皇子殺しの魔女
Side ダナの森の魔女
朝、起きると同時に何か騒がしく感じた。昨夜に届いたツェルからの手紙を夜遅くまで読んでしまったからだろう。ツェルからの手紙はいつも楽しそうで、最近はランベルト殿から初めて一本を取った、と嬉しそうに書いていた。その楽しそうな文を見るたびに、外に出してよかったと思う安堵と、楽しいことを教えてあげられなかった後悔が入り混じる。しょうもない、そう思いながら久々にあのラプンツェル畑に行くことにした。最近は精霊たちが勝手に持ってきてくれていたので、たまには自分で行こうと立ち上がった。
歩いていく先にはいつものように畑、があるはずだった。
正確には畑はある。しかし、その周りには武装した男たちが大勢いた。ぞわり、と嫌な予感がした。戻らなければ、そう思った瞬間、一人の男と目が合った。
「アレだ!!あれが皇子を攫った魔女だ!!」
叫ぶような声。少し老けてはいるが、間違いなく、あの日私にツェルを押し付けた農夫だった。周りの騎士たちは我先にとこちらに駆け出して、そして私を拘束した。無理やり地面に膝を付けさせられ、そしてその中の一人の男が声を掛けた。
「魔女よ。奪い去った皇子はどこだ!?」
「奪い去った?」
率直な疑問だった。あれは誰が見ても私にツェルを押し付けてきた。チラリと農夫を見れば、青い顔で私を見ている。
「奪い去った、ね。私はあの子を押し付けられたから、見殺しにできなくて育てただけだよ?」
「嘘を言うな!!」
怒号が飛び交い、そして私の身体に力を加える。イライジャではいつも私の話は聞いて貰えない。だからずっと森に居たのにな……。
「奥に家がありましたが、皇子らしき人間は見つかりません!!」
どうやら二手に分かれていたらしく、騎士たちがまた増えた。ハッとしてツェルからの手紙を思い出した。あれが見られたらツェルの居場所が!!と思った瞬間、精霊たちがツェルの手紙や、痕跡が分かるものを全て持ち出したようだった。中には助けようとする子たちも見える。
「もう、いいか……。」
小さなつぶやきに、騎士の視線も、精霊たちの視線も全てが私に向いた。
もう、一喜一憂しても仕方ない。私の言葉など、イライジャではないも同じ。だから、本当は疲れていたのだ。時折来る友の手紙、それしか私に繋がりがなかった。
でも、あの日に私に大きな繋がりを運んでくれたあの子。
手を離してから2年が過ぎた。
もう、待っている必要などない。
「私が、その子供を攫ったのだよ。あっという間に殺したけれどもね。」




