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君と僕と物体X

作者: 安西 圭

岩倉、歩いてくる。石野、逆側から歩いてくる。石野、下斜め前方に石を見つける。岩倉、石を拾い上げて見つめる。


石野 あっ。


石野、岩倉をじっと睨む。


岩倉 どうしました?

石野 その石、綺麗ですよね。

岩倉 あ、はい。


岩倉、立ち去ろうとする。石野、ついてくる。


石野 それ、あなたのなんですか?

岩倉 いえ、拾いましたが。

石野 見せてもらえませんか?


岩倉、石を手渡す。


岩倉 これ、あなたのですか?

石野 いえ。

岩倉 じゃあ、なんで。

石野 これはあなたのなんですか?

岩倉 違いますけど、それが何か。

石野 あれですよ、泥棒ですよあなた。

岩倉 わかりました、交番に届けますよ。

石野 本当ですか?

岩倉 本当ですよ。

石野 どうにも信用なりません。一旦預かります。


石野、石に見とれる。


石野 本当に、綺麗。

岩倉 もしかして、自分が欲しかっただけじゃないんですか?

石野 まさか。

岩倉 なら交番まで付き添います。いいですよね?


石野、逃げ去る。


岩倉 あっ!さっき犯罪のなんのって言ってたくせに!‥‥はぁ。最悪な朝だ、変なのに絡まれたもんだよまったく。って、時間がないじゃないか!急がねば!遅刻遅刻ゥ!


岩倉、どこからか取り出した食パンを咥えて走る。



坂本、入ってきて席につく。岩倉、駆け込んでくる。


坂本 おはよう、岩倉。

岩倉 おはよう。

坂本 珍しくギリギリだけど、何かあったのか?

岩倉 道中で変なのに会ってな。なんか石がどうのっていう。

坂本 それは災難だったな。‥‥そうそう、転校生が来るらしいぜ。それもすげぇ可愛い女子なんだと。

岩倉 なぜ今それを言う!

坂本 なんでって、急にどうしたんだよ。

岩倉 今それ言ったら、そいつが転校生として来る流れになるだろ。

坂本 まあ、たまたまかもしれないし。

岩倉 世の中にはお約束というものがあってだな‥‥。ヒロインとは非日常的な出会いをするものだし、主人公の親友は情報通で女好きと相場は決まってる。

坂本 お前、自分が主人公だと思ってんのか?

岩倉 そんなに痛くない。

坂本 痛いよ。主人公になりたくて、怠そうに振る舞ってる感じとか。

岩倉 そんなつもりはないんだがなぁ。

坂本 もっと広い世界と関わってけよ。

岩倉 まあ、善処する。


チャイム。


先生 転校生を紹介する。

石野 石野うららです。よろしくお願いします。

先生 というわけで、みんな仲良くするように。そこの空いてる席についてくれ。

岩倉 やっぱりな。

石野 あ、久しぶり。朝会った以来だね。

岩倉 久しくないんだが。

石野 そういえば、名前なんて言うの?

岩倉 岩倉フドウ。

石野 ぶどう?

岩倉 フドウ。

石野 よろしく、フドウ。

岩倉 いきなり名前呼びかよ。

石野 ダメだった?

岩倉 別にいいけどさ。

石野 一時間目って何あるの?

岩倉 地学だけど。言われてないのか?

石野 わからないから、何も持ってこなかった。教科書見せてよ。

岩倉 それでよく来たな。‥‥ほい。

石野 ありがとう。


先生 おら、一限始めるぞ。


きりーつ。れーい。

先生 今日は前回の続き、四十五ページから‥‥

石野 この石、すごくない?

岩倉 朝も聞いた。

石野 綺麗で、光ってて、まるで‥‥

先生 地球上に存在しない物質であることもあり‥‥

石野 これってもしかして‥‥

先生 これを隕石といい‥‥

石野 空から落ちてきたなら‥‥

先生 宇宙について知る手掛かりにもなるため‥‥

石野 これを追っかけてきた宇宙人に会えるかも!

