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ドラゴンインストーラー  作者: 魚妻恭志郎
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目覚めた眷属たち

洞窟の中にレッサードラゴンの方向が響き渡る。

全身は白く、鱗が赤茶けた、全長6メートルほどはありそうな巨体。

その爪は大きく鋭く、威嚇するように吐かれたブレスで洞窟内が軋んで大きく穴を開ける。

ぼくは、ぼくたちパーティは、想定を超える存在感を持ったモンスターの登場に、絶望感から口を閉じることが出来なくなっていた。

だって、ドラゴンだ。

ぼくは鑑定というスキルを持っているからわかる。

ようやく先日Fランクに上がったばかりの初心者パーティのぼくたち。

たとえ劣化種のレッサードラゴンとはいえ、Sランク超えのパーティじゃないと太刀打ちなんて出来るわけない。


本来、ぼくらは町はずれの古の洞窟1階層に屯っているゴブリンの討伐に来たはずだった。

タンクでリーダーの剣士アイン、ウィッチのマロン、プリーストのコルダ。

そして、役立たずだけどパーティに入れてもらったぼく、荷物持ちのルチアーノ。

地元の村で集まった幼馴染でみんな人族。

よくいじめられていたぼくだったけど、いつもみんなが引っ張ってくれて。

たまたまアイテムボックス持ちだったぼくが、少しでもみんなの力になりたくて。

やることは雑用ばかりだったけど、みんなが喜んでくれるなら嬉しかった。


そんなぼくらが、薬草集めや羊の毛刈りといった小さな依頼をこなしてようやくFランクに上がってすぐ、ゴブリン討伐の依頼が舞い込んできたんだ。

リーダーのアインは喜んでそれを承諾して、1日かけて初級冒険者の狩場である古の洞窟へとやってきた。

ゴブリンの討伐自体はすぐに終わった。

ぼくはおたおたしながら見ていただけだったけど、みんなが力を合わせて、抜群のチームワークでやっつけてくれたんだ。

ゴブリンがドロップした薬草なんかをぼくが拾い終わると、アインは初めての依頼をこなせたことに興奮したのかこう言ったんだ。


「俺達ならもっと先に行ける!この洞窟を制覇してやろうぜ!」


ゴブリンを倒せて自信がついたのか、マロンもコルダもそれに頷いた。

でも、ぼくは怖かったから一度帰ろうって言ったんだけど。


「なんだよ、ビビったのか?何かあっても俺達が守ってやるから大丈夫だよ!」


そうアインが言ってくれたから、ぼくは頷いてついていくことにしたんだ。

でも、それが間違いだった。

松明に火をつけたぼくたちは、どんどん湧いてくるゴブリンを倒しながら先へ順調に進んだ。

ゴブリンたちはこぞって、まるで洞窟の外を目指すかのように襲ってきた。

気にせず進んでいったぼくらはとうとう、3階層まで辿り着いたところで―――。


ようやくわかったんだ。

ゴブリンが逃げてきていた理由が。

それがこの、レッサードラゴン。

ドラゴンはゴブリンを主食とするから、ゴブリンの住処であるこの洞窟に入り込んだんだ。

そして外へ出たゴブリンを目撃したギルドが、初級冒険者のぼくらに討伐を依頼したんだ。


ドラゴンの咆哮を聞いて身体がすくむぼくたち。

逃げようとしたけれど、出入り口をドラゴンの結界で阻まれて逃げる事も出来ない。

そこに威嚇のドラゴンブレスだ。

洞窟内が崩れ、上に穴があいて空が見える。

アイン達は瓦礫を伝って登れば、結界が張られてない上なら逃げられると思ったらしい。


「マロン、コルダ、逃げるぞ!」

「と、当然よ!あんなの勝てるわけないわ!」

「早く!早く登ってぇ!」


群れて逃げようとするゴブリンを押しのけて瓦礫へと急ぐパーティ。


「アイン!ぼ、ぼくは!?」


ドラゴンに恐れをなして腰を抜かしたぼくは必死にアインに手を伸ばす、が。


「お、お前なんか助ける暇はない!ドラゴンに食われちまえ!その間に俺たちは逃げる!」

「そ、そうよ!いままで役立たずだったんだから、こんな時くらい役に立ちなさい!」

「あたしたちのために死んでよ、ルチアーノ!」

「・・・!」


そっか。

やっぱりみんな、そんな風に思ってたんだ。

ぼくは役立たずだって。

でも。


「・・・分かった、みんな、早く逃げて!ぼくが食われてるうちに!」


ぼくは覚悟を決めた。

みんながぼくを迷惑に感じていたというのなら。

役立たずって、困らせていたのなら。

