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ドラゴンインストーラー  作者: 魚妻恭志郎
5/12

最後のざまあと最初の旅路

ぼくとカエデは目を覚まして食事処へと赴き、昨晩と同じくらいの量を(カエデが)食べ始めたところで、冒険者ギルドの職員が大声で食事処へ飛び込んできた。


「た、大変だっ!古の洞窟にドラゴンが出た!!」

「「「「「えええええええっ!!!」」」」」


大騒ぎする店内、慌てて逃げ支度をする商人、怯え竦む冒険者。

それはそうだ、ぼくの鑑定ではレッサードラゴンだったけど、ドラゴンはドラゴンだ。

そんなものが出たらSランク冒険者じゃなきゃ対処出来るわけない。

そして初級冒険者ばかりがたむろするこの村にはSランクなんていない。

大きな町からSランク冒険者が派遣されるまでにこの町が襲われないという保証もない。

だからこの騒ぎは当たり前のものだ。

カエデはその中にあっても落ち着いてご飯をバクバクと食べている。

まぁ・・・そのドラゴン討伐したの、カエデだし。

出現した報告も討伐したという報告もしたけど誰も信じてくれなかったし。


「レッサードラゴンくらいでやかましいなー」


などと言いつつミソスープを飲むカエデ。

そりゃバハムートからしてみればレッサードラゴンなんて相手にならないんだろうけど。

Bランク以下の冒険者や非戦闘者の避難勧告が出る中、食べ終わったカエデは店のおばさんに勘定を払うと伸びをしていった。


「んじゃ、行くか」

「ど、どこに?」

「冒険者ギルド」

「なんで・・・?」


不思議に思って聞くぼくに、カエデはニヤッと笑って返した。


「最後の詰めだよ」



意味深なことを言って、酒場の横にある冒険者ギルドへ足を運ぶカエデ。

それについていくぼく。

木造の扉を開いて入ると、そこには命からがらといった風に床に四つん這いになっているアインと、それを支えるマロン、悔しそうに手を握るコルダの姿がそこにはあった。

みんな、無事だったんだ。よかった!

パーティのみんなに話しかけようとして近づくぼく。

おっと、話しても聞こえないのか。そう思っていると。


「ルチアーノは死んじまった。俺達をかばって、ドラゴンに食われて・・・」

「あたしたちは止めたのに、あの子は必死になって・・・」


・・・え?

