事案
赤いランドセルを背負ったツインの短い三つ編みの少女に声をかけた。私が男だったら事案かな?いや、女でもかなりギリギリか。顔見知りでもない不審者だもんね。
逃げちゃうかなーと思ったけど、その娘はこちらを探るような目で見て、ビクビクしながらもその場にとどまっている。
もう一押ししてみよう。
「オィース!」
「お、......オィス?」
「声が小さいぞ、道ゆく少女!もいっかい、オィース!!」
「......っ!オィース!!」
見知らぬ女子高生の、無茶苦茶なノリにも合わせるいい娘だった。
もとい、本能的に身を守るため、合わせただけだろうが。
無理矢理言わせて済まぬ、少女よ。
「君、いい娘だなぁ少女。私は青島優子。見ての通りの、道ゆく一介の女子高生だ」
「は、はじめまして、アブないお姉さん。私は横口真酔といいます
」
アブない女子高生を前にビクつきながらも、堂々と私に名乗りを返す真酔ちゃん。うん、気に入った。ちゃんと名乗り返すとこも、私を危ないと認識したとこも。
「真酔ちゃんは、集団下校とかしないの?私ん時はあったけど、なくなったの?少子高齢化?」
「.......!いきなり人の核心をつくような事言う?!青島さん?青島優子さん。直感で生きるのもいいですけど、人として、段階踏んで聞いて下さい」
「ああ、そっか。ごめんね真酔ちゃん。私、どーも人の気持ちを汲むってのが苦手でね。ときメモとか超下手でね」
「なんで私、攻略されてるんですか?攻略じゃなくて、友人とか、顔見知りとかの意味での、段階と言ったんですが」
「そうだった、そうだった、最初はお友達からよね、普通。どーにも最近ただれてるから、忘れそうになるわ。大事。人の道」
「青島さん、これっぽっちも思ってない事言わないで下さい。人生の内申書に響きますよ?それと、最初は、って何ですか?不穏過ぎます」
「ふっふっふっ、内申書なんてドブに捨てて、捨て身で生きてるおあ姉さんよ。可愛いなあ、真酔ちゃんは。男の子より女の子の方が好きだったりする?」
「なんちゅー事聞くとですか?ばってんおいどん小学6年ですから、そーゆうのはまだよく分からんとです!」
「真酔ちゃん、九州の出なんだ......、うんギャップも相まって可愛い」
「会ったばかりのひ、人の事を可愛い、可愛いって、ナンパですかコレ?なんか謎のガッカリ感があります......」
「んっふっふっ、そっかーガッカリしゃうかー真酔ちゃんは。中々私の直感も捨てたもんじゃないわね、そう思わない真酔ちゃん?」
「そこで同意すると私の人生崩れる気がするので、Noです!貴方は、外れだらけの駄目ギャンブラーです!」
「残念。そろそろお家に帰らないと心配されちゃうわね、真酔ちゃん。貴方可愛いんだから、変態に気をつけて帰るのよ。またね、さよなら」
「くっ!なんか負けた感じがして残りたいですが、この人と喋り続けるのも身の危険を感じるので、おいとまします。さよなら!青島さん!」
ツインのお下げ髪をひるがえして、悔しそうに一人走って去る真酔ちゃんだった。
ふふっ、見知らぬ相手にも挨拶してみるものね。ヤケバチだったからした行為だったけど、収穫になるんだから、人生わからないわね。人生の内申書とやらは、捨ててるけど、私の直感もまだ捨てたもんじゃないわね。
さあ、明日はどんな1日かしら。
続く