ここで死ねば、皆が助かるのなら。


ぼくは、ここで食われて死のう。


ドラゴンは抵抗をやめたぼくに狙いをつけるとその鋭い牙をぼくの上半身に突き刺した。

痛い。

それだけで骨が砕け、血が大量に噴き出る。

お腹が破れて内臓が飛び出る感覚。

ドラゴンはいやいやをするようにぼくを咥えたまま首を何度も振って、吐き捨てるように地面に叩きつけた。

ああ、もう痛みも感じない。

それでも意識が残っているなんて、人間って簡単には死なないんだなぁ。

他人事のように思いながら遠のいていく感触。

そしてドラゴンは、とどめを刺すためにその掌で潰すようにぼくに体重をかけた。


ぷちん。


ぼくの身体は潰れ、そこで一度何も見えなく、感じなくなった。



※※※※※※



どのくらい経ったのだろう。

ぼくが眩しさに目を覚ますと、暗闇の中にいた。

目の前には白いローブを身に纏った、竜の翼を背中に生やした女神のような女のひと。

その美しさは溜め息が出るほど。

彼女は悲しそうな表情を浮かべると、ぼくに語りかけた。


「少年よ、あなたは死んでしまいました」


・・・ああ。

そうだった。

ぼくは、ドラゴンに殺されたんだった。

でも、無駄死にじゃない、みんなを守って死んだんだ。


「いいえ、あなたが守ろうとした仲間たちも、すぐ後を追うことになるでしょう。ドラゴンは執拗です。狙った獲物を狩るまではその手を休めることはありません」


えっ―――。

じゃあ、アイン達は。


「けれど、彼らはあなたを見捨てました。これは報いとなるでしょう」


―――それは、それは違います。

彼らは、役立たずのぼくの手を取ってくれたんです。

どんな理由でも、それがとても嬉しかった。

だから、ぼくは。


「彼らを、助けたいというのですか?」


はい。

ぼくは、みんなを助けたい。

助けるための、力が欲しい。

そう伝えると、女神さまは微笑んだ。


「あなたは優しいのですね。我が名は円帝七竜神(えんていしちりゅうじん)が一柱、カムイ。あなたたちが古の洞窟と呼んでいるその場所は私の加護を与えし場所。その中心で命を落としたあなたには、一度だけ私の眷属となることで蘇ることが許されます」


えっ・・・それじゃあ!


「そう、我がしもべ、バハムートの力を授かることであなたは竜神の使徒となるのです。その力で仲間を守るも自由・・・力の使い方は、あなたが選びなさい」


ぼくが・・・竜神の使徒。カムイ様の眷属。

分かりました、ぼくはその力を、みんなのために。

平和な世界を作るために使います!


「そう言ってくれると思いましたよ。さぁ、ではバハムートよ、こちらへ―――」


女神―――カムイ様が手招きをすると、黒い鱗の大きな竜が現れた。

全長10メートルはあろう巨体、レッサードラゴンなんかよりずっと威厳のある風貌。

巨大な四肢を持ち、流れるような尻尾は先端に行くほどに細く。

その竜は目を閉じているけど、きっとその瞳は鋭い眼差しなのだろう。


「まず、あなたの名前を教えていただけますか?」

「ぼ、ぼくはルチアーノです」

「そう。ではルチアーノよ、バハムートへ手を向けて私の言葉を復唱しなさい」


ぼくはカムイ様に言われるがままに、バハムートへ手を伸ばす。

そして、頭の中に流れるカムイ様の言葉を口にしていく―――。


「「我が魂、七天へ捧ぐ。朱き意思に鋼の心、この身を依り代に覇竜を宿さん」」


薄く閉じていた瞳を開き、そして。


「「現輪せよ、その名バハムート!!」」


やがて光が溢れ出て、ぼくとバハムートの全身を包んでいき―――。


「あっ」


最後に、カムイ様のしまった、という顔が垣間見えた。



※※※※※※



目が覚めると、ぼくは先程と同じ場所にいた。

生き・・・返った?

手を見て、お腹を見て、顔を触って、どこも異常がないことを確認する。

ほ、本当に生き返ったんだ、なら。

あの大きな竜、バハムートっていう竜の力を得たのかな。

ぼくは立ち上がると、振り返ってレッサードラゴンを睨みつける。

あまりの迫力に、卒倒してしまいそうになる。

けれど。


「大丈夫、ぼくは強くなった。カムイ様の眷属になったんだから」


ぼくは思い切り叫ぶ。

ドラゴンの咆哮のように。

そして勢いをつけて走り、レッサードラゴンを殴りつけようとして。


すり抜けた。


「あ、あれ!?」


ドラゴンをすり抜けて反対側へと出てきてしまったぼく。

ど、どうなってるの??

