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一章:睦月の君へ 一話

”一年が十一ヶ月しかない”人たちがいる。

彼らは一年の内、決められた一ヶ月間を神に捧げている。


それは、この惑星(ホシ)のため、この日本(クニ)ため。家族のため。

何もせず、意識も特にはっきりとしない、ただただ、一ヶ月間ある部屋でただ”存在”し続けるのである。


そんな”一ヶ月”少ない一年を過ごす彼らと、その家族のお世話をする”世話係”とのどこにでもありそうなどこにもないお話。


《神代》の歴史の始まりはわからず、記録が残ってはいるが読める状態のものはとても少なかった。

昔のことを、少し前にまとめたらしい書き物があったらしい。おそらく1000年ほど前には神代はもういたらしい。しかし、それが世間全般に出回ることはなく、ひっそりとずっと行われてきた。今も、《神代》は世間に認知されていない。当人や親族を除けば、本当にごく一部の人間しか知らないのである。




一月五日



年明け後、私はお休みを頂きました。その辺は・・・まぁ一応会社員なのでありがたく頂戴いたしました。

そもそも、家事の業務で主だったものは独身の神代の食事である。

家庭のある神代は、離れの家庭で、本当に一般家庭のように自分達で家事を行っている。たまに奥様が母家の台所にきて一緒におかずを作って分け合うこともあるけどね。家庭内で分担や決まりがあってそれぞれ家事を行っている。独身の神代も、家には一通りの家具がある。洗濯や掃除は自分で行っているのだ。


それを行いながら、この土地の中の工房で仕事をしている。


なので、私は買い出しや食事の準備、片付けがメインである。もちろん、他にも仕事はあります。

一般企業のOLみたく、経理的業務、事務業務もたんまりあります。それはそう。だって、食費とか、光熱費とか、《費》がつくものがあるんです。お金の管理もあります。


とりあえず、四日まではお休みを頂きました。その間の食事は、大量に準備したおせち料理で皆さんに過ごして頂きました!




「やっと・・・やっとおせちから解放されたよ〜」

長月さんが朝から泣きそうな顔をして喜んでいた。

「そんなに胃が辛かったんですか。無理して食べなくてもよかったのに」

長月さんには重かったか。これは今日にも七草粥を作らねば可哀想だな。今日の夕飯の献立に七草粥を加えよう。


「おせち・・!全部美味しかった・・盛り付けも綺麗だったし・・!僕はまだ食べる」

何かのフォローのように水無月さんが言ってくれた。ありがとうございます。

「美味しいのは美味しいんだよ〜でもね〜水無月、おじさんにはもうちょっと重くてさぁ・・・」

「あ、ごめんなさい」

「あ、待って、謝られるとなんかつらい、謝らないで」

長月さんが水無月さんから顔を背けた。純粋な謝罪が辛いのだろう。水無月さんは普段からお酒は飲まないし、この年末年始も大して飲んでない。普段から健康の見本のような生活を送っている水無月さんは、33歳を過ぎてなお胃もたれもなければ肩こりもあまりないらしい。


「水無月がおかしいんだよ〜俺、そんなにおせち食べてないのにすごく胃が疲れてるもん〜」

皐月さんも、長月さん同様に胃腸に不調を感じたらしい。そうだろうよ、大晦日の日にはこの人おせちは伊達巻を酒のつまみのメインにしていた。他のおせちは本当に一回箸を伸ばした程度だった。後はお酒である。それが昨日まで続いたのならば当然の結果だ。他人の私が皐月さんの胃袋を可哀想に思う。

「お水飲まないからだよ・・・」

項垂れてる皐月さんの隣で水無月さんが呆れたように言った。

全くもっていい歳した大人たちの自業自得なのだが、流石に彼らの身体(カラダ)に同情したので、早速今日のお昼は消化に良いメニューにすることを伝えてなんとか仕事へやる気を出してもらわねば。


