第7話 少しだけ変わった(?)日常②
第7話です!
「今度の日曜、デートしない?」
俺は、“恋人”である春川に、そう問いかけた。
それに対して春川は、
「えっ?」
と言って、固まった。
そりゃそうだよな、俺もこうすることになるとは思わなかったもん。
遡ること数分前───
「拓人、お前──」
「何だ?」
「春川さんと付き合ってるんだろ?」
「一応、な」
「なら──」
「なら?」
「次の土日のどちらかでいい、デートしてこいよ」
「はい?」
何て言いました?
「デートしてこいよ」
そう言って、親指を立ててきた。それに、イケメンな上に無駄に良い笑顔だから、余計ムカつく。
「何でだよ」
「お前ら、付き合ってるんだから、デートの一つや二つくらいしてきた方がいいぞ。そうしないと、周りもお前らのことを認めないだろうし、お前が何かされたとして、美久ちゃんが不安になってしまうだろ。それは避けたいだろ」
「それは、まあ……な」
美久に余計な精神的なストレスを与えたくはない。
「だろ?」
「そうだな、一応“恋人”だしな」
俺は席を立ち、教室の後ろの方で話している春川と瀬川の所へ向かった。
しかし、何だか瀬川が、以前より覇気がないというか、カースト上位の女子らしくないというか、びくびくしている。
そして、ある方向を向いた瞬間、その様子はより酷くなった。その方向とは、俺の後方だ。つまり、
「お前何かしたのか?」
「いや、何も。少し叱ってあげただけなんだけどね。“俺は”そこまでしてないよ」
“俺は”かよ。また祖父の力を使ったな?
遥輝の両親はいたって普通だ。しかし、父方の祖父が剣道の道場主兼師範である。(しかも強面の)
今は、孫にデレデレのお祖父ちゃんだが。その弟子が同じく“恐いお兄さん”方で、よくヤクザに間違われる。スキンヘッドの人なんか、3日連続で職務質問をされたと嘆いていた。
演技派の奴を使って、たまにいじめなどを行っていた奴をこらしめているらしい。
PTAに通報されないといいが。
「何を叱ったんだ?」
「ちょっと言えないな~」
恐ろしい奴である。
改めて、春川と瀬川の方に向かい、話し掛ける。
「なあ」
「ん?何?」
「こ──」
「ちょっとね、拓人が春川さんに話があるんだって!」
今話そうとしてたんだが。
「あ、ああ。あのさ、今度の日曜、デートしない?」
「えっ?」
「一応、俺たち付き合ってるしさ、そうしたことも必要なんじゃないかなって」
「ああ、そういうこと。ごめ──ん?」
「どうかしたか?」
「いや、なんでもないよ。分かった。じゃあ、待ち合わせ場所は何処にする?」
「中央駅北口前で良いか?あ、午前のな」
「分かった」
何とか約束を取り付けることに成功した。
朝の会話はそれで終わり、俺たちは別々にそれぞれの席へと戻っていった。
────放課後────
しかし、最初のデートって何処に行くべきかまるで見当がつかない。ここは、
「遥輝、最初のデートって何処にいけば良い?」
「知らね。だってお前と一緒で付き合ったこと無えもん」
役に立たない奴である。
「そういえば俺たち今日はバイトのシフトだろ?」
「そうだ」
「じゃあ急いで、店へ行くか」
「はあ………」
ホント、嫌になる。
そう心の中で呟きながらため息をついた私の頭には、今朝の“恋人”の発言である。
『一応、俺たち付き合ってるしさ、そうしたことも必要なんじゃないかなって』
ウソの告白で始まった関係だが、桜庭拓人という男子は女子にまるで興味なさそうで、そこまで嫌いにはなっていなかったのだが───
「やっぱり、身体目的なのかな?」
そういう疑念が消えない。
私の血縁上、父親にあたる男がそうだったから、そういうことに関しては敏感な私だ。だから、その言葉を言われた時も、
「ごめん、やっぱり付き合えない」
っていうふうに、断るつもりだったのだが、制服の袖を強く引かれ、後ろを見れば、また佳歩が怯えた表情で首を横に大きくブンブンと振っていた。断らないで!、という意味なのだろう。
はあ
内心、ため息をつきながらも、
まあ、一回だけなら
という気持ちで約束した。
モヤモヤとしたこの気持ちをスッキリさせるためにも、受験勉強で、ここ最近行ってなかった行きつけのカフェへ向かった。
佳歩も誘ったのだが、即却下されてしまった。
カランッ
「いらっしゃいませ~」
聞き慣れない声である。従業員の一部が変わったのだろうか?
──でも何かこの声、聞いたことある声だな──
声のした方を振り向くと、そこには、店の制服を着て、他の客に飲み物を出しているウェイター姿の“恋人”の姿が。
「「え~~~」」
今度は違う奴とハモった。
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