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魔女の棲家

 ヴィルドレットを乗せた馬車が王都を出発してから三日目――昼。


 ようやく旧アストロ帝国とラズア王国との国境付近に存在する通称『魔女の棲家』こと――エルブラム山を遠目から見える所まで来た。


 『魔女の棲家』を中心とした半径五キロ圏内には文字通り何も無い。 理由はその通称から、もはや説明は不要だろう。


 何も無い地平線上にただ不気味に(そび)え立つ、『魔女の棲家』。


「……噂通り不気味な山だ……」


 それほど高く無い山。しかし、快晴で美しい青空背景をもってしても、その気味悪さは決して損なわれる事は無く、まだ見ぬ『最凶最悪の魔女』の姿を想像しては、


「……やっぱ、師匠も連れてくれば良かったかな?」


 と、いつもの威勢の良さは何処えやら……いざ、噂の『化け物』を目前に怖気付くヴィルドレット。

 だが、そんな事はお構い無しに馬車は停車。


「――ヴィルドレット様、長旅ご苦労様でした。 到着です。」


 丁重にお辞儀をしてから、馬車を降りるよう促す御者。

 無駄にかしこまった礼節が逆に腹立たしいと思いつつも、ヴィルドレットは促されるままに馬車から降りようとした――その時だった。 突如として体が震え、足が全く言う事を聞かない。


 かつて無い恐怖感が己を襲い、戦う前から戦意を失う。


 このままではまずいと、とにかく己を落ち着かせる為に深呼吸を試みるが――


「ヴィルドレット様――」


 目の前の御者はそれを許さず、これまた丁重かつ、優雅な素振りで手の平を車内から車外へスライド。 要は「早く降りろ」という事らしい。


「わっかたよ!!急かすなよ! これから世界の為に命懸けの戦いに行こうと――」


「――――」


 ヴィルドレットの文句を、今一度の「早く降りろ」ジェスチャーで遮る御者。


 ここでも上品かつ優雅な素振りは衰える事なく健在で、腹立たしい事この上ない。

 たが、ここで幾ら苛立ちを募らせたところで、もはやどうしようもない。


 ヴィルドレットはため息を吐く事で気を取り直す。

 そして目の前の山へ視線を移し、「よし!」と一声、気合いを入れて――いざ行かん!! 


 遂にヴィルドレットはその地に降り――


「ではヴィルドレットサマごぶうんを――」


 ――立った瞬間、御者は適当なお辞儀と、流れるような棒読みで武運長久を口にすると、その後はそそくさと馬車へ乗り込んで、手綱を手に取り、颯爽とその場から走り去っていった。


 瞬く間に小さくなってゆく馬車の後ろ姿を何故か見送る立場で見つめるヴィルドレット。


「……あの、クズ野郎……生きて帰ったら絶対、殺す」


 そんな決意を胸に宿して、ヴィルドレットは遂に『魔女の棲家』へと足を踏み入れて行く――



 ◎



 一方、先程までヴィルドレットを乗せていた馬車は事なきを得、無事に帰路に着いた事でひとまず安堵する御者。


「ったく、あの野郎モタモタしやがって! 魔女が出てきたらどーすんだよ!」


 先程までの丁寧語はやはり上辺(うわべ)だけだったようで、後世に語り継がれるやもしれぬ英雄の事をまさかの『あの野郎』呼ばわりで吐き捨てる。 


「――ん?」


 そんな御者改め、クズ野郎の見据える前方に一台の馬車の姿が現れると、それは段々大きくなっていく――どうやらこちら側へ向かって来ているようだ。


「おかしいな……」


 クズ野郎は首を傾げる。それもそのはず、ここはまだ『魔女の棲家』からそう遠くない地点。

 前述した通り、何も無い。あるのは青い空と茶色の大地、そして、この馬車だけのはず。

 但しこの馬車が目指す先は王都。一方の正面から迫る馬車が向かう先には――


「……『魔女の棲家』しか無いはずだが……」


 もし『魔女の棲家』より更に先を目指していたとしても、その先に広がるのは、あの日、あの瞬間から時間が止まったままの旧アストロ帝国の残骸。


 そも、わざわざこんな進路を辿る時点で目的地など一つしかない。

 そんな考えを巡らせてる間にも互いの馬車は距離を縮め――

 

「ん? あれは……」


 その馬車の高貴な外装から(うかが)い知るに少なくとも一般人ではない事が分かる。


 そして、すれ違い様――馬車の後方部に目をやると、屋形の窓に一瞬映ったのは美しい女性の姿だった。

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