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思ってたほど訓練は悪くないです

美しい青空、気持ちいいそよ風。運ばれてくる優しい花の香り。

とても気持ちのいい今日この頃。しかして人々は熱狂に包まれていた。

ある者は涙し、ある者は称える。歴史的瞬間に立ち会えたことに、世界を救う英雄達に出会えたことに。

歓声は一つの合唱となり、突き進む英雄達を鼓舞する。


そんな幻視が俺の脳裏を過る。今居るのは城の訓練所。木剣を片手にむさい騎士のおっさんと相対している。騎士のおっさんは角刈りのブラウンヘアーで、渋い顔のナイスミドルだ。


余程盛り上がっているのかここまで聞こえてくるパレードの歓声は、男二人きりのこの場を盛り下げるには十分な効果を発揮していた。


「…はぁ、なんで私が訓練の相手なんてしなきゃいけないんだろ…パレードいきてぇ…」


お?奇遇ですね。俺もこんなことよりパレード行きたいです。どっすか?二人で抜け出しません?

俺はそう提案しようと口を開く。


「…すんません…」


謝るしか出来ない。すんません。俺に抜け出す度胸はありませんでした。

下手に抜け出して印象を悪くするのは避けたい。


てか、本当に俺抜きでパレードやってんのね。すんごい悲しい。確実に俺を勇者として認識してないってことか。てか、俺は勇者じゃないのかな…。

やっべ、すんげぇ帰りたい。


「…いんや、任された職務はきっちりと果たさないとな…」


彼の与えられた仕事は単純明快、俺がまともに戦えるように鍛えろだ。

まず最低限剣術のスキルが必要だと、こうして木剣で打ち合ってるわけだ。

だが、俺はずぶの素人で太刀筋など、なってはいない。容易く避けられ、防がれ、反撃される。

そして、かれこれ数時間繰り返しているが、まだ剣術スキルは獲得していない。

このおっさん、ダルトスさん曰く、「普通は数日剣を振ってやっと習得するもんだ。ま、焦んなさんな」と、言ってくれた。

根は好い人なのでことさら訓練に付き合ってもらってるのが申し訳ない。


「…では、いきます!」


俺は勢いよく駆け出し、ダルトスさんに斬りかかる。上段からの攻撃をダルトスさんは横に避ける。俺はそこで攻撃を止めずに横へと剣を凪ぎ払った。


「ま、そうくるよね」


ダルトスさんは事も無げに容易く防ぐとコン!と乾いた音が響くと同時に、俺の木剣を押し返す。ダルトスさんの筋力は俺より低いはずなのに押し返されるのは納得いかないが、事実押し返されているので多分力の入れ方なのだろう。


「ぐ!」


押し返された反動でついのけ反ってしまい、ダルトスさんが木剣で隙だらけの俺の腹を叩いた。

軽く叩かれた程度なので痛みはないが、とても悔しい。

ダルトスさんは剣術スキルの王級を所有しているので、まず勝てないのだが、それでもここまで通用しないと本当に情けなくなる。

因みに、戦闘スキルには階級があって、初級、中級、上級、超級、王級、神級となっている。


「今のは何が悪いか分かるかい?」


「…いえ」


何が悪いのか分からないのがまた悲しい。単純に力量の差で負けたのではないのか?


「簡単さ、君の行動は容易く予測出来た事と、力み過ぎていたことさ」


「力み過ぎ?」


確かに、避けられたからって追撃するのは軽率だったとは思う。けど力み過ぎってのは…。


「そ、強く身構え過ぎてるから、押し返された衝撃がそのまま体に伝わって大きくのけ反ったんだよ。攻撃の後は力を軽く抜いた方がいい、無駄に力むのはケガの元でもあるから。ま、これは最初の構えから言えることかな。少し肩の力を抜きなよ」


確かに、どこか動きがぎこちないのは力み過ぎもあるのかも。攻撃を避けられた時も力を抜かないからよろけたりもするわけだ。


「…なるほど、でも鍔迫り合いとかになったら、力を抜くのは危ないんじゃ?」


「いや、力を入れすぎて受け流されたら大きな隙になる。それに、演劇とかならまだしも、実戦で鍔迫り合いなんてまずありえないし」


あぁ、たしかに、鍔迫り合いするくらいなら打ち合ったり、力を受け流して隙をついたほうが現実的だもんな。


「ほら、もう一回来なよ。力の抜き所は大事だからね。変なタイミングで抜くのもよろしくない」


「はい!」


俺はダルトスさんを見定めながら木剣を構える。軽く肩の力を抜き、ダルトスさん目掛け走り出す。

ダルトスさんは俺を見据え、どこから仕掛けてくるか伺っているようだ。


「は!」


俺は木剣を横凪ぎに振るが、やはり防がれてしまう。そして、ダルトスさんが押し返してきたが、今度は防がれたと同時に力を抜いたので、反動が少なく、直ぐに態勢を立て直せた。