岩倉 飛躍しすぎじゃないか?特に最後の方。

先生 そこ、私語は慎むように。休み時間じゃないんだぞ。

岩倉 すみません。

石野 続きは帰りにでもしようかな。

岩倉 いいよ、もう十分聞いた。

石野 えぇー。朝会ったし、方向も同じみたいだからさ。

岩倉 勘弁してくれよ。

先生 うるせぇー!イチャイチャしやがってぇ!私の学生時代はなぁ、不純異性交友どころか清純な異性交友、同性交友すらなかったわぁ!そして今なおそれは続いてるんだよ!どうすんだよ!なぁ!

岩倉 知りませんよ。

先生 廊下に立っとれぃ!バケツを持ってなぁ!

岩倉 それって体罰じゃ

先生 口答えするなぁ!学校になぁ、社会のルールは通用しないんだよ!

岩倉 そんなことないと思いますよ。


先生、何者かに呼ばれて振り向く。


先生 えっと、どちら様ですか?教育委員会?なるほど、それで何のご用で?


先生、連れ去られる。


先生 うわっ、何をする!やめろ!違う、違うんだ!嫌だ!謝罪会見なんて開きたくない!うわああああ!

岩倉 ほら、言わんこっちゃない。

石野 連れてかれちゃった。


チャイム。


岩倉 とまあ、一日が終わったわけだが。

坂本 じゃあ、また明日。

岩倉 じゃあな。


坂本、去る。


石野 終わったことだし、語ろうかな。

岩倉 別にいいよ、語らなくて。

石野 (裏声で、目を隠しながら)この石を手に入れてからー、なんかー、宇宙のエナジー?みたいなのを感じられてー、体調も心なしか良くてー、友達もできてー、万々歳って感じですねー。

岩倉 その友達って、まさか。


石野、岩倉をじっと見る。


岩倉 そんな目で見ても、ダメだからな。友達って思われたくない。


石野、しょぼくれて歩き出す。


岩倉 待って、ごめん、俺が悪かった。友達、うぅん、いや、知り合い?

石野 結局友達じゃないの?なんでなんで?ねぇ、どうなの?ねぇ。

岩倉 そういうとこだよ。あれだろ、向こうでも友達いなかっただろ。

石野 今それ関係なくない?友達ってどこから友達かにもよるけどさ。

岩倉 わかった、わかったから。


謎人、来る。


謎人 物体Xを見なかったか?

岩倉 何ですか、それは。

謎人 質問は許可していないが。

岩倉 そんなこと言われても、わからないんですよ。

謎人 シラを切る気か。

石野 (ヒソヒソ声)もしかして、アレかな。今朝拾った。

岩倉 じゃあ、彼に返さないと。


岩倉、返してと言うように手を差し出す。


岩倉 返さないのか?

石野 やだ。

岩倉 じゃあ、どうするんだよ。

石野 どうって、ほら、あれだよ。

謎人 早くしろ、時間はない。

岩倉 えと、あっちの方で見かけたかもしれないです。

謎人 かもしれない、だと?

岩倉 その物体Xとやらが何か、はっきりとは分かっていないので。

謎人 この期に及んで知らないフリか。

岩倉 いえ、

謎人 嘘をつくな!

岩倉 そんなこと言ったって!


謎人、宇宙っぽい銃を取り出す。


謎人 嘘つきは罪だ!消えてしまえ!

岩倉 でも!

石野 あの、すみませんでした。

謎人 ようやく自分の非を認めたか。はっはっはっはっ。


謎人、満足したように去る。


岩倉 なんだったんだ‥‥。

石野 あれだよ、宇宙人だよ。

岩倉 また飛躍してるぞ。

石野 見たでしょ?あの宇宙っぽい銃。

岩倉 別に宇宙っぽいからって、宇宙人とはならないだろ。

石野 でもあの宇宙っぽさは、宇宙人にしか出せないよ。

岩倉 確かに銃は宇宙っぽかったが、本人は宇宙っぽくなかっただろ。

石野 逆に宇宙人でもないのに、どうやって宇宙っぽい銃を手に入れるの?

岩倉 そりゃ、宇宙っぽく作ったりとか。

石野 宇宙っぽく作ったら宇宙っぽいっぽいものにはなるけど、宇宙っぽくはできないよ。

岩倉 じゃあ宇宙人だったとして、どうするんだよ。

石野 尾けてみよう。

岩倉 やめとけ、危険だ。

石野 やめない。昔から、宇宙人と話してみたいって思ってたんだ。

岩倉 どうなっても知らんぞ。


二人、歩き出す。


石野 なんでついてくるの?

