五章:皐月の君へ 二話
まだ太陽が出ていますが、少し早めに出かけます。
昼食はしっかりと頂きました!またも自宅に戻り着替えて準備をします。
あれ、私朝からアイス三つも食べて、ポテチも食べて、お昼ご飯も沢山食べて・・・フレンチ食べたら流石にまずいのでは・・・?いやいや、毎日じゃないし!チートディ的な事最近流行ってるらしいから!今日だけだから!
自分に言い訳しながら、更に少しキツくなった気がするワンピースを着た。
合コンはほとんどわからないけど、まぁあずちゃんに全部任せておけばいいかな。ただの数合わせだし。あ、でも食事代は持って行かないと・・・手土産とかは必要ないよね。あずちゃんにあげるものも返すものもないし。っていうか、私以外の女性って知ってる人いるのかな。会社の同僚かな。何も気にしなかった。男性もどんな人が来るんだろう・・・まさか学生時代の知り合いはいないよね?でも、あずちゃんが幹事なのかどうかもわからないなぁ。ああ考えるのが面倒になってきた。もういいや。
ぐるぐると考え事をしていたら少しメイクが濃くなってしまった。
「どうせ夜だしあまり見えないだろうからこのままでいっか!」
境内は表通りから曲がって入った道の奥にある。境内のその先、舗装されていない道をそのままカーブするかのように曲がると、私の家であるアパートがある。だけど、境内の方面からくる人はほとんどいない。ほとんどは他の路地からアパートに向かう人が殆どである。つまり、一本道の為、境内からアパートに行って、そのまま私は境内の前を通らずに表通りに出ることもできるのだ。
普段いい加減な格好の方が恥ずかしいって人もいるけど、私の場合はこういった、よそ行きの洋服を見られる方が恥ずかしい。なんて言いますか、例えば、仕事でずっとツナギとか作業服を着ているのをみられている人たちの前で、こういったワンピースだとかパーティードレスをみられる方が恥ずかしいのである。
普段から綺麗な格好をしている方なら、反対にジャージやパジャマ姿を見られたくないと思うのと似たような感覚なのかな。
だからこそ、自分がしかも合コンに行く装いの時になど境内の人間には会いたくなかったのです。
境内の前を通れば運悪く誰かが見かけてしまうかもしれない。しかも防犯だか監視だかのカメラもついてしまった。問題がなければ見返すこともないのかもしれないが、映像として記録に残るのもなんかちょっと恥ずかしい。
なので、境内の方が通らない、というか、普段私以外が使わない道を選んだのだ。
ヴゥゥオオオオン・・・
ヴゥゥオオオオンーーーーー
なんか、凄い音が聞こえる。どこの車だろう。この辺は、ご年配の方が多いので、大体ハイブリットや電気自動車などの静かな車が多い。まぁ、表通りの通りすがりかもしれないし。
ヴゥゥオオオオンーーーーー
あれ?ちょっと待って?音近くなってない?
後ろを振り向くと、後方からこっちに向かって一台の車が走ってきた。速度はゆっくりでとても安全運転だ。しかし音が大きい。
舗装もされていない、広くもない道のため、私は道の端に寄った。
多分どこぞの方が道を知らずに迷い込んできたんだなぁ。
と思ったのに、まさかの私の横で車が停車した。そして、窓が開きました。
「どちらまで?送っていきますよ?」
モスグリーンの品のある高級車から顔を見せたのは桔梗さんだった。
「・・・これ、凄い高い車ですよね。車に疎い私でも知ってます」
「それは光栄です。学生の時からこの車がどうしても欲しくて。知ってる若い女性がいるなんてうれしいです」
本当にニコニコしながら桔梗さんはいった。そりゃ、世の中には若くして事業に成功してお金持ちの方だっています。しかし、この車は何千万するのだろう。もし内装もなんか好きに色々しているのだとしたらもっと・・・っていうか、駐車場に置いてあって、ずっとカバーを掛けられていた車がこの高級車だったなんて!そうか、高級車だからしっかりとカバーも掛けますよね。いつの間に境内に乗って来られたんだか。
「で、どちらまで?でも、デートでしたら流石に私が送るのは野暮なので控えますが」
「デートだなんて!まさか!!」
「じゃあ、送らせて頂いても大丈夫ですね?」
また断る口実を失った。私、単純な生きものだな・・・。
