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一年が十一カ月しかない君たちへ   作者: 杉崎 朱


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五章:皐月の君へ 四話

五月五日




さて、本日は端午の節句です。

昨日は、桔梗さんと睦月さんのお二方でお買い物に行って頂きました。いや、私は行かないですよ。また誹謗中傷を浴びるのなんて御免です。

桔梗さんだけでも非常に目立つのに、そこにアイドル顔負けの睦月さんが加わったら、同行しようものならばもう誹謗中傷と公開処刑で私のライフは0になります。


お昼ご飯を境内にいる方全員で食べましょうという事になっており、本日は朝からお昼ご飯の準備をしております。

そのため、朝食は既に作り置きされており、台所で、桔梗さん、睦月さん、私の三人で、子供の成長を願うとされる食べ物の『筍』と『出世魚』を使った料理と柏餅を作っております。

料理初心者である睦月さんは、桔梗さんにん教わり一緒に柏餅を作っています。私は、筍ご飯や大人のお酒のおつまみ用の筍の煮物を作っております。アク抜きは昨日しておいたので、今日は味付けをして、お昼までに一度冷まして味を染み込ませます。その後は、みんなで他の料理を作ります。まだ朝だし、人数も多い、これなら余裕でお昼までに出来上がる。五月の節句は凄く楽ができちゃったなぁ。ラッキー。




「今年も”こいのぼり”無いの?!めっちゃでっかくてスッゲェかっこいいのに!なんで?!」




何か聞こえました。この元気なお声は、葉月さん家の真ん中のヤンチャな男の子だ。印鑑に使う朱肉を水浸しにするヤンチャな彼である。

今年”も”と聞こえました。昨年は出しておりません。その前はあったのでしょう。そう、めっちゃでっかくてスッゲェかっこいいーーーーー『こいのぼり』が。


「鯉のぼりとは!!」

私は隣にいた桔梗さんを見た。桔梗さんは突然奇声のように言葉を発した私に驚いていた。

「鯉のぼり?ありますよ。鯉のぼりは確か10メートル超えのものがあって、目立つから立てたくないと言われた時もあったんですよ。なのでそれからはお世話係の方に任せてました」

「なんと・・・!」

「あれ、ご存じなかったですか?」

「はい、今から出してきます・・・!というかどこにあるんだろう。この間倉庫見た時には”鯉のぼり”って書いた箱もなかったし」

「後で一緒に倉庫をまた探しに行きましょう」

「ありがとうございます!とりあえず、鯉のぼりはこの後出すと伝えてきますね!」

「はい、よろしくお願いします。きっと喜ぶと思いますよ」







倉庫内は比較的綺麗に整えられている。この状態で鯉のぼりを見逃したのだろうか。

現在は桔梗さんと倉庫に来て、端から順番に箱を見て回ったところである。

「置かれている箱を見る限りは、鯉のぼりはなさそうですね」

「そうですね、じゃぁ、下に無いのなら上かなっ!」


倉庫内は、倉庫用のラックがある。そのラックの中段に足をかけて、桔梗さんが一気に上へ登った。

「・・・・・あ、箱がありましたよ。見てみましょう」

登ったラックから他のラックの一番上を順番に見て、奥の棚の上に箱を見つけた模様です。

一度降り、奥に移動して他のラックに登り直した桔梗さんが、箱を下ろしてくれた。

中を開けるとそこには折り畳まれた鯉のぼりが入っていた。良かった!

「後はポール探しですが・・・十数メートルか。伸縮性だろうし、次に出すのが楽になるようにって大体半分くらいの状態で仕舞ってるかもしれないから、そうすると・・・」

桔梗さんが色々考えながら倉庫内を歩いている。しかし、倉庫内にはそれらしきものは見当たらない。


「母家でそれらしいものを見た記憶はありますか?」

「母家でですか?うーん・・・目に入ってるかもしれないですけど、それが鯉のぼりのポールかどうかはわからないからイマイチピンとこないですねぇ。まさか物干し竿になってるってことは無いですよね・・・」