岩倉 なんかあったら、寝覚めが悪いから。


二人、去る。


二人、現れる。


石野 あのアパートに、入っていったね。

岩倉 ああ。

石野 行ってみよう。

岩倉 本気か?最悪、捕まるぞ。

石野 捕まって標本にされて、地球人のサンプルにされちゃう、みたいな?

岩倉 いや、それ以前に警察に捕まる。

石野 うぅん、でも‥‥。


謎人、現れる。


謎人 お客さんとは珍しいな。さあさあ、上がってくといい。

岩倉 いえ、結構です。


謎人、岩倉をビンタする。


謎人 人の厚意を無駄にするのは、人として最低なんだぞ。

岩倉 暴力は良いんですか。

謎人 間違いを正しただけだ。感謝されることこそあれ、文句を言われる筋合いはない。


岩倉、叩き返す。


岩倉 やられたまま黙っているのは、人として最低なので。

謎人 面白いことを言う。私がここで殴り返せば、憎しみの連鎖が続くだけだ。私は右の頬をぶたれた、だから左の頬を差し出そう。君は私の敵だが、だからこそお前を愛そう。ほら、ぶつがいい。

岩倉 虚しいのでやめておきます。

謎人 まあ、それはともかく。せっかく来てくれたんだ、立ち話もなんだし中に行こう。

石野 はい。

岩倉 おい、迂闊じゃないか。

石野 だって、あっちから招いてくれるんだよ。話してみたかったし、ちょうどよかった。

岩倉 何されるか、わかったもんじゃないぞ。

石野 でも、ついててくれるんでしょ?

岩倉 ‥‥わかったよ。


三人、去る。

ブルー暗転。

謎人、現れる。


謎人 ちょっと待て、今片付ける。


謎人、机の向きを変えてテーブルみたいにする。

明転。


謎人 散らかってるが、まあ適当にくつろいでくれ。


謎人、去る。


石野 なんか、あんまり宇宙っぽくないね。

岩倉 やっぱり、ただの危ない人だったんじゃないか?

石野 たぶん、隠してるんだよ。あの辺とか。

岩倉 なんだ、これ。『絶対に開けるな』‥‥?

石野 絶対に開けちゃいけないようなものって、なんだろうね。やっぱりこう、宇宙のアレだよ。

岩倉 というか、開くのか?

石野 ‥‥閉まってる。

岩倉 だろうね。


謎人、プラスチックのコップを三つ持って来る。


謎人 待たせたな、これでも飲むがいい。


石野、飲もうとするが岩倉に止められる。


岩倉 なに入ってるか分かんないんだぞ。

石野 宇宙睡眠薬とか?

岩倉 まあ、そんな感じ。

謎人 私のお茶が飲めないのか?あぁん?


謎人、コップをテーブルから落とす。


謎人 まあいい、こんな粗茶。本題に入ろう。物体Xを持ってきたんだな?

石野 えと、はい。

謎人 なら、早く出せ。

石野 あの、一つ聞いていいですか?

謎人 質問は許可していないが。

石野 それを聞かないことには、渡せないと言ったら。

謎人 脅しのつもりか。面白い、この銃のチャージが終わるまで待ってやろう。

石野 石を、何に使うんですか?もし地球侵略とかだったら、石は渡せません。

謎人 違う。ただ、ここに置いておくには危険なんだ。だから机の中で半減期を待って、最終処分しなければならない。

石野 そう、だったんですか。

謎人 長く持っていたなら、かなり電波を浴びたことになるな。

石野 え、じゃあ。

謎人 大丈夫だ、この銃で治せる。

石野 ‥‥。

謎人 どうした?早く石を渡せ。

石野 やっぱり、渡せません。

謎人 なぜだ。

石野 この石は、幸せを運んできてくれたから。この石のおかげで友達ができたから。

謎人 馬鹿馬鹿しい。それは危険だ、渡せ!


石野、抵抗も虚しく奪われてしまう。引き出しにしまおうとする謎人を追いかけるが、引き出しの中を見てくずおれる。


謎人 さあ帰った帰った。もう用事はないんだろう。

岩倉 あ、はい。‥‥行こう、石野。

石野 ‥‥うん。


二人、歩き出す。


石野 なんか、すごかったね。面白かった。

岩倉 そりゃよかった。

石野 ‥‥もし、全てが嘘だって言ったら、どうする?