運転席から降りて、わざわざ助手席のドアを開けてもらいました。ヒエエ・・・そんな丁重に扱わなくても良いのに!あ、でも指輪とか鞄の金具がドアにぶつかって傷でも付けたらと思うと怖い。そっか、傷ができない為だ。きっとそうだ。
ドアを開くだけでなく、乗り込む時に頭をぶつけないように車体の上に手も添えて下さいました。
ごめんなさい、こんなに丁重にして頂いて、『これから合コンなんです』なんて言えません。行き先だけ告げさせて頂きます。
車内では、桔梗さんがすごく気を遣って話しかけてくださいました。そもそも、左ハンドルの車でなんとマニュアル車。乗り慣れている人からしたら話しながらの運転はなんともないのかもしれませんが、私からすると凄いとしか思えません。
発車も停車もとてもスムーズです。運転が上手な方ってこう言う人の事を言うんだと思いました。もちろん、この間も櫻さんの運転する車を2回ほど乗りましたが、そもそも車の種類が違う。それでも同じくらいの安心感と車の動きに感服致しました。神部の方って超人しかないんだな。
時間がかかるはずの移動が、思ったよりもすぐに到着しそうです。きっと楽しかったからでしょう。
「それで、宮守さんは本日、合コンでしょうか?」
桔梗さんが核心を突いた。
「なんで分かったんですか?!」
「装いが違うだけなら断定は出来ませんでしたが、夕方からのお出かけでしたので。あと、午前中からではなく外出の直前に化粧をされたから、とても気を遣っていらっしゃるなと思いました。ですが、”デート”ではないと車で送らせてくださいましたので」
「なんかお恥ずかしい・・・」
「人数合わせでお呼ばれされたんですよね。午前中までは予定がないっておっしゃってましたし」
「そうなんです!遊びに誘ったら合コンの数合わせにされました!」
「でも、せっかくなのでお食事を楽しんできてくださいね」
「そのつもりです!」
「帰りはどうされますか?もしよろしければ迎えにきますが」
「そんな恐れ多い!!大丈夫ですよ!電車で帰りますから!」
「では、最寄り駅の三駅前で、母家に電話してください。5コール鳴らして頂いたら切って頂いて大丈夫ですよ。歩きですが駅までお迎えにあがりますから。あ、でも、もしどなたかが送ってくださるという話しになったら別ですが」
「いえ、三駅前で5コールさせて頂きます」
そして、桔梗さんは駅の少し手前の路地に入って車を停車しました。駅付近は人が多くて目立つ。まだ集合時間より早いが、もしその中に本日の合コン相手の男性がいたら、車で送ってもらうところを見られるのはあまり良くないだろう。何せ車が車で目立つから、そこから降りてきた女が私の様な平々凡々女ならば余計に不自然で覚えられてしまう可能性がある。
ちょうど後ろから車も来ていないしと、少し捲し立てるようにお礼を言ったのですが、すでに隣に桔梗さんはいらっしゃらず、助手席のドアを開けてくださいました。待ってください。通行人の視線が怖いです。これでは長月さんの時の二の舞・・・というか、それ以上です。
「本当にありがとうございました!助かりましたし、楽しかったです!」
「それはよかったです。では、帰りの連絡お待ちしてますね」
そう言って、運転席に乗り込み、周囲を確認して発車させた。発車させて挨拶代わりなのかハザードランプを少し点滅させた。うわ、カッコイイ。これが大人の男性か。もうだめだ、絶対に今日の合コンの男性が誰一人かっこいいとは思えない自信が湧いてきた。
「ねぇ」
そんな事を思いながら桔梗さんの車が曲がるまで見ていたら、後ろから肩を叩かれて、少々ドスの効いた声が私を呼んだ。
「あ・ん・た!今のイケメン誰なのよ!!説明しなさい!」
私の友人である、あず咲様が大層ご立腹で立っていらっしゃいました。
「えっと、会社の・・・上司!」
「世の中にね、G Wに上司の私用の車で合コンに送ってもらう女がどこにいるのよ。まさか本当は彼氏じゃないでしょうね?!」
「本当に上司なだけです!」
合コンの集合時間まで時間があるため、喫茶店で尋問を受けることになりました。私、少し自分の買い物をしたくて早く出てきたのに・・・。
「前にさ、今、いる寮で一緒に暮らしてる人には特に良い人いないって言ってたけど、さっきのあんな優良物件そうな人もダメなわけ?それとも既婚者?」