「うん、いい感じだね。まだぎこちないし、力を抜くタイミングがちょっと早いけど、何度も練習したら大分よくなるさ。あと、アドバイスに、剣を振るときは最初から力を込めないで、斬る瞬間に力を入れたり出来るようイメージしてみてね」


「はい!ありがとうございます!」


ダルトスさんは結構いい先生だな、ただ打ち込みの練習をする訳じゃなく、体の動かしかたや知識を教えてくれるのは本当に助かる。

それから夕方まで練習に付き合ってもらった。残念なことに剣術スキルは習得出来なかったが、とても勉強にはなった。

明日も訓練して貰えることになってるので、夕飯を食べてゆっくり休むことにした。


食堂に来てみると、人の数が昨日に比べたら少なかった。


「…あぁ、もしかして夜会とかやってんのかな?それで警備だの配膳とかに回されてんのか…」


完璧に蚊帳の外状態だな。一切の声掛けもなかったし。…ちょっと涙が溢れそうだ…。

一方的に呼び出しておいてこれはあんまりだよなぁ…帰りたい…。


「扱い悪すぎだろ…。外に放り出されてもひどいけどさ…」


正直致命的なミスなんてしてないと思うんだけどなぁ…やっぱり俺のステータスが分かってから扱いが悪くなったよな…。


「よ、一誠少年。一緒に飯でも食うか?」


「ダルトスさん。寂しいので一緒に食べましょう」


ダルトスさんが一人飯を堪能している自分に声を掛けてくれた。有難い。

別に一人飯が嫌な訳ではないのだが、如何せん右も左も分からない場所なのだ、正直心細い。


「…あの、ダルトスさん。勇者って、ステータスで明確に分かるもんなんですか?」


ま、ステータスで判断してるのは分かるよな。同じ異世界召喚された人間なのに、俺はなかなかの塩対応だし。


「うん?あぁ、勇者様方には称号に勇者と付いて、さらに神から授けられた力、ギフトというものがある」


「称号?ギフト?」


俺は自分のステータスカードを見るが、そんな言葉は何処にもない。まさか神様が俺に与え忘れたとかか?

おっちょこちょいだなぁ。


「そ、称号に異世界の勇者と表示される。ギフトは勇者にそれぞれ与えられる、強大な力を秘めた武器と言われている。簡単に言うと強力な魔装具だな」


「魔装具ですか?」


おっと、いろいろ新しいワードが出てくるぞ。まず、そのギフトがないと勇者として認められない訳ね。そして魔装具ときたもんだ。

多分特殊な効果を持った装備のことかな?ゲーマーの俺の琴線に触れたぞ。


「あ、魔装具も知らないのか。…魔法は装具ってのは、魔法とかで効果を付与されて作られた装備だな。武器や鎧、あと装飾品とかをまとめて魔装具って呼んでる。強力な効果を持つ物は国宝とかになってたりするな」


「おお!カッコいいっすね!」


胸が高鳴って来たぞ!これぞ異世界だ!俺も魔装具を手に入れて無双してやる!

へ!ギフトがなくたって悔しくないもん!…け!


「まぁ、戦いに身を置く者の憧れだよね。問題はかなり値が張るし、貴重だってことかな。それに、手に入れても自分に合わなくて使えないなんてざらだからね。それでも英雄譚に憧れる若者は求めてやまない訳さ。ただ、求め過ぎて命を落とすなんてこともよくあるんだど…」


メリットもあるけど、デメリットもあるよ、か。てか、自分に合わないってこともあるのか。


「…自分に魔装具が合わないってのはなんですか?」


「うん?簡単だよ。魔装具には色んな発動条件とかあったりするんだけど、例えば一定量の魔力を注いで発動とかね。でも、そもそも魔力を操作出来ないと発動出来ないし、注げる魔力量には個人差がある。魔力量もね。そういった条件を満たせなくて使えないってのはよくあるよ」


あ、なるほど。ただで発動出来るわけじゃないのね。世の中そんな簡単な話はないよってことか。

あれ?高い金出して手に入れた物が外れだったらヤバくね?俺だったら立ち直れないぞ。


「…手に入って使えないと辛いっすね…」


「ははは!よくある話さ!でも、売ってもいい金にはなるからね。別にそこまで気を落とす事もないよ。実際、自分もその口でね、以前ダンジョンで手に入れた魔剣が使えないことがあってさ」