一旦、倉庫から”鯉”を持って出てきた。そこにちょうど境内の庭で遊んでいた葉月さんの真ん中のお子さんが居た。

「今からあげるの?!オレもこいのぼりあげたい!ねぇ?!良い?!オレもやる!」

私たちの抱えている鯉を見て、鯉のぼりを揚げると確信したお子さんがとても喜んだ。でも肝心のポールがない。

どうしようかと思っていたら桔梗さんが先に口を開いた。

「今、鯉のぼり用のポールを探すところだよ。なるべく早く見つけてお昼までには揚げられるようにするからね」

お子さんがポカンとした顔をした。あれ、もしかしてポールが見つからなかったら揚げられないからショックを受けたのでは・・・


「こいのぼりのなげぇ棒なら、オモヤの玄関にあるじゃん」


「「え」」

私と桔梗さんは走って母家の玄関に行き、周辺を見回した。待て待て、玄関掃除ならちゃんと普段からやってるんだから!それなのにどこにあるの?!靴箱の隣、奥、上、上り框の下、どこだ?!



すると、後ろからついてきた小さな彼が教えてくれた。



「結ちゃん!コレだよ!コレが鯉のぼりの棒だって!」

教えてもらったそれは、私がずっと縦型の手すりだと思っていたものでした。






「だって!今まで何かの拍子に掴んでもびくともしなかったんですよ?!」

「まぁ、ちょうど良い感じのところで止められてたよね」

「しかも、ちょうど掴みやすい太さじゃないですか!」

「そうだね、大丈夫、結ちゃんは、悪くないから。知らなかったんだからね」

「茉里ちゃん!なんであんなところに・・・!!」

現在、縁側で長月さんに慰めてもらっております。ずっと手すりだと思ってました。銀色のポールですが、”後付けの頑丈な手すりを付けたんだな”くらいにしか考えておりませんでした。なんか、切なくて、悔しくて、悲しくて、非常に恥ずかしい。



現在、桔梗さんと睦月さんと、段々と集まってきたお子さん達で鯉のぼりの取り付け作業を行なっております。私はそれを縁側で長月さんに慰めてもらいながらこの光景を記録として残そうと動画を撮る準備をしております。

携帯電話で動画を撮りますが、専用の三脚を組み立てております。なんかもう棒状のものなんて本当は見たくもない。しかし、これはちゃんとやり遂げなければ。

子供の成長を記録するのはいつの時代もその親がやることが多いだろう。そうすると、親と子供が一緒に映ることが少ない。家族や、みんなで集まったいるところを残せると良いなと思い、三脚を立てております。


縁側からサンダルを履き、庭に少し移動し、三脚を置いて携帯電話を置いた。これで、録画を開始する。


親子で鯉のぼりを取り付け、それを神在月さんが持ち上げて立てて設置する。その後、親子でどんどんロープを引き、鯉が上に登っていく。ちょうど上空で穏やかな風が吹き、鯉が揺れた。皆楽しそうに、そしてとても喜んでいる。

「ナイスタイミングの風。神の祝福だね」

長月さんが言った。



鯉のぼりも完成した時、桔梗さんが私と長月さんのところへと歩いてきた。

「宮守さん、お疲れ様です」

「いえいえ、私本当に何もやってないです。ポールすら見つけられないお世話係です」

「いえ、誰も悪くないですよ。強いて言えば、他の神代に聞けば良いものを聞かずに探してた私が愚か者です。小さな彼が覚えてくれてて良かったです。お陰様ですぐに見つかって。探し回ってすぐにまた食事の支度にかかるとなると大変ですからね」

「フォローが上手だね〜イケメン」

「あ、そういえば長月」

「おれが褒めたのはスルーなのね」

「さっき櫻から電話があって、”次の長月”と話して欲しいんだ。今度時間とれるかな。有給にしなくて良いから。好きな時に」

「おっと。もうそんな年だっけ?」

既に先にお酒を飲んでいる長月さんは、日本酒のお猪口を運びながら言った。

「17歳だからね。もうそろそろ神代の詳細を伝えて良い頃だし、本人から『話したい』って連絡あったからね」

「へぇ・・・」


神代は特に何歳からという正式な決まりはない。ここ十年くらいは大体が大学を卒業した頃である。しかし、昔だったり、少し前では十代で神代に就いた人もいる。詳細を話す年齢を決めているわけでもない。その辺の曖昧さは適当なのか、それとも神代一人一人に合わせたているのかは私は知らない。



「どこまで話していいの?」

「全部話していいと思うけど、一応先に神部で話をしてから決める」

「はーい」


先日の水無月さんのお見合い後のデートもそうだが、また一つこうやって少しずつ変化していくんだな。ただ、長月さんの場合は、水無月さんの時と違って、”次の長月さん”が境内に入る事になったら、”今ここにいる長月さん”は境内から出ていくのです。神代の世代交代をした後は、本当に”一般人”としての生活となります。