「あ、さっきの人は、寮に住み始めたばっかりなの。まぁ視察みたいなもんだよね。あの人は優良物件も超優良物件で、多分私なんかが話してるのか車で送ってもらったのを本社の女性社員に知れたら、夜道を狙われると思う」
「でしょうよ!あの外見で車に乗ってて、あの所作!完璧とはああいう人のことよ!料理とかゴミの分別できなくても許せるわー」
「あ、多分家事全般一通りできるよ」
「神は彼に二物以上を与えている・・・」
あずちゃんとは喫茶店にいる時間は、桔梗さんの話しばかりでした。
夕焼け空が、少し暗くなり始めた。街灯がちらほら点灯し始めて、私たちは喫茶店を出た。
少し歩いたところに、今日の合コンのお店がある。歩いてお店に向かいながら、今日の話をされた。
「今日はさ、実は私も元々は数合わせなんだよね。会社の同僚から来てくれないかって言われてさ」
「あ!そうだったの!?」
「そうそう、今日六人なんだよね。相手の男性陣は職業バラバラみたいでさ。外資系とか自営業とか公務員とか、なんかその辺りらしいよ。幹事の同僚が物凄い気合い入ってるからさ、気合い入りすぎてるからって、他を蹴落とすようなことは流石に言わないと思うけどねーでも女って怖いからさぁ」
「別に、私ただの数合わせだから誰も狙わないよ?」
「ほら、女子の気に入った男性が結に興味持っちゃった場合だよ!恨まれるの怖いでしょ?!」
「そんな事あるわけないって!大丈夫だよ!そんなゲテモノ好きがいたら熨斗つけて他の女性にお渡し致します」
そう言っていたのに。
「ねぇ!仕事何してんの?」
なぜか一人にロックオンされた模様です。
現在は合コンが開始いたしまして30分程経過いたしました。テーブルは2テーブル。各テーブル男女が三名ずつ配置されております。最初に行われた自己紹介では、すでにテーブルにある前菜がすごく綺麗で可愛くて美味しそうで殆ど聞いておりませんでした。公務員の方は警察官で、自営業だと言っていた方が画家・・・まではなんとなく耳に入ってきましたが、それ以降は前菜のお皿に海の幸である”いくら”を見つけてからというもの、耳に声が入ってきたようなこなかったような。
あずちゃんの会社の女性たちは、皆様かなりきらびやかでございまして、どこかはわからないけど絶対にブランド物の服、そしてキラキラの時計やブレスレット。ネイルはキラキラで爪の長さは私の二倍。キュウリ切る時その爪どうするんでしょうか。というか、パソコンのキーボードも打ちづらそう。仕事になるのだろうか。
そんな彼女たちの反応を見て、外資系らしき男性が一番人気、次いで警察官の方に狙いを定めているのがよくわかりました。画家の方は面白くて場の空気を盛り上げるのはとてもお上手なのですが、女性陣にはロックオンはされていないご様子。女性の皆様、安定した高収入確定の方にご興味があるそうです。
そして、そんな画家の男性に喋り相手としてロックオンされたのが私という事です。
男性方の繋がりは同じ大学だったそうです。年齢もまちまち。画家の方がいるということはみんな美術大か?!と一瞬思いましたが、違うようです。有名な大学の仲間で、画家の方だけが特殊なんだとか。
「私は、寮母みたいなことをやってます。事務仕事も兼任ですけど」
「へぇ!じゃぁ、料理得意なの?!」
「得意と言いますか、一応毎日作ってます」
「今日は?」
「今日は・・・というか、今はゴールデンウィークなのでおやすみです。従業員も実家帰ったり旅行だったりするので」
「そっかそっか、良いねぇ、料理ができる女性って」
メガネの位置を正した後、頬杖をつきながら反対の手はワイングラスを回しながら持っている。一見だたの軽い人に見えますが、ワイングラスの扱い方が、八重さんとか神部の方みたいに小慣れているような気がした。ということは、この方、かなり年齢が上なのでは?
「ねぇ!料理出来る女性っていいよね!」
画家の男性が隣の外資系勤務の男性に突然話しを振った。
「俺も、親が共働きであまり作りたての料理って食べたことないから、料理出来る人に目の前で作って貰って出来立てを食べたいかな」
男性とはそういう者なのか。それとも、これは男性側では有名な、女性を篩にかけるためのキーワードなのだろうか?!