ぼくは思わず固まってしまった。

何を言ってるんだ、みんな。

確かにぼくは、最期は死を受け入れたけど、みんなはぼくを見捨てたじゃないか。

おまえなんか死ねって、言ったじゃないか。


「あたしたちの大事な、大事な仲間だったのに!」

「何もできなかった自分たちが許せないよ」


口々に、思ってもいないことを言って自分の保身にはしるみんな。

ああ。

ぼくはこんな人たちを友達だと思っていたのか。

こんな人たちのために荷物持ちや雑用を頑張ったのか。


前までのぼくならそれでも彼らを信じたかもしれない。

でも、いまのぼくは。

いじめられていたことを自覚したいまは。


「―――許せない」


一人そう呟くと、カエデは小さく笑って頷いて、大仰に声を出した。


「よう、おかえりアイン、マロン、コルダ」


カエデの声に、ビクッとして振り返るパーティのみんな。

ぼくとカエデの声はだいぶ違うと思ったけど、みんなには同じ声として認識されてるみたいだ。

つまり、みんなはぼくが生きて話しかけてきたと、そう思っている。


「る、るる、ルチアーノ!?」

「な、なんでここにっ!?」

「た、確かにあのとき・・・!」


がたがたと震えておののくみんな。

そんな彼らへカエデは、


「なにビビってんだ?確かにあのとき、何だよ?」


追い詰めるように、静かに狩りをするかのように、語りかける。


「あ、あの時おまえは、死んだじゃないか!ドラゴンに食われて、死んでたじゃないか!」

「死んだ?何の話だ?」

「と、とぼけないで!あのときあたしたちが―――」

「―――死ねって言ったら、勝手に死んだんじゃない!!」


ざわ、と騒然となる冒険者ギルド内。

カエデは。

ニヤァと笑うと。


「そうだ、おれは死んだ。おまえらが役立たずは死ねと言ったから。助けてくれなかったから。おまえらが殺したんだ、おれを。ルチアーノを」


威圧するかのように。

そう言うので。

ぼくは、ぼくも。


薄く実体化して、アイン達の首筋を触る。


「ナンデ、ボクヲ―――ミステタノ?」


「ぎぃやあああああああああああッッ!!!」

「イヤアアアアッ!イヤアアアアアアアアアアッッ!!」

「た、助けてッ!助けてえええええええッッ!!!」


阿鼻叫喚とはこのことか。

前後から迫るぼく(ルチアーノ)の影に発狂したのか、三人はその場で泡を吹いてのたうち回る。

既にカエデの姿は冒険者ギルドの中には無く、幻をみたのかと錯覚したギルド職員たちはハッと我に帰るとアイン達を落ち着かせるために押さえつけ始めた。

カエデがどこに行ったのかは精神で繋がっているから分かる。

真上だ。

ぼくはふわりと浮遊すると天井を抜けて屋根へと透過して登っていく。

そこには、屋根の上で座っているカエデの姿があった。

おそらく人に気付かれないよう超高速でここまでやってきたのだろう。

リアリティを出すためにそこまでやるかなぁ。

・・・でも。


「ありがとう、カエデ。おかげでちょっと、すっきりした」

「おう」


ぼくは手だけ実体化させて、カエデと拳を合わせた。

これで。

これでこの村に、思い残すことはない。


「ありがとう、トカチ村。そして・・・」

「行こうぜ、新しい冒険へ!」


ぼくとカエデは、ふたりで思い切り天へ拳を突き上げたのだった。



※※※※※※



誰にも見つからないようにトカチ村から出たぼくたち。

その脱出経路はもちろん、空だ。

とはいっても今度は翼を広げて飛んだわけではなく、文字通り飛んで。

というか跳んで。

つまり、カエデはとてつもない長さのジャンプをして、ぼくはその後を追って飛行して。

トカチ村から逃げる商人や冒険者、一般人の行く街道から少し離れた道へと着地したのだ。


「おうおう、大量に人がいるな」

「みんなドラゴンから逃げるのに必死なんだよ。もういないと分かっていても、いないことが確認されるまでは混乱が続くと思うよ」

「となると、あすこの道を使っても渋滞で簡単に進めそうもねえな」


両手を頭の後ろで組んで、カエデは仕方なさそうに溜め息をついた。

そんな彼にぼくはクスリと笑って、


「空飛んで行くとか言うかと思ったよ」

「あれやると服破れるからな。あの村の服は結構気に入ったのが多いから、勿体ないだろ?それに、全裸で空飛ぶのはちょっとなあ」

「そういうの気にするんだ・・・」

「・・・おまえ、おれを野生児かなにかと勘違いしてないか?」


ジト目で睨んでくるカエデ。

だって、これまで人間の姿したこと無いって言ってたからさ。

じゃあドラゴンって基本裸なんじゃないかって思って。


「いいか、ドラゴンの身体は見せびらかすためにあるんだよ。だから何も着なくてもいいが、人間の裸なんて貧弱で見れたもんじゃないだろうが。竜神界でもドラゴンの姿は裸、人の姿は着衣と常識が決まってんだよ、知っとけ」


はぁ、そうなんだぁ。ドラゴンはそれでいいんだぁ。

ていうか人間の身体が貧弱って・・・。

一生懸命身体鍛えてる人がかわいそうだよ。

でも、種族によって常識が違うって言うのはよく分かったよ。


「さて、カムイのババアが言うには北を目指せってことだが。どういう経路でいくべきか」

「ふと思ったんだけど、カムイ様から他の円帝七竜神様に連絡して、ぼくの身体について聞いてもらうことは出来ないの?」


確か竜神界は七階層に分かれていて、それぞれの階層に円帝七竜神が住まわれているという話だったけど。

階層ごとに連絡手段がないなんて思えないし、もしかしたらそっちの方が手っ取り早い気がするんだよなぁ。

するとカエデは目を細めて、こいつ何も分かってねえなみたいな顔をした。

な、なんだよぅ。


「一言で言うとだな、おまえ、何様だ?」

「う、う?」

「あのな、円帝七竜神であるカムイがおまえに気を回してるのはおまえが一応カムイの眷属だからだよ。他の竜神がカムイの眷属が困ってるから助けてくれったって、そんなもん知るか自分でなんとかしろって話だろうよ」

「あっ、そ、そうか」

「そうなると他の竜神に力を貸してもらうにはどうすりゃいいって、自分で努力して場所を探して自分でお願いしに行くのが筋ってモンだろが。それで話を聞いてくれるか半々ってところだぜ」

