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ボッチ  作者: 芳田文之介
3/7

その3.



それから、ふたたび、ぼくはてき面に眼差しを戻した。


雨脚は、一向に、弱まる気配を見せてくれない。


ふだんなら、それこそバケツをひっくり返したような大雨を降らせたかと思うと、さっさと、どこかへ流れてゆくはずの、あの忌々しい暗雲が、今日はどうしてだか、いまだに上空に、ずうずうしく、垂れこめている。


それでも、まあ、と思う。


やまない雨は、ないんだ、と。


だから、もう少しの辛抱さ、とも。


ぼくは、ある時期から、オプティミストになった。つまり、万事うまくいくものと考えて心配しないようにしている、そのような人格に。


でも、だれかが言ってた。


オプティミズムは性格の問題ではない。明晰な知が要る――というふうに。


そして、ぼくはある日、気づいた。その明晰の知が、決定的にぼくは足りない人間だ、と。


恐らくは、それだからだろう。なんでもかんでもオプティミズムに捉えて、いつも失敗ばかりしている。


それで、営業成績があまりかんばしくなかったりするから、そのだれかさんの言うのも、あながち間違っていないと見える。


そう思ったら、ふたたび、あのおっかない課長の顔が脳裏に浮かんだ。


これには、さしものオプティミストを自称するぼくも、びくびく、くよくよ、うじうじ、とにかく、そんなあさましい調子になってしまう。


もっとも、オプティミストのオプティミストたる所以は、こんな気分をたちどころに紛らわすことがができるところにある。


まさにそれを地でいくぼくは、今日も、脳裏に浮かんだ課長の顔を、あっさり、明後日の方向に蹴とばしてやった。


そうしておいて、何事もなかったような顔で、こんなとき、あれだよね、と勝手に妄想を弄ぶ。


こんなとき、ドラマだったら、ぼく好みのお姉さんが、雨に濡れながら、息を切らして、「すいません、わたしもここよろしいでしょうか」と、ひょっこり、雨宿りにくるんだ。


もちろん、ぼくは愛想笑いを浮かべて、「どうぞどうぞ」と場所を開けてあげる。


するとそこで、美しい長い黒髪が濡れていることにきづいたぼくは、「あ、おぐしが濡れておられます。よろしかったら、これをどうぞ」と慌ててポケットから取り出したハンカチを、うやうやしく差し出すんだ。


お姉さんは「ありがとう」と言って、ぼくの手からそれを受取ろうとする。そのとき、お互いの手と手が触れ合い、それがよすがとなって、やがて二人は……。


けれども、現実はーーぼくは、ふと足元に視線を落とし、深くため息をつく。


実際のところ、ぼくの傍にいてくれるのは、この鳩くんばかり。


そう思ったら、ちょこんと首を挙げた鳩くんの、そのぼくを見る眼差しが一瞬、尖った、ような気がした。



つづく



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