つまり、ほとんど会えなくなるのです。そうなると寂しいなぁ。


「寂しいって顔に出過ぎてるよ」

「え?!」

「その反応は嬉しいけど、まだ少し先の話だからさ」

「そう・・ですね」


「結ちゃあああん!!!今日のご飯は何ぃぃいい?!」


突然、遠くから葉月さんのお子さんが質問してきました。

ちょっとしんみりしてしまった所なので、正直有り難い。


「筍ごはんでーす!!」








正午。

皆で母家の居間に集まり賑やかにご飯を食べております。

そんな時に、インターフォンが鳴りました。

あれ、誰だろう。そう思い、台所についている玄関カメラを見に行きました。

「はい」


そこに映っていたのは、いつも工房の材料を届けてくださる神社の神主さんでした。

「あ、結ちゃん。神崎です。大祓用の大量の茅の納品です。サインしてもらっても良い?」

「あ、良いよ、俺が行く」

桔梗さんが後ろから神主さんに返事をしてくださいました。しかし、大量なので私も手伝いに行きます。


「あれれ、本社のお偉いさんがG Wに境内にいるなんてびっくり」

この方は、神部と古くからの付き合いのある神社の神主さんです。

「俺じゃなくても、今後もしばらくは誰かしらいるようになるから宜しく」

「あーそうなの!へー、あー・・・そういうこと」

境内の入り口で、大量の茅を下ろしながら周りを見て、視界に入った防犯カメラで何かを察した彼、【神崎(かんざき) 界星(かいせい)】さん。



あれ?神崎さんがいつもと違う・・・



「神崎さん・・・!今日・・・!スーツっ」

「あぁ!そうそう、今日さ、弟の三者面談だったんだよね。親は行けないからって俺が代わりに行ったんだけど、そうしたら帰ってくるのに時間かかっちゃってね。着替える時間なくてスーツのまま来ちゃったんだ。変かな?普段と違う服だから似合わない?」

「そんなまさかっ!むしろ・・・っくぅ・・!」

「何、どうしたの?」

「宮守さんはスーツがお好きなようなので、多分、界星のスーツ姿がヒットしたんだと」

喋れない私の代わりに桔梗さんが代弁してくださいました。


「へぇ、そうなんだ。でも、ここだとなかなか人のスーツ姿は見れないでしょ?みんな普段は作業服だからね」

改めて私の方を向いて話してくださいますが、この方も普段はスーツではないので、あまりにもギャップが!身長もそれなりにありスタイルも良い。まさか今日、また新たなスーツを見ることができるなんて・・・!感無量!


「そんなに喜んでくれるなら今度からスーツで来ようかな」

「じゃぁ、新調する事があるならその時は《KAMBE》のスーツを是非」

「抜け目ないなぁ」



大量の茅を一緒に工房まで運んで頂きました。そして、神崎さんにもお昼ご飯を食べて行って頂く事になりました。



「ああ!神社の兄ちゃんだ!今日服違う!今日休みの日なのに!」

「休みの日に、スーツを着てるってことは、お仕事か、後はあれだよ。この間水無月君がそうだったみたいにお見合い帰りかも」

「ゲホっ!!・・っぐ、うう・・ゲホっ!」

葉月さんの家の兄弟の会話を聞いた水無月さんが驚いてむせました。

神代がスーツを着る=(イコール)お見合いだというのが子供の中で定着しつつあるのだろう。多分、そんなに間違ってはいないが。


「こんにちは!今日はね、僕の弟の三者面談だったんだよ!」

「あ!オレもこの間それやった!母ちゃんと先生が喋っててオレ何も喋ることなくてただ座ってた!」

「私も!今年は高校受験なんだ!」

「オレも去年やったなぁ」


そこまで普段、神崎さんと関わりのないお子さんたちが、警戒心もなくとても懐いている。神在月さんを凌ぐほどの勢いである。それとも私が知らないだけで皆、実は仲良しなのかもしれない。

