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転生鉄道は語る  作者: taiki
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転生鉄道

「渋谷発横浜行き、まもなく発車します。」


東横線渋谷駅のホームは多くの通勤・通学客でごったがえしていた。エネルギーの塊のような小学生から疲れたサラリーマンまで多くの人達が所狭しとひしめきあっている。人口減少・高齢化が進み、低成長時代といわれて久しいが日本はまだまだ経済大国であり、都心部は活気がある。


俺はテツオ。鉄道マニアが大学を卒業し、好きが高じて鉄道会社に勤務した平凡な人間だった。ある朝、出社してデスクに座り、PCでメールをチェックしながらいつもどおりにコーヒーを飲んだ。そこで意識を失い、目覚めたら電車になった。なんでこうなったのかはわからない。


たぶん最近流行りの転生というやつだ。


スライムに転生したり、アイドルの子どもに転生したりと転生は多くの漫画や小説の題材になっている。「転生モノ」と呼ばれている世界観は、逃げ道のない若者が妄想に逃げる手段として生み出したというのが通説だ。だが、実際にそうなってみて、「転生モノ」は妄想ではなく、実体験にもとづく作品なのかもしれないと思うようになった。


電車になった俺は東横線の最新車両として渋谷から横浜まで毎日行き来する。俺の内部には液晶モニタがついて見やすい案内が出るし、車体も物理的に考え抜かれた効率的な形をしていた。マナーの悪い乗客や泥酔して嘔吐する客は乗せたくないが、その何千倍もまともな人達が職場や学校へ通うために利用していて、安全に運転されている。なんだかんだで生活のインフラとして愛されて、みんなのかけがえのない日常を支えている黒子的な存在だ。それが誇りでもある。


そんな毎日を10年ぐらい過ごした頃だろうか。東横線の車両は最新機に置き換わり、俺は地方の鉄道会社に売られることになった。


地方の鉄道会社は高価な最新車両を購入できないので、首都圏の鉄道会社から中古車両を買い取って再利用している。俺という車両は伊豆急行に買い取られ、再出発となった。次の路線は、静岡県の伊東駅から伊豆急下田駅までの海沿いを走る伊豆急行線だ。東京と違って晴れた日は綺麗な海を横目に海岸線を走り、夏には元気な家族連れが、冬には温泉旅行客が笑顔で楽しそうに乗車する。旅行客の足になるのは通勤用のメイン路線とは違った嬉しさがあった。


伊豆に来てから15年。潮風にさらされた車体は少しずつ故障が目立つようになり、車庫で整備員の世話になることが増えた。それでも乗客の笑顔とともに海沿いを走るのは気持ちよい。


さらに5年経過した頃にはなかなか仕事をもらえず、多くの時間を車庫で過ごすようになっていた。電車は人の命を預かって走ることもあり、健康なボディは大事だ。そろそろ俺も廃車になり、鉄くずにバラされて次の人生で頑張りたいと考えるようになってきた。自分で人生の終わりを自分で決められないツラさは人間であっても車両であっても同じようだ。


その翌年、俺は再び中古車として売られることになった。

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