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時間遡行

【シャルナの家】


 シャルナの啜り泣く声だけが家の中に響き、ヴィルドレットの亡骸を抱き締め、ただただ悲しみに暮れるシャルナ。


 人から愛される事に憧れ、ずっと夢見てきて、そして、ようやく叶ったと思った。


 シャルナは想像する――ヴィルドレットからの愛の告白を受け入れた後、二人で共に歩む人生がどんなものだったのかを……


 まず、己が『終焉の魔女』と呼ばれる存在である時点で、人並みに幸せな生活は送れなかったであろう。


 それでも、この家に一緒に住んで、二人だけの時間を過ごし、愛を育み、もしかしたら子供なんかも授かったりして……。そんな生活が待っていたのかもしれないと思うと涙が止まらない。


 一度は掴み取ったかに見えたその幸せは幻だったかのように一瞬にして消え去り、シャルナは再び『夢』から『現実』へと引き戻されるが、今更もうこの『現実(人生)』を孤独(ひとり)で歩く事は出来そうに無い。


「……ゼルダ。」


 シャルナが、呟くと、眩い光が家中を激しく照らし、神々しいまでに光輝く人形(ひとがた)のシルエット――最高神ゼルダが現れた。


「君からボクを呼ぶなんて珍しいね。 それにしても……うん。今回は本当に残念だったね」


 シャルナはヴィルドレットの亡骸を見つめながらゼルダへ感謝の意を伝える。


「……ありがとう……ゼルダ。 あなたのお陰なんでしょ? クロが人間に生まれ変われたのは」


「本当はダメな事なんだけどね……『ニンゲンになりたい』とあまりにしつこいもんだから、つい……。この男なら君の事を幸せにしてくれると期待していたんだけどね……」


「この人――クロはまた、生まれ変われるの?」


「そうだね。また、百年後くらいかな。」


 ゼルダの答えにシャルナは、「……そう。」と一言だけ返す。

 ゼルダはシャルナが今考えている事を悟ったかのように続ける。


「この男……いや、この『猫』の事だ。 百年後、また君の前に現れるさ。そして、その時にこそ幸せにしてもらいなよ。」


 『百年待てばまた会える。』


 そんな保証どこにも無い。しかし、ゼルダなりの精一杯の励ましの言葉。


 ゼルダのその言葉が気休めに過ぎない事を知った上でシャルナは再び感謝の意を伝え、


「ありがとう。ゼルダ……でももう、私疲れちゃった。あと百年……頑張れそうに無いよ。だからお願い……」


 そして、シャルナは最初で最後の頼み事をゼルダに託す――


「『不老不死』の加護を解いて。」


「……本気かい?」


 頷くシャルナにゼルダは続ける。


「言っておくけど。ここで死んだら君は今後一切、生まれ変わる事は無い。君は長く生き過ぎたんだ。文字通り死んだら終わりだ。それでも『死』を選ぶかい?」


 再び頷くシャルナ。その目は虚ろで、生きる気力を完全に失っている事が見てとれる。


「……分かった……」


 こうしてシャルナはヴィルドレットの亡骸を抱き締めたまま最期の時を迎えた。



 ◎



 『不老不死』の加護が解かれた事でミイラ化してしまったシャルナの亡骸。それを見つめながらゼルダは呟く。


「……すまなかった。シャルナ……ボクが間違っていたのかもしれない」

 

 世界に平和の秩序を持たせる為にシャルナに課せた使命――『神判』。


「シャルナ。ボクは君に頼り過ぎたのかもしれないね」


 その『呪い』のせいでシャルナは『幸せ』を知らずに死んだ。それも、永遠の死。


 ゼルダの中で後悔の念が湧き上がり、とある禁断の所業が脳裏に浮かぶ。


「……これだけは本当に、絶対にやっちゃいけない事なんだけどね……」


 ――『時間遡行(タイムリープ)


「クロ……君に託すよ。シャルナを今度こそ、幸せにしてくれ。 頼んだよ――」


 そして、二人の亡骸は光の粒になり、蒸発するかのように消えていった。



 ◎



「どうして……どうして、あんな化け物の事、庇ったりしたのよ!!」


 シャルナとヴィルドレットが消えた後、暗い森の中で一人泣き崩れるのは大聖女マリカ。


 教え子……いや、愛する男性(ひと)が取った咄嗟の行動の意味に――その行動がもたらした最悪の結末に――マリカはもがき苦しむ。


 頭の中で、ヴィルドレットへ想いを伝えた時のやりとりが呼び起こされる――


 『――俺には好きな人がいます』


 『――素敵な人なんでしょうね。その女性(ひと)は……』

 

 ――あの時、心の中で『世界一幸せな女性(ひと)』――、そう嫉妬心を抱いた相手(ライバル)の存在……


「……じゃあ何?!! 『終焉の魔女(あの女)』がそうだったとでも言うの!?」


 『終焉の魔女』の盾となり、己の魔術によって瀕死となったヴィルドレットは『終焉の魔女』と共に消えた。その事実が意味するまさかの可能性――


 そのまさかの可能性を、マリカの持つ『女の勘』が確信へと導く。



 ――あの日、ヴィルドレットへ想いを告白した時からある思い――


 『――その女性(ひと)になりたい……その女性(ひと)になってヴィルドレット(あなた)から愛されたい』


 そんな思いに対してマリカは必死に抗う……もがいて、苦しんで、涙しながらも、自分自身に嘘をつく。


 『終焉の魔女(あの女)』になりたい――


 そんな本音に支配されぬように……


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