「今日のお昼は本当にさっぱりしたものにしますから!皆さん朝ごはんは無理して食べなくていいですけど、倒れないくらいには食べておいてくださいね」

「・・・結ちゃん、この人たちに甘すぎるよ・・・」

水無月さんは自分の両隣にいる長月と皐月を見ながら言う。当日に食事のメニューを変えるのは大変だと知っている水無月さんの、私への労いの言葉なのです。

「頑張って働いてもらわないと困りますからね。生産性落ちると給料の額と割に合わなくなるんで」

「え、俺を心配してくれてるんじゃなくて金銭的な事・・?!」

自分の心配をされたわけでなく、体調不良ゆえの仕事での生産量低下の方が心配だと思った皐月さんが、子犬のように愛情が欲しいと言わんばかりの顔で私を見てきた。


「朝からウルセェ二日酔い、さっさと食え」


声の聞こえた方を見れば、母家の玄関に繋がる扉を開けて如月さんが入ってきた。

「お寝坊さんの如月が突然辛口〜!!」

「米くれ」

「嘘でしょ?!無視した挙句に自分でよそれば?!」

「おはようございます如月さん」

「半分で」

「マジで会話なり立ってないのに進めるのなんなのもう!!」


お正月のめでたい雰囲気がまだ少し残りつつも、普段から母家での朝食はこんな感じです。

本日から仕事始めです。さっきから一言も喋らずに黙々と凄い量の朝食を食べている弥生さんと神在月さん。

寝坊した如月さんも来て、全員揃って朝食です。

先月までと違うのは、この朝食に《睦月さん》がいないこと。


「どうぞ」

「ん」


私は、半分よそったご飯茶碗を隣に座っている如月さんに渡した。


「んって何よ!”ありがとう”でしょ?!」

皐月さんはまだ如月さんに突っかかる。けど、これはじゃれているのです。


「頂きます」

「そこはちゃんと言うんだ・・・」


如月さんは、食べ物に対してはとても礼儀正しい。箸を揃えて持ち、手を合わせて目を閉じて食べ物に真摯に向かう。



ここに、睦月さんが加わるのは、来月。二月になってから。

しかし、二月になると言うことは、次は《如月さんの番》である。


「来月は・・・如月さんですね」

「あ?あぁ」

「寂しくなりますね」

「ならないでしょ!普段からコイツ喋らないんだから!」

「あっ私、来たのが四月だから、如月さんがいなかったことがないからなんて言うか」

「もしかしたら3月になった時に居なかった事気づかないかも待ってそれ明らかに俺のだし巻き卵だから!!」


如月さんが、喋るのを辞めない皐月さんの好物の卵焼きを奪った。











「さて・・・今日から仕事始めなわけなのだが・・・!」



休むのは確かに嬉しい楽しい・・・。しかし、その分、その間の仕事は止まっているわけである。

まず、ゴミ出し。ごみの分別は私がきてから口うるさく言った甲斐があってやっと各自で分別できるようになった。独身勢のごみの分別のできなさと言ったら・・・!

そして、その離れ分の燃えるゴミを本日、今から出しに行くのです!年末年始は業者だって休みます!なので、今日の燃えるゴミはいつもの倍以上です!!


「いでよ!リヤカーー!!」


各家庭ででたゴミ袋を大きなゴミ袋に無理やりまとめます。敷地が大きかろうが住んでる人の数が20人を超えてようがなんだろうが、”家庭ごみ”として出します。この地域は有料ゴミ袋に入れれば無限にゴミ袋を出していいわけではないのです。数に限りがあるので、無理やりまとめます。そして、まとめた重いゴミ袋を、大体100メートル先の敷地の端まで持っていきます。なのでリヤカーです。


リヤカーの中で、大きな袋に小さいゴミ袋をたくさん詰めます。そうしないと最後持ち上げてリヤカーに乗せるの大変なんですから!ゴミの重さを侮ってはいけませんからね!


なんとかリヤカーに乗せ切ったゴミを、さて敷地の端まで持ってきます!ゴミは8時半までに出しましょう!でも、今日みたいに仕事始めの日はどこの家庭もゴミ沢山だろうから回収の時間遅れそうだけどね!


