょうね」
「”遊んで”って言っちゃってるからね」
この間のレストランと同じ階だけど、反対側の方角の景色が見えるカフェにきました。
今日のお見合は、いつもより早めの10時開始です。その為お昼ご飯にはまだ早いのでケーキとお茶で会合を行います。
「ここはね!パティシエが2年かけて作った究極のミルフィーユとシフォンケーキが売りなの!両方食べましょう」
「”2年かけて作らせた”が正しいけどね」
「一方的に無理強いさせたわけじゃないわ!”自分!まだやれます!”って自ら作ったんだもの」
運ばれてきたケーキは、とても美しく、また美味しそう。これを食べて良いなんて、私は本当に恵まれている・・・!
「じゃぁ、いただきまーす。んーー美味しい!」
八重さんに続いて私も・・・
「頂きます!」
サクッと音がしたのはミルフィーユだ。ミルフィーユはパイ生地がサクサクでとても崩れやすい。あれ、なんかそういえば作法とかマナーとかあったっけ。食べたい分だけ見定めてフォークで割ってしまった。しまった!ナイフがあるでは無いか!私ってばなんてことを・・・!
「好きに食べて下さいね。カトラリーの使い道は気にしないでください。ただのお茶会ですから」
フォークでミルフィーユを割ったまま動かず、考え込んでいたのがバレたのだろうか。桔梗さんが気づいて声をかけて下さいました。なぜわかったのだろう。
「思考がバレていてお恥ずかしい・・・」
「いえ、ミルフィーユは美味しいですが、食べるのに一苦労しますからね。八重を見て下さい」
「何も気にしないで食べて良いのよ」
ザクザクとフォークで割っては生クリームといちごを付けて刺して食べている。
「ただのお茶会だからいいの、会長がいたら本気でナイフが飛んでくるだろうけどね」
ひえええ、今度ミルフィーユの美しい食べ方を調べよう。ただ、今日はお言葉に甘えてこのまま頂きます!
フォークを刺したことで、パイ生地が細かく砕けて少し周りに散ってしまったが、これ以上は崩れないようにと気をつけながら生クリームといちごを乗せて口に運ぶ。
「んんーー!」
口に入っているので唸り声しか出ませんが、何ともパリパリでサクサク、それにバターの香りがとてもします。しかし、甘過ぎはしません。甘さは一緒に載せた生クリームが補ってくれます。そして、この生地の少しの甘さと生クリームの甘さが足されて、今度はちょっと甘すぎるかな?と思いきやここでいちごの登場です。少し酸味のあるいちごが、全てを丸く収めてくれます。これは美味しいっ・・・!
口の中のミルフィーユーを味わって、飲み込んだ後に、ストレートの紅茶を頂きます。そしてこの紅茶もケーキと相性が抜群。紅茶を選んだのは桔梗さんです。紅茶の資格でも持っているのだろうか。
「美味しすぎますー!紅茶との相性も最高です。どうしよう、もう仕事したくない、幸せです・・・」
涙が出そうなくらい幸せである。
「そうだ、結ちゃん。昨日決まったんだけど、桔梗は来月も境内にいるからよろしくね」
「あ、そうなの?」
「はい!こちらこそよろしくお願いいたします!」
「毎日ご飯作るの手伝わせて大丈夫だからね。で、結ちゃん。境内にいるときに話しが一瞬出たけど」
「はい、何でしょう?」
「神崎のスーツが格好良かったって」
「はい!神崎さん普段は斎服とか何かの作業着みたいな服なので、スーツはとても新鮮でしたし、スタイルも良い方なのでより一層格好良かったです!あ!もちろん神部の方もいつもスーツ姿素敵です!みなさん身長が高くて本当にスーツが映えて素敵です!」
「見事なスーツ愛ね、来月までは境内駐在は桔梗だけど、再来月の七月は別の者が行くわ。神部の会社に勤めてる訳じゃないけどウチの生まれの人間だから身元の保証はするわ。今度挨拶しに行かせるから。ソイツは身長馬デカイから、威圧感すごいけど用心棒にはもってこいだし、少し離れたところから見るとスーツ姿も良いから期待してて頂戴!神崎よりも桔梗よりも大きいわ、多分神部で一番大きいんじゃないかしら?」
「本当ですか!楽しみですー!」
「アイツには新作の夏用スーツを渡しておくわね!」
「・・・アイツ、スーツって着るのかな・・・?」
「・・・疲れた。遅ぇ」
上のカフェで存分にケーキと紅茶を楽しんだ私たちは、待ち合わせの場所に戻ると、すでにネクタイを緩めている如月さんと、出かける時にセットされたままの弥生さんが座って待っていました。
「お待たせしました!すみません!」
「結ちゃん、美味しいケーキでも食べてきた?良かったね」
弥生さんがにっこりと迎えて下さいました。私という生き物はそんなに顔に出やすいのでしょうか。
「さ、車に行きましょう、話は帰りながらしましょう」
八重さんの一言でみんなが動く。なんだろう、命令でもないのに嫌がるそぶりもなく周りの男性が従ってしまうこの感じ。すごいなって思う。きっと、小さい頃から知ってるからっていうだけじゃなくて、信頼の上で成り立ってるものなんだろうなぁと思う。
八重さんを先頭に、桔梗さん、如月さん、弥生さんが歩く。すごい、みんなスーツだしスタイルいいし圧巻だ・・・!なんかこの光景を後ろから写真でも撮りたい!はぁーうずうずするっ!撮っても良いかな?!
