歯型
ふらりふらりと愛美と2人で帰る下り坂。
私達の通う高校の下校通路だ。
私は上機嫌に、愛美に手を差し出す。
愛美はちょっとむくれた顔になって、差し出した私の手を握り指を絡ませる。
「優子、覚悟なさい。私にこの手を握らせたんだから、もう嫌と言っても離してあげないから」
「ふふふっ、あら怖い。貴女ってば、さっきまでの初々しさはどこいったのかしら?」
「優子が私を変えたんでしょ!和久井さんには悪いけど......。私は優子を奪うわ!和久井恵美と別れて、私と付き合いなさい優子!」
「さて、どうかしらね。貴女には私を受けきれるかしら?恵美も大概手を焼いて私を呆れているわよ。腐れ縁ね」
愛美は歯ぎしりでもしそうなお猿さん顔で私を睨み付けていた。私は気付かないような素振りで、そんな愛美を飄々と受け流す。繋いだ手をフリフリしながら笑顔を保つ。
「優子。絶対あなたを公正させてやる......」
「それもどうかしら?同性に初恋しちゃった貴女に言われてもねえ。いいから私に愛をちょうだいな」
「明日の登校まで待ってなさい!優子、今日はこれだけよ!」
愛美は握っていた手を自分の方に引き寄せ、私を振り向かせる。正面から私と愛美は向かい合う。
私も愛美も笑みも浮かべず、ただじっと目と目を合わせ、時間が止まる。
「優子のあほ!!」
突如、私を罵りながら愛美は私を抱きしめた。キスするのかと思いきや愛美は、私の首筋を噛んできた。
「......っ!」
痛みが首筋から伝わって、脳に痺れる。数秒そうされていただろうか、唾液をひきながら愛美がゆっくりと口を離す。甘い痛みを味わいながら、私は愛美に冗談で返す。
「貴女、吸血鬼か何かかしら?」
「優子は、私のものって証しよ!ほざいてなさい!」
愛美は、ベーと舌を見せて笑顔を見せた。その足で彼女らしからぬ快活に駆けて私の前から帰っていった。
私はただその場に立ち尽くして愛美に噛まれた痕を手で撫でる。その痛みを慈しみながら、自分の家へ帰る方向へ、身体をゆっくり動かしていく。
「ずいぶん強烈に歯形が残ったじゃないの?優子」
「あら、恵美。まだ帰ってなかったのね。もいちょっと余韻に浸りたかったなあ」
私の相方でバディな彼女の和久井恵美が、そこに苦笑いしながら立っていた──
続く