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子供の成長は早い

Side ダナの森の魔女


子供の成長というのは早い。来た頃はまだハイハイすら出来なかった赤ん坊だった。そんなツェルはあっという間に歩くようになり、そして動物たちと戯れながら遊ぶようになった。そんな様子を見守っていた。


ツェルが来てから八年の歳月が経った。


時折送られてくるエイダからの街の物。それを見るたびにツェルは目を輝かせて『これは何!?』と聞いてくるのだ。時折、答えられないものもある。でもそれは精霊たちが答えてくれる。


まあ、残念ながらツェルは精霊たちの声を聞くことができない。多分、見ることもできていないのだろう。しかし、周りに居る不思議な存在が精霊であるのは分かっているらしく、それらを怖がることはなかった。


時折思うのだ、ツェルをこのままここに置いておいていいものかと。


その悩みは年々、膨らんできている。ツェルは無意識にいろんなものを吸収する。例えば、精霊がわざと落とした本があったとする。その本を読み切ってこの国の成り立ちや、周辺諸国との関係性など、その吸収力は尋常ではない。


この才能をこの森で終わらせたくはなかった。


「それで、(わたくし)を呼んだのかしら?」


目の前で優雅に紅茶を飲む真っ黒の魔女。エイダの街の魔女。彼女を知らない商人などいないだろう。彼女は様々な呪いの解呪に特化した魔女で、人の恨みを買った商人は彼女の恩恵にあずかることは多い。彼女の伝手であれば、ツェルに教育ができるのではないかと思った。


「ああ、私には伝手がない。しかも、この国は魔女を恐れている。」


イライジャ帝国、この国にはある諺がある。『悪い子は森の魔女にさらわれて、食べられてしまう。』というものだ。私が何かしたわけではない。しかし、人々からすれば私は畏怖の存在なのだ。


「……ええ、私の居る国とは違って恐怖の対象ね?」


彼女の居る国、そこでは魔女は尊敬される隣人なのだ。しかし、イライジャ帝国ではそうではない。だが、私はこの森から出れば魔女として生きることは難しい。この地に居るから私は魔女であるのだ。


「……わかった、と言いたいけれども、精霊たちが反対しているわ。そうね、あと四年、待ちましょう。」


今の今まで気づかなかったが精霊たちはエイダの周りで悪戯をしていた。彼女のヴェールなど、かなり引っ張られている。しかしエイダの言葉に周りの精霊たちは落ち着いたようだった。


「ダナ!!ウサギ捕れたよ!……、って誰?」


勢いよく帰って来たツェルにエイダは驚いたようだった。こんなに大きくなっていたのか?というような表情だろうか?


「まって、ダナ。この子は坊やじゃなかったかしら?」


そう言いつつもエイダの瞳が光った。確認するために鑑定眼を使っているのだろう。


「ああ、間違いなく男の子だが?」


(わたくし)、確か少年用の服も送っていたと思うのだけれども……。」


「……嫌がるんだ。私の服がいいとごねるので、仕方なく、私の古い服を着せている。」


そう、ツェルは私の幼い頃に着ていた黒いローブを着せて、長く伸びた金の髪は切ることなく伸ばして、三つ編みでまとめている。一見するなら間違いなく可憐な少女だ。


「まあ、それは直させないとよ?どうしても嫌がるなら貴女の服で人形でも作りなさいな。」


そう言ってからエイダはツェルの姿を視線に捉えた。そしてエイダはドレスの裾を持って、ツェルに頭を下げた。


「初めまして、ではないのだけれども初めまして。(わたくし)はエイダの街の魔女。貴方のお母様と同業者よ。」


こういった挨拶が貴族のものだということは知っている。時々、エイダはそう言ったところのお嬢さんではないかと思った。まあ、もう年齢も年齢だからお嬢さんはおかしいが。しかしエイダの姿を見たツェルは私を盾にするように隠れてしまった。


「あら、やっぱり(・・・・)ダナが好きなのね。まあいいわ。しばらくしたら来るわ。」


そう言い残したエイダは去っていった。少し気になったようにツェルは私のローブを引っ張った。


「ねえ、ダナ。」


「どうかしたかい、ツェル。」


「ダナは僕の『お母様』なの?」


先ほどのエイダの言葉からそれを聞いて来たのはすぐに分かった。それに対して私は笑いかける。


「正確には『母親代わり』であって『お母様』ではないよ。ツェルのお母様は、ツェルが生まれた時に亡くなったからな。ツェルが大きくなるのを空から見てくれているよ。」


私はこのことにだけは嘘を吐く。独りでいるときは嘘など必要なかった。だが、ツェルには必要な嘘なのだと、心に言い聞かせていた。



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