第19話 もういい
「あん? 何だお前は」
大柄な騎士はこちらに気付くと、威圧的な声を上げる。
私は問いには答えず、彼が引きづっている少女を見る。顔を突っ伏しているが、小柄な体に特徴的な色の長髪。
見紛うはずがない。捜し求めていたアスタだ。
見つかることが出来た喜びが表情に出そうになったが、鎖に繋がれ地に伏している光景を見て我に帰る。
鎧に刻まれた赤い文様から、彼らは近衛騎士だった。
ランディの仲間。こいつらも裏切り者か。
「お前ら……私の友達に何をしている?」
私は入口で立ち塞がるように仁王立ちし、騎士達を睨みながら聞く。
状況的にアスタを連れ去ろうとしていた所だったらしい。それなら彼らがのんびり話を聞いてくれるとは思えない。単刀直入に問いただした方がいい。
「友達だあ? このガキにそんなのいたのか。てっきり寂しさ紛れに城下に降りてるだけかと思ったぜ」
「その子がグランク王国の王女だと解った上でやっているわけだな。近衛騎士ともあろう者が、こんな真似をしてただで済むと思っているのか?」
「残念ながら俺達は太古の魔女メルザ様の命令で動いている。もはや王族なんぞに仕える価値はない」
「魔女……やっぱりそうか」
やはり近衛騎士は組織ごと魔女の手に落ちていたようだ。
ということは国王陛下も無事ではないはず。
それにこの二人、私が捕まっているはずのエヴィだと解っているのだろうか。
逃げ出したことが発覚すれば警戒体勢になると覚悟したのだが、一向にその素振りはない。顔を知らないか、自分達の実力に自信があるか、あるいは両方か。
「悪いことは言わない。今すぐアスタを解放しろ。そうすれば軽い怪我で済むぞ」
曲がりなりにも騎士に対して効くかは解らないが、一応拳を構える。
向こうが自信過剰なタイプなら、女に挑発されたことに怒って向かってくる。
殺しはしない。相手は人間なんだ。
加減して的確に顎を突けば、確実に卒倒するはず。
「チッ……だってよ、クラネット。どうするよ」
大柄な男は若干苛立ちながらも、細身の男へ意見を聞く。冷静なタイプなのか、とも思ったが、体を大きく揺すって苛立ちを抑えているらしい。
クラネット、と呼ばれた男は少し考える素振りを見せた後、エヴィに向き直る。
「軽い怪我とは言うが、俺達二人をそれぐらいで退かせられると本気で思っているのか」
「できればそれで済ませたい。メルザに着いたとしても、命に対する執着ぐらいはあるだろう」
「命への執着、か。この姫と同じことを言うのだな。では女よ。我々がそんな甘言で揺らぐかどうか、〝あれ〟を見ても言い切れるか?」
クラネットが抜き身の剣を部屋のベッドの方へ向ける。
なんだ、とそちらを見た時、私の背筋を氷を流し込まれたような悪寒が走った。
そこにいたのは、いや、あったのは、侍女の格好をした女の死体だった。
胸から上にかけて体を真っ二つにされ、頭部と胸部は鮮血を撒き散らせながら床に落ちていて、あとの胴体は部屋の反対側の隅に腕と共に転がっていた。
よく見ると大柄な男の持つ大剣には、まだ乾いていない血がべっとりとついていた。
「……お前達が、やったのか?」
私の問いかけに大柄な男が豪快に笑う。
「この雌はこのタンバ様に蹴り入れやがった報いを受けたんだ! 大人しくしてりゃ可愛がってやったのによぉ」
「…………そうか」
私の中に何かが流れ込んでくる気がした。
怒りなら体が火照ったりもするだろうが、冷たく、無機質な何かが体を満たしていくのを感じる。
何故だろう。さっきまであんなに迷っていたのに、今はこんなにも頭がすっきりしている。
惨殺された死体を見たのに、だんだんとそれに納得していく自分がいた。
こいつらならやりかねない。
それに大柄な男は今にもアスタを連れて行こうとしている。
こいつらにアスタを渡しちゃ駄目だ。
ためらう理由は既になくなっていた。
「あー、よく見りゃお前もなかなか上玉だな。このガキは手出ししちゃ駄目だって話だからよ、お前も黙って俺の言うこと聞けば……」
「もういい」
「あ? 何をぃ……っ!?」
その瞬間、タンバの大きな体が吹き飛んだ。
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次回もお楽しみに!
まるで薄い本にでも出てきそうなゲス騎士さん。




