表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/5

第3話 デートしちゃた…

 ヘッセンシャール新公爵との、面会というかお見合いというかを、とても無事にとはいえない状態で終えた翌朝。

 公爵からわたしあてに、家中にでも飾りきれないほどの花束が届いた。


 そして花束を届けてくれた高身長の執事さんが、公爵からの手紙をわたしに渡し、


あるじからです。必ず、お目を通していただきたい」


 と、こわいくらいの眼力と口調でいった。


 そこまでされるとゴミ箱にぽいとはいかず、というか「早く読みなさい」とかすお母さまの圧には勝てず、わたしは手紙を開きました。


 そこには、


「五日後の朝に迎えの馬車をよこすので、良かったらそれに乗ってお一人できてほしい」


 というようなことが、とても普通の幼女には理解できない難しさで書かれていました。


 あの人、本当にわたしを子どもだと思ってないのでしょうか……?


 手紙の内容を両親につげると、お母さまは安心したように脱力し、お父さまは複雑な顔でテーブルに置かれていた固くなったパンをかじりました。


「緊張して泣いてしまったと聞いたときには、冷や汗が出ましたよ。ですが公爵は、あなたに良い印象を持たれたようですね。安心しました」


 お母さまの言葉が理解できず、


「なぜわかるのですか?」


 わたしは確認します。


「わかります。これほどの花束を謝罪で女に送る殿方は、いらっしゃいません。これは女心をつかみたい殿方のすることです」


 そうですか。

 すみません。前世は喪女で、今世はまだ幼女なので、わかりませんでした。


「どうでした? 公爵さまは」


 ソファーに深く腰を下ろし、お母さまがたずねます。


「すてきなかたでしたよ? かっこいいですし、やさしかったです」


 わたしは子どもっぽく、「かっこいい」と答えます。

 実際彼は、かっこよかったです。


「でしたら、なぜ泣くなどという失礼をしたのです」


 そうですけど、泣こうと思って泣いたわけじゃないんですけど。

 勝手に出ちゃったんです、涙。


「きんちょう……してしまって。だってわたくし、ちゃんと話したことのある男の人は、お父さまとおじさまくらいですよ?」


 おじさまというのは、お母さまのお兄さまのことです。騎士団で中隊長というお仕事をしているみたいです。

 中間管理職でしょうね。キツそうです。だからいまだに独身なのでしょう。


「あれほどかっこいいかたは、きんちょうします」


 泣いたことは、どうにかごまかさないと。


「あなたのお父さまも、ステキだと思いますけれど」


 ため息まじりにお母さま。


「それは、お母さまだからそう思うのです。わたしくにとってお父さまはお父さまで、男の人ですが男性ではございません」


 お父さまだって、かなりイケメンの部類だと思います。

 現在の年齢だって、前世のわたしと同じくらいですし。


 でもなんというか肉親なので、異性を感じることはないです。

 一緒にお風呂に入っても平気ですしね。


 これまで黙っていたお父さまが、


「ココネ、お前はどうしたい?」


 どうしたいって……。


「おことわりできるのですか?」


 わたしの言葉に、頭を抱える両親。

 この様子だと、「できない」で決定しているみたいです。


 公爵が持つ〈直感のスキル〉が、彼に「わたしを妻とするよう」にと囁いた。


 公爵本人がいうには、それがこの結婚話の始まりです。


 結婚というのはピンときませんが、あのかたが素敵でかっこいい人だというのは、わたしにもわかりました。


 あと、ちょっといい匂いがしました。

 男の人に「いい匂い」を感じたのは、前世も含めて初めてです。

 きっと、高価な香水をふりかけていたのでしょう。


 とはいえ、恋愛の経験値をつむためにも、わたしは行動しないといけません。

 ですので、


「わたくし公爵さまのことを、もっとしりたいと思います」


 彼の「おさそい」を、受けてみることにしました。


「では、お返事の手紙を送りませんとね」


 キラーンと光る、お母さまの目。


 ……え? 返事?


 わたし、お返事の手紙なんて書けませんよ?

 そんな勉強は、まだしてません。


「お送り、しませんとね!」


 強い眼光をわたしに、ぷっすっ! ぷっすっ! と突き刺すお母さま。

 わたしは目をそらすこともできず、


「……は、はい」


 そう答えるしか、ありませんでした。


 で、五日後のお迎えの馬車には、


「おはようございます。男爵令嬢」


 ヘッセンシャール公爵本人が乗ってきていて、馬車に乗るだけだと油断していたわたしに、抱えきれないほどの花束を渡してきました。


 また、花束です。

 この人、花好きなの?