「・・・界星、初めての人ともすぐ打ち解けちゃう特殊能力があるから・・・」

まじまじと見ていたら、水無月さんが教えてくださいました。

「そうなんですね・・・コミュニケーション能力がずば抜けてるんですね」

「あれは、能力っていうか・・・うん、能力だろうけど、なんか特別に授かったもの・・・だよね」

「たまにいらっしゃいますよね。本当に、息をするくらい簡単に、難しいことやってのけちゃう人」

「凄いよね。・・・スライムとか、スリの手先みたいに人の懐に『するん』ってあっという間に入っちゃう」

「なんかどっちの例えもイマイチなんですけど」





みんなで楽しく食事をして、その後は庭でお子さんたちが遊んでいます。

神崎さんが凄く人気で、お子さんがみんなが寄っていきます。コミュニケーション能力ももちろんだが、何か人が寄って行きたくなるものを持っているのでは無いのだろうか。猫で例えるならまたたび持ってるとか。


「なぁ!バドミントンやろうよ!オレこの間学校でやったら超楽しかった!」

「僕もやったことないけどやりたい!」

「もうおじさんだからできないよ、みんなの方が上手だからきっとつまらないと思うなぁ」

「嘘つき!オレの父ちゃんと同じ歳って聞いたよ!父ちゃんにおじさんっていうと『まだお兄さんです!』っていうもん!」

霜月さんのお子さんがキラキラした目で言いました。そうですね、29歳はまだおじさんではないですね。



「霜月、もう30になるんだから、もうお兄さんは終了だよ」

「界星、まだ見た目が若いうちは良いんだよ」






「お子さんたち本当に楽しそうでしたね!神崎さんて凄いですね!お子さんたちも前から知ってたんですか?」

「知ってはいたけど、そんなに話す機会はないだろう。大体は子供が学校に行ってる時間に納品に来るから。会ったとしても学校が休みの夏休みとか春休みじゃないか?」

「じゃぁ、やっぱり天性のものなんですね」

「あぁ、あれはそうだろうな」


神在月さんと話しながら居間の食事の後片付けと掃除をしています。

桔梗さんと睦月さんは洗い物です。

「文月さんのご家族も、ご一緒できればよかったですね。でも、せっかくの連休ですからご家族で楽しいお出かけだとは思いますが」

「まぁ、みんなで楽しめれば良いことだが、とりあえず今日は霜月が居てよかったわ」

「あのお二方、仲いいですよね。名前で呼び合ってましたし」

「あの二人、高校の同級生なんだよ」

「同じ歳って言ってましたもんね!・・・高校の同級生!?」

「そう、同じ高校なんだよ」

「そうなんですか、どうりで仲いいわけだ・・・」

「いいよなぁ、高校の同級生が神代の関連だから、昔からの知り合いが現状を理解してくれるって」

「あ、そっか、神主さんだから、神代の事は知ってるんですよね」

「羨ましい限りだわ」





片付けも終わり、居間でくつろぎモードに入りました私達。しかし、お子様はまだ元気に境内の庭で遊んでいます。特に、鯉のぼりが嬉しい小学生達は、親御さんの携帯電話でたくさん写真を撮っております。


「お庭が随分賑やかだね、ただいま戻りましたよ」


ダンディ文月さんが母家に顔を出してくださいました。お出かけから帰られたようです。

「文月さん!おかえりなさい!」

「はい、どうぞ。細やかですがお土産です」

「うわぁ!こんなに!ありがとうございます!」

大きな袋でお土産を頂きました。全部お菓子の模様。凄く嬉しい。



「時に、結ちゃん。二ヶ月後くらいから駐車場を一台分借りたいのですが良いかな?」

「あ、はい大丈夫ですよ。ご覧の通りまだ余裕がありますから」

「じゃぁ、また詳しい話は後日に、長男がここで車の免許を取るもので、一台増やそうかと思ってね」

「そうなんですね!そっか、もう18歳になるんですよね!」

「そうそう。では、お土産楽しんでくださいね」

「はい、ありがとうございます!」

神在月さんが早速袋の中を覗きながら言った。

「ツマミもあるな!有り難く頂戴する!」





賑やかな庭を見ながらとても平和な光景を凄く嬉しいとかんじる。みんながこうやって集まって楽しそうにしてくださる事がお世話係の喜びです。食事の片付けも終わり、節句の人形と鯉のぼりはまだ少し飾っておきますが、一旦五月の行事は終了です。

ですが、明日からは六月の行事である夏越の大祓の準備を少しずつ始めて行きます。

一つ終わって、またすぐ始まるのは切り替えが大変ですが、それでも今月は月初に随分とゆっくりさせて頂きました。





「さて、連休ももう終わりですね。明日から気合い入れて仕事しないと!」


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