表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/30

この角刈のりおじさんは以外と強い人でした

昨日と同じ訓練所で今日も俺は木剣を握りしめて、訓練していた。

だが、昨日とは異なり幾人もの人たちが掛け声を上げて、木で出来た剣や槍を振りながら訓練を行っている。

訓練をする人たちの気迫と熱気が凄まじく、気圧されてしまう。

そんな中で今日もダルトスさんと激しく打ち合い、訓練に励む俺。ダルトスさん曰く、本来ならまず素振りから始めるそうだが、出来るだけ早く戦えるようにしろとの命令らしく、こうして基礎を教えながら打ち合っているそうだ。


「うん、いいね。大分無駄な力が無くなってる。一誠君は武術の才能があるよ」


「はぁ…はぁ…あり…がとう…ございます…はぁ…」


いや、ダルトスさん全然息が上がってないし、一方的にいなされては体に打ち込まれているだけだし、才能あるなんて説得力ないよ?


「後はどのタイミングで力を使うのかを覚えるかだね。これは感覚的な問題だし、簡単には出来ないけど、もし出来ればさらに無駄な力を無くせる。そうなれば動きのぎこちなさも、無くなって見違えるように良くなるよ」


「…はい…はぁ…」


褒められるのは嬉しいけどさ、もう少し手加減して欲しい。さっきから休みなく激しく攻めてくるんだよ。

昨日とは違う内容にかなり戸惑う。が、俺の育成を急いでいるのも分かるので、緩めてくれなんて言えないし…。


「じゃ、いくよぉー!」


どこか陽気な声で此方に駆け寄ってくるダルトスさん。まず横からの凪ぎはらいを剣で受け止める。

するとすぐに剣を引いて、上段からの斬りかかりを横に避けるが、ダルトスさんはすぐに横凪ぎをしてきた。

木剣を進行方向に上に置いて防ぐ、そして昨日の経験をもとに、押し返すように木剣を押しやるが、ダルトスさんは剣を斜めにして受け流す。

いきなりのことで、俺は力を抜くタイミングを逃し、そのまま前のめりになってしまう。

そこへ額にこつんと木剣の一撃をもらった。


「く!…はぁ…はぁ…」


「はは!いいね!今のはなかなかいいタイミングだったよ!」


褒めてはくれるけど、全然手も足も出ないのであまり嬉しくない。

まさか、受け流しであそこまで隙を作られるとは思わなかった。今まで剣術なんてしたことないから、初めてのことに対する対応が遅くなるな。


「…いや、もっと柔軟に対応出来るようにならなと…さっきのは明らかに俺の反応が遅かったですから…」


「ほほぉ!いいねぇ!結構冷静に分析出来てるようだ。そう、とにかく何で駄目なのか常に分析して、行動に繋げる。戦士として大事なことだ。その気持ち、忘れなければ君は強くなれるし、生き残れる可能性も大きくなる」


「はい!」


やっぱダルトスさんは優しいな。こんなドが付く素人にここまで親切に教えてくれるなんて。

でも、おかげで動きは結構様になってるのは分かる。昨日に比べれば体の動かし方、力の入れ方にタイミング。

大分まともになってきてると実感出来る。


「さぁ、もう一回いくよ」


「はい!お願いします!」


ダルトスさんはまた俺に駆け寄ってくると、今度は突きを放ってきた。

俺はそれを横に避ける。切っ先が通り過ぎるのを見ながらダルトスさんに視線を送ると、足の支えが無くなって地面へと背中から落ちる。

そして、頭へコンと、また剣の一撃をもらった。どうやら足払いをされたようだ。


「残念ー!甘いねぇ、一度避けたからって安心しないこと、剣の動きだけじゃなく相手の動きにも注視しなきゃ。突きなんて、避けたら後は横凪ぎか、引き戻すのどちらかだ。ほぼ二択なら相手を見据えて腕の動きで反撃か防御のどちらかの選択肢を選べばいい。けど、相手を見てないってことは、相手からしたら奇襲してくれと言ってるもんなんだよ。要は相手の選択肢が増えてるってことだよ」