「ひぇぇ、神様にお願いするのって大変だぁ」

「当たり前だ。そこまでやっての神頼みってやつだぜ」


ぼくは、ぼくの旅がとてつもなく大変な道だということが今更分かった。

それはそうだよね、自分の子供のためなら力を尽くすけど、他人の子供のためにお金を出せって言われても出せないよね。

人間の世界でもそうなんだから、神様の世界じゃもっと厳しくて当然だよ。


「分かったか?旅しなくていいんだったらあの洞窟で決着がついてんだよ」

「う、うん。ぼく、頑張るよ」


気合を入れ直して、ぼくはカエデと山へ向かって歩き出した。

歩くといってもぼくは浮いてるんだけど。

でも、そのおかげでほとんど道なき道を北へといくカエデの足についていくことが出来ている。

ぼくだったら足を取られてすっ転んでいるであろう蔦や沼も、関係なく力任せに進んでいくカエデ。

その後を追いかけるぼく。

歩かなくていいとはいえ、息も絶え絶え。

幽霊でも体力があるんだなぁとしみじみ思う。

やがて半日くらいで山の頂上へと辿り着く。

まったく息を切らしていないカエデとは反対に、ぼくはかなり疲れてる。

生きている頃よりマシかもしれないけど、体力無いなぁ、ぼく。


「おい、大丈夫か?休憩するか?」

「う、うん。ごめんねぇ」

「やれやれ、ちょっと待ってろ」


カエデは一本の大木へと近づくと、両手をパンと合わせて祈る様な仕草をする。

刹那。

すぱんっ、とその木を手刀で横薙ぎに切り裂いた。

ぐぐぐ、と傾いて倒れる巨木。

その切り口は綺麗で、まるで何日もかけて斧で切り倒したかのようだ。

や、やることが派手だなぁ。

そこへ腰かけると、カエデはぼくに水筒を要求した。

ぼくはアイテムボックスから三本の水筒のうち一本を取り出すと、カエデへ渡した。


「ゴクゴクゴクっ、ぷはあ、美味えなあ!」

「美味しそうに飲むよねぇ・・・」

「当たり前だ、食わねえ飲まねえ奴はいつになっても強くなれねえぜ」


その理屈で言うといまの飲み食い出来ないぼくはいつになっても強くなれないじゃないか。

ぼくは少し空へと浮くと、山の木々の上から下の景色を眺める。

大きな湖と森、その奥に街らしき集合体が見える。

ぼくはカエデのもとに戻ると、街があることを知らせた。


「ああ、だろうな。人の気配のある方へ進んでたからな。おれの足であと1日ってとこか」

「人の気配?そんなの分かるんだ?」

「おう。大体の方角にいくつ、みたいな形でわかるぜ。例えば―――」


カエデは静かに後ろ方向へと親指を向けると、不敵に笑って言う。


「そこに魔物が3匹いる。大きさから言ってマウンテンバイソンだな」

「えっ―――」


聞くが遅いか、ぼくが何か言うよりも先に黒い塊のような影が三つ、カエデへ襲い掛かってきた。

大きな二本の牙、黒い毛皮、直径3メートルありそうなボディ。

カエデの言う通り、マウンテンバイソンと鑑定された魔物が宙を舞う。

対して、カエデは逆立ちするように木の幹に手を付けて、そのまま足を広げて回転して見せた。

すると、マウンテンバイソンの首が、流血しながら胴体から切断される―――!


「ひ、ひぇぇっ!」


ぼくは思わずその光景に逃げ腰になってしまう。

ま、マウンテンバイソンっていえば、Cランクの冒険者が徒党を組んで討伐してくる魔物だ。

トカチ村の酒場にも丸焼きで出るくらい、余すところなく美味しいと評判。

そんな魔物を、あれだけの動きで倒しちゃうなんて・・・!


「おいおい、こんなんで驚くなよ。レッサードラゴン殺ったところも見てるだろが」

「そ、それはそれ、これはこれだよ。やっぱりカエデは強いんだねぇ」

「まあこの程度じゃ自慢は出来ねえけどな。それより、晩飯がやってきたぜルー!」

「え、ば、晩飯?」

「おう、このマウンテンバイソンだ。これから解体するぜ」

「か、解体ーーーっ!?」


た、確かに解体のためのナイフなんて買ってたけど!

それだってナノラビットやウェアバードみたいな小さい奴だと思ったのに!


「なに驚いてんだ、おまえのアイテムボックスなら入るだろ?」

「ま、まだ容量は大丈夫だけど、大丈夫だけども!」

「じゃあ問題ねえな」


突然巨木の切り株の上で開催される、マウンテンバイソン解体ショー。

切り落とした首から肩口にかけてナイフを入れて皮を落としていくカエデ。

うっ・・・こ、これは、見たくない!

エグくてグロいよ、もう!


「ふんふ~ん♪ちゃんと処理すれば内臓も美味いんだよな~♪」

「いいよ説明しなくてー!黙ってやってー!」

「折角の素材だ、きちんと解体して売ればおれたちの食いぶちにもなるんだぜ?」

「いまぼく食べなくても生きていけるからー!」

「死んでるからな」


カエデの手さばきは素早く正確らしく。

3頭のマウンテンバイソンを解体するのに2時間程を費やし、夜はこれを食べると息巻いていた。

はぁ。

しばらくマウンテンバイソンは食べられそうにないよ。

いろんな意味で。


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