完結
『――大丈夫ですか?』
小波の音と同時に聞こえるのは聞き慣れた美しい声音だった。
(あぁ、俺はまたあの夢を見ているのか……)
『――こんな所で寝ていると風邪ひきますよ?』
(……ん?)
誰かに体を揺すられる感覚――
「――ッ!?」
「あぁ、やっと目を覚ましてくれましたね! 良かった。死んでんじゃないかと思ってヒヤヒヤしましたよ」
上から覗き込む様に語り掛けてきたのは夜空に浮かび上がる見知った美少女だった。
月光に照らされた銀髪は星空よりも美しく輝き、神秘的な瞳は微笑みを浮かべてこちらを見つめる。
そして、見知った美貌にの中にある幼さは心なしか知っていた美貌よりも色濃く出ていた。
「あなた、名前は?」
「お、俺はヴィルドレット……だが……」
「――そうですか。ところで、ヴィルドレットさん?」
「は、はい……」
状況が全く掴めていないヴィルドレットだったが、少女の呼び掛けに咄嗟の返事がでる。
「幾ら海風が気持ち良いからってこんな所で寝るのは良くないですよ?ちゃんと家のベッドで寝て下さい。」
「え?……海、風?」
ヴィルドレットは上体を起こして辺りを見渡すと、そこは見知らぬ海辺だった。更に自然な動作で上体を起こした事に対しても逆に違和感を覚え、己の胸へ手をやる。
「――――」
すると、そこにあったはずの貫かれた胸の風穴はキレイさっぱり無くなっていた。
「……どうなってんだ?」
「――??」
落ち着き無く辺りを見回し、己の胸に手を当てては困惑したヴィルドレットの様子に小首を傾げる少女。
「どうかしましたか?」
そう問われても、何もかも全てがわからな過ぎて返答に詰まらせる。
「え、いや……」
「――もう。 騎士様ともあろうお方がこんな所で寝て、おまけに記憶まで無くすなんてみっともないですよ?さては、お酒の飲み過ぎですね?」
少女はヴィルドレットの服装と状況から『酔っ払い騎士』と断定したらしい。
「それにしても凄い騎士服ですね。こんなの見た事ありません。もしかしてヴィルドレットさんって、凄い騎士様ですか?」
まぁ、間違ってはいない。確かに凄い騎士だ。世界最高峰の。
「あ、いや……」
「違うんですか?」
「君は俺が分からないのか?」
「すみません。もの凄く名の通った有名な騎士様なのでしょうけど、世間に疎いもので……」
少女の申し訳無さそうな態度にヴィルドレットもまた申し訳なさそうに応える。
「あ、いや……そういう意味ではなかったんだ。――そうか。うん……君は俺を知らない……か。 実は俺は今、この状況を全く把握出来ていない。全てが分からないんだ。」
「記憶喪失ですか?!」
「……そうだな。そう思って貰って構わない。故に、この世界について君が知っている事を出来る限り教えて欲しい。 あと――君は『終焉の魔女』という単語に身に覚えは無いかい?」
「……いいえ、知りません。」
「そうか……じゃあ、君の名前は?」
「シャルナと申します」
この少女はやはりシャルナだった。しかし、『終焉の魔女』については知らない。ただ、その単語を耳にした時に一瞬見せた彼女の物憂げな表情が少し気にはなったが、ヴィルドレットにはもっと他に知り得たい事が多すぎる為、追求する事無く次へ進む。
「今は正暦何年だ?」
「今は正暦五百二十五年です」
「――――」
シャルナの答えに愕然とするヴィルドレット。それもそのはず、ヴィルドレットが先程まで存在していた世界は正暦二千百十五年だった。つまり、シャルナの言う事が本当なのだとしたらヴィルドレットは千六百年前まで時間を遡った事になるのだ。
「君……歳は?」
「十五歳です」
「それは、生まれてから十五年という意味でいいか?」
「……え、えぇ。 その文字通りですけど……」
ヴィルドレットは『終焉の魔女』と呼ばれていたシャルナが千年以上前から存在している事を知っているが、何故それほどまでに生き永らえていたは知らない。
(どういった経緯かは知らないが、あれは『不老不死』を手に入れた者の姿……)
ヴィルドレットは『終焉の魔女』としてのシャルナの姿を思い浮かべながら目の前のシャルナの顔を見る。