そっか、俺は避けられた喜びから攻撃そのものしか見てなかった。

けど、相手からしたら避けられれば直ぐ次の行動に移る訳だ。

自分にも選択肢があり、相手にも選択肢がある。だから、如何に対応出来るようにするか、必要な情報を得なければいけないんだな。

そして、逆に相手の選択肢を潰す行動も大事な訳で、相手の動きを注意してますよと見せておけば、相手の動きを制限出来て自分のペースに持っていけるってことか。

なるほど、さっきからダルトスさんの攻撃を食らっているのもダルトスさんから行動を制限されたり、誘導されたりしてのもあるのか。


「…はい!もう一度お願いします!」


「…君はいい眼をするよねぇ…うん、私の息子を思い出すよ…。では!行くよ!」


ダルトスさんは先ほどとは比べ物にならない速度で詰めよってくる。


「っ!」


鋭い左からの横凪ぎが襲ってくるが、俺は何とか防ぐ、今度は押し返さず、というよりそんな余裕もない。押し返すなんてテクニックを使うことが出来ない。

ふと、右から何か来ると直感が働く。俺は直ぐに後ろへ下がると、ダルトスさんの左手が俺の居た場所を通り過ぎた。


「!いいぞ!だが、まだ終わらないからね!」


左からの横凪ぎを防ぎ、足払いを避ける。連続の突きを木剣でいなすと、蹴りが来たので横に避ける。横凪ぎをダルトスさんに放つと、防がれたので、直ぐに木剣を引いて突きを放つと、ダルトスさんは最小限の動きで避けて、柄の部分で俺の腹部にカウンターをしてくる。体を少し反らすことで服の上を滑りながらずれていく。

俺はこのままでは危ないと感じて、一度距離を取り、ダルトスさんを見据えて構える。


「…くふふ…」


「…ダルトスさん?」


あれ?ダルトスさんの様子が変だ?


「あっはっはっはっは!」


いきなり大きな声で笑い出した。なんだ?なんかおかしな事でもあったか?

もしかして変な顔でもしてたのか?あ、実はおならが漏れたのばれた?恥ずかしい。

周りの人達も怪訝そうな表情をしている。中には驚いてる人すら居た。


「いやぁすまんね!ふふふ!君は本当に今まで剣を習ってなかったんだよね?」


「え?そうですけど…」


訓練を始める時にそのことは言ってある。剣どころか武術のたしなみすらしてないことも。


「いやぁ!まさか戦闘の訓練を始めて、1日でここまで身のこなしが洗練されるとは!」


そうなのか?元の世界じゃ運動神経はそこまでよくなかった。悪くもないけど。

陽斗と桐矢のコンビにはまず雲泥の差だし、実は恥ずかしい話、明奈とどっこいのくらいだし。


「ありがとうございます。ダルトスさんの指導がいいからですよ」


「はは!たしかにその通りだ!」


「…あっはは…」


そこは否定しなよ。いい年したおっさんがサムズアップしてどや顔しても見てて暑苦しいだけだぞ。

でも、本当にダルトスさんの指導は丁寧だし、上手いとは思う。

戦闘の基本から体の動かし方を丁寧に教えてくれるし、俺の何が悪いのか的確に指摘してくれる。

俺にとって幸いなことに、かなりいい先生だ。


「よし、少し休もう。大分バテてるようだね」


「…はい」


ダルトスさんは汗の一つもかいてない。これだけで俺とダルトスさんの間には大きな差があることが分かる。俺とダルトスさんは日陰に設置されたベンチで休み、ダルトスさんが持って来てくれた果実水を飲んで喉と体を潤わせる。

ダルトスさんからは、「無駄な力がまだあるから早く疲れるし、汗も大量にかくんだよ。なに、慣れてくると私のようになれるさ」と言われた。

確かに無駄な力はまだまだあると思う、ダルトスさんの動きを見てると、ことさら痛感させられる。


「…あの、ダルトスさんは普通の騎士なんですか?…例えば特別な役職とかではないんですか?」


「ん?いや、そんな大層なものはないよ。…ただ、ちょっとした小さな部隊の隊長ぐらいなもので」


本当だろうか?いや、この人は正直言ってただ者とは思えないんだよな。

この訓練所にいる人達を見てもダルトスさんの身のこなしは飛び抜けてると、素人目の俺にだって分かる。

それに、彼のステータスだって突っ込み所があるのだ。



ダルトス・アルトルト


称号 ロレンガムの剣鬼


スキル


剣術 王級

槍術 上級

格闘術 上級

聖王の加護 聖護の壁

気配察知 上級

危機察知 中級

縮地

天瞬

身体強化

身体硬化


パラメーター


体力 200

筋力 95

敏捷 220

魔力 50




まず、俺にはない称号があるのだ、しかもかなりやばげな。なんだよ剣鬼って。確実に強いパターンやん。

剣術スキルは王級だし、槍術すら上級だ。これだけで強いと思うんだけど、さらに身体強化と硬化なんてのもある。

それと、縮地なんて明らかに疾駆の上位互換も持ってる。天瞬は多分、空中版の縮地か。

極め付けは聖王の加護だ。聖護の壁なんてついてるけど、効果が分からん。てか、聖王ってなんだ?この国の王は霊王の筈だから何か変だよな?