「私、オシャレな料理作れなくて、肉じゃがとか、出汁摂りからする卵焼きとかが多いんです〜」
女性の自己紹介すら聞いてなかった、あずちゃんの同僚Aさんが話しに入ってきた。
「ええ〜家庭的でいいじゃん!そんないい嫁感出しちゃってさ〜!私はビーフシチューとか、ロールキャベツとか、煮込みハンバーグとかの煮込み系ばっかりになっちゃってぇ」
同僚B子さんの参戦です。
「どれも全部美味しい料理じゃーん!いいなぁ、そういう料理の”出来たて”食べたいよなぁ?」
画家の方が外資系の方にパスを出す。この人、場の回し方が上手だ。
「うん、俺全部好き」
「えーよかったぁ!嬉しいー!」
「もっと練習しようー!」
お酒も入って皆様上機嫌です。
「宮守さんはさ、最近作った料理は何?」
結!ここは空気を読むところよ!最近作った本当に簡単に出来る副菜を言うのよ!
「えっと、切り干し大根?」
「っぷ!」
「くくっ・・!」
同僚AさんとB子さんは物凄く嘲笑った感じ。よし!これでこっちの女性二人が際立つ!結!よくやったわ!切り干し大根を作ったのは本当だから何一つ嘘なんかついちゃいないわ!
俗に言うモブを最高に演じきった気でおり、助演俳優賞を確信。私、今日の仕事完璧にやり切った!
「へー、意外だね。寮母って、寮にいるのって年配の人?」
切り干し大根と言ったからだろうかそんなことを聞かれた。そして、質問してきた画家の方の反応とは打って変わって隣の外資系の方の反応がおかしい。
「俺、切り干し大根、超好きなんだよね」
めっちゃ嬉しそうに私を見てくる。アルコールのせいか顔も最初より綻んでいる感じだ。・・・最初の顔あんま覚えてないけど。
その瞬間、AさんとB子さんが鋭い目で私を見てきた。
「あ、私のレシピで良ければ差し上げますので・・・」
合コン怖い。
「ねね、他には何作ったの?」
ちょっと、もうこの話やめて欲しいんですけど。次、また好物言っちゃったらもう私帰りに刺されるような気がする。ちょっと、言い方は考えないと・・・
「あ!”寮の方の好物”で、卵焼きと、きんぴらごぼうを作りました!」
これも嘘じゃない、皐月さんと、弥生さんの好物である。それに、卵焼きはAさんがさっき言った。もう二番煎じの出涸らしだ!これで、”普段私が作ってるものがたまたま外資系さんの好物だなんて偶然〜!”的な展開はやってこない。予防線だ。
「卵やきの味付けは?甘い?」
あれ?食いついてきてしまった。この人も甘いのが好みか。
「はい、その方の好みが甘い方がお好きだと言うので。私は塩の方が好きなんですけどね」
「本当?!ウチもさ、家族はみんな甘い卵焼きが好きなんだけど、俺は塩っぱい方が好きでさぁー!」
地雷を踏みました。
「でも、それならだし巻きも甘くないから美味しいですよね?」
「そうだけど、結構味変で調味料足しちゃうから、シンプルに薄い塩味が好きかな。こう見えて、健康にも気を遣ってるんだよね」
よし!話題が変わる!!
「私!健康を考えてヨガ通ってるんです〜!」
いいぞAさん!
「私はピラティスに通ってます!」
いいぞB子さん!ピラティスがなんなのか全く知らないけど!!
「へぇー!二人とも意識高いね、俺、ジムで筋トレがメインなんだけど、ヨガはちょっと興味があって」
「本当ですか?!最近男性もヨガやる方増えてきてるんですよ〜良かったら今度スタジオ紹介しますよ!」
よし、この調子で三人で盛り上がっててください。
話題が私の料理から逸れたところで、一息ついて自分のグラスのカクテルを飲んだ。
飲みながら向かいが視界に入った。画家の方は変わらず私の方を向いてニコニコしている。コノ、私を危険区域に投げ入れておいて楽しそうにしてますね。
「他は何作ったの?」
まだ聞くか。いや、今は健康志向の話しをしているそれなら、この”魔法の言葉”を言えば、私はもう一気に、追放、そして解放される・・・!
最後の呪文とばかりに、私はお酒を飲んでいた事もあり少しばかり大きな声となってしまった。
「ラーメンです!!」
「え?!ラーメン作ったの?」
外資系さんが切り干し大根の時よりも三倍嬉しそうな顔で、ヨガの世界からこちらの世界に異世界転移してきました。