ぼくはレッサードラゴンの背中を触ろうとすると、やはりその手はするりと、まるで自分が透明になってしまったかのように突き抜けてしまう。


「え、ええっ!?ど、どうなって・・・えぇ!?」


そして気付く。

ぼくの足が無いことに。

元居た場所に、まだぼくが倒れている事に。

傷は治っているみたいだけど、ぼく、どうなっちゃってるの!?

まさか、魂だけの状態になって、身体に入っていないってこと!?


「ど、どうしよう、身体に入らなきゃ・・・うわっ!?」


しかしぼくがすったもんだやっているうちに、ぼくの本体を今度は踏みつけようとするレッサードラゴン。


「だ、だめえぇぇぇっ!!」


叫びもむなしく、そもそも聞こえているのかどうかも不明だけど。

レッサードラゴンはぼくの身体を、これでもかというほど何度も踏みつけた。

―――すると、どうだろう。


「痛ってえ!!痛ってえ!!なんだてめえ、ふざけんな!!」


ぼくの身体はひとりでに喋って、動いて、立ち上がって、レッサードラゴンの足を掴むと。

それを力任せに投げ飛ばしたではないか!

天井に頭をぶつけるも、飛行能力で洞窟内に着地したレッサードラゴンは、またも咆哮をあげてぼくの身体を威嚇する、が。


「うるっせえ!ギャーギャー騒ぐなトカゲ野郎!!うるあああああああああああ!!!」


逆に咆哮し返すぼくの身体!

その叫びで洞窟内は地震のように揺れ、天井がボロボロと落ちてくる!

岩がぼくに直撃するもやはりすり抜けてしまう。

ひるむレッサードラゴン。

ど、どうなってるの???

なんでぼくの身体が勝手に動いてて、ぼくが幽霊みたいになってるの!?


「ったくよお、何年寝てたか知らねえが、なんだこりゃ?なんで人間の体の中にすっぽり入ってんだおれは。まーたカムイのババアのイタズラか?」


え、ええええええっ!?

もしかして、ぼくの身体に入ってるのって、バハムートの方!?

だからぼく自身が追い出されて幽体離脱状態になってるの?

それにカムイのババアって・・・あんな美人な人になんてことを!


「まあいい、起き抜けの運動だ。このバハムート、カエデ様に手を出した事を後悔させてやるぜ!」


首をこきこき、指をぽきぽき鳴らしたぼくの身体は、凄まじい速度で地を蹴るとひるんでいたレッサードラゴンへと飛び掛かった!

空中で反転するとドラゴンの脚の形をしたオーラを纏って蹴り飛ばす!

ズドン!

派手な音をたてて蹴られたレッサードラゴンはそのまま壁に激突。

黒い血をゴボリと吐くと、威嚇ではない、ドラゴンブレスの体勢に入った。

だけどぼくの身体はそれを見るとニィと笑い、


「ブレスか。だが、このおれのブレスに対抗出来るかよ!こおおおおおおっ・・・」


空気を吸い込んだと思ったら、


「ばあああああああああっ!!!」


青白い炎の光がレッサードラゴンのブレスを貫き、そのボディまでも貫通していく。

ややあって光線が奔った箇所が大小さまざまな爆発を繰り返し、レッサードラゴンごと洞窟そのものを吹き飛ばした!

悲鳴と共に燃え尽きていくレッサードラゴン。

ぼくは口をパクパクとさせてその怪獣大決戦を見守っていた。

吹き飛んだ洞窟の破片や灼熱の熱気など、生きていたらそれだけで死んでいただろう。


「ふん・・・思い知ったかトカゲ野郎。これがおれの実力だ!」


ぼくは唖然としたままその場を動けなかった。

天国のお父さん、お母さん。

元気にしていますか?

ぼくも死んでしまいました。

死んだと思ったら生き返れると聞いたのに、魂だけになってしまいました。

そっちに逝ったら話したい事いっぱいあったんだけどなぁ。


現実逃避に近い事を考えながらふよふよ浮いていたら、ぼくの本体がぼくに気付いたのか、


「お?おまえはこの体の持ち主か?」


なんて話しかけてきた。

やっぱり自分同士だから見えるのかな。


「あ、あの、ぼくの身体・・・返してくれないかな・・・」

「んな事言われたって知らねえよ。文句は後でカムイのババアに言ってやろうぜ。それより、おまえ何て名前なんだ?」

「ぼ、ぼく、ルチアーノ・・・」

「おれはバハムートのカエデだ。よろしくな!」

「う、うん・・・」


手を挙げてくる陽気なバハムート、カエデくん。

こうしてぼくは一度死に、そして死んだままの状態で宙に浮くこととなり。

カエデくんとの長い長い旅は、まだ始まってさえいないのだった。


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