それにステータスすら、筋力と魔力は勝ってるけどそれ以外は倍近い差がある。

これで普通の騎士なら、勇者要らなくね?って思ってしまう。

いや、勇者のステータスすら知らないからなんとま言えんけど。

ただ、以前鑑定した騎士が一般的だと言えば、この人が如何に化け物染みて強いかよくわかる。


「…そうですか」


「う~ん。ま、ちょっと昔に戦争があってね、その時に活躍したことはあるけどさ、ははは!」


それがロレンガムか。もしかしたらこの人は聖霊国にとって、英雄的な人なのかも。

てのも、周りの人達はダルトスさんを見ると、畏まって礼をしたり畏敬の眼差しを向けるんだよね。

もしそうなら、俺は英雄に迷惑を掛けてる奴と陰口を言われてるかも。


「因みに!相手がこの国でね!私はこの国に手痛い打撃を与えてしまった訳だ!ははは!」


「え!?」


そっち!?まさかの敵側だったの!?なんで今はこの国にいるのさ!…まぁ、色々事情はあるんだんろうけど…。でも、まさかそっちだったのね。だから皆畏敬の視線を送ってた訳か。あれは怯えてた訳ね。


「…ま、今はこの国の騎士として働いてはいるからね。よく昔の恨みを言われたりもするもんさ。けど、それ以上に私を引き込めて喜んでるところもあるわけでさ。なかなか難しい立場なんだよね」


「…そうなんすか…」


人一人に物語はある訳で、彼の物語は敵国へと渡ることだったってことか。

でも、それでも凄い人に変わりはないし教え方がかなり上手いから、本当に助かってるけどね。


体の火照りが抜け大分落ち着いてきた頃、訓練所が騒がしくなる。

皆一様に一ヶ所を見つめてざわざわと、挙動不審にしながら何かを待っているようだ。


「なんだ?」


俺も気になり皆が見ている所を見てみると、そこは訓練所の出入り口で、そこには一人の騎士が居て彼が大きな声で叫ぶ。


「勇者様方が訓練所へと入場される!皆、邪魔にならないよう気をつけるように!無闇に話掛けるのは禁止とし、破った場合は厳罰に処する!」


「え?マジで?」


どうやら勇者達が来るようだ。まさかあちらから来てくれるとは、願ったり叶ったりだ。

あわよくば待遇改善を頼んでみるのもありだな。


「へぇ、勇者様達かぁ。昨日は見れなかったからね。どんな感じか気になるねぇ」


ダルトスさんも目を輝かせて見ている。まるで英雄譚に憧れる子供のような顔をだ。

ダルトスさんは既に英雄みたいなものでは?と思うのだけど、やっぱそれとこれとは違うのかな。


「お!来たようだ!」


訓練所の空気が緊張に包まれ、熱気が高まった気がする。周りの人達の興奮と熱気がこの場の温度を上げているのかと錯覚してしまう。

皆、黙りこみ、熱い視線を訓練所の出入り口に送り続ける。

勇者の注目度がいかほどかが分かる。やはり世界の危機を救う英雄として、皆期待を向けるんだろうな。

そして、人が数名入ってきた。まず、普通の騎士とは全く違う豪華な鎧を着た騎士が三名。

その後ろにはこれまた豪華そうなローブを着た人達が五名と、遅れて白い服を纏った男女が六名ほど付いてくるのが見えた。

ここらでは顔がよく見えないので判別出来ないが、恐らくは最後に入って来たのが勇者達であると思われる。

にしても、勇者達の服がカッコいいぞ。白を基調として、所々に青いラインが引かれている。

パッと見はイタリアとかの軍服を白くした感じだ。…俺は使用人風の服なのによ…。

てか、人が邪魔で鑑定出来ねぇ…。勇者のステータスを早く見たいんだよ。

徐々に一団が訓練所の中央に移動していく。後から来て中央を陣取るとか、なんて失礼な奴等だ。誰か文句言ってくれ。俺?無理っすよ。


「ん?…え?」


ふと、人混みの間から勇者らしき人の顔が見えて、俺は硬直する。

何せ、見覚えがあったからだ。子供の頃から。それこそ、幼稚園の頃からずっと見てきた可愛いげのある顔を。


「ん?あ!おい!一誠君!」


気付くと俺は歩みを進めていた。徐々に速度をます足の動き。

鼓動が高まり、そんなことが有り得るのか?と、頭の中で叫び続ける。

邪魔な人達を掻き分けて進むと、そこには転移したあの日、教室に居た俺の幼なじみ三人と、松岩、そして牧沢と片浜が居た。


「どう…して?」


俺はそう呟くしか出来なかったが、ある考えに行き着く。まさか、同じ場所に居た人間を召喚する集団転移だったのかと。


「ん?…うそ!一誠!!」


明奈が俺を見つけると、駆け寄って来て抱きついてきた。彼女の体は僅かに震え、どこか小さく感じた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