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第10話 壁を越えて

 結果として私は王女様、アスタ・ミール・グランクリー殿下ととても仲良くなった。


 陽の光で煌めく黄金色の髪は三つ編みにしており、元気に駈けるリズムに合わせて左右に揺れる。

 弾ける笑顔がとても似合う幼な顔に、まるで宝石のような新緑の瞳が透き通るように輝いていた。


 師匠の予想通り、アスタ様は明るくまっすぐな子に育っていった。


 遊ぶ時は大抵王宮の中にある庭か寝室なのだが、やんちゃ盛りな彼女は疲れ果てるまで遊び回る。


「周りをよく見て走らないと転びますよ」

「大丈夫よ、エヴィに治癒魔法かけてもらうの好きなの」


「ベッドの上で跳ねないでください。というか枕をこちらに投げないで!」

「ほら、投げ返してきて! エヴィとじゃなきゃこんなこと出来ないもの!」


 なんでもポジティブに捉える所は、何かと暗く考えがちな私とは正反対だ。

 そこが一番の不安点でもあったのだけど、彼女は決まって私を頼りにするものだから、嬉しいような、こそばゆいような不思議な感覚になる。


 私が都合よく解釈しているだけかもしれないが、誰かに頼りにされるのがこんなに嬉しくなるとは思わなかった。

 彼女がいたから、それが解った。

 私ばかりがいい影響を与えられているような感覚すらしてくる。


「私はアスタ様に、何かしてあげられているのでしょうか」


 唐突に聞いたことがある。

 自分の半分の長さしか生きていない少女に何を聞いているんだろうと我ながら思う。

 けれど小さな王女様は困った顔ひとつ見せずに答えた。


「あら、あなたから教えてもらった隠れ場所、すごくいいわ。追いかけるみんなからすぐ逃げ切れるの!」

「え、あ、そっちですか。ありがとうございま……じゃなくて! 流石に泥まみれになった時は素直に捕まってください。怒られるの私なんですから……」


 悪い影響は確実に与えている気がする。

 けど、アスタ様は私を好いてくれる。


「というかエヴィ? そろそろ〝様〟ってつけるのやめない?」

「え、ですがあなたはこの国の王女で……」

「ええ、みんなそう言うの。でもそれじゃ私にとって本当に仲のいい人は誰もいなくなってしまうと思うの。なんだか、壁を作られているようで」

「壁、ですか」


 アスタ様が私のことを、まるで本当の姉のように思っているらしい、と侍女の一人がこっそり私に教えてくれたことがある。


 姉妹か。


 本当の姉妹がどういうものか解らないけど、私にとっても彼女は、掛け替えのない存在になっていった。


 だけど彼女は自分の立場に窮屈さを感じていた。望んで得たわけじゃない身分が彼女の〝心を通わせた友達が欲しい〟というささやかな願いすら簡単に叶えさせてくれずにいた。


 なんだか……、


「似ていますね、私達」

「え?」


 私はしゃがみこみ、アスタ様の目線に合わせる。


「私も小さい頃、友達が欲しかったんです。ちゃんとした身分があったわけじゃないけど、そこに住む人達は与えられた環境で生きるのに必死で、人との間に壁を作ってた」


 私もそんな壁に阻まれて生きてきた。

 いや、壁のせいで不自由だと思いこんできただけだったんだ。

 現に彼女と仲良くなりたいと決めた時、そこに壁なんてなかったじゃないか。


「本当は壁なんていつでも越えられたんですね。今の私達のように」


 彼女の小さな手を両手でそっと包み込む。小鳥のようにか弱く、暖かい。


「こんな私を、友達と呼んでくれますか、アスタ?」

「……うん!」


 アスタの瞳に光か溢れ、笑顔が零れる。


 私は二人きりの時だけでも、心から彼女の友達でいようと決めた。


 ここまで読んでいただきありがとうございました。


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 次回もお楽しみに!



 ヒロイン×ヒロイン=最高。

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