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ドラゴンインストーラー  作者: 魚妻恭志郎
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クソッタレな育て親から全てを奪え

ぼくの身体に入ったドラゴンについていくとぼくは思った。

それをちょっと後悔しつつある。


まず先立つものが必要だと言ったカエデは、いまだ伸びているゴミまみれのおばさんを無視して宿屋に入ると、ぼくの案内を受けて店主のおじさんの部屋へといくと、いくらか片付けられた部屋とベッドを眺めて頷いた。


「よし、今日はこの部屋にしておくか」

「な、なにが??」

「おれたちの寝床さ」


勝手に入ってきて勝手なことを言うカエデ・・・というかぼくの身体を見たおじさんは、苛立たしそうに椅子から立ち上がってこちらへ向かってきた。


「おいルチアーノ!小汚い格好で宿に入るんじゃないぞ、マヌケが!」


殴りつけようとしてきたおじさんはしかし、勢いよく殴りつけた拳をカエデの頭突きのカウンターで砕かれることになる。


「ぎ、ぎゃあああっ!!」

「うるせえぞ、っと」


悲鳴をあげるおじさんを放っておいて、窓をあけたカエデはそこからおじさんを外へ投げ飛ばした。

な、なにやってるのおおおおっ!?

急いで窓の外をみると、地面に落ちて伸びているおじさん。

生きてはいるみたいだ。

パンパンと手を叩いたカエデは、満足そうにベッドに横たわりその感触を確かめると、今度は机の引き出しを開けるとおじさんというか宿屋の金庫を引っ張り出した。


「おらっ」


竜の指先のようなオーラを出して金庫に突き刺し、無理矢理鍵をあけたカエデは中から大量の金貨が入った麻袋を取り出して床へ置いた。


「よし、ルー。アイテムボックスに入れろ」

「入れないよっ!?きみのやってることは強盗だからねっ!?」

「馬鹿言うな、明日でこの村を離れるんだから退職金を貰うだけだ。いままで散々こき使われてきたんだろ?このくらい貰わないと割に合わないぜ」


まるで正当な権利があるとでも言いたげなカエデ。

ううっ、そんな事いわれても。


「おまえが要らねえってんならこの金貨はブレスで燃やすか」

「だっ、ダメダメダメっ!!分かった、入れるよぅ!」


ドラゴンブレスの準備として大きく息を吸い込んだカエデに慌てて実体化し、麻袋を掴んでアイテムボックスへしまうぼく。

カエデはやるといったら本当にブレスで燃やすだろう。

ごめんなさい、おじさん。

このお金は保護という形でぼくが預かります。


「よし、寝床と金は確保した。次はメシだ、行こうぜ」

「ええっ!?」


カエデはポケットからぼくの財布を取り出すとのしのし歩いて宿を出ていく。

ああっ、そういえばアイテムボックスに入れてなかった。

外へ出ると村の人がおじさんとおばさんが伸びているのを見て集まってきていたけれど、カエデは我関せずと言わんばかりにこの村で唯一の食事処へと向かっていく。

トカチ村の食堂はイコール酒場で、冒険者やら商人やらがいっぱいたむろっている。

まだ古の洞窟が吹っ飛んだという情報は届いていないのか、そんなに慌ただしくもない。


カエデは注文口に行くとメニューを見て、適当に注文を並べていく。


「まずエールをピッチャーでくれ!それとオニオンポテトサラダとベックドードーの照り焼き、ロックディアーのタタキもくれ!マウンテンバイソンの丸焼きなんてのもあるんだな、これもくれ!あとアサルトピグレットのレッグ煮込みとフライドミート!それがおかずで、主食はドライブコンドルのフライドライスを5人前で!」


ちょちょちょちょっ!

食べすぎ!食べすぎだよカエデ!