岩倉 もともと信じてはいなかったけどさ。よくも連れ回してくれたな、くらいは言いたいかな。

石野 ‥‥そっか。


はける。

ブルー暗転。石野、入ってきて机を戻す。

明転。岩倉、入ってくる。


岩倉 おはよう、石野。

石野 ‥‥おはよう。

岩倉 ‥‥元気ないみたいだけど、どうしたんだ?

石野 ‥‥何でもないよ。

岩倉 なら、いいんだが。


しばらく沈黙が続く。

坂本、入ってくる。


坂本 おっす。


岩倉、立ち上がり坂本の方に行く。


岩倉 坂本、おはよう。

坂本 どうしたんだ?

岩倉 トイレ行こうぜ。


坂本、何かを察した様子。


坂本 ああ、荷物置いたらな。


二人、花道に行く。


坂本 珍しいな、お前から呼び出しなんて。

岩倉 石野のことなんだけどさ。

坂本 喧嘩したのか?

岩倉 まあ、そんな感じ。

坂本 もしかして、うららちゃんを傷つけたのか?それなら俺が許さない。

岩倉 ‥‥そうかもしれない。

坂本 かもしれないってぇと?

岩倉 宇宙人のとこに行ってから、ずっとあの調子なんだ。

坂本 宇宙人?それ、どういうことだよ。

岩倉 説明すると長くなるんだが‥‥

坂本 いつの間にそこまで進展してたんだよ!

岩倉 そこ?

坂本 いや、だってそうなるだろ。もしやお前ら付き合ってんのか?

岩倉 そんなんじゃない。

坂本 じゃあ、どんなんだよ。

岩倉 うまく言えないんだが、こう、一緒にいて面白いなって。

坂本 それは恋ってもんじゃねぇの?

岩倉 わからない。ただ、このまま疎遠になってくのは寂しい。気がする。

坂本 なら、答えは出てるんだろ。それを俺に言ったってことは。

岩倉 ああ、ありがとう。

坂本 成長したよな、まったく。

岩倉 どこ目線だこの野郎。

坂本 親目線?

岩倉 お前の息子とか勘弁してくれよ。

坂本 反抗期か?そんな子に育てた覚えはないんだが。

岩倉 育てられてないけどな。

坂本 いいから行けよ。彼女さんが待ってるぞ。

岩倉 そんなんじゃないって。‥‥友達だよ。


岩倉、歩き出す。坂本、後ろで見守っている。


岩倉 石野!

石野 何?

岩倉 教えてくれ、あそこで何を見たのか。

石野 ‥‥。

岩倉 何かあったんだよな。一人で抱え込まないでくれよ。

石野 ‥‥見ちゃったんだよね。あの引き出しの中、あれと同じ石がいっぱい入ってた。‥‥百均のタグがついてた。百均のオモチャに踊らされてさ、特別な力なんてなかったんだよ。馬鹿だよね、本当。

岩倉 ‥‥あのさ、俺はこの石があったから友達になったわけじゃない。

石野 でも、あの石が引き合わせてくれたから。

岩倉 転校してきたんなら早かれ遅かれ会ってただろ。

石野 でも、

岩倉 今、友達なんだからさ。それで十分だろ。

石野 ‥‥そうだよね、ははは。ごめん、変なこと言って。

岩倉 変なのはいつもだろ。


坂本、二人の方に来る。


坂本 仲直りしたようで良かったよ。‥‥友達、かぁ。付き合ってないなら俺にもワンチャン、なんてね。


チャイム。


先生 というわけで、先生は減給になりました。愚痴を垂れ流したいとこですが、朝のホームルームやりましょう。今日の予定は‥‥

石野 ‥‥そうそう、UFOが出たらしいよ。

岩倉 UFOって出るものなのか?

石野 目撃されたんだから、そう言うしかないよ。

岩倉 まあ、そうか。

石野 探しに行こうよ。

岩倉 どうやって?

石野 空を見て、探す。

岩倉 そんなんで見つかるのか?

石野 見つかるよ、きっと。

先生 そこ、うるさいぞ。

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