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プロローグ

昔かいたやつを……

プロローグ




おかあさんにあたまをなぐられた。


痛い。


おとうさんにおなかをけられた。


痛い。


がっこうのせいとたちにかみのけをひっぱられた。のうなしとわらわれた。なぐられた。けられた。


痛い。


せんせいはだまってみているだけで、たすけてくれない。

だってこれが、あたりまえだから。


苦しい。


いえにいても、がっこうにいっても、わたしにふるわれるのはぼうりょくだけ。

ゆいいつのすくいは、いちにちいっかいだけごはんをたべさせてもらえること。


苦しい。


ぜんしんをあざだらけにしても、きずだらけにしても、ほねがおれても、だれもたすけてくれない。


いちどだけ、じどうそうだんじょにたすけをもとめた。

けれど、まともにあいてにはされなかった。


あざだらけのからだをみても、きずまみれのからだをみても、ただ"きもちわるい"というだけで、あいてにされなかった。


ぎゃくたいをされたらたすけてくれるところとだとおもっていたけど、わたしのただのかんちがいだった。


もう、ぎゃくたいをうけつづけてごねんくらい。いや、もっとたってるかもしれない。


のうなしのわたしがわるいんだろうけど、こころのうちからわいてでてくるかんじょうをわりきれるかといえば、そうじゃない。


まいにちまいにちぼうりょくをふるわれて、だれにもたすけてもらえなくて、だれもあいしてくれなくて。

もう、がまんのげんかいだった。


––––だから。



バスタブに溜められているお湯が、だんだんと真っ赤に染まっていく。

むせ返るような鉄臭い匂いがバスルームに充満する。

なぜお湯が赤く染まっていっているのか。

なぜ鉄臭い匂いがするのか。


その理由は––––わたしが入浴中だったおかあさんを、殺したから。


「……なーんだ。とっても、かんたんなことだったんだ」


わたしは血で塗れて決して何も喋ることのない骸––––自らの母親を見つめて、ふっと笑みを浮かべた。


「……ふふ、そうだ。おとうさんも、いっしょにしてあげないと。おとうさんとおかあさんは、なかよしだから」


そうと決めれば早速、わたしは赤いお湯に浮かぶ血で塗れた包丁を拾い上げて、お父さんがいるであろう寝室へと向かった。


ふふ、わたしの全身がお母さんの返り血に塗れていたら、きっと驚くだろうなぁ。


廊下を歩くたびに、ひたひたひたと水に濡れた足の裏が音を鳴らしている。

階段を降りて、寝室の扉を三回ノックする。


「……麻子か?待ってろ、今開ける」


ギィィとベッドの軋む音が聞こえたかと思うと、ダ、ダ、ダという大きな足音が聞こえた。

足音はどんどんと扉へと近づいてきて、それが聞こえなくなったとおもったらガチャリという扉の鍵が開く音がした。

わたしはドアノブを血で塗れた手で回して、扉を押して開く。

すでにおとうさんは背を向いていて、隙だらけだった。


「随分と長風呂だっ…………」


わたしのことをおかあさんだと思っているのか、優しげな口調で話しかけてくるおとうさん。

わたしがもしも"のうなし"じゃなかったら、おとうさんはこうやって話しかけてくれたのかな。


とりあえず、足音をなるべく立てないように背後へと近寄り、一瞬で前へと躍り出て呆然としているおとうさんの喉を包丁で裂く。


ブヂッという筋肉が裂ける音。それと同時に溢れ出てくる温かい血。

そして、ダンっと音を立てて床に仰向けに倒れたおとうさん。


おとうさんはパクパクパクと、まるでエサを待っている鯉みたいに口を懸命に動かしている。

手をこちらに伸ばして来ようとしたので、とりあえず包丁を心臓に突き刺した。

不思議なことに包丁は、何の抵抗もなくおとうさんの心臓を貫いた。


「……ッ!!……ぁ……!」


だからおとうさん。何をいっているのかわからないよ?


それなのに懸命に口を動かすおとうさんが非常に滑稽で、ふふふっと思わず笑ってしまった。


「おとうさん、よかったね。おかあさんといっしょに、おそらのうえでくらせるね!」


心臓を刺されたはずなのに、わたしにふるえる手を伸ばしてくるおとうさん。


「あれ、おかしいな。なんでうごくんだろ」


心臓から包丁を引き抜いて、もう一度刺す。何度も刺す。

刺すたびにグチャッという音がして、真っ赤な血が飛び散るけど、気にしない。

何十回か刺した終えたところで、ようやくおとうさんの手は力なく床へと落ちた。


わたしは手に持っていた包丁をぽいっと捨てて、血に塗れた手で汗を拭う。


その時だった。わたしの耳に、何故だかどこかで聞き覚えのある無機質な"声"が聞こえた。


《条件を満たしました。これにより"第一の権能"〈完全犯罪〉が解放されました》


その瞬間––––わたしの頭部に鋭い痛みが走った。


おとうさんに蹴られたときよりも、おかあさんに殴られたときよりも、比べ物にならないほどの痛み。

まるで頭の中に何かが埋め込まれていっているような––––そんな感覚があって、吐き気も覚えた。


おとうさんに蹴られても、おかあさんに殴られても耐えられたのに––––そう思ったのも束の間で、わたしは痛みに耐えられず気絶してしまった。







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