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プロローグ 陽光

 私は焼け野原にいた。

 膝をつき、その場から一歩も動けない。


 視線の先に、何者かが立っていた。

 容姿は解らない。それでも奴が放つ覇気は強者の物だった。


 私は奴に負けたのか。これから、奴にとどめを刺されるのか。


 そもそもなんでこんなことになったのだろう。

 それすら思い出せぬほど、疲弊し尽くしてしまったのだろうか。


 不意に視界に影が覆う。


 何が、と顔を上げると、私の目の前に、黄金色の髪の少女が背中を向けて立っている。

 立派な剣を片手に、ふいとこちらに振り向く。


『       』


 言葉は聞き取れなかった。

 それでも彼女は、満面の笑顔を私に見せた。


 それは私の大切な友とよく似ていた。

 似ている、と思ったのは目の前の彼女がより大人っぽく見えたからだ。


「……アスタ?」


 思わず名前を呼んでいた。


 名を呼ばれた少女は頬を赤くしながらももう一度私に笑いかけ、前方へ勢いよく駆け出した。


 慌てて手を伸ばすが、止めることは出来なかった。


 姿のはっきりしない敵との剣劇。

 幾度も剣をぶつけ、その度に激しい火花を散らす。


 黄金の長髪を振り乱しながら、赤く鮮やかな血を散らせながら、少女は舞うように剣を振るう。

 その姿はとても美しく、華麗だった。


 それでも、見惚れるような剣の応酬は長くは続かない。


 気が付けば、少女はいつの間にか私の膝の上で倒れていた。

 胸の鎧は縦に大きく裂け、そこから大量の血が溢れ出している。


 少女の口からも血が流れ、顔は青白い。

 今にもその命がつきようとしていた。



 ねえ、起きてくれよ。


 少女はゆっくりと目を開ける。そして私を一瞥すると、頬をわずかに紅潮させる。


『膝枕……懐かしいね。小さい頃、よくしてくれた』


 ああ、これからもしてやる。何度だって。


『ねえ、エヴィ。私……あなたに会えて、本当に幸せだったわ』


 私もだ。お前がいなければ、どんな人生を送っていたか解らないよ。


『本当の妹みたいって、言ってくれたこと……今でも覚えてる。私の……宝物よ』


 今だってそうだ、本物かどうかなんて関係ない。お前は、私の……。



 そう言いかけた時、少女はまた静かに目を閉じていく。



 待って、私を置いて行かないで。


 生涯をかけて守ると誓った、私の大切な人。


 死なないで……。









 ドンドンドン!!!


 何かを強く叩く音が聞こえる。


 その衝撃で私は目を開けた。


 見慣れた木組みの天井。掃除をさぼっているせいか、隙間に埃が溜まっている。

 小窓から差し込む黄色の陽光。窓際に置いた小さな鉢植えの植物が揺れている。


 ここは私の家。そしていつも寝具として使っている大きめのソファの上だ。


 ああ、なんだ。ただの夢か。

 正直、ほっとした。夢でよかった。


 それもそうだ、アスタは仮にもこのグランク王国の王女だぞ。


 味方のいない戦場で剣を振るって、血を流しながら戦うなんてことがあるわけがない。

 ましてやそこで死ぬなんて、論外だろう。


 現に昨日元気な姿で会ったばかりだ。

 心配する必要なんてない。


 元気といえば、もうすぐアスタの誕生日だったか。

 たしか今年で……十二歳になるんだったな。


 出会った頃はまだ産まれて少し経ったばかりの赤ん坊だったけど、その姿は今も忘れられない。

 陽の光で輝く黄金色の髪、宝石のようなエメラルドグリーンの目。

 中庭を元気に走り回り、笑顔が似合うおてんば娘が、今では王女としてずいぶんしっかりとしてきたと思う。


 とにかく彼女は他人との間に壁を作りたがらない。

 時折、城下に降りて街を練り歩いてはいろんな人と話しているらしい。


 王女になったときの課外授業よ、とアスタは私に言っていたが、これは単に彼女が人好きなだけだろう。見栄張っちゃって、可愛いやつだ。


 七つも歳上の私にすら対等の関係で接してくるのは、良くも悪くも彼女の変わらない特徴のひとつだ。

 私に対してだけではない、身分も年齢も、彼女にとっては簡単に飛び越えられる木柵のようなものだった。


 私個人としてはそういう王女様がいてもいいような気がする。

 明るい国になるのは間違いないだろう。


 そういえば昨日会った時は城下に住む同年代の子どもたちと遊んでいた。

 勝負ごとで負けたのがよほど悔しかったのか、頬を膨らませてベソをかいていたっけ。

 

 感情が表に出やすいのはまだ直ってはいないようだ。


 ドンドン、ドンドンドン!!!


「うわっ、何!?」


 再び響く音に驚き、我に帰る。

 どうやら誰かが入口のドアを叩いていたらしい。


「いないのか! 返事をしろ!!」

「え……あ、はーい! 今開けますよー!」


 ドアのノックで目が覚めるなんて、今日は幸先が悪いみたいだ。


 扉を開けると、そこには鎧を着こんだ二人の兵士が立っていた。

 どちらも無表情で、冷たい目を私に向けていた。


 「す、すみません。疲れて寝ていたもので……」


 苦笑いしながら謝ってみたが、兵士は無反応だった。

 よほど待たされたことに対して怒っているのだろう。


 扉の前でどれくらい待っていたのかは……聞かない方が良さそう。


 恰好からして憲兵のようだが、付近で何かあったのだろうか。


 聞き込みにしては視線にとてつもない殺気が籠っている。

 思わず身じろぎしてしまいそうだ。


「あ、あの、何か?」

「〝天葬師〟エヴィ・レックスフォードだな。昨日の晩、一体何をしていたんだ?」

「え……、仕事を終えて家に帰っていた頃だと思いますが」

「証人はいるのか!」

「証人?

「いるのかと聞いている!!」

「……いないと思います。日も沈んで暗かったし、それに……ひとりで暮らしていますから」


 急におかしなことを聞いてくる人達だ。

 なぜそんなに私を敵視しているんだ?


 というか嫌なことを言わせるな。それに大声で言わなくても聞こえている。

 好きでひとりになっているわけではないが、それを咎められる理由はないはずだ。


 それにしても、彼らは一体何のことを言っているのだろう。


 私が不思議そうな顔をしていると、兵士達はお互いに目配せをし、表情は変えず冷徹に言い放った。



「お前にアスタ王女の暗殺未遂容疑がかけられている、王宮まで来てもらうぞ」


 ここまで読んでいただきありがとうございました。


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 次回もお楽しみに!


 エヴィは仕事はちゃんとこなすけど家事云々に関してはかなりがさつなタイプです。

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