「心の中だけに収めておけ」
ふと振り返った如月さんに言われました。だからなんでバレてるんだ。
桔梗さんの運転で境内まで帰りながら、お見合いの報告会が始まりました。
助手席は八重さん、最後部座席に如月さんと弥生さん。私は真ん中の座席に座っております。
「はいー、きさらぎー」
「無しだ」
「なんでよ!”凄く良い感じの子”だって言うのに!またわがままか!ちょっと保留にするわよ」
「はい、次やよいー。違った?」
「うん、」
「はい、了解ー」
この違いはなんなのだろう?
「あれ、お二方とも不成立ってことですか?」
「不成立は不成立なんだけど、如月の場合は、『本人の好みじゃない』って言うただのわがままなだけ。でも、弥生の場合は”弥生の神代の妻”としての『適性がない』って事なの」
「適性?!なんですか?!それ!?」
「結ちゃんも言ってたじゃない?『弥生さんには合わないかなぁ・・・』って。まさにそれ」
「え?ええ!?」
「ごめんなさいね、またこれもね、『見えないもの』だから説明に困っちゃうんだけど」
「そうなんですか」
「うーん、私の説明でわかってくれれば良いんだけど、そもそも私は神代でもお世話係でもないから、みんなの話しを聞いて、私なりにの解釈なんだけどね、
まず、世の中の女性には『神代の妻としての《適性》が”ある人”と”ない人”』がいます!」
「はい!《適性》とはなんでしょうか!」
「平たく言うと、《適性》は持って生まれてくるものです!血統も生まれた都道府県も関係ありません!あ、でも日本人だけかな、今のところはね。だから、神社の生まれの姉妹がいたとして、お母さんが適性持ちでした。生まれた二人の娘の内、姉が適性持ちでも、次に生まれた妹も適性持ちとは限らないってこと。」
「じゃぁ、正直ランダムだってことですか?」
「そうでーす」
「どうやって適性持ちかどうかわかるんですか?」
「適性持ちじゃないと”違う”ってわかるんですって」
私は自分の後ろに座っている如月さんと弥生さんを見た。
如月さんは窓の外を見ていてそもそも会話を聞いていない感じだった。弥生さんが、八重さんの言った言葉に対して首を縦に振った。
「さっきの方は適性持ちじゃなかったんですか?」
「さっきの女性は、”神代の妻”としての適性はあったよ。でも、”弥生の妻”としての適性はなかったかなって」
「なんですかそのまた細分化した適性って〜!」
訳わからなくなりそう!
「それでね、”神代の妻の適性持ち”の人は、どの神代の妻の適性があるのか?ってわけ。今日の弥生とお見合いをした女性は、”神代の妻”としての適性はあったけど、”弥生の神代の妻の適性”はなかったって事。それが、結ちゃんがなんとなくで言った、『弥生さん”には”合わないかなぁ・・・』ってやつよ!」
「なんとなくで言っただけなのに・・・」
「お世話係の力の内よ」
「聞いたことないですけど」
「私たちの間ではそう言ってるの、『お世話係に籍入れした女性には、適性もちかどうかがわかる能力が授かる』って。まぁ、半ば迷信みたいなものだけど。でも、結ちゃん卯月の奥さん嫌いでしょ?適性がないからよ」
「え?!いや、私が苦手としているのはその、よく嫌がらせとか当たられるからであって適性があるかないかは・・・」
「適性があれば、無理難題言われても多分なんとなく受け入れちゃうと思うわ。二十年位前の話だけど、割と気難しい神代の奥さんがいたんだけど、適性はあったみたいで、旦那の神代も奥さんの事好きだったし、お世話係の方も奥さんの事悪く思ったことは無いって事があったのよ。私は本当に人として苦手だったのに。そう言うもんらしいのよ」
「うううん・・・」
「水無月の時なんかは、全部適性持ちだったし!だってハラハラして応援したくなっちゃう感じだったでしょ?あの時は聞くまでも無く見ててわかったし」
「・・・適性とはまた謎なものが現れましたね・・・」
「深く考えないで直感でいいのよ!まぁ、適性ないまま結婚した卯月を見てると、なんかこう、問題が多そうに感じらるから、相思相愛の上で、できれば適性持ちが良いわねって話よ。ほら、やっぱり一番大事なのは”本人たちの気持ち”だからね」
「だから俺は今回も無しだって言ったろ」
「あんたの気持ちは聞かない!!」