「なんだいルチアーノ、そんなにお金あるのかい?」

「金の心配はいらねえよ。ちょうど臨時ボーナスが入ったところだ!」

「おっ、そうなのかい。冒険者ってのは儲かるんだねぇ」


そんな会話をしてから調理に入る酒場のおばさん。

い、いつもそんなに食べてないでしょ!なんで今日に限って不思議に思わないの!

などと届かない声を張り上げている間にカエデは料理を席へとどんどん持って行ってガツガツと美味しそうに食べ始める。

た、食べられないぼくへの見せしめなの?って思うほどに勢いよく、ニコニコ食べる。

そして本当に元はぼくの身体なのってくらい入る入る。

やっぱり胃袋もドラゴン級に強化されているんだろうか。


30分もたたずに注文を食べつくしたカエデはお金を払うと(当然ぼくのお金じゃたりなかったので宿屋の金貨から払った・・・)、次は服だと言って洋服店へ向かった。


「背中が出てる服がいいな!翼生やしたら破れちまうからな!」


などと言いながらご機嫌に10枚くらいシャツとジーンズを選び、頑丈なブーツやベルトを買い、念のためにと黒のレザージャケットを買って羽織る。

背中だけ空いた服なんて売ってなかったよ。


「いいなこのジャケット!こいつは脱いでから翼出すようにしよう!」


などとご機嫌で金貨を払い、次に向かったのは武器屋だ。


「ぶ、武器なんて使うの?」

「馬鹿言え、戦闘用じゃねえよ。おれの手じゃ加減が効かねえ時のためにナイフが必要なんだよ。主に魔物の解体とか外での料理に使う」

「ちゃ、ちゃんと考えてるんだ・・・」


カエデは品揃えを右から左へと眺めると、武骨で大き目なアイアンナイフと手のひらに収まるメスのようなナイフを購入して腰のベルトに差し込んだ。

大雑把な作業用と細かい作業用ってわけだね。


ここまでの経緯で感じたことだけど、カエデは破天荒にみえて意外と理知的だ。

知性もドラゴンだから高いってことなのかな。


次に向かったのは道具屋だ。

ここでは大きな水筒を3本と簡単な食器セット、携帯食料や調理器具セットを購入。

それと塩と胡椒。タオルも何枚か。

長旅にも耐えられるようになんだろうけど、その気になれば空飛んで別の場所行けるのに。


「おれだって1日中空飛んでるわけにはいかねえよ。状況によっちゃ飛べねえ場所もあるし、こういうのはあるに越したことはねえのさ。ほれ、アイテムボックス開けろ」

「あ、うん」


買った商品をぼくのアイテムボックスに放り込んでいくカエデ。

すごいな、アイン達よりよっぽどしっかりしてるや。

妙に旅慣れているというか、手際がいいというか。

これもドラゴン特有のスキルか何かかな?


「竜神界だって街だけじゃないんだ、森やダンジョンなんかもある。そういうところで修行とかしてたら身に着いたってだけさ。おれは基本、バトルジャンキーだからな」

「へえ、修行!だからあんなに強いんだね!」

「まあ人間の身体で料理や解体はした事無いが、そこはそれ、慣れだな」


ドラゴンの姿で旅して料理して解体とかするカエデを想像するとちょっと楽しい。

などと思いながら道具屋を出ると、何やら物々しい雰囲気が。

ぼくらを、というかカエデを取り囲むように冒険者が数名、武器を構えてやってきたのだ。


「な、ななな、なにっ!?」


ぼくが狼狽していると、目を覚ましたらしい宿屋のおじさんとおばさんがカエデを指差して、


「あ、あいつよっ!無抵抗なあたしたちに暴力を振るったのは!とっちめてやって!」


冒険者ギルドに駆けこんだのか、そう言って叫んでいる。

ああ、どうしよう。

ぼくが慌てて右往左往していると、カエデは髪をかき上げて言う。


「おれはそいつらにいつもゴミを投げつけられて、暴力を振るわれて、罵倒されて、ずっといじめられてきた。そういう事を日常的にやってきたそのジジイとババアは罪に問われないのか?」

「そ、そんな事我々がするわけがないじゃないか!そいつは嘘をついている!」


泡を食ったように金切り声を上げるおじさん。

するとカエデはぼくの頭に手を掲げると、もう片方の手に魔力を集中して光る大きな球を宙に浮かび上がらせた。

するとそこに映像として浮かび上がる、ぼくが彼らからされた仕打ち。


『このクズが、生かしてやってるだけ有難いと思え!』

『本当に役に立たないね、このゴミが!』


そう口々に言いながら暴力を振るう姿、嫌がらせをする姿。

ぼ、ぼくの記憶を皆に見せているの!?

