第18話 抜け道
【エヴィ視点】
私は王宮内を走っていた。
地下水路を無事に抜けた後、城外を回って外壁の隙間から中庭に侵入した。
アスタと私しか知らない、秘密の抜け穴だ。
アスタがまだ小さい頃、城内を駆け回った時にたくさんの抜け道を教えてもらった。
最近もその道のいくつかを使って城下街に抜け出しているらしい。
当時こそ教えてもらいながらも呆れていたものだが、今はその経験を活かしてアスタを助けに行ける。
あの子には心から感謝しなければ。
ひとまずの目的地はアスタの寝室だ。
メルザの話からするとまだアスタは死んでいない。
呪いを受けて六日以上経ったのなら、それなりの治療……とは名ばかりの生命維持が行われていると考えられる。
この王宮の中にも医務室はある。けれど現在アスタは〝不特定多数の人間に移すかもしれないと言われる瀕死の呪いを持っている状態〟なのだ。
私を陥れたランディが城内の人間に聞こえるように言っていた。
真偽はともかく、全員の目に触れる可能性がある医務室にアスタを寝かせるとは思えない。
その中で自然にアスタを隔離、もしくは閉じ込めておける場所があるとしたら、彼女自身の寝室が一番だと思う。
あの寝室は幼い彼女との思い出がたくさん詰まった部屋だ。
もし出来れば戦闘になっても部屋を傷つけたくない。
今の私なら魔王を吹き飛ばしたみたいに、壁を突き破りかねない。
そう考えているうちに、自分の右腕が視界に入った。
呪いを帯びた右腕。
〝無限の魔王〟の肉を食ったことで変異した呪いが籠っている。
とてつもない力が発揮できることは、〝無限の魔王〟をパンチ二発で沈めたことで証明された。
倒していないとはいえ魔王を圧倒できる。
これがあれば、並みの騎士相手にも優位に戦えるはずだ。
しかしいくら大きな力を手に入れても、精神まで急に強くなったりはしない。
力を振るった自分が、力の大きさに恐怖している。
まだこの力を人に向けて使うのが怖いのだ。
私やアスタを罠にはめた悪人達だ。許されるべきじゃない。
けれど彼らも人間だ。死を悲しむ親も恋人も友人もいるだろう。
出来れば殺したくはない、制圧するだけ。そんな考えが私の中にはあった。
もし加減に失敗して、殺してしまったら?
それは人を食らう魔王、信頼を餌に人を騙す騎士達と同じではないだろうか。
そう思うと、拳を強く握ることが出来なかった。
王宮内にも近衛騎士は複数人単位で歩き回っている。
それほど警戒状態ではないことから、私が地下から逃げたという情報はまだ伝わっていないらしい。
極力戦闘は避けていった方がいいだろう。
というより、そうしたい。その一心だった。
兵士の監視を避けつつ王宮内を進み、私はアスタの寝室まで辿りついた。
部屋の前に見張りがいない。妙な胸騒ぎがする。
白い両開きの扉には細かな装飾が施されていて、取っ手は金の豪華なつくりをしている。
所々に汚れや血の跡がついていることが余計に不安を掻き立てた。
中から時折、大声が響く。アスタ以外にも誰かいるようだ。
部屋の中で何が起きているのだろう。
呪いに侵されたアスタをメルザが治療していたというのが嘘なら、今にも死の淵をさ迷って苦しんでいるかもしれない。
きちんとした治癒術師がいるかもしれないが、王妃の座についた魔女と近衛騎士が相手だ。まともに治療が出来ているかどうか解らない。
期待と不安で逸る気持ちを抑えつつ、寝室の扉を静かに開く。
そこで見たのは、再会を待ち望んでいた黄金色の髪の少女…………を鎖に繋いで引きづっている大柄な騎士と、その隣に立つ細身の騎士の姿だった。
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