異世界来ちゃいました
読んで頂いてありがとうございます。
護聖の執筆が上手く出来ないので気分転換に書いてみました。
面白ければいいのですが。
あれ?ここは何処だ?
気付くと黒い空間だった。どこか薄ら寒い。不思議と体の感覚がなく、意識だけがそこにあるようだ。
訳が分からない。まず、ここは何処だとなるが、周りは全て黒い以外の情報がない。
これでは何も分からない。それに、自身の体がない。最後に覚えているのは自分の体が……塵、てか、細かくなってたな。
なんだったんだ、あれ?痛みどころか何も感じなかったし…。もしかして、俺死んだのか?
よく映画でモブの人が理不尽に殺されたりするけど、もしかしてそれか?マジ?
え?ホントに理不尽じゃね?あんまりだよ…
軽く絶望していると、目の前に赤く光る玉が現れた。ふよふよと浮かんでいて、どこか暖かい。
すると、赤い玉が移動を始める。ゆっくりとだが。
俺は何故か付いてこいと言われた気がして追いかける。ばあちゃんに知らない人に付いてくなって言われてんだけどなぁ。あれが人かは別として。
赤い玉に付いてくと、視界がいきなり白くなる。白い空間に切り替わったのだ。
先ほどの黒い空間と違い、この白い空間は何故か暖かみがある。だが、やはり何もない。
目の前には赤い玉だけだ。…不思議だ。ずっと俺を見ているような……見守られている気がする。そして、とても懐かしい感覚が胸に広がる。
ふと、視界の端から水色に光る玉が現れる。その水色の玉は赤い玉に寄り添うように近付いて、赤い玉の傍らに止まり、赤い玉と同じように俺を見守っているようだ。
そして、徐々に意識が薄らいでいった。
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「…な!遅れて召喚された!?」
男性の声が聞こえて、俺は意識を取り戻す。目を開けると、全てが白く天井がとても高い殺風景な部屋に居た。
俺はどうやら倒れているらしく、体を動かそうと思うが言うことを聞かない。
けどよかった、体があるし制服を着てる。あれはなんだったんだ?
「だ、大丈夫ですか!勇者様!?」
うん?勇者様?誰のことだ?
俺は重い首を動かすが、俺以外には鎧を着た騎士のような人達しか居ない。
その騎士達も皆白人系の顔立ちで、明らかに日本人ではない。
まさか誘拐かと思ったが、いきなり教室からこんな訳の分からない場所へ連れてくるのは無理があるな。それに、この人達…なんで皆鎧を着てんだ?
いくつかの疑問を確認しなければと、言葉を発しようと口を開くが声が出ない。正確には掠れた声が出て言葉にならないのだが。
「これは?一体どうしたんだ?…とにかく、勇者様を運ぶぞ!勇者様失礼します」
一人の騎士が俺に駆けよって来て、俺の状態を確認すると俺をお姫様抱っこしだした。軽々と俺を持ち上げたから、かなりの力があるんだろうな。
てか、恥ずかしいです。この年で男が男にお姫様抱っこされるのは辛い。それに鎧の角ばったとこが痛い。
「よし!今は治療所にいくぞ!勇者様を見て貰う!」
そう言って俺をお姫様抱っこのまま、部屋を出る。部屋から出ると、地下なのかじめじめしていて薄暗い。照明らしき物はあるが、弱々しいので狭い範囲しか見えないのだ。そんな薄暗い廊下を走る騎士の人達。
…これ、やっぱりそうだよな?勇者って俺のことか。要は異世界召喚されたってやつだな。
いや、でもなんでこの人達は日本語を喋ってる?もうペラペラとさ。
まぁ、後で聞くしかないな。今は声が出ない以上、意思の疎通など出来ない。
にしても、完璧に中世の建物だな。レンガを重ねた感じの壁がずっと続いてる。
廊下をある程度進むと、螺旋階段らしき物が見え、一気に駆け上がっていく。
階段を昇りきると、眩しい光に目を眩ませてしまう。だが、騎士達は停まることなく走り続けた。
段々と目が慣れてきて、周りの状況が分かってくる。
恐らくはどこかの大きな城だろうか?何せ廊下自体が広く、人が何人か横に並んで歩いても問題ないほどだ。
それに、時折置かれている飾りの壺や鎧はキラキラして、一目でとんでもないほど高価な物と分かる。
建物の作りも手が込まれていて、まさにファンタジーに出てくる城の廊下といった作りだ。
それに、美人なメイドさん達をよく見掛ける。すれ違い様にくすりと笑われるのが辛い。
暫く恥ずかしい思いをしていると、とあるドアの前で停まる。
ドアの横、壁に見たことのない字で治療所と書いてある。…読める…なんで?
