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4話

4話




ふかふかのベッドに腰を下ろし、好きに見てもいいよと言われたテレビの電源をつける。

テレビのリモコンに触れたのは初めてなので使い方はよくわからなかったけど、てきとーにボタンを押したら電源はついた。


ちなみにだけどおにいさんはここにはいない。

さっき会ったなぎさおねえさんに突然呼び出されたみたいで、血相を変えて家から飛び出していった。

保護(?)した子供を置いていってもいいのかな?とは思ったけど、きっとそれすら気にしていられないほど大変なことが起こったのだろう–––と気にしないことにした。


『–––次のニュースです。本日午前十一時頃、東京都C級指定区域の民家から「ひどい血の匂いがする」と110番通報がありました。警視庁によると現場は住宅と見られ、そこに住む神楽夫妻の死亡が確認されました』


そんなテレビに映っている人の言葉とともに、わたしのおとうさんとおかあさんの写真が映し出された。

二人で仲良く手を繋いで、幸せそうにしている写真。

わたしはそれを見て、改めてもうこの二人を見ることはないんだなあと、心の底から歓喜した。


『なお、この夫妻の子供である神楽アザミちゃんは無事が確認され、一度異能で検査を受けたあと警察に保護されたそうです』


そこに映し出されたのは、わたしの小さい頃の写真。

ニッコリと笑みを浮かべていて、こちらに向かって手を伸ばしている。


それを見てわたしは–––


「……う、っぉ、ぇ」


思わず吐きそうになり、咄嗟に手で口を押さえた。

喉元までせりあがってきているものを無理やり飲み込み、こと無きを得る。


……ここはおにいさんの家。そんなところを、汚すわけにはいかない。汚したりしたら……、きっと怒られるから。


『次のニュースです。三年前、監獄島に–––』


わたしは震える手でテレビのリモコンに手を伸ばし、テレビの電源を切る。


「……なんか、つかれた……」


ふかふかのベッドにドサっと倒れこみ、目を閉じる。

あれだけ寝たはずなのに、あと少しでも目を閉じていれば眠ってしまいそうだ。


「……きょういちにちだけで、いろんなことがあったな……」


おかあさんとおとうさんを殺して、警察の人が来て、おにいさんに保護されて、美味しい食べ物を食べて、昔の自分を見てなぜか吐きそうになって。

わたしはふぅと息を吐き、全身の力を抜く。

するとわたしの意識はだんだんと、深い深い闇の中へと沈んでいく–––。




–––バリンッというガラスが割れる音と、キィキィと床の軋む音でわたしは再び目覚めた。


「……おにいさん?」


わたしは身体を起こして耳をすます。

キィキィという床の軋む音は、わたしを怯えさせでもしたいのか、わざと大きな音を立てたり、今度は小さくしたりと音の大きさはバラバラだ。

ただ一つ、これだけは言える。

この音を立てている人物は確実にこちらへと向かってきている、と。

さらにこの建物はキッチンの綺麗さや、住居の傷のなさから新築に近いものと言える。

それならばとんでもない質量を持ったものが移動でもしない限り、こんな音は鳴らない。

つまり、この足音はおにいさんのものではない。


「……」


わたしは部屋の中に置いてあるクローゼットへと目を向ける。

そーっと開けてみると中はほとんど空っぽで、わたし一人くらいなら余裕で入る。


「……でも」


足音の主はなんらかの方法で、わたしの居場所を特定できる可能性がある。

それならばこんなクローゼットの中に隠れても、すぐにバレてしまい意味がなくなる。


もしかしたらの可能性だが、この足音の主はおにいさんの知り合いの可能性も捨てきれない。

……いや、それならばなんでガラスの割れる音がしたんだろう。

おにいさんの知り合いなら普通はぴんぽーんって音を鳴らしてくるはずだし……。


–––とにかく、いまのわたしに逃げ場はない。


扉の外に行けば足音の主と鉢合わせる可能性が高いし、それならばこのクローゼットの中に隠れていた方がマシだろう。

そういうわけでわたしは、それの中に隠れることにした。


クローゼットの中に入り、息を潜めて口を両手で押さえる。悲鳴をあげそうになった時、無理やり抑え込むためだ。


……この部屋に窓がないのが痛手だった。もしも窓があれば、そこから飛び降りて脱出できたのに。


それから数秒か、はたまた数分かが経過する。緊張のせいか、時間の感覚がよくわからなくなってきた。

キィキィという床が軋む音はいつのまにか聞こえなくなっていて、先ほどまで感じていた圧迫感のようなものは消え去っていた。


……いなくなった、のかな?


そう思い、クローゼットの扉を開けようと右手を伸ばし––ガタン!とこの部屋の扉を乱暴に開け放つ音が聞こえた。


「ッ!」


口からこぼれそうになった悲鳴を、無理やり飲み込む。

これで、この家に侵入したのはおにいさんでもおにいさんの知り合いでもないことが確実になった。

なぜならば––


「––チッ。いったい何処にいやがんだ……?」


そんな男性の荒々しい声が、聞こえてきたから。

それに加えてバキバキという、何かが壊れる音も聞こえた。


「……!」


かたかたと震える身体をまるませて、あげそうになる悲鳴を押し殺す。

人を殺したと言っても、生物が本能的に感じる恐怖が消えるわけではない。

誰だって死ぬのはこわい。……こわい?……あれ?なんで、怖いんだっけ?

なんで、死ぬのが怖いんだっけ。


すぅーっと、もやがかっていた思考が段々とクリアになっていく。

……どうやらわたしは「威圧系」の異能を受けていたみたいだ。

異常なほど感じていた恐怖感は、そのせいだろう。


わたしは外にいる何かにバレないように、目を閉じてそっと息を吐く。

……うん、落ち着いた。だからもう––大丈夫。

異能力【完全犯罪】––その効果がわたしの想像通りなら、この状況を脱すことができるはずだ。


わたしは小さな笑みを浮かべて、【完全犯罪】を発動させた。






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