重いリヤカーを押しながら舗装されていない少しガタガタとした道を行く。緩くカーブを行くと、隣の家が見えてきた。


「あら!結ちゃんおはようございます。あけましておめでとうね。今年もどうぞよろしくお願いします」

隣の家のおばあちゃんもゴミ出しでちょうどお家を出てきた所だった。


「あけましておめでとうございます!こちらこそ今年もよろしくお願いいたします!」

「まぁまぁ、リヤカーから袋が落ちそうね。いっぱい載せて力持ちねぇ〜」

「予想はしてたんですけどやっぱり凄い量になりました」


お隣の大楽寺(だいらくじ)家のおばあちゃんとの朝の挨拶は私の癒しの時間である。忙しいから長い時間は話せないが、円滑なご近所付き合いも大事である。個人的にも嬉しいし、これも仕事の一つでもある。


それに、おばあちゃんからは色んな知恵を教わるので、とっても貴重な時間でもある。この間は、皮がバラバラになりにくいみかんの皮の剥き方教えてもらっちゃったもんね。



「じゃあ、今日も一日頑張りましょうね!」

「はい!今度、郷土料理教えてくださいね!」

「いつでもいらっしゃいな」



リヤカーからゴミを降ろして、おばあちゃんに挨拶をしたらすぐに母屋に戻ります。

これからまず食器の洗い物をします。とにかく時間との勝負なので、走って戻ります。




神代の方達は、8時過ぎから順次仕事を開始します。神社に卸す品物を作るのです。

縁起物の御守りや破魔矢、破魔弓、しめ縄、神楽鈴など。

12時の休憩で、全員揃って母屋で昼食を食べるので、それまでに私は洗い物、掃除、買い物、昼食の準備を行わなければなりません!

今は8時30分。12時まで3時間半、無駄なくきっちり時間内に終わらせて私もしっかり休憩を頂きます!!








「わぁ〜!嬉しい!鶏雑炊だよ〜!」

12時を過ぎて、長月が一番に母家の居間へやってきた。

「基本、鶏と椎茸のお出汁なのでくどくないはずですけど、もうちょっとさっぱりしたい方はスダチ絞ってください」

「スダチまだいっぱいある?!」

「お酒に使う分はないです」


キッパリ言い切ると長月さんはしょぼくれていた。信じられない、今夜も酒を飲むつもりか。

その後も、キリの良いところで作業を切り上げた神代が続々と居間へ集まった。昼食は休憩に入ったものから食べるので、全員揃って頂きます。という事はあまりない。



「うわぁ。豪華だ・・・」

「こりゃまた酔っ払い勢に随分と過保護な事を」

昼食のメニュー変更の度合いに驚いた水無月さんがまず驚き、神在月さんが過保護だと言った。いやいや、みなさんだってお節ばっかりだから知らずの間に結構胃腸を酷使しているので、酔っ払いのためだけのメニュー変更じゃないんですって。


「えー?なになにー?そんなに俺に愛情を注いだお昼ご飯・・・うわ、俺凄く愛されてる、結ちゃん結婚し」

「皐月、腹の調子悪いなら消化に悪い卵食ってやるから」

「如月!俺が卵大好きなの知ってて朝だって食べたでしょ!!やるわけないんだからな!!」

続いて部屋に入ってきた酔っ払い第二代表の皐月さんが冗談半分に軽口を叩こうとした。が、予想を超えた量に驚いてまた冗談を言い始めた時に如月さんが遮る。



元々今日のお昼の献立は、さっぱりめの味付けにはするつもりだったけど、根菜を使ったり、おせちにはあまり入れなかった塊のお肉料理にしようとしてたのだが、体には良いものの消化には根菜もお肉もちょっと負担が大きい。朝の長月さんを見て、その料理は無理だと思った私はメニューを大幅に変更した。



