教え子
週に2回の家庭教師のバイト。
ご近所のツテと成り行きで、青島優子はこの仕事を学校が終わってから、引き受けていた。
教え子は、自分より3つ下の中学2年生だ。名前は大和和子。おっとりした感じで、密編みお下げの、クリクリした目の愛らしい少女だ。
ご近所の目もあるので、おおっぴらに動けない。しかし、そこもそれ。楽しんでしまう優子だった。
「.......でね、ここをこうしてこうすれば......。」
「あ、なるほど。理解しました。やっぱり先生は見た通り頭いいです」
相方の恵美に、見た目の通り頭脳明晰、容姿端麗だけど、中身は、やさぐれた破滅主義者で、アタマの悪い方にしか回っていない。詐欺だ。と揶揄された事を思い出していた優子だが、別に言わない。
「あら、ありがと。別に先生って呼ばなくてもいいのよ、2人だけなんだから」
「いえ、こういうのは1度崩れたら戻らないので、先生と呼びます、先生」
「なんか、むず痒いわね。ちっちゃい頃から、和ちゃん、優姉ちゃんで通ってたから」
「そうですか?でも習う以上は先生です。時に先生は、その、彼氏さんとかいらっしゃるんですか?」
おっと、ご近所付き合いしてきた間柄ではあるけど、こういった方面の質問されたのは初めてだ。
一応の受け答えは考えてあったけど、アドリブも入れてみよう。
「そうね、いるわよ。同じクラスの和久井敬っていう、彼氏がいるわ。俺について来ーい!って感じの亭主関白の彼氏。貴方ぐらいの年頃ですものね。興味ある?」
「ええ。先生がどんな人と付き合ってるか興味あります」
......なんか、引っ掛かったなあ?何か忘れてるような気がするけど。この娘との事で。まあ、思い出してからでいいか。
「うちの彼氏わねー、自分勝手!自己中で、自分の気の向くままよ。それで浮気しまくりの甲斐性ありありの、あんたが大将よ!」
「最悪じゃないですか。先生の彼氏だから悪く言いたくないと思いましたが、どこがいいんですか?」
「ふと見せる優しさかしら。後、魔性ね」
自分を引っ張りだして彼氏像を作って、これを言ってみて、ちょっと恥ずかしくなって、思わず両手で顔を隠してしまった。だけど、それを見て和子は、
「言うだけで照れるんですか、そうですか。ぞっこんというやつですか、そんな男に」
むー、と難しい顔をする和ちゃん。てきとーな話を作ってみたけど、設定がちょっと効きすぎたかな?
「......もう、そんな相手がいたなんて」
ちょっと涙目になりかけている和ちゃんを見ていて、小さい頃に同じ顔をしている和ちゃんの記憶がフラッシュバックする。
「大きくなったら、優姉ちゃんと付き合うって言ったのに......」
ぼそりと呟いた目の前の和ちゃんが、そう言って唯一駄々をこねた小さい頃の姿と重なって見えた。
完全に思い出した!
「和ちゃん。そんなに想っててくれたんだね......小さい頃の事なのに......」
「優姉さん!私は女ですし、付き合うのはおかしいのは承知です。ですが話に聞くその彼氏よりはマシだと思います!私と付き合って下さい」
「本気で想ってくれてるのは嬉しいけど、私、そんなんじゃないよ、和ちゃん。彼氏じゃなくて彼女だし。言った事、全部私の中身だし」
「......!語った彼氏の中身が優姉さんだと!?彼女がいて、浮気しまくって?」
「そうよ、出来のイイふりしてたけどね。私はそういう人間なの。だから和ちゃんは......和ちゃんは小さい頃から知ってるから無理よ.......」
「そう言われては引き下がれませんね......浮気じゃなくて私に本気になって下さい、優姉さん」
ぐっと間合いを詰められるけど、後ろは壁で下がれない。この娘、結構強引なところあるのねぇ、嫌いじゃないけど。
「本気も浮気もないわ、好きにして、和ちゃん」
目をつむり相手に主導権を明け渡す。
「貴方は私のものです、優姉さん」
互いに目をつむりキスをする。
優子は片眼から少し泪を流した。
続く