目には目を歯には歯を
Side ツェル
あの広場の一件で、イライジャ帝国には外国からのニュースがたくさん入ってくるようになった。その中には精霊王の加護を受けた人間を殺した国が滅びた、という話も入ってきた。そして俺はこの国がどれほど排他的で、古びた考えが広がっていたのだと知ることになった。俺が皇太子になってから4年、18歳の誕生日を迎えた。成人することになったのだ。
「ふふ、おめでとう、ツェル・サルバトーレ・イライジャ殿下。」
ニコリと笑ってカーテシーをしたのは『エイダの街の魔女』だった。魔女と会うのは久しぶりだ。真っ黒なドレスとヴェールの主に、今日は魔女として来てもらっている。
「そういうのはいい……」
「あら、『坊や』の方が良かったかしら?」
「……まだ、その方がマシだ。」
「あら、意外。」と呟きつつも、魔女はジッと俺……の膝の上で真っ赤になっているダナを見つめた。幸いにも、侍女たちが近場の俺しか表情が見えないヴェールを選んでくれているので、ダナの顔は俺以外には見えない。
「まあ、精霊王は粋なことをしましたわ。まさか坊やの傍に居れば精霊王の加護を受けられるようにするなんて、二人を引き離さないようにする気ですわね?」
「やっぱりそうなんだな。」
「確かに森の方が加護は受けやすいですが、坊やの傍ならば森と大差ありませんわ。良かったですね、ダナ?」
ニコリと唇が歪む。その姿を見つつ、何度か膝から逃げたがるダナの腰を抱いていた。
「エイダ、お前楽しんでいるだろう……。」
まるで蚊の鳴く声、というような弱々しい声でそう言った。魔女はその様子に「楽しんでなどいない、愉快に見ているだけで。」と答えた。そんな他愛のない会話をしているうちに、スッと魔女の視線が鋭くなった。
「そう言えば『第一皇子』はサンチェス王国に出征したのですってね?」
ふふふ、と笑いを漏らす魔女。第一皇子は一応、皇族には残っていた。これは皇帝の候補として残ったのではなく、皇室の一員として役に立てるかとの見極め期間だった。しかし、それを理解できない馬鹿とその側近は無謀にも隣国のサンチェス王国へ出征した。あの国の王は屑だが、王妃はなかなかにやり手だ。
「ああ、まあ、ルイスを付けさせて、『王妃だけには手を出させるな』と命じてあるから大丈夫だろう。おかげで俺は容赦なく他の皇族を排除できるからな。」
「なるほど。では最後の仕上げをするわけですわね。それにしてもこの国は変わりましたわね。魔女をここまで敬う国になるとは……頭が変わると国というのは本当に変わりますわ。」
話を変えた魔女に、俺は頷いた。4年間で一番変えたのは魔女に対する感情だ。逆の意識を持たせるようにした。
皇太子妃を敬わねば、土地は廃れる。逆ならば栄える。
事実、精霊王に限らず、精霊たちはそれを完遂した。おかげで、今のダナは敬われる存在に変わった。図らずして、この魔女もそう言った存在になったが。
「まあ、そう言うわけだ。俺たちが幸せなのは分かっただろ?」
「疑ってなどおりませんわ。ただ、ダナは自覚しないとですわ。自分に何かあれば、貴方の旦那はそれこそ世界を滅ぼせてしまう力を持ってしまったのですからね?馬鹿な真似は2度としないことです。」
ニッコリ、そう笑った彼女は少し怖いほどの迫力があった。確かにダナに何かが起きたら俺は世界征服しても止まらないかもな、なんてことを思った。
「さて、仕上げとするか。行ってくるな、ダナ。」
そう言ってから彼女の頬にキスを落とした。昔は俺がやられていたが、最近は俺がやることが多い。その触れた部分をどうしていいのか分からないダナは唇が触れた場所を指でなぞるのだ。
そんな様子を見ながら俺は下で待つ軍勢の元に来るのだった。
「皇太子殿下、準備はつつがなく。」
そう言ったのはリーツ伯爵だった。
「リーツ伯爵。すまないな、ルイスに損な役回りをさせて。」
「はは、我が息子は喜んでその汚れ役に飛びつきましたぞ?それに息子を助けるために、戦いの前から伏線をはっておられる。」
「……ルイスは俺の騎士だ。他はどうでもいいがルイスは必ず取り返すさ。」
周りには帝国の騎士団、魔道師団、それと元ロジェ商会の従業員であった、ロジェ子爵の騎士団。
「ツェル殿下、オーウェン王国の王とは話が付きました。国を取った暁には、国交を結ぶと書面にて約束下さった。」
そう言ったのはランベルト。彼の父はオーウェン王国の外交官。ランベルトに子爵位を渡し、イライジャ帝国の外交官として秘密裏に密約を結んだ。あとは俺が皇帝になるだけなのだ。
「では、作戦通りに……遂行せよ!!」
俺の号令と共に声が上がる。この国が待ちに待った、国盗りだ。




