第20話 安心
装飾の施された壁にタンバを激突し、大きくめり込む。
「ガッハッ!!」
「タンバ!?」
タンバの嗚咽、そしてクラネットの驚いた声が響く。
タンバが先ほどまで立っていた場所には、拳を振り抜いた私が立っていた。
クラネットは一拍遅れて状況を理解する。
「いつの間にっ!?」
すぐさま剣を構え、無防備な私の右側面へ素早い刺突を繰り出す。腕を伸ばしたままでは脇がガラ空きになっていた。
「…………」
私は前へ突き出した右腕を横に払う。
剣の攻撃にタイミングよくかち合うように振るった右腕が、一瞬黒く輝いたと思った瞬間、クラネットの剣が粉々に砕け散った。
「なっ!?」
人間の腕に剣がガラスのように砕かれたことに、クラネットがわずかに動揺した。
突きの途中で前傾姿勢になっていた彼の背中に素早く足を押し当て、そのまま床に向かって勢いよく踏みつける。
「ガッ!?」
クラネットの鎧は砕けていないようだが、首の付け根辺りを踏みつけられているせいで身動きが取れないようだ。
「くっ、なんて速さ……本当に人間か!?」
「安心したよ」
「は?」
踏みつけている足に力が籠り、背中からメキメキと歪な音が鳴る。
「あ、がぁあああっ!!」
クラネットの呻き声が聞こえるが、力を緩める気はなかった。
「お前達が、こんなにもクズで……安心した」
安心していた。
あんなに残忍なものを見せられたのに。
私はさっきまで、彼らに力を振るうことにためらっていた。
彼らも人間だ。悲しむ親や友人、恋人がいるだろうと。
呪いなんていう、イカれたものをぶつけるなんて、どうかしてる。
そう思っていた。
だけどその迷いも今はさっぱり取り払われた。
最初から解っていたダロ?
こいつラは人間じゃない。
頭のネジが外れた、イカれた殺人鬼だ。
こんなにイカれた奴らなら、同じイカれた力をぶつけたって構わナイだろ。
簡単なコトじゃないか。
「ふふふ……」
笑いが込み上げてくる。
私は一体、何ヲ迷ってたんだ。我ながら呆れてクル。
「あはははは……」
手がいやに生暖かい。ナンダろう?
でもいいか。今ハとても、気分ガイイ…………。
「やめて、エヴィッ!!!」
「…………はっ」
突如、アスタの声が頭に響く。
我に帰った私の横には、必死の形相で私を抱きしめるアスタがいた。大した怪我はしていないみたいだが、体に触れる手は小刻みに震えている。
そして下を見るとクラネットが顔面を砕かれ、仰向けにだらしなく倒れていた。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
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次回もお楽しみに!
ヒロインを苛める人には鉄拳制裁☆!
……で済めばいいのですが。