疑問に思う俺を置いてきぼりにして、付いてきた騎士の男がドアを開けて中に入る。
「ジラルダ医師!急患です!彼を助けてください!」
俺を抱っこする騎士が中に入ると、白衣を着た女性が三人と、三十代くらいの男性が居た。
男性は椅子に座ってこちらに振り替えっており、何事かと様子を伺っている。
「どうしたんですか?…その方は…」
俺を怪訝そうに見つめる男性。白衣は何処かくたびれていて、顔には無精髭を生やしている。
傍目には、こんな城のような場所に勤めるには不釣り合いに感じるが、目にはとても強い意思が宿っていて、この人に任せていいと思ってしまう。
「ジラルダ医師!この方は勇者様なのですが、どうやら体が動かせないようなのです!意識はあるのですが、話すことも出来ず…」
騎士が俺を寝台に置くと、ジラルダと呼ばれた男性に俺の状況を説明しだす。
ジラルダ医師は無言で俺を観察したり、触診して異常がないか調べる。
「…これは…どれ」
ジラルダ医師が手を俺にかざすと、手のひらから白い光が溢れて俺を包み出す。
「……うん、一時的なショック状態かな?…いや、体に慣れていない感じか。でも、何で?…これはまるで生まれたばかりのような…」
ジラルダ医師はぶつぶつと俺の状態を推測してる。…この光って、俺の体を解析してんのか?
てか、これ魔法じゃね?魔法だよな。
「うん、問題はないね。一時的なもので、体が慣れると動くようになるから」
一通り調べたようで、ジラルダ医師はそう言うと窓際にある椅子へと座り、机に向き直ると紙に何かを書き始めた。
「で、では?」
「うん、少し寝かせておけば直ぐ動けるようになるさ、彼がまともに動けるようになったら連絡するよ」
少しほっとした。正直、このまま動けなくなったらヤバいと思っていたからだ。あの騎士の人にお姫様抱っこ生活を強いられなくてよかった。
「…分かりました。では、我々は霊王陛下にお伝えしてきます」
そう言って騎士達は部屋を後にする。…霊王陛下?この国の王様は霊王っていうのか。
てか、ここは王城なのね。国の中枢じゃねぇかよ。そんな所で働くジラルダ医師は余程の凄腕なんだろうな。
…にしても、勇者様かぁ。実感が湧かないな…。始まりがこれだしな…。
でも、これはテンプレ展開きたな。俺の時代が来たぞ!きっとこの後お姫様とか、女騎士とかが来てうはうはでムフフな展開が待ってるんだろうな。
ただ、勇者として呼ばれたってことはだよ。敵も居るわけで…、戦って倒さなきゃいけないんだろうな。…俺、やれるかな?
いや!わが世の春のため!頑張るぞ!美少女ハーレム作るぞ!
