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第6話 無限の魔王

 次第にメルザの姿が遠ざかっていく。視界の端から暗闇が覆ってきた。


「くっ……!!」


 悔しさに浸っている場合じゃない。このまま何もしなければ地面に叩きつけられて死んでしまう!


 麻痺して力の抜けた手の先がかろうじて見えるほどの暗闇だ。おまけに高速で落下しているから向かい風で周囲の音もよく解らない。頭から落ちているのもあって風で目を開けていられない。

 手で受け身も取れない以上、足で衝撃を殺すしかないだろう。

 足が無事で済むか解らないが、足から着地すれば少なくともすぐに死にはしないはず。イチかバチか、地面が見えた瞬間に体をねじる。これしかない。

 目を細め、ギリギリと意識を集中させる。


 チャンスは一回きり。早すぎても遅すぎても着地の衝撃は逃がせない。

 ものすごい速度で落ちているのに、時間がゆっくり流れているように感じる。


 まだか。


 あとどれくらいだ。


 タイミングよくできるか。


 迷うな。集中しろ。



 必ず、成功させる!





「ここだっ!!」


 ほんの一瞬、視線の先で何かが見えた気がした。


 すばやく体をひねって足を地面に向け、右足と左足を順番につける。勢いが殺しきれずに足に激痛が走ったが、幸いにも地面が傾斜になっていたおかげでそのまま背中を地面につけて滑り降りていく。

 傾斜が終わり、平らな地面に尻が当たる。

 そのまま体を丸めて転がり、壁にぶつかる形で完全に停止する。


「いっててて……」


 助かった。

 思惑通り、とはいかなかったがなんとか生きて底まで来れた。


 暗闇にも目が慣れてきて周りを見渡すと、そこは石作りの少し広めの空間だった。城中の水路が巡り巡ってここに集まってくるらしく、溜め池のように円形の窪みがあった。

 そこから大きめの水路を通って外まで流れていく仕組みのようだ。


 メルザの話を聞いた限りだと、魔王が幽閉された牢獄につながっていると思っていたが、牢どころか魔王の姿も見当たらない。


「水路を伝っていけば外に出られ……痛ッ!!」


 激痛が走る。〝滅びの呪い〟によるものではない。鼓動が脈打つような熱い痛みだ。

 診れば、右足からは骨が飛び出し、真っ黒に腫れ上がっていた。左足は石の破片で切れ出血している。

 手足の痺れはまだ取れない。滑っている間に背中も強打した。


「歩くのも楽じゃなさそうだな……」


 正直、満身創痍だ。

 それでも命が助かっているのは幸運といえるんじゃないだろうか。


 地面に当たる前に傾斜にうまく乗れたことは本当に幸運だった。

 曲がった水路かと思ったが、それにしては滑らかすぎる。石を組んで造ったのなら凹凸ができるだろうし、滑って時に引っかかってもっと擦り傷が出来ていてもおかしくない。

 苔でも生えていたのか? ともかくそれのおかげでこの程度の怪我で澄んだ。


 今一度自分が落ちてきた穴も確認しておこうと周りを見渡し、ふと不思議に思った。


「さっきまであった傾斜はどこだ?」


 傾斜が終わってから地面を転がった時間はそれほど長くない。だから傾斜の入口もすぐに見つかるかと思ったが、辺りを見てもそれらしきものは見当たらない。


 ゾワリ、と脳裏に嫌な予感がよぎる。

 傾斜なんてそもそもなかったんじゃないか?

 最初からあった違和感に気付かないふりをしていただけかもしれない。


 メルザは確かに言っていた。

 湿った地の底を這いずり回る、大罪人殺しの魔王がいる、と。


 次の瞬間、溜め池から何かが飛び出してきた。

 白く濁った色をした何かは太長い大蛇が体をくねらせるようにしながら、私に向かって突っ込んできた。


「くっ!!」


 出血が止まらない足で無理やり地面を蹴る。折れた右足からメキメキと軋む音が聞こえたが、向かってくる攻撃をすんでの所でかわすことが出来た。

 手が使えないので受け身が取れなかったが、さきほどやったように地面を転がって衝撃を和らげつつ距離を取る。


 だが、足は今のステップで限界に達したみたいだった。痙攣し、力が入らなくなっている。応急処置もしないまま動いたせいで、中の肉が見える程傷口が広がっていた。


 次攻撃が来たら同じようにかわせるかわからないな。


 白い物体は石の壁に突っ込み、巨大な横穴を開けていた。

 あれをまともに受けていたら人間の体など一瞬で潰れていただろう。


 すると突然溜め池に大きな波が立つ。白い物体が伸びていた水面から、ズルズルと残りの部分が這い出てきたのだ。


 一見すると巨大な蛇に太い足が生えているように見えた。

 体の大きさは大人の人間の七倍はある。胴体は大木のように太い。

 全体が白く滑らかなフォルムをしていて、体表も鱗などが無くつるりとしている。

 私に伸ばしてきた部分は尻尾に該当するらしく、壁にめり込んでいる部分も含めると体長の約三分の一を占めている。


 ここまでなら大きめの動物に見えたかもしれないが、頭部が明らかに常識を逸脱していた。


 蛇の頭部にあたる所に目や鼻らしきものはない。唯一あるのは〝人間の口〟だけだ。

 真っ赤な唇、白く生えそろった歯。女性的な形を思わせる口は馬二頭くらいなら一度に丸呑み出来そうなくらい大きい。

 時折、口が意味ありげに動く。笑っているように口角を上げたり、怒っているように歯を食いしばったり。そして食べ応えのありそうな食事にありつけたかのように、舌なめずりあでしている。


 不気味すぎる。


 これが魔女メルザが創り出した、大陸を跋扈する呪いの化身の一体。

 数多の戦士や騎士を殺戮してきた人外の存在。

 それが王都の地下で生きていた。


「これが……〝無限の魔王〟」


 ここまで読んでいただきありがとうございました。


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 次回もお楽しみに!



 勤勉メルザさんも魔王のデザインセンスはイマイチ?

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