第22話 光
タンバは数秒の沈黙の後、何が起きたかを理解したようだ。
「魔法が……消えた?」
「お前の魔法は私が消した。魔法の性質をバラしたのが不味かったな」
戦闘における魔法は、いかに早く体内の魔力を変質させることが出来るかで勝敗が決まると言われている。
天葬術は人の生命力たる魔力を、対象に負担のかからないよう魔力の性質を解析して徐々に霧散させる魔法。
攻撃のために急速に変質した魔力を霧散させるには時間がかかりすぎて使えないとされていた。
でも今の私には、魔力を急速に練り上げて超人的な力を生み出す右腕がある。
相手の魔法の性質が解ってしまえば、瞬時にそれに釣り合う程の魔力を右腕に集め、天葬術でかき消すことが出来る。
「クソが! そんな魔法見たことねえぞ!!」
「それはそうだ。調整が難しい。危なすぎて戦闘に使えたものじゃない」
「この野郎、何わけわかんねえこと言ってやがる!!」
「話は終わりだ。次は決めるよ」
目を閉じ、右腕に意識を集中する。
ジリジリと背筋に悪寒が走る。
またあの心地のいい、攻撃的な衝動に呑まれそうになる。
でも今は左手をアスタが掴んでくれている。
たったそれだけなのに、衝動は心の奥底に沈んで消えていく。
呪いの籠った私の右腕。
呪いは怨嗟の塊だ。気軽に使えば、いとも簡単に邪な衝動で満たされてしまうのだろう。
尋常ならざる力を、人の心だけで制御する。
どれだけ難しいかなんて想像に容易い。
けれど私は独りじゃない。
この子がいる。
そしてなにより私は、呪いに侵された生者の魂すら浄める魔法使い、〝天葬師〟なんだから。
「天葬術……」
「これ以上好きにさせるかっ!!」
タンバが再び大剣に魔力を込める。先ほどよりも赤い靄は濃くなっている。
火花も大きくなり、雷のように辺りに跳ねて床を焦がす。
対する私は右手を前にかざし、タンバの魔力が籠った攻撃を迎え撃つ体勢に入る。
イメージしろ。
相手の体内の魔力がギリギリ残るように、一撃で削りきる。
より鋭く、より速く、より重い、刃のような魔法を。
「死ねぇええええええっ!!」
轟々と空気を揺らし、タンバは一歩で詰め寄る。
大剣を上段で構え、思い切り振り下ろす。
タンバの大剣が眼前に迫る。
剣が体に当たるかというその時、私は目を開き、静かに言葉を発する。
「〝天界葬送〟」
その瞬間、右手を中心に部屋中にまばゆい光が広がる。まともに直視していたら失明してしまいそうな青白い光の乱反射がタンバを襲う。
「なっ!? なんだこりゃあ!!」
タンバの剣は私達に届く直前で止まっていた。
彼が止めたのではなく、動かせなくなっているようだ。
体をいくら揺すろうとしても、指一本動かない。
「くそっ、こんな……もn、がっ!? あ゛……ぐ、がああ……」
突如タンバが苦しみ始める。
しばらくもがいていたが、やがて全身の力が抜けたように床に倒れこんだ。
ビクビクと体を痙攣させ、口からは泡が吹き出している。
死んでない。どうやら上手くいったようだ。
「す、すごい……」
アスタが隣で呟く。
内心、私自身も驚いている。
私はまともに剣士相手に戦闘なんかしたことがなかった。
魔物に魔法で戦ったことは一応あるが、天葬師として独り立ちしてからはずっと王都にいた。腕が鈍ってなくてよかった。
その上、高速で突っ込んでくる敵に天葬魔法を放つなんて、下手をすればタンバだけでなく自分やアスタまで巻き込んでいたかもしれない。
普段なら効果範囲を最小限まで調整して長時間かけ続けることで周りに被害が出ないようにしている。
あの場面で使おうと思いたった時点で、冷静を装いながらもキレていたのかもしれない。
それにしても高出力で魔法を放っても調整が効いたのは、やはり右腕の呪いが影響しているのか。
「ん?」
いつの間にか、右手に何か持っていたことに気がついた。
あまりにも手に馴染みすぎて、持っていたことさえ解らなかった。
「これは……」
それは白銀の金属に赤い宝玉が添えられた、巨大な両刃の斧だった。
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次回もお楽しみに!
ようやく本格的に戦闘が始まりそう。




