最期の朝ほど綺麗な晴れ
Side ダナ
朝はいつものように日の出と共に目が覚めた。今日死ぬのか、苦しいのは嫌だな。ギロチンかな、それとも魔女だから火炙りかな。なんて他人事のように思っていた。外を見上げられる窓から見えるのは雲一つない青空。
コツ、コツと音が聞こえる。その主を確認すれば、傲慢そうに笑う皇子だった。
「皇子殺しの魔女よ。時間だ。」
あー、楽に死ねないかも。そんなことを思いながらも表情を変えないようにした。あんまりこの男の前で取り乱したりしたくないな、と漠然と思った。
「来い。」
その言葉に従い、付き人なのか、騎士なのかわからないが男たちに腰を縄で拘束された。無理矢理と言うほどではないが、多少強く引っ張られながら牢から出る。地下から上がる階段。そこから出れば空は青く、そして綺麗だった。
「綺麗だな……」
呟いた言葉に、周りは驚いたようだった。それもそうか。これから死ぬ人間がそんなことを言うとは思わなかったのだろう。
どうやら歩かされ続けた先は広間だった。周りよりも見やすくするような台が置かれて、そこにあるのは斧を持った男たち。あー、処刑台って斧で切る系か。痛いな。
そんなことを思っていれば、乱暴にその台の上に転がされた。
「ふん、命乞いでもすればいいものを。」
まるで悪役の捨て台詞だな、なんて思って笑った。皇子はそれが気に食わなかったらしく、私の髪を掴んだ。転んでいた私の顔はその男に顔を上げさせられる。
「何を笑っている?」
「嗚呼、すまない。君が三下の捨て台詞を吐くものだからつい面白くてな。」
笑ってそんなことを放った。自分の心臓の音が少しずつ遠くなるような感覚。嗚呼、これは殺されるが先か、死ぬが先かという状況になったらしい。
ならば、ポンコツな身体よ、せめて殺されるまで耐えてくれ。
「皆の衆、聞け!!」
思ったよりも思いっきり髪を引っ張られ、見上げた先には多くの人がいた。見上げた先から向けられるのは悪意。
魔女というのはイライジャ帝国では悪意を向けられる存在。分かっていただろう?理解だってしていただろう?今更傷つくことなんてない。
「この『魔女』は恐れ多くも我が弟を殺した、『皇子殺しの魔女』だ!」
その言葉に民衆は歓声を上げた。私に対する罵倒、憎悪、色んなものがぶつけられる。
見える範囲に精霊たちが居ないのは良かったな。なんて思っていたけど。
「弟の無念を思うと胸が苦しい。だが、ここで、『魔女』を殺すことで、弟を弔いたいっ!」
民衆は大きな歓声を上げた。アホらしい。殺した人間を殺したところで、殺された人間は喜ぶことなどないのに。髪を掴んでいた皇子が乱暴に、私を、斧を持つ処刑人の前に投げ込んだ。転がって届いたのは、その場にこびり付いたサビの臭い。
「その処刑に異議を申し立てる。」
静かに響いた声。歓声が上がっていた場が静まり返った。ゆっくりと顔を上げれば、真っ黒いローブをまとった男性。その場の視線が彼に集中する。
ダメだ、それをしてはいけない。
叫びたいのに声が出ない。身体から力が抜けていく。嘘だ、こんな時に。嘆きたくなるほどに身体の自由が効かない。
お願いだ、やめてくれ、お前だけは自由でいてくれ。
意識が薄れてゆく中、ツェルに手を伸ばそうとした。