「鶏雑炊はお好みでスダチを絞ってください!後は、なるべく胃に優しいものにしました。七草粥用の七草を使ったお吸い物ですので、汁物は絶対に飲み切ってくださいね。あとは切り干し大根に、かぶら蒸し、茶碗蒸しとポテトサラダです。ほうれん草のお浸しとカボチャの煮物はまぁ、消化にいいかはわかりませんが栄養素的に摂っておいて下さい」



「なんか、至れり尽くせりだね」

キラキラとした顔で弥生さんが言う。多分この人は全部食べ切っておかわりするだろう。凄く大食らいなのだ。

「去年までの茉里ちゃんが随分とさっぱりした性格だったから、あまりこういう気遣いってなかったからね」

「あぁ、茉里ちゃん・・・」

茉里ちゃんとは私の従姉妹である。私の母の姉、叔母の娘でとんでもなくさっぱりとした・・・竹を割ったような性格と言いますか。とにかく、「私の作ったもの食べたくないなら食べなくてもいいけどその代わり自分でどうにかしてよね」と言うタイプ。


「茉里ちゃん超美人なんだけどね〜!めっちゃ怖かった!」

怖かったと言っている皐月さんは、もう目の前の鳥雑炊を楽しみにしているのかウキウキした顔である。

「でもあれだけテキパキして仕事できるのにゴミの分別が誰よりも苦手って面白いよね頂きまーす!」

「そこが可愛いポイントなんじゃないか、皐月はまだ若いからわかってないな〜、あれだけの美人で仕事ができるのにゴミの分別ができない・・!そそるよねぇ〜」

「まだ酔っぱらってんのか早く食え」




まずは朝と同じ顔ぶれが揃って食事が始まった。

今日は既婚勢の神代たちがやってこないな。と思っていたら今の扉が開いた。


「結ちゃん、あけましておめでとう。挨拶が遅くなってすまないね」

師走(しわす)さん!いえいえとんでもないです!」

年越しは各自、離れである自宅や、奥様の実家に帰っていた神代勢が次々に挨拶をしてくれる。

最初は師走さん。36歳既婚者でお子さんは二人。言い方が悪いかどうかはわからないが、どこにでもいる普通のパパである。一般企業にいそうな好青年タイプだ。師走さんは、十二月の担当の為、三十一日の正午まで本殿にいたのである。お子さんもいるのにイベントは一緒に過ごせない。三十一日は担当が完了したらすぐに自宅へ帰っていった。


「ごめん、結ちゃんが五日までお休みって聞いてたから斎服は後で渡すね、よろしくお願いします」

「あぁああ、気を遣わせてしまってすみません。ありがとうございます」


斎服は回収して防虫のため草で燻すのです。



「あけましておめでとうございます、今年もよろしくおねがいしますね」

文月(ふづき)さん。39歳。男の子3人の父。ダンディここに在りです。おかしい、長月さんの方が年上なのに文月さんの方が・・・おっと失礼。


「結ちゃん、去年は妻が本当にお世話になりました。今年も仲良くしてあげてください!」

葉月(はづき)さん。37歳。男の子三人の父。奥様が料理がちょっと苦手らしく、ちょくちょく一緒に作ってます。ちなみに、三人目のお子さんは去年お産まれになりました。

「あけましておめでとう!うちもうちも!本当なんかいつも話聞いてもらってるみたいで助かるよ〜!」

霜月(しもつき)さん。29歳。こちらも男の子二人の父。神代の奥様の中では一番私と歳が近いこともあり、よく話しかけてくれます。


「みなさんご丁寧にご挨拶ありがとうございます!私こそ去年はきたばかりでご迷惑をおかけしたことが沢山あったと思います。良くして頂いて私の方こそありがとうございます。今年もよろしくお願いいたします」

「みんな〜挨拶も大事だけど美味しい鳥雑炊が冷めちゃうよ〜!」




皐月さんの言葉で後から来た神代達も食事を始めた。

12月は師走さんが担当でこの間には居なく、睦月さんが居た。こうやって順番にみんな今年も担当をしていくんだなと思いながら、私も一緒に昼食を頂く。





「あ、ポテトサラダ思ったより美味しくできた」




色々あるけど、現状にそこそこ満足しています。

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