暫く妄想をしていると、徐々に体が動き始める。最初はぴくぴくと指を動かすだけだったが、手首、足が動かせるようになった。そして、声が出たのでジラルダ医師に声を掛ける。
「す…みま…せん」
まだ上手く喋れないが、なんとか言葉を出せた。ジラルダ医師は俺の声に気づいて振り返る。
「お!話せるのかい?良かった!」
ジラルダ医師はそう言いながら俺に駆けよって来た。助手らしき女性も付いてくる。
「は…い。なんと…か」
「うんうん!無理しないでね!今の君は生まれたての小鹿のようなものだ。なんでそんな状態かは分からないけど…。とにかく、今は体に慣れないと!一時間もしたら良くなるはずだよ!」
ジラルダさんは俺の腕や足を動かしてくれる。多分、リハビリみたいな感じでやってるんだろうな。
それに、ジラルダさんが触れてる箇所が温かくて気持ちいい。何かの魔法を使ってるのかも。
にしても、助手の女性がキレイだ。他の女性も可愛い系の女性だ。
ハーレムとは羨ましい限りだ。
「はい…」
「ところで、君は本当に勇者様なのかい?いや、疑う訳ではないけんだけど…こんな症例聞いたことないからね…」
う~ん情けないと思われたのか?原因が分からないからなぁ。
てか、やっぱり他にも勇者呼ばれてんのか?もしかしたら複数呼ばれてる?だから遅れて召喚されたって驚いてた?
…もし俺より優秀な人だったらやだなぁ…。我が儘なのは分かってるけどさ。
「わ…かりません…。ここは、何処ですか?」
「ああ、いきなり召喚されたんだろうから、その反応は当たり前だよね。ここは聖霊国 キャムル。神統世界、カームドの大国の一つさ」
やっぱり異世界か。まぁ、この状況といい、さっきのジラルダさんの魔法といい、確実に地球ではないってのが分かってたけど。
でも、異世界かぁ…。じいちゃんにばぁちゃん、心配するだろうなぁ…。
異世界に来れたのは嬉しいけど、家族に心配掛けるのは問題がありすぎる。
戻る手段も分からないし、今はどうしようもないけどね。
ジラルダさんのリハビリのおかげなのか、体が大分動くようになってきたので立ち上がろうとして、膝がカクンとなって倒れこむが、ジラルダさんが支えてくれた。
暫く支てもらいながら歩く練習をしたり、物を持ったりして、かなりまともになった。
そして、動いていて思ったことは、元の世界より体が軽いということと力が強いってことだ。
これが異世界転移特典か?ジャンプしたら天井まで届いたし、…頭痛かったし、ジラルダさんに怒られた…
ジラルダさんが問題ないと判断したのか、平べったくて丸い何かに話掛けていた。多分通信する道具かなにかなんだろう、俺が動けるようになったと伝えている。
それから先ほどの騎士達が入って来た。
「勇者様、霊王陛下の元までお連れします。礼儀などはお気になさらなくて結構ですので」
騎士達と共にジラルダさんの元を後にした。出る間際、「お身体に気をつけて!」と言って皆で手を振っていた。助手の女性達が可愛いなぁ。
長いこと廊下を歩き、大きな階段を昇ると、巨大な扉が現れる。
この世界の芸術なのか、扉の両サイドに逞しい男性の像が置いてあり、扉には金色の装飾が華美すぎるほどになされていた。
「ここです。この先の謁見の間で霊王陛下がお待ちです。扉が開いたらお入り下さい」
そう言って、騎士の人達は何処かへ去っていく。俺一人置いていくとか寂しいんですけど?まぁ、いろいろ質問しても後で説明がありますからと言われ、答えてくれないからなぁ…
少しだけ心細いのを我慢しながら待っていると、扉がギイイと音をたてて開かれる。
うっわ、緊張するぞ。どんな王様だろ?多分偉そうなんだろうな。てか、礼儀は気にするなと言われたけどさ、普通気にするよな?不況を買ったらどうするよ。お姫様の印象悪くなりそうだ…
「失礼します!」
