プロローグ
いつもの日常。いつもの友人。いつもの幼なじみ。
平凡な学生にはありきたりで、でも大切で掛け替のない日常。
俺、赤岩 一誠は、高校二年生の青春を謳歌していた。学校に行けば友人兼、幼なじみ達の二人と駄弁り。
趣味仲間の友人達と昼飯を食べながらゲームの話をする。
ありきたり過ぎる日常をすごしていた。
「なぁ一誠。あのステージのボスどうやって倒したよ?」
男三人で昼飯を食べながら、ボスの攻略法を聞いてきたのは、小原木 和人。
絵に描いたような普通の高校生だ。よく言えば平均的。悪く言えば普通すぎ。
特徴がなさすぎる残念な奴だ。
「…とりあえずアビリティの割り振りを攻撃アップの一点上げで短期決戦にした。雑魚が湧いてボスを回復してくるからさ」
こうして、毎日飽きもせずにゲームの話を繰り広げる。というより、刺激が無さすぎてゲームしかないのが正しい。
先ほど、この和人を普通すぎると言ったが、俺だって普通な外見だ。
身長はちょっと大きいくらい。見た目は悪くないが、際立ってよくない。髪もいきなり尖らせたり、長すぎたりもしない。
本当に普通の高校生だ。だからこそ、悲しいかな。女子に親しい人は一人しかおらず、彼女も居ない。それに女子に告る勇気もない。
「…それって被弾したらアウトでは?」
俺の攻略法にケチをつけたのは、中井 正彦。眼鏡を掛けた長髪の男だ。
見た目は暗そうだが、眼鏡を取り、髪を上げるとあら不思議。ジャニーズ系のイケメンになる。
なら何故、自分のイケメンスペックを隠しているかというと、単純に女子に言い寄られるのが嫌らしい。
なんでも中学生の頃に幼なじみの女の子が正彦の追っかけから酷い目にあったらしい。
それ以来、正彦は幼なじみに一時期距離を取られてしまい、かなり傷付いたのだと。
幸いにもその幼なじみとは今も仲良くしているらしく、よく一緒に下校している。羨ましいもんだね。
「当たらなければどうということはないよ」
「それはお前だから出来んだよ!」
和人が米粒を吐きながら突っ込んでくる。おい、米が俺の方に飛んできて食欲がなくなったぞ。
「和人、俺も出来るぞ」
「てめぇらの指捌きがおかしいんだよ!」
正彦もどや顔で言うと、和人は米粒を真彦目掛けて吐き出す。可哀想に、折角の幼なじみの手作り弁当に吸い込まれていく。あ、落ち込んだ。
「とりあえず頑張!飲みもん買ってくる」
俺は万感の思いを込めて、馬鹿と勝ち組を励まし、俺は売店へと向かう。
売店に向かう廊下の途中、三人組の男女のグループが笑いながら歩いてくる。
「お!一誠、売店か?」
俺に声を掛けてきたのは、田中 陽斗。茶髪のモデルのようなイケメンで、身長も高いので女子から大人気な奴だ。
「なんだ、買いに行くの誘えばよかった」
ちょっと残念そうに言ったのは、本郷 明奈。これまた、陽斗と同じように髪を茶髪に染めて、芸能人ではないかと思うほど整った顔立ちの女子だ。男子人気は高い。そして、俺が唯一親しい女子だ。
こいつは幼稚園の頃からずっと一緒にいる腐れ縁てやつだ。
「声掛けたら邪魔だと思ったんだし、仕方ない」
最後に話し掛けたのは杉ノ下 桐矢。他二人とは違い、黒髪だが、凛々しい顔立ちで、歌って踊っても違和感ない奴だ。
この三人は俺の幼なじみで、桐矢と陽斗は小学校の頃からの仲だ。
よく三人でつるんでいて、たまに俺も誘ってはくるが、俺は遠慮していた。
理由は幾つかあって、まずこの面子は容姿が目立つ。イケメン二人に、二年の三大美少女と男子連中から言われるほどの明奈。平凡な容姿の俺が混ざる隙がない。
それに、俺は明奈が好きだ。いや、好きだったが正しいのかも。
幼稚園から一緒に居て、この可愛さだ。好きになるのは当然だ。だが、明奈は陽斗と付き合っている。
陽斗はスポーツ万能、学業優秀のイケメン超人だ。側にそんな奴が居れば惚れて当然なわけで、平凡な俺に振り向くなんてまずありえない。
だから、俺はこの三人と距離を取ってるところもある。桐矢は明奈のことを友人として見てるのでいいが、俺は女性として見てる。
だから辛いのだ。明奈と陽斗が仲良くしているのが。しかも、陽斗は俺の幼なじみなのがさらに劣等感や嫉妬などを加速させる。
