鉄板
気だるいな。どうして午後の授業はこんなにも眠くなるのだろう。教室をぼんやりした頭で見渡してみると、3分の1ぐらいの生徒の頭が垂れ下がっている。
加えて、外で何かの工事をしている音と、黒板をチョークで書く音。現国の小田原だっけ?先生の声が合わさって、眠りに就くいいBGMになっている。
私も眠気は我慢出来るけど、気だるいのはほんとだし、合わせて寝ちゃおかな。
なんか悪夢見そうな感じなんだけど。
「わっ!」
何気なく、横を見たらクラスメイトの女生徒のナントカと目が合った。
誰だっけ......。確か狩畑愛美だっけ?
なんだか慌てて気まずそうに前を向いて授業を受けようとする。わっ!って。恥ずかしい?顔赤いよ?
この娘も、まあまあ可愛いよね。
天然のカールした茶髪で首筋までで切ってて、綺麗よりは可愛らしい。小動物で例えるなら、ハムスターみたいな感じ。
接点は、ほとんど無いなー。挨拶ぐらいしか交わした事ない。
あの感じ......。男の気配も感じた事無いし、
私に気があるのかな?
だとしたら楽しい、ワクワクするな。
そう考えたら、午後の授業の気だるさも消えた。
授業が終わって、相方の和久井恵美が声をかけてくる。
「優子。さっきの授業ちゃんと聴いてなかったでしょ。ノート貸したげるから、帰って写しなよ」
「あ、恵美。いつもサンキュー。愛してるよ。放課後ちょっと用事が出来たから先に帰ってて」
「用事?部活もアルバイトもしてない貴女が?怪しいわね。また何か悪い事考えてんじゃないでしょうね?だって貴女楽しそうなんだもの」
「なんでもないよ。家の用事。いいから早く帰んな」
「浮気にしても程々にしてよね」
おっとバレてる。さすが私のバディで相方の彼女だ。そんな彼女を手のひらをヒラヒラさせて追いやる。まあ、いつもの事だ。彼女には苦労かけるねえ。
思ってもみない事を思いつつ、私は帰り支度を初めている、小動物の狩畑愛美ちゃんに鼻歌混じりに、接近する。
「狩畑さ~ん」
ビクッ!と狩畑さんは震えた。声をかけただけなのに可愛いリアクションするなーもーたまらんですな。
「ど、どうしたのかな?青島さん。青島優子さん......」
「あら、下の名前も覚えてくれてたんだ?マメな性格してるねー」
「そ、そんな事。青島さんだから、覚えていただけで......」
「嬉しい事言ってくれるわねー、可愛いすぎるよ狩畑ちゃん。ほぼ鉄板だよ?」
「て、鉄板て何?それで、青島さん。わ、私に何かよう?」
顔が赤い愛美ちゃん。目も私と合わせられないようでうつむき加減に聞いてくる。期待を込めて。
裏切られるよー愛美ちゃん、そんなに期待しちゃ駄目だよ?うぶだなー。
「ちょっと話ししよっか?帰りがてらにさ。なんなら聞くよ?人気の無い校舎裏に行こっか」
「え!?」
目を丸くして、パニック状態をいい事に、私は愛美ちゃんの手を引いて人気の無い校舎裏へ歩き出した──
続く