 彼の訪問は予告もなく突然でしたが、思ったより動揺どうようはありませんでした。


 この五日間、彼のことばかり考えていたからかもしれません。


「おはようございます、公爵さま」


 生後2500日記念のときに両親から送られた淡い桃色のドレスは、正式なものでなくカジュアルに着るもので、お母さまがいうには、


「このようなときに着るのが正しいのです」


 らしいので、今日はその新しいドレスを着ています。

 というか、着せられています。


 このドレスかわいいんですけど、すっごく幼女趣味というか子どもらしくて愛らしいデザインで、前世で29歳まで生きたわたしには少し恥ずかしいんですよね。


 ですが今のわたしは愛らしい幼女ですので、このドレスも似合っているのでしょうけど。

 ……と思うことにします。

 えっへん。


 公爵はわたしの姿を見て……というか凝視して、ふわっとした笑顔を作ると、


「やはりあなたは、とても愛らしいです。この数日間、あなたのことばかり考えていました。でもわたしの心に残ったあなたより、実際のあなたのほうが何倍も愛らしい」


 ふわぁ!?

 なにそれ、ホストなのこの人!?


 い、いや……ホストクラブなんて行ったことなかったけど、ホストっぽいセリフだよね?


 あっ、でも。

 やばい……わたし、ドキドキしてる。


 普通ならこんなこといわれたら、「この人、なにいってるんでしょう?」と冷めていくのがわたしなのですが、どうして?


 顔が熱い。

 胸が苦しい。


 公爵のお顔を、まっすぐに見れない。


「ありがとうございます」


 笑顔でそう返すのが、貴族の令嬢としての礼儀でしょ?

 なのに……どうして?

 言葉がうまく出てくれない。


 なんの言葉も返せないわたしに、公爵が左手を差し出す。


 男性から差し出された左手には、自分の右手を重ねるのが令嬢のたしなみだ。

 わたしは公爵に渡された花束をお母さまに渡し、空いた右手を彼の大きな手に重ねた。


 ギュッ


 予想していたよりも強い力で、公爵がわたしの小さな手を握る。


「もう離さない」


 そういわれてるようで、胸が……苦しいです。


「いきましょう」


 わたしの腕を引き馬車へと向かう公爵が、


「夜には戻ります」


 お母さまにそうつげる。

 お母さまは腰を折って頭を下げ、


「ご自由に、お連れくださいませ」


 え? それって、親公認での「お持ち帰りOKです」みたいな意味だよね!?

 でも公爵は、


「夜には、お返しいたします」


 お母さまに同じようなことをつげて、わたしを抱き寄せるようにして馬車に乗せた。


 馬車が動き出し、車内には向かいあうわたしと公爵だけになる。


「公爵さまは、なぜわたくしをお気にめしてくださったのですか?」


 それが彼が持つ〈スキル〉の囁きなのは聞きましたが、本当にそれだけなのでしょうか?


 わたしの見た目を考えると、「幼女趣味だ」といわれればそれはそれで理解できますけれど、このかたは「そういうの」ではない気がします。

 わたしの直感ですけど。


 なんというか、この人。


 わたしを「いやらしい目」で見ていない。


 そう感じる。


 わたしの問いに帰ってくる、


「フレイクです」


 彼の言葉。


「公爵さまではなく、フレイクと呼んでください。私もあなたを、ココネと呼びたい」


 ……やばいです。

 貴族階級の名前の呼び捨てって、「夫婦」か「婚約したもの」にしか許されてないはずですけど。


 どう、ごまかしましょう……?


 わたしは自分のかわいさを利用して、軽く小首をかしげて公爵を見つめると、


「それは、ぶれいになりますわ。公爵さま」


「フレイクです。ココネ」


 微笑む公爵。


 なにこれ、めっちゃ強引に攻めてくるんですけど!?


 というか、今世の名前の「ココネ」って、前世の名前と同じなんです。

 前世ではひらがなでしたけど。


 だから男の人に「ココネ」って呼び捨てにされると、ちょっと、ドキドキしちゃいます。

 前世ではなかったことですし。


 公爵の微笑みに、ぽーっと見とれるわたし。

 だって、すごくステキで、かわいいから。


 公爵は今のわたしにとっては年上の男性ですけど、前世のわたしからしてみれば、年下の男の子ともいえる年齢で、かっこいいとかわいいが混ざりあってるように思えます。


 わたしは、どうしたいのでしょう?


 自分でもわかりません。

 だから、無礼に当たるのは理解していましたが、


「フレイク……さま」


 恥ずかしくして彼の顔は見れなかったけれど、名前を呼ばせていただきました。


「はい。ココネ」


 わたしを呼びしてにする彼の声は、とても……嬉しそうに聞こえました。


 馬車は走る。

 どこに向かっているのかは知らされていなかったけれど、気にならなかった。


(フレイク……さん)


 心の中で「前世のわたし」が、彼を……そう呼んだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