(……あの時の『終焉の魔女』よりも少し若い……)
そして、よく見ると服装も見知った黒装束ではなく、白の洋服に黒と鼠色が混在したスカートを纏っている。
以上の状況からヴィルドレットは一つの仮説を導き出す。
「変な事を聞いてもいいかい?」
「……え、えぇ。」
「君……まだ『不老不死』ではないね?」
「……は?『不老不死』?」
シャルナはキョトンとした表情だ。
「その様子だとやはり普通の人間として生きているんだね?」
「……えぇ……」
変な事聞くと、前置きがあったにしてもあまりに不自然な質問の連続に目が点になる。
「……なるほど、そういう事か!」
ヴィルドレットはこの状況をシャルナがまだ『終焉の魔女』や『不老不死』となる前――つまり、普通の人間として生きていた頃まで時間遡行したものと結論付けた。
「……あの……何か勝手に『腑におちた!』みたいになってますけど……私の事置いてけぼりですよ?」
「あ……あぁ、すまない。でも、やっとこの状況を理解したよ。あと、俺が為すべき事もね。」
「……??」
もう、何度この顔をした事だろうか……シャルナは再びキョトン顔で小首を傾げる。
「シャルナ!」
「――ッは、はい!?」
いきなり名前を呼ばれた事に少し頬を赤らめながら反射的に反応を示すシャルナ。
「――今度こそ、君を幸せにするよ!」
「……はい?」
突然の告白じみた言葉に再びシャルナはキョトン顔で答えた。
「……あの……言ってる意味が分からないんですけど?」
「あ……あぁ、すまない……長年の夢が叶うと思ったらつい舞い上がってしまった……」
「また、変な事言ってますよ?」
シャルナからすれば全く意味不明のヴィルドレットの言動の数々。しかしながら多少なりとも耐性がついてきたようで少しだけ笑みが戻ってきようだ。苦笑いだが。
「あと、いきなり『君を幸せにする』なんて言われても私、困りますよ?」
シャルナはヴィルドレットの鼻の先をツンと人差し指で軽く突くと更に、
「……まぁ、悪い気はしませんけどね!」
と続けてからニコっと愛らしい笑みを浮かべるシャルナ。ヴィルドレットはそんなシャルナの笑顔に思わず顔を背ける。
「――――」
しかし、そんな照れるヴィルドレットをよそにシャルナは突然真剣な表情に切り替えると、真面目な口調で再び口を開く。
「それはそうと――、あなたは一体何者なんですか?」
「……あ、あぁ。俺か……俺は……信じて貰えないだろうが、君の未来を知る者だ」
「……私の未来はどんなですか?」
意外にもシャルナはその表情を崩さず、真面目な顔でヴィルドレットへ己の未来についてを問うた。
「君の未来は――」
ヴィルドレットは己の知る限りのシャルナの未来についてを話した。
シャルナからすればヴィルドレットのその話はにわかには信じ難い話のはずだが、シャルナはその話を黙って聞いた。
「国を滅ぼす魔女ですか……『終焉の魔女』……私はこの魔法でそんなにも恐ろしい事をするんですね。
実は、私は既にもう既に『魔女』と呼ばれています。あまりにも凄まじい破壊力を持つこのこの漆黒の魔法が私が『魔女』と呼ばれる要因です。」
シャルナはここまで話し終えると一拍の溜めを挟んで、
「……あの……私の未来を知るあなたにお願いです。私を、助けてください」
と、助けを乞う。
ヴィルドレットが今尚、その心に響き続けてるあの言葉――
――『クロ、私の旦那さんになってくれる?』
「あぁ。もちろんだ! 君の旦那さんになる為ならなんだってする!」
『魔女』に恋した『猫』と、『魔女』として残酷な運命を辿る事となる一人の少女との物語が、こうして始まった。
完結です。(※この作品のリメイク版を只今執筆中です。ストーリーもかなり改変していますので、連載が始まりましたらそちらの方もよろしくお願いします)
ここまで読んで頂きありがとうございます!実はこの作品は私が初めて書いた作品です。
この作品は当然伸びないでしょうが、この作品を糧にこれからまた新しい作品を考えて、いつか皆様に面白いと思って頂ける作品を生み出せればと思っています。精進します!
この度は本当にありがとうございました!