扉が開ききり、俺は無言で入るとのは不味いと思い、一言告げてから入る。
中はとても広く、荘厳の一言で。両サイドが金色の赤い縦断が真っ直ぐ真ん中を横断していた。
その先には階段があって、玉座があった。座っているのは中年くらいの、顔が整った銀髪の男性。その傍らには小さな椅子に座っているキレイな金髪の女性。さらにその横には美形の銀髪の若い男女が佇んでいて、多分、ロイヤルファミリーと思われる。
そして、階段下にはずらっと豪勢というか、装飾過多というか、そんな感じの服に身を包んだ人たちが並ぶ。
約半分以上は肥えて太り、不健康そうだ。残念なことに、女性は少なく、ほとんどが同じように太っているのが気になる。
中にはイケメンなども多数はいるが、どうしても横に広い人たちが目立ってしまう。
これぞ貴族。至福を肥やした立派な体だな。見ていて暑苦しい。
「そこでお止まりください」
俺はそんな人たちを横目に進んでいくと、階段下で佇んでいた男性に呼び止められた。
恐らくは身分が高いだろう人物で、多分王様の側近なんだろう。
「はい」
俺は返事をすると、その場に止まり、ロイヤルファミリーらしき人たちを見る。
まず、玉座に座る王様らしき人は銀髪のイケメンだ。年を取ってもイケメンはイケメンなんだと思い知らされてしまう。
そして、その横に座る恐らくは妃であろう人物は金髪美女だ。羨ましい。
その妃様の横に並んでいる若い男二人と女二人は全員銀髪の美男美女だ。多分、王様の子供であり、この国の王子と王女であろう。
つい、見目麗しいお姫様を眺めていると、二人共、目があった。大きい方のお姫様は興味無さげに視線を反らされてしまったけど…。け!あの姫様、ぜってぇ高飛車だぞ!
かたや小さい方、多分12歳くらいのお姫様からは微笑みを頂いた。可愛い。
うん、この世界は美男美女率が高いかもな。てか、この貴族連中以外は皆美形ばかりだ。
いや、貴族連中も痩せれば美形なんだろうな。太っていても、顔はあまり醜いとは感じない。体は見苦しいけど。
にしても、王様はなんか偉そうだな。まるで人を見定めるような、舐め回すような視線だ、性格悪いかも。
「よくぞ参られました、勇者様。此度は無理矢理召喚して、誠に申し訳ない。お身体の調子が悪いとお聞きし、心配しましたが、どうやら復調なされて安心しましたぞ」
王様と妃様が立ち上がり、俺に頭を下げてくる。前言撤回。この人好い人だ。うん、よく見ると人柄が顔に出てる。なんて優しそうなナイスミドルだ。
誰だよ?性格悪そうとか言った奴。俺がしばいたる。
「あ!え、えっと。いえ、その…」
やっべ、こんなこと初めてだからなんて言えばいいのか分からん。無理もないよな。普通の高校生だった俺がいきなり異世界に飛んで王様と謁見したところで、庶民である俺が畏まった挨拶なんて無理だよ。
「戸惑われるのも無理は御座いません。まずは自己紹介を。私はハルビス・ジ・キャムル。この聖霊国キャムルの霊王を努めております」
この国の王様は霊王というのか。そう言えば騎士の人たちもそう言ってたな。
「そして、こちらが我が妻、第一妃のリルーダ・キャムルです」
「リルーダです」
リルーダ王妃が軽くお辞儀する。声はとても透き通っていて綺麗だ。第一ってことは、第二も居るんだろうな。いいな、ハーレム。
「我が子らは後ほどご挨拶させます。まずは何故この世界に召喚したのか、その理由から説明させてください。と、その前に勇者様のお名前を教えて下さい」
なんだ、姫様達の名前は後か。残念。そう言えば名乗ってなかったな、緊張してたから忘れてた。
「自分は赤岩 一誠と言います。宜しくお願いします」
「…赤岩?…偶然か?いや…すみません、独り言を、宜しくお願いします、一誠様」
ハルビス様は、俺の名前を聞くと怪訝そうな顔をしたが、すぐ、にこやかに返してくれた。ホント、優しそうな人で良かった。