息子であったはずの者
Side イライジャ皇帝
双子が生まれた時、予言が下りた。
『二人を一緒に育てれば国は滅びる。だが、殺してはならない。』
その予言に従い、私は息子を外に隠した。だが、残った方の息子はわがまま放題で、皇帝としての素質は感じられない。どうするべきかと考えていたが、年々、そのわがままは増長していった。
もう一人、隠した子を呼び戻した。
非の打ち所がない息子だった。教育も、礼儀も、そして素質も。だが、向けられる視線だけは、もう一人と比べ物にならないほど、冷たかった。
包囲された皇城。その指揮官が優秀な息子。その指揮下には帝国騎士団、帝国魔道師団も入っている。
「外を見て落ち着いておられるとは、腐っても皇帝ですね?」
響いた声。ここは帝座の間で、皇后と二人、抱き合いながら振り返った。そこには騎士団長、魔道師団長、歴戦の騎士と名高いランベルト・ロジェ子爵。
そして息子が居た。
「わ、私は予言に従っただけよ!!ツェルを捨てる気なんて、なかったのよ!!」
泣き叫ぶ皇后。しかしその様子を見た息子は冷たく笑った。
「なるほど、その『予言』とやらは正しいですね。あなた方に捨てられたからこそ、俺は真人間に育った。あなた方の所に居ればもう一人の第一皇子が増えていましたね。」
「ツェル、考え直せ。私たちは家族だろ?」
最期の希望とばかりにその言葉を放った。しかし、息子は冷たい視線を向けたままだった。
「俺がダナ……魔女殿から教わった言葉で面白い言葉がある。『覆水盆に返らず』。」
息子はそういいながら、私と皇后の近くまで来る。その傍に置いてあったのはゴブレットに入ったワイン。息子は躊躇なくそれを床に落とした。
「一度ひっくり返った器の水は元には戻らない。水は俺と皇族だ。俺を捨てた時点で、もう戻らないのさ。」
息子が手を上げれば、騎士団長と魔道師団長は私と皇后を拘束した。
そして私たちはそれから8年死ぬまでの間、何もない丘の宮殿に幽閉されることとなった。もう一人の息子がどうなったのか知ることもできなかった。