ドラゴンっていうのはそこまでできるものなの!?


「いや、おれが出来るのは自分の記憶の再生だけだ。だから、おれと一心同体のおまえの記憶はある程度再現できる」


カエデの解説を聞き、全部じゃないことにほっとするぼく。

一心同体っていってもプライバシーがあるもんね。

証拠映像を流されたおばさんとおじさんは顔を蒼白にして、


「ち、違う!これは嘘だ!こんなことはしていない!」

「そ、そうよ!私達がこんな・・・」

「冒険者ギルドとして、捕まえるのはどっちか。馬鹿でも分かるんじゃねえのか?」


カエデは冒険者の中でもリーダーらしい人の肩を叩くと、その瞳をキッと叔父さん、おばさんへ向ける。


「言い訳はギルドで聞こう。この映像にあったルチアーノ君の家を調べれば証拠はいくらでも出るだろう」

「そ、そんな!そんな事をしたら私たちの罪が!」

「おい馬鹿、言うな!」

「・・・語るに落ちたな。連れていけ!」


ギャーギャーと騒ぎながら冒険者たちに連行されていくおじさんとおばさん。

・・・ちょっとかわいそうなことをしたかな。


「何言ってんだ、これが正当な裁きってやつだぜ。おまえは甘ちゃんだな、ルー」

「じゃあ、お金取ったのは裁かれなくていいの?」

「ありゃ退職金だ」


悪びれなく言うカエデに、既に一部使ってしまったお金を戻す術はぼくには無く。

そもそも幽霊状態のぼくのアイテムボックスに入ってるって時点で完全犯罪になっちゃってるんだよね・・・はぁ。

事情聴取があるということで冒険者ギルドへの同行を依頼されて受諾するカエデについていくぼく。


結局、カエデ・・・というかぼくが受けていた暴行や嫌がらせの罪に問われておじさんとおばさんは後に奴隷落ちの刑に処されるだろうとの事。

カエデが過去の映像を見せた事に関してはレベルアップにより会得したスキルの一点張りで通した。

ちょっと無理があったよなぁ・・・。

あとカエデが取ったお金は冒険者ギルドへ渡そうとしたところ、おじさん夫婦に子供がいないということで、扶養家族扱いのぼくが受け取る事となった。

多少使われている事に関しては経緯を考慮してご愛嬌ということで処理してもらえた。

本当は駄目だからなと何度も釘を刺されたけど。


「さて、明日出発する準備も出来たことだし、寝るとするか!」

「もう、カエデは無茶苦茶だよ・・・あやうく犯罪者になるところだったし」

「何言ってんだ、計算だよ計算」


カエデはおじさん夫婦の部屋のベッドに寝転ぶと、すぐにグォーグォーといびきをかいて寝始めてしまった。

・・・ドラゴンのいびき、うるさいなぁ。

そう思いつつも、ぼくも流石に眠くなってきたので、もうひとつのベッドで眠ることにした。

幽霊の身体でも眠くなるんだなぁ。

それにしても、今日は色んなことがあった。

なにしろ死んじゃったし、生き返ったと思ったら幽霊状態だし。

でも、カエデやカムイ様に会えたのは良かったと思う。


そんな事を思いながら眠りについて、翌日。

トカチ村へ戻ってきたアイン達によって、古の洞窟にレッサードラゴンが現れたという報せが冒険者ギルドへ舞い込んだのであった。


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