「へぇ、その魔剣は売ったんですか?」


確かに売る事も一考か。それで生計をたててる人もいるのかもな。

いい金にはなるそうだし、トレジャーハンターみたいな感じで生活するのも夢があっていい。


「いや、息子が使えてね。息子へ成人祝いに渡しんだよ」


おっと、ここでまた新たな真実。ダルトスさんは結婚してたのか。てか、息子さんが成人してるなら結構いい年なんだな。


「それは息子さんもかなり喜んだのでは?」


「そりゃぁねぇ!かなり喜んでくれたさ。無茶だけはしないでくれよとは言ってるんだけどさ…なかなかのやんちゃだからなぁ」


嬉そうな顔でパンを噛っている。息子さんを大事にしてるんだなぁ。…本音を言うと羨ましいな。


「それで、その魔装具はどんな効果があったんです?」


「それがさ、使用条件が炎魔法のスキルを持ってて、魔力を消費すると剣から炎が出るってやつなんだよ。結構ポピュラーな能力なんだけど、魔装具の階級が伝説級でね。かなりの威力を出せるわけさ。ま、だから売らずに取ってたってのもある」


「へぇ、てか武器にも階級あるんですか」


これまた胸熱の設定が来たぞ。いいねぇ、楽しいねぇ。


「そ、性能で階級分けされるかな。専門の鑑定師に頼むと分かるよ。因みに、階級は、一般(コモン)古代(アーティファクト)遺物(レリック)伝説(レジェンド)幻想(ファンタズマ)神話(ミソロジー)ってなってる。最後の方にいくほど強力になるかな」


「おお!ヤバい!神話級なんてとんでもないんですか?」


「多分ね。ただ、神話級は現存してないんだよ。なにせ創世記にあったと語り継がれてるだけだし、神話級は神にしか扱えないとされてる。あと神と別の種族の子供である半神とかね」


「そうなんすか…」


残念だ。神話級なんて最早チートの匂いしかしない。そんな装備を使って無双したかった。女の子にキャアキャアと黄色い声を浴びたかった…

生まれてこのかた女の子にモテたことなんてないからなぁ。

陽斗や桐矢ばっかモテてたからな…少し、いやかなりの憧れなんだよなぁ…。

いや、でも伝説級、あわよくば幻想級でも手に入ればきっと無双出来る!女の子にモテるぞ!


「神話級なんて、まずこの世界にはないからね。まぁ、幻想級は勇者様のギフトでもあるし、国宝とかでもあるから、望みはあるんじゃないかな」


あ、勇者のギフトは幻想級なんだ。最上位から一つ下を最初から持ってるとか、やっぱチートだな。


「…頑張って見つけよ」


「はは!でも、売って生活したほうがいいかも。幻想級の魔装具を持ってるだけでどれだけのトラブルに巻き込まれるか、想像しただけで怖いよ」


「…あぁ、そうかも…」


神話を除けば最上級の装備だ。恐らくはかなり貴重だろうし、力尽くで手に入れようとするかもしれない。

自衛の力がないならば、さっさと売って裕福に過ごすほうが吉なのかも。金さえあれば女の子も寄ってくるはず。…俺の魅力に寄ってこないのが悲しい。


「あ、ところでこの世界では成人って何歳からなんです?」


「うん?15歳からだよ?一誠君の世界じゃ違うのかい?」


「はい、20歳からです。法律で近いうちに18歳になりますけど」


「へぇ、結構遅いんだね。こっちじゃ家庭を持ってるのが当たり前の年齢だよ」


やっぱ異世界だよな。流石に15歳は早いと思うんだけど、昔は日本も成人が10代前半だったから、なんとも言えないな。

やっぱこの世界も厳しい環境なのかも、さっさと成人して子供を作らないと、血筋とか絶えたりするだろうし。


「俺の世界は命の危険なんて少ないですからね。急いで子供を作る必要はないんですよ」


「そっかぁ、それはいいねぇ。こっちじゃ魔物に襲われた、謎の病で命を落とした、戦に巻き込まれたなんてしょっちゅうだからさ、子供は作れるうちに作れってのが常識なんだよ」


世界が違えば環境も常識も違うだろうからな。


この世界の常識を教わりながら、晩飯を食べて今日を終えた。

さて、明日も訓練頑張りますか。ダルトスさんのおかげで大分やる気も出てきたしな。

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