「別に気にしなくていいのによ」
出来れば誘って欲しくないけどな。周りの女子共からの視線が俺をスルーしてイケメン二人にいくのが辛い。
「じゃあ!明日は私達とお昼食べよ!」
「嫌だ、あいつらとは趣味の話で盛り上がってんだ。昼飯は大事な作戦会議でもある」
ゲーム攻略という名のな。いや実際、あいつらと直接話が出来るのは昼飯時ぐらいなんだよな。
休み時間はあまり話せないから、貴重な時間でもある。
「えぇー、たまにはいいじゃんかぁ」
明奈が俺の腕を掴んで振り回す。かなりの不満顔だ。腕も痛いし。男二人は後ろで苦笑いしてるし。
「朝に話てんだし、いいだろ」
「お昼も話そうよぅ~」
正直に言うと、こいつらと飯を食うと俺が浮く、周りの視線がなんか嫌なんだよな。
「いつかな。腕いてぇ、離せ。ったく、じゃあな」
明奈の手を離させて、俺は売店へ行く。後ろで「私にチョコお願いね~」と、宣うので、「いつかな」と振り向かずに返す。学生のお小遣い事情は苦しいんだ、誰が買ってやるか。
飲み物を買い終えて、教室に戻る途中、嫌なものを見てしまった。
簡単に言うと、イジメだ。男四人掛りで、一人を囲んでいた。
別のクラスに居るがらの悪い四人組で、かなり評判が悪い。そのため、巻き込まれたくないのでそそくさとその場を後にして、近くにいた先生にちくって戻った。
その後、いつもの昼飯を終え、放課後になると俺は家に帰り始める。家の手伝いをするためだ。
俺には両親が居ない。小さい頃に母親が死んで、それからは祖父母に育てられた。
そして、親父は……誰か分からない。母さんは高校二年の時に集団失踪に巻き込まれて、それから一年後に見つかると俺が身籠ってたんだと。だから親父は居ない。
母さんも、精神に異常をきたして、見つかった時には廃人のようになっていた。
そんな境遇もあって、俺は親戚からは疎まれていて、望まれた子供ではないとよく影口を言われる。
でも、祖父母はそんな俺を良く受け入れてくれて、大事な孫だからと、可愛がってくれる。
そんな祖父母は肉屋を営んでいて、俺は学校が終わったらすぐに手伝うようにしてる。
「…て、財布忘れた」
財布を机の中に入れたままにしてたな。置きっぱにして盗まれたら、明日から小遣い貰うまでの二週間、飲み物無しの生活になる。
「取り行こっと」
再び教室に戻るため、走った。出来るだけ早く戻って手伝いたいからだ。
「はぁ、疲れる…」
教室に戻る頃には汗をかき、シャツやズボンが肌にくっついて不快感を感じる。
季節は夏へ向かって温度が上がり始めている時期。走れば汗など簡単に吹き出す。
教室の中に入ると、窓際の後ろの席で陽斗達三人組みがダベり、窓際の前列にギャルコンビの牧沢 和花と片浜 清香が、彼氏の話で盛り上がっていた。見た目がギャルで可愛いく、いかにも遊んでる風だ。
そして、真ん中の席には二年の三大美少女と言われるほどの男子人気が高い、松岩 雪乃がいた。キレイな黒髪を腰まで伸ばし、無表情に帰り支度をしている。
彼女、松岩 雪乃は氷の女王と密かに呼ばれている。何せ、彼女は無口で無表情。男子をよく睨みつけるので、怖いと恐れらてる。それが堪らないなんて、深い業を背負う奴もいるが……。
だが、雪乃なのに何故氷なのだろう。まぁ、雪も氷だからな…。
変なことを考えていると、横から視線を感じた。
「…なんだよ明奈。俺の顔に何かついてんのか?」
明奈が無表情に俺を見ていた。なんだよ、見とれて悪いかよ。キレイなんだから仕方ないだろ。
放課後の教室に一人で居る松岩は、どこか儚しさを帯びていて、とてもキレイなのだ。
「…いんや、一誠は…なんでもない」
そう言って陽斗達の元へ戻っていった、変な奴。
「…邪魔」
「うお、す、すまん」
いきなり後ろから声を掛けられて、振り向くと松岩が俺を見上げていた。
目を鋭くしているが、不思議と威圧感を感じない。それどころか可愛げがある。
俺は直ぐ横に避けて彼女を通す。無表情で俺の横を通り過ぎようとするのを俺は見ていると、教室のドアを誰か開けた音が聞こえ。
ジジッ!
と、音がして視界がぶれる。俺は声を上げようとするが、一瞬で自分の手が塵のように霧散して、視界が暗転した。